食べて。
仕事して。
食べて。
仕事して。
ゲームして。
食べて。
録画見て。
寝る。
多少の差異や入れ替えがあれど、このサイクルが俺にとっての一日であり、同時に日常である。毎日同じ事の繰り返し。仕事の関係上、家の外に出る必要がないので、食料の買い出し以外で外に出る事は滅多にない。当然交友関係は皆無であり、自身の携帯電話のアドレスはほぼほぼ真っ白だ。変化のない生活。人によっては耐え難き生活なのだろうが、そんな変化のない日常を俺は結構気に入っている……のだが、そんな変化のない日常に突然亀裂が生じた。
「玄関に洋ロリが倒れて居るんだけど…」
自身の日常に生じた亀裂を一言で説明する。食料の買い出しの為に5日振りに外出。近所のスーパーで適当に買い物をして、愛すべき自宅に帰ってみると玄関で変な格好をした洋ロリか倒れていたのだ。意味が分からん。
「鍵、掛ってたよな?」
鍵を開けたのはついさっき。記憶と感触が鮮明に残っているので鍵を開けたのは間違いない。つまりは自宅の鍵は掛かっていたという事になる。そうなると、この幼女はどっから入って来たんだ?
「おい、大丈夫か?お前?」
玄関で倒れている幼女に話し掛けるが、反応はない。小さな呼吸音と共にまっ平らな胸が上下しているので命に別状はなさそうだ。幼女の額に軽く触れるが熱はなさそうだ。寝ている原因は単純に眠いからとかなのかもしれない。
「放置、通報、保護…玄関で倒れてなかったら迷わず放置なんだけどな」
玄関で倒れている幼女の処置を考える。今のご時世、いい年した男が幼女に声を掛けるだけでも事案なのだが自宅内で倒れていては話が別だ。放置して死なれたら気分が悪いし、警察に通報してありのままの事情を説明しても信じて貰える気がしない。
中々の悪手だとは思うが幼女の意識が戻るまで保護をする事にした。
食料が詰まった買い物袋を玄関に置き、代わりに玄関に倒れている幼女を抱っこする。軽い。そんな訳はないのだが買い物袋よりも軽い気がする。
抱っこした幼女をリビングまで運び、一時間程前まで自分が使っていたベッドにゆっくりと降ろした。ついさっきまで自分が使っていたベッドに幼女を眠らせるのは申し訳ないと思うが、1LDKマンションでは他に寝る場所はないので仕方がない。
「これって俗に言う密室なのか?
推理物や探偵物は専門外だからよく分からん」
幼女の侵入経路を暴こうと慣れ親しんだ部屋を改めて見渡すが特に変化なし。俺が外に出る前のまんまだ。侵入経路になり得る窓を確認するがキチンと鍵が掛かっている。そもそも此処はマンションの最上階なので窓の鍵の有無は関係ないか…
「まさに密室。一体全体洋ロリはどうやって家の中に入ったんだ。俺が食料買い出しの為に外に出ようと、玄関の扉を開けた瞬間に入れ替わりで侵入したとかか?………ん〜それは流石に気が付くよな。それじゃあ元々此処は俺の家じゃなくて他人の家だった…こっちの方が無理あるか。半ば引きこもりが我が家を間違える訳がない、あと普通に鍵合ってたし」
謎は深まるばかりだ。答えは文字通りすぐそこに眠っているのだが、起きる気配がない。謎を解こうとベッドに横たわっている幼女を観察する。
金髪のストレートヘアー。
陶器のように白い肌。
薄っすらと見える髪色と同色の産毛。
目を閉じているので瞳の色は不明。
日本人離れした整った顔の造形。
黒いドレスと襟の立った何とも言えないマント。
本皮で造られたと思われるバック。
観察終了。
観察結果。洋ロリ。以上。
ガッツリと凝視したのだが得られた情報はそれだけだ。せめて幼女の所持品を調べられれば真実に少しでも近付きそうなのだが、人の物を勝手に弄るのは流石に犯罪だよな…ってかこのシュチュエーションそのものが犯罪なんだよな。通報されたら言い訳の余地もない。自分で選んだ選択肢とはいえ、我ながらドツボにハマってるな。
