広西大洗奮闘記   作:いのかしら

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どうも井の頭線通勤快速です。

台風ばっかで嫌になりますよ、週末。

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広西大洗奮闘記 88 先の未来を

私は広西省における交流の中で珠江支流域の農村地帯や悟州、南寧などの都市部を訪れた。河川が多く水は豊富だが、ただでさえ国土の7割以上が山地または丘陵地であり、おまけに国土の5割が石灰岩で出来ているためアルカリ土であり、弱酸性から中性が最適とされる農業に適しているとは言えない。

だが気候は多雨で温暖なため、かつてから果物の生産が盛んであり、米においても二期作、三期作が可能である。それ以外にも最近は淡水漁業が発展してきている。我が学園の水産科は母港の性質上海水魚の養殖が主体のため、この点における技術導入は望めないのが残念だ。

都市においては特に南部にある南寧は省内で最も人口も多く、経済的にも非常に発展していた。ここから政治拠点を桂林に移転する理由は、清代以前の政治的中心地であり、李さんの根拠地というのもあるが、メインは鉄道と対日戦略である。

現在、来年全通予定の寧漢鉄道の途中の湖南省衡陽から分岐して桂林、柳州へ向かう計画があり、これには詳細な建設計画もある。5年後に完成予定だ。しかしその先、つまり南寧や仏領インドシナ国境への詳細な延伸計画は現在無く、恐らく10年後までには出来ないと思われている。

その間にどう情勢が動くか読めない以上、本拠地は繁栄しやすい条件が整っている方が良い。桂林が広西の軍需物資生産、輸送拠点になれば南京政府もやすやすとは潰せないだろう、という読みもある。

もう一つの対日戦略の方が簡単だ。南寧の方が海に近いのだ。日本と戦争になったら、我々は華北と上海からの攻撃のみで負けるわけにはいかない。長期戦になった時、制海権を取った日本軍は間違いなく上陸作戦を仕掛けてくる。

香港とマカオという中立の防壁がある広州はまだいいとしても、それ以外は十分に上陸される危険性がある。そして陳さんの故郷である広東省西端に近い欽州や、その近くの防城港や北海に上陸されたら、南寧まで地形の障壁はない。政府拠点の移転は面倒だし、何より住民のイメージを悪化させる。

それに比べて桂林は非常に内陸にあり、おまけに北には南嶺山脈が近く、南方には柳江という壁もある、まさに天然の要害である。南方の高地が低めという弱点はあるが、防衛拠点としては妥当だ。

 

この広西にもミャオ族やチワン族などとの民族問題やアヘンの蔓延など問題は多々あるのだが、財源の問題や国父である孫文の思想を考慮すると、どれもこれも一筋縄ではいかない。

中央政府が禁止しているのに、アヘン専売が財源であるのはどうなんだ、ということは元は半独立状態だったから気にしてはいけない。農村全て掌握できるほどのインフラと官僚機構が整ってないため、農村から満足な徴税が出来ないのだ。現代日本も最近までクロヨンとかトーゴーサンとか呼ばれてたので人のことは言えんが。

これからさらに中央政府による徴税も行われる以上、財源を切り捨てるわけにもいかない。軍人層、自警団の一部にも広まっており、軍事力低下も不安要素なのだが。

広東においても軍の掌握の度合いなど同様の問題がわんさか転がっており、日本との戦争が近づく前にどうにか改善の道を見つけたいが、私だけではどうにもならない。因みに広東省の主要財源は砂糖の専売だ。アヘンに比べればまだこっちの方が健康的だな。

だが専売にも安く買い叩くと生産効率が悪化するとか、貨幣価値が不安定だと結果的に安く買い叩くことになってしまうという弱点もあるし、何より天候に左右される。法幣により貨幣価値はある程度は安定するだろうが、財政における比率を縮小していけるのが理想だ。

 

ここまで長々と両広の情勢を語ってきたが、結局主導権は私にはない。陳さんと李さんの道に乗っかるしかないのだ。それを変える権力はない。しかしこの立場にいるからこそ、私は出来るだけ先を見る人間になりたい。

この世界に少なくとも3隻の学園艦がいる以上、私の知っている通りには歴史は動くまい。それ故に未来を予測し切れる訳ではない。この世界も『学園艦とその住民がいる』という条件下で必然性に従って動くのだろう。バタフライエフェクトは私の知り得ない位置に確実に存在する。

