儚き雪のように可憐で、か細く、それでいて美しき少女、萩原雪歩。
その穏やかで引っ込み思案な性格から、一見すると気の小さい少女、ともすれば臆病だと思われがちだが、その内に秘めた度胸は決して侮ることはできない。彼女は誰よりも芯の強い女の子なのだ。
そんな彼女は男性恐怖症であり、その原因の一つが家庭環境にある。
雪歩の実家は表向きは萩原組という建築業を営んでいる組織だ。そのために身体の色んな所におっかない傷やツギハギやお洒落にペイントした傷を入れた強面の男共と接してきた。
そのような家庭環境のため、雪歩は男性が恐ろしくなってしまったのだ。だが今は違う!
アイドルになってから、彼女の担当プロデューサーのおかげで男性とも接することが出来るようになり、雪歩自身も男性と向き合おうとするようになったのだ。
以前までのビクビクとした姿勢は消え、萩原組の男性陣とも最近は仲が良くなった。
そもそも彼等はお嬢と慕う雪歩の為ならチャカやらドスやらを持って斬り込みに赴き、シノギに勤しみ、彼女を悲しませるようなことがあれば平気で指の一本や二本は詰めるような連中であり、そう考えてみれば彼等にとって雪歩が歩み寄ってくれる事は嬉しい限りであった。
念を押しておくが、彼女の実家は一般的な建設会社である。
これはそんなある日のこと……。
「えっと……皆さ〜ん!今日は盛り上がっていってくださいね〜!」
「「「へい!!お嬢の為なら喜んで!!!」」」
「流しそうめんの時間ですぅ〜!」
「「「へい!!!」」」
「キチンとマナーを守って、ケンカしないようで楽しくそうめんを食べてくださいね〜!」
「「「へい!!お嬢の為なら命を懸けて!!!」」」
「そ、そういう皆さんが言うと冗談にならない事は言わないでくださぁ〜い!」
和風の豪邸に長〜〜い竹筒を改造して作った特製の流し台を作り、そうめんも茹でて準備万端だ!
流しそうめんと言えば夏の風物詩だが、今は地球温暖化のおかげで暑いので問題は無い!
今回、組の連中の士気が上がっているのはそうめん作りに雪歩も関わっているからである。といっても麺を茹でて薬味を切っただけだが、それでも男共のテンションも上がるというものだ。
「それじゃあ流しちゃいます〜〜!」
「「「へい!!」」」
かくして……萩原組による流しそうめん大会が始まった!
「うめぇ!こりゃうめえぜッ!絶品だァーー!」
「こいつぁ毎日の『シノギ』にも気合いが入るってモンよなァ〜〜!」
「のどごし爽やかッ!ン〜〜ッ、苦労して竹を切った甲斐があったぜェ〜〜!」
「おんどれが切ったのは一本だけじゃろうがい!」
「ああん!?」
「け、ケンカは駄目ですってばぁ〜!」
「「し、失礼いたしやした!!」」
雪歩がちょっと注意するだけで、怖いお兄さん方も子犬のように大人しくなる。
その情け無い姿はとても仁義を貫きドンパチするような連中には見えない。
だが、そう見える連中が少なからずいるのも確かであり……。
「お嬢、すいやせん。こいつらはあっしの部下でして、後でキッチリ『落とし前』つけさせていただきやすんで……」
「そ、それが駄目だって言ってるんですぅ〜!」
「しかしお嬢、こういう時には『ケジメ』ってのをキチンとつけとかねぇと。それがあっしらの家業ってモンでして……」
「そんな事したらそうめんはお預けですよ!」
「なかよくします」
「お嬢、そうめんを流すの代わりますぜ!」
「あっ抜け駆けはずりいぞテメエ!お嬢と代わるのは俺だ!」
「お前らのそうめんなんて食えるか!俺はお嬢のが食いたいんだよ!」
「むしろお嬢を食いてえよ!」
「仲良くしろと言っとるだろーがァー!」
「あっ、じゃあお願いしますぅ!」
「へ……へい!お嬢の為なら喜んで!」
(あいつ良いなぁ……)
(やべぇお嬢超可愛い)
雪歩の控えめながらも暖かい笑顔は、もはや人畜無害な白い粉と言っても良いほど彼等の心を揺さぶる。
ヤのつく自由業の方々がメロメロになっている事などつゆ知らず、雪歩は竹筒に集中する。
………誤解の無きよう言っておくが、ケンチクガイシャの『ヤ』であって、決して如何わしい家業という訳ではない。ホントだよ?
「美味しそうなお素麺、じゅるとぅん……han♪」
ーー氷で冷やされたそうめんと麺つゆが絶妙にマッチして、喉の中を気持ち良く通り抜けていって……とっても美味しいですぅ!
見てるだけで涼しくなって来るそうめんですけど、食べてみるとホントに『夏の味』って感じがして……風流って言うか、清涼感があって良いですよね……。
「薬味と生姜をほんのちょっぴり入れて……ちゅる……ん……ちゅっ……はぁっ」
薬味が麺を、麺が薬味をそれぞれファーストステージ押し上げてくれてますぅ。
自己主張は少ないけれど、それでも確かにここにある……それがそうめんの良さなんですぅ!
「麺をまだまだありやすから、どんどん食べてくださいね〜っ!」
「ん?おいあれってUFOじゃねえ?」
「おいおい酔っ払うにはまだ早いぞ」
「そうめん美味しい……」
お弟子さんの皆んなも大満足で、大盛り上がりの内にそうめん大会は幕を下ろした。
今まで萩原組の彼等に苦手意識を持っていた雪歩だったが、ガラが悪いだけで根は真っ直ぐな奴等なのだ。
全ては雪歩が勇気を持って接したからこそだ。ほんの少しの勇気が、雪歩を変えて、お弟子さん達の新しい一面を見ることができ、こういった催しも行われるようになったのだ。
もし何かに苦手意識を持っていたり、尻込みしている時にはこの言葉を思い出してほしい。そうすれば、雪歩のように何かを変える事が出来るかもしれないから。
ーー全ては一歩の勇気から。
ーー翌日。
「こないだのそうめんを食べ過ぎてお腹が膨れちゃいました……こんなダメダメな私は、穴掘って埋まってますぅ〜〜っ!」
「ちょっ、雪歩!ボクはどっちかっていうと雪歩はもっと食べた方が……雪歩おおおお!!」
良い話っぽくしてますが彼等はヤのつく自由業の人達です。