「……まぁ、いいや。取り敢えず飯にするか」
これ以上考えても仕方がないと諦めて、少し遅めの朝食を用意する。何作ろう…昨日の鍋がちょっとだけ余っているし雑炊にでもするか。
昨日の残り物の鍋を使って雑炊を作っている最中、ベッドからかすかな物音がした。1LDKの狭いマンション。リビングとキッチンを隔てる物は何もない。ガスコンロの火を止め、体ごと後ろを向く。幼女と目が合った。寝起きだからか目付きが悪い気がする。
「おはよう、体調はどう?」
相手を動揺させない様に平然とした態度で幼女に話し掛ける。だが幼女からの返答はない。俺の話は聞こえているっぽいが、意識して聴いている様子ではない。幼女に近寄り、再度呼びかけをしようとする。
幼女に近寄り肩を触ろうとした瞬間、目の前の視界が突然真っ白になる。突然の事態に動揺する間もなく頭に衝撃が走った。
あっ、俺知ってる、これはダメな奴だわ。
意識が朦朧として目の前の視界がぐにゃぐにゃし始める。辛うじて残った意識を使って、コレの原因と思われる幼女を視界に納める。
「チッ、しまった…」
幼女の外見からは似つかわしくない歪んだ表情が視界に映った。
ズキズキと痛む頭部が原因で目が覚める。頭を打った影響なのか視界がぐにゃぐにゃと歪み、焦点が上手く定まらない。倒れないように気を付けながら床から半身を起こすと、幼女が卓袱台で鍋ごと雑炊を頬張っているのが視界に映った。
「ぬらりひょんだったっけ?人の家に勝手に上がって、人の飯を勝手に食う妖怪って…」
不平不満を口にしながら幼女に近付かないようにベッドに移動して横たわる。まだ視界がぐにゃぐにゃとする…
「なんだ迷惑か?」
「迷惑に決まってるだろ。お前が頬張っている雑炊は俺の朝飯になる予定だったんだぞ」
「朝飯?とっくに昼過ぎだぞ…」
「お前にぶっ倒さなきゃ朝飯に丁度いい時間だっだよ」
「私が起きた段階で昼過ぎだったんだが…」
「だからそれが丁度いい時間だったんだよ、バカ野郎」
「典型的な駄目人間だな…」
幼女が呆れた様子を見せた。
このままでは不利なので話を本題に移す。
「それで名前は?」
「それを聞いてどうする気だ?」
「呼ぶんだよ。名前を知らないと話し難い」
「エヴァ………いや、アナスタシアと呼べ」
幼女がアナスタシアと名乗るが偽名臭い。言い掛けた方が本名っぽいが、本人がそういうのなら下手に突っ込むのは止めよう。
「それでお前は?お前の名前など呼ぶつもりはないが一応聞いておいてやろう」
「さっきから思ってたけど、お前……アナスタシアの偉そうで高圧的な口調はなんなの?俺はお前より年上だし、考え様によっては命の恩人なんだけど」
「お前が?私を?笑わせるな。お前に助けを求めた覚えも、お前に助けられた覚えもない。それに私はお前より年上で偉いんだよ。細かい事をグチグチと言っていないで、早く名を名乗れ」
アナスタシアが雑炊を口にしながら答える。言葉は通じるが話が通じないとはこの事だ。実刑覚悟で腕力を使って力関係をハッキリさせたいが、アナスタシアとやりあったら謎武術で返り討ちにあるのが目に見えているので今は我慢だ。耐えろ俺。
「七篠権兵衛」
「あ?この状況下で偽名を使うとはいい度胸だなぶっ殺すぞ」
「偽名じゃねぇよ本名だよ!初っ端から人のコンプレックス弄ってんじゃねぇよ!死ね!死ね!」
七篠権兵衛。初対面の人が聞いたら巫山戯ているのかと反応されてしまう名前だが、由緒正しき俺の名前だ。ってか初手からぶっ殺そうとするな。何処のマフィアだこの野郎。
「……すまなかった少し言い過ぎた様だ。それにしても七篠権兵衛とはすごい名前だな。お前の両親の顔が見てみたい」
「慰めながら人の心を抉るな。マジ泣きするぞ」