だが論理はそれなりにわかる。結局戦争の長期化に対応するために法幣の増刷し、大幅なインフレを引き起こした。それと国民党の腐敗により民心は離反し、米ソの二大国はそれぞれ消極的支援に留めたため、戦争期に解放地を拡大して地方の支持を得ていた共産党が勝った。これが大まかなシナリオだろう。

私にとって学園都市の生存が全てだ。共産党が我々をどう扱うか分からない以上、一応協定を結んだ西南政務委員会、ひいては南京国民政府の方に残っていて欲しい。

だがそれだけではない。私は共産党政権成立後の政治を知っている。それがそのままこの世界で成されるかは分からないが、少なくとも、恐らく、多分国民政府の方がマシな結果になるだろう。断言出来ないのが辛いが。

 

私はこれまでに多くの人を見てきた。工業資本家、商人、佃戸制に近い状態で残る地主、その下の農民、労働者、軍人、政治家。彼らの中には未来に希望を持つ人もいれば、目の前のことにしか注目していない人もいる。この人らも皆生きているのだ。明日を生きるために。

これによって私が狙う道が見えてきた。学園都市の温存のため、両広を安定的に統治し、発展をもたらす。これは私がこの地位にとどまり、僅かな影響力を残すにも必要なことだ。そしてそれを支える南京政府も残す。つまり共産党を主流にはさせない。

この方針のために目指すのは、まずは日本の早期撃退。これにより戦争による経済負担を軽減する。次いでその後の国共内戦において国民政府への協力。この二つで成果を残し両広の政権に対する発言権が強化されれば理想的だ。腐敗は……まぁ、まず私は加担しないようにしよう。

私はあの鳥によると13年後に帰るらしい。しかし立つ鳥は跡を濁さない。帰るとしても、ここの人たちが誇れる場を残そう。

 

そんな考えごとをしていることなぞ知りようもない飛行機は、12月28日昼前、柳州の学生に見送られつつ空港を離れ、広州へと飛んだ。

 

 

夕刻赤い太陽が建物の隙間を照らす中、我々は広州の白雲飛行場へ着いた。それを陳さんからの使者と名乗る人物が私たちを迎えた。確かに陳さんの証明書を持っており、国民党員でもある。おまけにここの訓練兵にも敬礼されている。彼は外へと我々を案内した。

用意された車に乗って南へ走り続けると、一軒の建物の前にたどり着いた。車を用意されているのは私の本格的な要職就任が近づいているからだろう。

「こちらが角新委員長の御宅となります。」

その家は広州の町の外れ、長寿路地区にある壁で囲われた庭付きの大きな家だった。中国風の雰囲気の中に、洋風の曲線が上手く組み合わさっている。

私は半ば呆然としてそれを眺めていたが、ここはかつて広東省政府に協力した要人が住んでいた家だったが、その死を機に家族は故郷へ帰り、家は売り払ったのだと教えられた。私はこの家で広州の中心部と往復して過ごすこととなる。

召使いを雇わねば掃除もままならなさそうな家だが、家代を差っ引いても私の手取りの給料も一応あるため、場合によっては雇うことも考えなければならない。でも料理は私の仕事だ。これは譲れない。

もう少し小さい家でも良いのだが、仮にも委員長としての権威の問題もあるのだろう。私は見て回ってこの家に住むことを認めた。

 

次にこれからの仕事場に案内される。広東省政府の省長公署の一室が私の仕事場だ。正式な仕事はまだないが、それでも最近行われた業務に関する資料にはさっと目を通す。そこに陳さんが現れ、本質には関わらない簡単な疑問点を確認すると、今度は陳さんも一緒にある場所へと赴いた。

そこは広州の町にある写真館。そこで写真を撮るそうだ。何のためかというと、簡単に言えば私の存在を広く伝えるためだ。下手な文章より画像の方が見ていて分かりやすい。特に軍人層には重点的に配るらしい。政務委員会に忠誠を誓うような軍隊が出来たら、確かに見てわかるものは重要なのかもしれない。

しかしこういうものは立った姿や上半身のみ、または首から上だけというのがセオリーだと思うが、それ以外にも足を組んで床に座ったりした写真を撮ったのは一体どうしたことだろうか。

これが終わり次第、私は今日から3日間休暇ぎ与えられる。

今度は黄埔の港へと向かう。町の中を進んでいると、いくつか並ぶ中の一つの船の前で、見覚えのある服装をした女子が我々を待っていた。

「お久しぶりです、角谷会長。」

「大橋ちゃんか、久しぶり。気分はどう?」

「悪くはありません。次で住民の輸送は最後になりますから。」

 




次回予告

新学園都市
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