俺、技術屋だよな?   作:かんせつ

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第十三話 重雷装艦北上という子

 某日

 

《大本営演習場・休憩所》

 

私は演習が終わって休憩していた。あ~あ・・・今日も怒られちゃったな・・・。そう思っていたら後ろに気配がした。私は後ろに振り向くとそこには白衣を着た男が立っていた。

 

「君が、噂の新型艦かい?」

 

「うん、そうだけど。君は?」

 

「俺は蒼一、桐生蒼一だ。技術研究部第一課所属だ。新しく君の教官?を任されたのでその挨拶だよ。」

 

「そう、技研か・・・今度は何をするつもり?」

 

胸につけてある職員証を見て下っ端だと思うとつい口が滑って嫌味を言ってしまった。だが返ってきた答えは怒声でなく普通の答えだった。

 

「何をって、君の特訓だよ。」

 

「特訓・・・?」

 

「どうやら疲れているようだから、明日からにしようか?」

 

「ううん、今からでいい。」

 

「そうか・・・わかった。動きやすい服装に着替えて、グラウンドに集合だ。」

 

「了解・・・。」

 

私は次はどうなるのかわからない不安と共に指定された場所に向かった。

 

《演習場・グラウンド》

 

「えっと・・・特訓って何するの?」

 

私は訳がわからなかった。目の前に用意されているのはリュックと拳ほどのボールが複数、ろーらーすけーと?だった。

 

「これを使って特訓するんだよ。」

 

「いや、でも私は海で戦うんだよ?」

 

「重雷装艦は重装備だ。まずは機動力云々の前に、重装備を背負っても崩れないバランスを取ることが大事だと俺は思っている。」

 

驚いた。艦娘でもなんでもない人間がその事を見抜いていたのだ。私は何度も教官たちにこのことを言ったが聞いてくれなかった。でも、この人は違った。

 

「ん、どした?実際は違ったか?」

 

「いいや、合ってるよ。それで、これはどう使えばいいの?」

 

「リュックを背負ってボールの上に乗りバランスを取る。水にかからないで済む簡単な練習方法だ。」

 

「わかった・・・うわぁぁ!?」

 

ドッシーン・・・

 

私は盛大にこけた。それを見て桐生さんは苦笑いをしてこう言った。

 

「こりゃ・・・時間がかかりそうだ・・・。」

 

 

 

 夕暮れ

 

もう何度転んだのか数えていない。何度も転んで仰向けになって見た空は日が暮れているのを見て、背負っていたリュックを投げ捨て自棄になって呟く。

 

「もーだめ。疲れた・・・。」

 

「そうか。なら今日は終わりにしようか。」

 

「こんなことして本当に意味あるの~?」

 

「あると・・・願いたい。」

 

「そこは断言しないのかい・・・。」

 

「俺は艦娘じゃないからな、わからないんだよ。んで、やっぱ海とは違うかい?」

 

「う~ん・・・意味無さそうだけど、ありそうな気がする・・・。」

 

「そうか・・・君は(・・)半日で十秒はバランスを取れたんだ。大丈夫、上手くいくさ。」

 

「やっぱり断言しないんだね・・・。君はどうやってこの特訓を思いついたの?」

 

「そうだな・・・実際に訓練をしている艦娘を見て、その動きがこれに似ていたからかな。」

 

桐生さんはそう言って今日は使わなかったローラースケートの靴を持つ。確かに食堂にあるテレビでスケートというのを見たことがある。言われてみれば私たちの動きはスケートに似ている気がする。

 

「それにしても君はこの特訓にやけに詳しいね。他の子にもやってみたの?」

 

「・・・見てな。」

 

そう言って桐生さんは私が投げ捨てたリュックを背負い、ボールの上に乗った。その光景は私は信じられなかった。

 

「すごい・・・バランスが完全に取れてる・・・。」

 

「艦娘は人間と変わらない。」

 

「え・・?」

 

「君たち艦娘を生んだ人間の言葉だ。」

 

桐生さんはボールの上でバランスを取りながら呟くように言った。

 

「それにしても上手いね。君も特訓したのかい?」

 

気になっていたことを素直に聞いたが、すぐに返答は無かった。その時の桐生さんの顔はさっきとは違い、影に包まれていた。

 

「あ・・・あぁ、人間の遊びにローラースケートってのがあってな。俺も子供の時にそれで遊ぶために練習したんだよ。」

 

白々しいにもほどがあった。だけどその顔を見て気がして追求するのは止めた。

 

「さて、腹も減ったし、飯にでもしようか。俺の奢りでな。」

 