両親へのフォローをすると「七篠権兵衛」という名前は当初の俺の名前ではなかったのだ。簡単に説明すると最初の父親が事故でなくなり、残された母親がその後に結婚した男性の名前が「七篠」だったというだけだ。因みに旧姓は「菅原」だ。権兵衛が似合うかと言われれば反応に困るが、免許書を見せても偽造だと疑われる今よりはマシだったのは確実だ。
「さてと…」
アナスタシアが卓袱台から立ち上がる。何処かに用事があるような雰囲気だ。もしかして帰ってくれるのか?なんて思っているとアナスタシアがキッチンに設置されている冷蔵庫の扉を開けた。
「何してんの?」
「チッ、ワインはなさそうだな。代わりの酒は……安そうな缶酒しかないのか。背に腹は変えられん、今回はこれで我慢するとするか」
「だから何してんの!?」
アルコール缶を手にしたアナスタシアの腕を掴む。
「一桁ギリギリが酒に手を出すな、十年は早いぞ!」
「五月蝿い黙れ!酒を飲まなけゃやってられないんだよ!それに私は齢500歳の吸血鬼だ!アルコール程度に遅れを取る訳がないだろう!!」
「取って付けた様な設定をドヤ顔で語るな!兎に角アルコールは……ぐぁ!?」
自分の鳩尾にアナスタシアの肘が直撃する。思わぬ一撃に膝が折れ、四つん這いになって床に向かって胃液を吐き散らす。
「あっ………お、お前が私の邪魔をするからだ。これに懲りたらこれ以上私に楯突くな」
「お前の辞書には謝るという言葉ないのか。まぁいい。兎にも角にも酒は止めろ。今は平気かもしれないが後で後悔する。だから絶対に止めろ」
四つん這いの状態でアナスタシアの足を掴む。高校生や大学一年生の飲酒とは訳が違うんだ。成長期前の飲酒なんてどんな悪影響をもたらすか分かったもんじゃない。殴られてでも止める。そんで後で絶対に泣かす。
「はぁ……お前がそこ迄言うのなら仕方がない。今回だけは諦めてやろう」
こちらの熱意が伝わったのかアナスタシアがやれやれといった感じで深い溜息をついた。相変わらずの態度だが一応は受け入れて貰えた、けど…
「知らない間に洋ロリが自宅に居て、襲われて気絶している間に飯を食われ、酒を飲もうとしたのを止めようとしたらノックアウト……冷静になって考えてみるとなんなんだよこの状況は……」
脈絡がなさすぎる。意味が分からん。
「アナスタシア、この状況に心当たりは?」
アルコールの代わりとばかりに冷蔵庫に入っていた炭酸ジュースを勝手に飲んでいるアナスタシアに質問をする。
「知らん。私は記憶喪失中だからな」
アナスタシアが自信満々といった感じに答える。何処の世界に記憶喪失を胸を張って答える奴が居るんだよ。あと記憶喪失「中」ってなんだよ
「答える気はないという解釈でいいか?」
「それぐらい察しろ、愚か者」
「分かったくたばれ。それでどうする?国家権力か然るべき機関に相談した方が良いか?」
アナスタシアが考える素振りをする。
「それは止めとけ。奴等が私を知れば争いは避けられん。私が本気を出せば一国家権力など恐るるに足らないが、多数の死傷者が出るので可能な限り衝突は避けたい」
「割りとマジで何言ってんだお前は?」
どっかの団体に保護して貰うかって話をしているのに、何故に殺り合う話になってだよ。そんでもって国家権力とやり合って勝てる気でいやがる。脳か精神系の病院に連れてって上げた方がいいかもな…
「どっかの団体に相談するのはNG。
それじゃあどっかに知り合いとかは居るのか?」
「そんなものはない」
アナスタシアが嫌そうに答える。
「帰るべき場所は?」
「ない」
「身分証は?」
「なんだそれは?」
「…存在すら知らないのか」
記憶喪失(仮)。
身寄りなし。
身分証なし。
公になると不味い。
アナスタシアの状況を整理するとこんな感じだ。結構シビアな状況だ。アナスタシア本人は平然とした様子だが今後はどうするつもりなんだ?
