LUNCH!!【未完】   作:悠魔

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黒井社長が良い人です。


崇男ともやし

ーーリッチな私はこういった低額納税者の住むような場所を散歩するだけでも楽しめるのだよ、キミィ。

 

黒井崇男は満足気な顔で住宅街を歩く。

そこはお世辞にもリッチとは程遠い、簡素な家ばかりが立ち並んでおり…それが黒井社長にとって愉快極まりなかった。

 

ーーこんなゴミ溜めのような所で間抜け面を晒しながら生活する者の哀れな姿を想像ずるだけで、クヒッ、笑いが堪えきれん…!

 

「ハハハハハハ!アンリッチなカス共の住宅街を歩くのは楽しいなァ〜〜!実に愉快だ、フハハハハ!」

「あーーっ!黒井社長だぞーっ!!」

「ちょっと、何であいつがここにいるのよ!?」

「はわわっ、黒い人だぁ…」

 

ーー誰かと思えば弱小事務所の貧弱アイドル達か。確か、我那覇響に水瀬伊織、高槻やよい…だったか?

フン、スーパーのレジ袋を持っている所から察するに…もしかするとこの辺りに住んでいるのかァ?

 

「さっさとどっか行きなさいよ!」

「そうだぞ、こっちは961プロにさんっざん迷惑かけられたんだからな!」

「フン、私がどこを歩こうが勝手だろう?むしろ私の趣味を邪魔しないでほしいものだがね」

「みんな、喧嘩は駄目ですよーっ!」

 

ーー弱い犬ほどよく吠えるというが、これはまさにその典型だな。弱小プロダクションのアイドルなど所詮こんなものよ。

ーー貴様に従う訳ではないが、私もそんな虫けら同然のアイドルの為にこれ以上時間を使う気はない。言われずとも貴様達がいないような静かな所に行ってやるとも。

 

「ええと、ええと…あっ、黒井社長、いっしょにもやし祭り、どうですかー?」

 

 

 

 

 

「おじさん、名前何てゆーの?」

「ウィ、このゴージャスな私の名前を聞いて震えるなよ。黒井…崇男だッ」

「…今、何で溜めたんだ…?」

「じゃあ黒ちゃんだ!」

「おい貴様、リッチでセレブでエレガントでセクシーな私に、そんな安易かつ低俗な名前をつけるなど…」

「黒ちゃん!黒ちゃん!」

「……まぁ、強者は常に孤独なものよ。私もその一人ということか…」

「いや全然関係ないわよ。ていうかセクシーって何よセクシーって」

 

伊織と響の鋭いツッコミも華麗にスルーし、黒ちゃん…もとい黒井社長は高笑いする。

本来なら「私の家の物置よりも小さな所で飯を食えだと!?笑わせるなよ765プロ風情が!」と歯向かうところだが、今日は機嫌がいいのか「勘違いするなよ!貴様達が普段どんなに粗末な物を食しているのか笑いに来てやったのだ!」と言ってついてきたのだ。

 

「やよいもやよいだぞ、あんな奴を家に上げるなんて…」

「大丈夫ですよ響さん!あの人、案外悪い人じゃないみたいですー!」

「いや滅茶苦茶不審者みたいな顔してるじゃない、物凄いブラックな事考えてるわよ。そんな顔だもの」

「伊織ちゃん、人を見かけで判断しちゃ駄目だよー」

「あいつの場合は見かけと性格が一致してるタイプよ!」

 

そういう伊織の言葉は正しい。

961プロ…いや、黒井社長が765プロにしてきた嫌がらせの数々を考えれば、彼は決して善人ではない。

しかし、やよいの「悪い人じゃなさそう」という言葉も間違ってはいなかった。

そもそも彼が本当に悪い人間なら、わざわざ家まで上がりこんで夕食をご馳走になったりしないだろう。

 

「うっうー!もやし祭りの準備ができましたよーっ!」

「私をウエイトさせるとは良い度胸だなァ高槻やよい…私の舌にあったデリシャスでグッドでナイスなスメルなんだろうなァ〜〜?」

「……何でも英語でいえばいいって訳じゃないと思うぞ」

「……むしろ馬鹿丸出しね」

 

伊織は辛辣な目で黒井社長を見ていたのだった。

 

 

 

 

「もやし祭りの始まりーーっ!!」

「…………フン」

 