「え・・・?」

 

私はそのまま連れられて食堂に向かった。

 

 

 

《食堂》

 

「それでさぁ、上司がうるせぇんだよ。こっちの身も考えろって―――。」

 

「うん・・・そうだね・・・。」

 

なぜか私は桐生さんの愚痴を延々と聞かされていた。

 

「―――北上は無いのか?」

 

「無いって、何が?」

 

「そりゃぁ、愚痴さ。あるだろ?『アイツはあんなヤツだった』とかさ。」

 

「う~ん。それを言うなら前の教官全員そうかな?だって―――。」

 

いつの間にか私は思うがまま愚痴を吐いた。それを桐生さんは否定せず肯定しながら笑って聞いてくれていた。いつの間にか食事は愚痴の披露の場と化していた。

 

「いやぁ、こんなに愚痴を吐いたのは何時以来かな・・・あぁ、昨日吐いたばっかだ。」

 

「なんで一日でこんなに愚痴が溜まるのさ・・・。」

 

「君は知らなくていい。」

 

「相変わらず艦娘連れているわねぇ?」

 

「真那か・・・。」

 

「愚痴、聞こえていたわよ。」

 

「ゲッ・・・。」

 

「適当に言ったのにマジだったの・・・。今日は一日でどれだけ溜まったの?」

 

「軽く一ヶ月分。」

 

「相変わらず現実的ねぇ・・・。あぁ、自己紹介が遅れていたわね。私は神代真那。こいつの幼馴染よ。よろしくね。」

 

「北上です。よろしくお願いします。」

 

「あぁ、いいよいいよ。そんな丁寧にしなくても。私も下っ端だからさ。所属は戦術作戦部よ。」

 

「それで、今日はどんな厄介事を持ってきたんだ?」

 

「人を疫病神みたいに扱わないでよね。ただ、夕飯食べに来たら、アンタが見慣れない艦娘といたのを見て来ただけよ。」

 

「ならいいんだが。」

 

「そう言えば北上って言えば、この前新しい艦種に改装された艦娘じゃないの。どう?新しい艦種は?」

 

「まだ昔の動きに慣れてしまっていて上手く動けないです・・・。」

 

「おいおい、来て早々暗い雰囲気にするなよな?」

 

「ごめんね~。さて、私もも愚痴暴露会に混ぜてちょうだいな。」

 

それからは三人で遠慮なく愚痴を吐きまくった。その時初めて人の温かさに触れた気がした。この人なら、着いて行ける。共に歩いてくれる。そう思った瞬間だった。

 

 

 

 8月24日

 

《鎮守府・教室》

 

「えぇっと・・・北上さん?」

 

「・・・あぁ、ごめんね。どこまで話したっけ・・・。」

 

私は吹雪ちゃんの声で我に返った。彼女を見ていると昔の自分を思い出し、昔の出来事に浸っていたようだ。

 

「えぇっと、魚雷の構造についてまで。」

 

「それじゃぁ続けるね。魚雷は敵喫水部の装甲を狙って放つものであって―――って感じかな。私が教えれるのはこれくらいだよ。」

 

「いいえ、教えてくださってありがとうございます!!とてもためになりました。」

 

「それは良かったよ。また聞きたいことがあったら遠慮なく言ってね?んじゃぁ、またね。」

 

 

 

 8月25日

 

《鎮守府管制棟・提督室》

 

「って訳で吹雪ちゃんに教えていたんだけど・・・いやぁ、私もいつの間にか教える側になったんだなって・・・。」

 

「そりゃお前さんが努力した結果だ。誇らしいことじゃないか。」

 

「君に言われると妙に自身が沸くんだよねぇ。何か持ってるんじゃない?」

 

「馬鹿な事言うな。俺はただの人間だ。」

 

「相変わらずの謙遜っぷりだねぇ。ま、それが君という人間なのかもね。」

 

「皮肉か?」

 

「いいや、おっと時間だねぇ。私はお暇しようかなぁ。」

 

「お、おい!?北上、俺を見捨てるというのかぁ!?」

 

「がんばって~。」

 

私はある時間になったことを知りすぐさま提督室を出た。ジャストタイミングで四人の娘が一挙に提督室目指して走ってきていた。一瞬で通り過ぎたけど・・・あれはまさに嵐だねぇ。

 

「響、ちょ、タンマ!!」

 

「こら~響~!!」

 

提督室へ突撃した嵐はすぐさま被害を出し始めたようだ。まぁ、いいんじゃない?




過去話2です。北上と蒼一の出会いをば。
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