「じゃあな。飯はそこそこ美味しかったぞ」
アナスタシアが玄関へ向かって歩を進める。
「ちょっと待て!何処へ行くつもりだ!」
アナスタシアを追い掛け、反撃を受けるのを覚悟でアナスタシアの肩を掴んで制止させる。
「外に出るんだよ。肩を離せ」
予想に反して反撃はされなかったが、俺を見つめる目が冷たい。
「知り合いも行く宛もないお前が、外に出て何処へ行く気だ?」
「お前に話す義理があるのか?」
「勝手に現れて勝手に人の飯食ったじゃねぇか。それで義理がないとか抜かすなよ」
アナスタシアが舌打ちをする。
「私が生きていくのに知り合いも行く宛も必要ない。それが答えでは不服か?」
「不服に決まってるだろ!」
「下手に親切心がある奴は人の気を知らずに安い同情を向けるから嫌いだ。私はお前みたいな奴に同情される程安い奴じゃないんだよ。今なら許してやるから汚い手を離せ」
「拒否する」
「そうか……じゃあ死ね」
アナスタシアがそう告げた直後、アナスタシアが聞き慣れぬ言語を唱えた。
「え?」
アナスタシアの肩を掴んでいた右手が鋭利な刃物に切り落とされたみたいに無くなった、そう認識した途端に言葉にならない痛みが全身に走る。
「ぐっ、ぐぁあぁァァァ!?!?」
人から発せられたとは思えぬ声が勝手に口から漏れる。切り落とされた右手の断面から赤い液体がホースの流れ出し部屋中を真っ赤に染め上げた。
アナスタシアが指を鳴らした。
切り落とされていた筈の右手がいつの間にか元通りに戻っていた。切り落とされた痕も繋げた痕もない。真っ赤に染め上がっていた部屋も何事もなかったかのように元通りになっていた。
「これで分かったか?私は吸血鬼で、悪い魔法使いなんだよ」
アナスタシアが静かに問いかける。言っている意味がよく分からないが、アナスタシアが俺の常識外の存在だと言う事だけはハッキリと分かった。そしてアナスタシアの機嫌を本気で損ねると殺されるというのも分かった。分かったけど此処で引くわけには行かない。だってアナスタシアはずっと悲しそうな目をしていたから。
「だから、なんだよ?」
「物覚えの悪い奴だな。私はお前達人間と違って絶大的な力を持っている。故にお前から同情されるたり、施しを受けたりする必要はないんだよ。それに…」
「だから!お前が吸血鬼で悪い魔法使いなのと、お前が一人で生きていけるかどうかは関係ないだろうが!」
「はぁ?」
「別にお前なんて見ず知らぬの他人だし別にどうなったっても構わねぇよ。態度は偉そうだし、暴力的だし、ロリだし、正直な話今すぐこの場から消えて欲しいぐらいだ。でもな、そんなどうでも良い奴でも、助けを求めている奴を見捨てられるほど人間腐ってねぇんだよ!」
アナスタシアが眉間にシワを寄せる。
「支離滅裂だ…私が一体いつお前に助けを求めたって言うんだ?」
「ずっと悲しそうな顔をしていた。それが助けを求めていないのなら、何だって言うんだよ?」
「仮に私が助けを求めたとして、お前如きに何が出来るっていうんだ?魔法も知らぬ非力なガキに!」
「アナスタシアの次の居場所を作るまで世話してやる。別にお互いに一生一緒に居るつもりはないんだ、それぐらいなら俺でも出来るわ!」
「私の命を狙う奴が現れたどうする気だ?」
「警察に通報、到着までひたすら逃げる。国家権力舐めんな」
「私は吸血鬼で、悪い魔法使いだぞ?」
「さっきも聞いたけどそれがなんなの?お前の過去なんか興味ねぇわ」
「幻術とはいえ私はお前の右手を切り落としたんだぞ」
「その件については後で倍にして返すから気にするな。吸血鬼だって言うなら十字架と大蒜を使って絶対に泣かしてやる。それで五分五分だ」
アナスタシアからの質問が途絶え、突然唸り声を上げた。
「あ~!もういい!馬鹿と会話をするのは疲れた。分かった分かった、お前がそこ迄言うのなら非常に不本意だが助けられてやるよ。光栄に思えよ下僕」
外に出る事を諦めてくれたのかアナスタシアがリビングの方へと歩を進め、ベッドに横たわった。
「男臭い…今日から私が使うベッドなんだからキチンと洗濯しろ!」
俺愛用の枕に顔を埋めたアナスタシアが嫌そうに騒ぐ。
「お前が使うって…それじゃあ俺は何処で寝れば良いんだよ」
1LDKの一人暮らし。
当然寝具は一組分しかない。
「お前なんかと一緒に寝れる訳がないだろ。下僕は下僕らしく床で寝ろ」
アナスタシアの面倒を暫くの間見るとは宣言したが、下僕宣言した覚えは一切ない。
「はいはい、分かりましたよアナスタシアお嬢様」
「違う」
「ん?」
「私の事はアナスタシアではなくエヴァンジェリンと呼べ。口答えは認めない」
アナスタシアが本名を名乗った。その行動がアナスタシアの心境が良い方向に変化したのだと察した俺は思わず綻んでしまった。そしてアナスタシアから飛び蹴りを喰らった。解せぬ……
ノリで書いて、ノリで投稿したので次話のストックがないんだぜ!