「……響、おかえり」
「……ただいま」
我那覇家の兄妹は久しぶりに再会した。
片や普通が取り柄の一般人、片や今をときめくトップアイドル。
同じ時を過ごして、同じ家で育ち、同じ釜の飯を食べ、同じ血を分けた二人の距離は限りなく開いてしまっていた。
いや……『我那覇響』がアイドルになる前から、兄との距離は開いてしまっていたのかもしれない。
響がアイドルを本格的に目指すようになったのは、兄の言葉がきっかけだった。
『お前なんかがアイドルになれる訳がない』そう言われて響は怒り家から出ていってしまったのだ。
二人は、お互いに距離を置いていた。
喧嘩することもままならないほどに。
『響とちゃんぽん』
「結局、何も言えなかったぞ……」
久しぶりに故郷に帰ってきたというのに響の心はどんよりと曇っていた。普段完璧に振舞っていても彼女は17歳、こういう気まずい雰囲気は苦手なのだ。
「うう、ハム蔵、自分はどうしたらいいんだぞ……」
そうやってパートナーに聞いてもハム蔵も困ったように顔をしかめるだけ。このまま特に兄と会話もせずに帰るのか…そう思って歩いていると。
「奇遇だな、765プロ。お前もここに来てたのかよ」
「あーーっ!961プロの!」
茶色い髪に鍛えられたスタイル、そして自信に満ち溢れたフレッシュな表情!
そう、彼の名は……
「天ヶ崎竜馬!?」
「ちょっとずつ間違ってんじゃねえ!」
「鬼ヶ島羅刹!?」
「『ヶ』しか合ってないだろうが!ちゃんと言えよ!」
「ピピン板橋!?」
「もはや一つも合ってねえよ!文字数だけ合わせやがって!ていうかなんだピピンって!?ああもう、天ヶ瀬冬馬だ!」
ジュピターでも安定のイジられポジションを獲得している彼が今回もイジられない訳がなかった。
だがゼエゼエと激しいツッコミの連打を叩き込む冬馬に響は涼しい顔で、
「自分、今考え事してるから。邪魔しないで欲しいぞ」
「なっ……お前、仮にもライバルの俺を差し置いて考え事とは、いい度胸じゃねえか……!」
「……いやー、でもなー」
息を切らして説教(のようなもの)をしている冬馬を尻目に、
「ファン層が被ってないから、正直ライバルって言われてもピンとこないぞ…」
「な!?」
「第一、そっちは女の子のファンがメインターゲットなんでしょ?女の子人気が強い真とか、ストイックな千早にライバル宣言するならまだ分かるけど……」
「そ、それはアレだ……765プロ全体がライバルっていうか…」
「やよいとかあずさとか雪歩とかにライバル宣言できるのかー?」
「…………」
鬼ヶ島……天ヶ瀬冬馬は少し考えた。
もし自分が彼女達に『お前のライバルのアイドル、天ヶ瀬冬馬だ!』と言ってみたらどんな反応をするのだろうか。
『うっうー、頑張りましょーっ!!』
『あらあら〜、元気なのね〜』
『男の人ぉぉぉおお!!』
「…………なんか、ライバルって感じがしねえ……」
「ね?」
冬馬をイジるのも冬馬のツッコミを聞くのもなんだか飽きてきたので、響は再びハム蔵を肩に乗せながら散歩を再開しようとする。
「さて、自分はもうちょい散歩するから邪魔しないで欲しいぞー」
「デジャヴだな……!だがよ、俺もドラマ収録が始まるまで暇なんだ。少し付き合ってもらうぜ」
「え!?ちょ、ちょっと!!」
強引に手を掴んでグイグイと引っ張っていく冬馬。響はその行動に褐色肌が赤くなって、
「へ、変態!変態だぞ!」
「妙な事言うんじゃねえ!せっかく人が浮かない顔してる奴を励ましてやろうかと思ったのによ!」
「何でだぞ!?自分達はライバル同士なんでしょ!?何で励まそうとするさー!?」
「だからだよ!」
冬馬のいつになく真面目な声色に、響は体をビクリと震わせて彼の目を見る。
その目は真剣そのもので、彼が冗談で言っているのではないと感じさせた。
「俺のライバルがそんな顔してたら、張り合いがねえって言ってんだ!アイドルならもうちょっとシャキッとしやがれ、情けねえツラ見せてんじゃねえよ!」
「……………っ」
「……何があったかは知らねえけどよ、メシの一つくらい奢らせろよな」
元気が取り柄の自分がそんな暗い顔をしていたのか、そこまで思いつめていたのだろうかと恥ずかしくなる。
この男に完璧じゃない所を見せて、憂鬱を発散するのも良いかもしれない彼女響は思った。
ーーそれにしても、意外とカッコ良いとこあるんだな…。
「ちょっと見直したぞ、城ヶ崎美嘉!」
「性別変わってんじゃねーか!?」
「まさか、ありきたりなゴーヤーチャンプルーとかじゃないだろうなー?沖縄は私のホームグラウンドだから、ちょっとやそっとじゃ満足させられないぞー」
「分かってるよんな事は。今回はな、『ちゃんぽん』を食べようと思う」
ちゃんぽん。色とりどりの具材が乗せられた、野菜たっぷりの料理。
確かに今は何かガツガツ食べたい気分だ、そう思って響は冬馬について行ったのだが。
「あれ?食堂はあっちだぞ?」
「何言って……、ああそうか。お前リンガーフット行った事ないだろ」
「???」
言われるがままに彼に連れられて行った響、彼女がそこで見たものとは。
「ちゃ、ちゃんぽんなのにスープがあるぞ!ていうか麺類だぞ!?」
「ちゃんぽんはご飯の上に野菜炒めを乗せた料理…そう思ってたら大違いだ、それは沖縄だけなんだぜ!」
「ええええーーっ!?」
本当です。
それにしても伊織回と美希回が思いつかない。何を食べるんだろうか……。