黒井社長は目に見えて不機嫌だった。

目の前に出されたもやしの山についてもだが、それ以上に彼は一つの事実に怒り狂っていた。

 

「ブレーカーが落ちるからぐるナイが見れないだと…クソッ」

「なんというか、ものすっごくしっくりくる番組だぞ…」

「毎週私がゴチをどれだけ楽しみにしているか分かっているのか貴様達は!?」

「知らないわよ!」

「出演者達が毎回毎回大誤差ァーっ!したり最下位予想したり、おみや代とかミニゲームとか、結果発表の時の触りそうで触んないあの醜い争いをどれだけ待ち望んでいる事か…!」

「趣味悪いわねアンタ!」

「はーい、もやし焼きますよー」

 

「…この後は客人である私にテレビ権を 譲るがいい。深夜からの世界の車窓からを見るからなァ」

「今度は意外すぎる番組だぞ!?」

「あれを見ないと安眠できんのだ!仕事で渇いた心を癒してくれるオアシスなのだぞ!?あのナレーションがないと安心して寝れんわ!」

「ていうかアンタ泊まる気!?仮にも社長でしょうが!」

「961プロダクション(仮)という事か!?」

「こいつ馬鹿だぞ!ホントに色々と馬鹿だぞ!」

「はーい、高槻家秘伝のタレ入れますよー」

 

「ーーだいたい何だこのもやしの山は!?料理なのか!?」

 

黒井社長の指摘に、伊織と響はニヤリと笑う。

ーーそうか、この男はこのもやしがどんなに美味しいか知らないのだ。

 

「にひひっ、食べたくないなら無理して食べなくてもいいのよー?」

「セレブでゴージャスでエレガントな社長はこんな庶民の料理は食べないもんなー?」

「フンッ、こんな物……!」

「社長、早くしないと無くなっちゃいますよー?」

「……さっさと食べてぐるナイを見てやるッ!あむ……」

 

ーーーーー!??!!?!?!

ーーくぁwせdrftgyふじこlpーー!!

 

黒井社長は箸を口に咥えたまま動かない。そのただならぬ様子に、高槻家は静まり返る。

やがて、黒井社長はゆっくりと箸を机に置き…尋ねた。

 

「………高槻やよいよ」

「えっと、何ですかぁ?」

「前から常々思っていたのだ。何故貴様は贅沢な生活をしないのだろうかとな。貴様はアイドルとして十分な収入を得ているはず。だが何故もっと豪華な家に住もうとせんのだ」

「ああ、余ったお金は貯金してるんですー。みんなの分の学費とかー、給食費とかー、あとお洋服とか…」

「……いや、だからそれを自分で使ったりしないのか?アイドルの仕事は疲れるだろう、もっと自らの娯楽の為に使えばいいものを」

「それなら大丈夫ですー!」

 

「家族の皆んながいて、765プロの皆んながいて!いっしょにご飯食べたり、いっしょに歌を歌ったり!」

 

「皆んなといっしょにいられる事がとーっても楽しいんです!」

 

「アイドルのお仕事も、楽しいって思ってるから続けられてるんです!」

 

「……えと、うまく言えないですけど、私は今の生活がすっごくすっごーーく満足かなーって!」

「……………そうか」

 

黒井社長は箸を手に取る。

いつも人を馬鹿にした笑みを浮かべている彼だったが…。

 

今だけは純粋な、優しい微笑みだった。

 

(……そうか。この粗末なもやしを何故こんなにも美味く感じるのか…)

 

「うっうー!もやし祭り第二弾、いっきますよー!」

「黒井社長のあんな顔初めて見たぞ…」

「言っちゃ悪いけど、ちょっと気持ち悪いわね…」

 

(……それは、高槻やよいの心が宿っているからなのだな…)

 

 

 

 

 

「ーーーぐあああああっ!?」

 

ーー何だ今の気持ち悪い夢は!?

私が、この私が半額セールで買ったチンケなもやしなぞを弱小プロダクションのアイドル共と仲良く食べていただと!?

 

「悪い夢だ……クソ、何か食べに行くか…」

 

そうだ、美味い物でも食って、この最悪な気分を少しでも紛らわせよう。

そう、それがいい。

あいつらの事など忘れるのだ、黒井崇男よ。

 

…………………。

フンッ。

 

 

 

ーー今日は、久しぶりにもやし炒めでも食うか。




私が昨日みた夢を即興で書いてみました。
いやあ、今までで一番楽しかったです。

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