9月2日
《司令室》
俺は大淀から吹雪たち攻撃隊が無事海域を離脱した報告を受けて安堵し、椅子に深々と座る。そんな時、俺の携帯が鳴り始める。真那からか?こんな時間にと言うことは何かあったかねぇ・・・。
「すまん、大淀。少し艦隊の指揮を頼む。」
「わかりました。」
俺は気分を変えるため、鎮守府の外に出た。どうせなら帰還する艦隊を迎えるためにと岬へ向かった。そして今度はこちらから雄真へと掛け直す。
『蒼一、やっと繋がったわね。何かあったの?」
「あぁ、ちょうど反攻作戦を執っていたからな。」
『お疲れ様ね。おっと、それどころじゃないわね。無事、艦娘母艦・神威の演習終了。明後日にでも舞鶴に着く予定よ。』
「そうか・・・もう、一ヶ月か・・・。」
『まぁ、感慨深いのもわかるわ。それよりも、そっちは何かあったの?』
「あぁ、敵の新型艦を発見した。」
『なるほど・・・ということは新たな敵棲地を見つけたのね?』
「まぁな。さっき攻撃を仕掛けたが、ちょいと面倒くさくなりそうだ。」
『着任して早々に上すらも諦めていた大規模作戦を成功させ、今度は謎の新型か・・・いろいろと大変だねぇ。』
「まぁ、実際に戦っている彼女たちほど苦では無いと思うがな。」
『そうか・・・そんなアンタに凶報よ。』
「ったく・・・今度はどんな問題ごとだ?」
『上層部・・・保身派の奴らに要塞化しつつある舞鶴に大本営を移そうという考えが浮かびつつあるようよ。まぁ、鎮守府内で部署作るくらいだし、保身派は警戒しているわ。』
「まぁ、予想はしていたが・・・クズ共と話す気があれば伝えておけ。砲弾にあたりたいならいつでもどうぞとな。」
『まぁ、上も日本海側がどうなっているかぐらいは把握しているだろうし、私が伝えるまでも無いわね。』
「そうでないと困る。さて、明日の作戦会議の下地を作らなあかんし、用件は以上か?」
『えぇ。それじゃ、がんばって。』
俺はその言葉を聞いて携帯を閉じる。すると掛けていたヘッドセットに大淀の声が届く。
『提督、攻撃艦隊及び支援艦隊が無事帰投しました。』
「あぁ、こちらも肉眼で確認した。すまないが続いて艦隊の世話を頼む。今後について少し考えたい。」
『わかりました。』
俺は通信を切って提督室へと向かった。
《提督室》
提督室へ戻ってきて執務をこなしていると提督室のドアがノックされた。
「駆逐艦吹雪です。入ってもよろしいでしょうか?」
「あぁ、大丈夫だ。入ってきなさい。」
「失礼します。」
入ってきた吹雪にはいつものような元気が見えなかった。
「どうした。入渠は済んだのか?」
「司令官、この度は本当に申し訳ありませんでした!!」
吹雪は俺の問いに答えるどころか頭を下げて謝罪する。内容は先の作戦のことか・・・。
「なぜ吹雪が謝る必要があるんだ?」
「それは・・・私が慢心していたせいで艦隊を危険に晒し、なおかつ作戦を台無しにしてしまったからです。」
「それについては吹雪に非は無い。今回の非は危険をわかっていて出撃を命じた俺にある。だから吹雪が責任を感じる必要は無い。」
「ですが、戦果を上げれなかったのは!!」
「戦果、か・・・。あるじゃないか。無事に帰還したという最高の戦果が。」
「それが一番の戦果なのですか?沈んだとしてもサルベージができると聞いていますが・・・。」
「・・・吹雪。」
俺は最近使わなくなったドスの効いた声を使い吹雪を叱る。
「お前は沈みたいのか?」
「そ、それは・・・嫌です。」
「ならそんな事を言うな。サルベージに甘えるな。確かに君はサルベージ計画が終了した後に着任したから良い意味しか見ていないのはわかる。だが既にサルベージ計画は俺の方で破棄している。」
「なぜ・・・いいえ、わかりました。すみませんでした。」
「いいや、この事を吹雪が気にする必要は無い。さ、気合入れなおして新しい作戦に望んでくれ。」
「は、はい!!」
最後に見た吹雪にはいつものような元気が見えた気がした。それを見て、俺は執務を開始した。
9月3日
《作戦会議室》
作戦会議室では先程行われた威力偵察に参加した空母たちや無人機の映像を持ち寄った妖精が集まってに敵新型艦の分析を行っていた。
「では、各部署の報告を。」
「はい。では先刻の威力偵察の詳細報告から。威力偵察の効果ですが・・・。」
机いっぱいに設置されたモニターに敵新型艦を多角から誘導弾で攻撃している映像が映る。誘導弾が敵に着弾し爆発を起こして煙に包まれる。しかし、煙が晴れると無傷と思われる深海棲艦がいた。
「このように10式対艦誘導弾計12発、同時に受けても敵の障壁に変化は見られません。」
「さらに、銃撃・爆撃・雷撃などの至近距離攻撃は敵に接近すること自体が困難なため、検証すらままなりません。」
報告をする妖精に続くように飛龍が前に一歩出て続ける。
「敵新型の艦砲についてはどうだ?」
俺の質問に答えるように別の妖精が一歩前へ出る。
「まずは先刻の威力偵察の被害報告を。こちらの被害状況は偵察に使用した武装型ダミー艦艇が全て撃沈されています。ほとんどのダミー艦艇が敵新型艦の艦砲によって撃沈されています。」
それを示すかのように偵察時の展開図がモニターに映し出される。
「そして偵察で得た情報から予測される敵新型の推定射程です。」
「おいおい・・・これはマジかよ・・・。」
映し出された展開図に表示された予測射程を見て俺は呆れたように呟く。いくらなんでもこの距離は反則って言いたいくらいだ。なにせ予測射程とは言え、敵主力展開位置を余裕でカバーできているのだ。
「ただでさえ、敵の障壁を突破するのは三艦隊の一斉砲撃でも不可能だった。実際に目標攻撃に参加していた戦艦は扶桑・山城・金剛の三隻、正規の作戦だと少ない方だとは思うが、ヒビすら入らないとなるとすりゃぁ・・・。」
「白旗でも揚げますか?」
傍らにいた霧島が冗談のように言う。
「そうだねぇ、揚げたいのは山々だが・・・そう言やぁ、アレがあったけ。」
俺は大本営勤務時の時に考案したデータを引き出す。
「今は藁にでもすがりたい状況だ。切れる手札は切っておくに限るな。」
俺はすぐに工廠に通信を繋ぐ。
「あぁ、俺だ。今送ったデータの物を作ってほしいんだが、できそうか?」
『技術部の威厳にかけてやってみせます!!』
「わかった。頼んだぞ。それと一緒に送った必要機材も頼む。日付は定めずにおくのでペースはそっちに任せる。」
『了解しました!!』
「策は成った。作戦詳細は明日発表する。以上、解散。」
俺の言葉でひとまず作戦会議は終わった。
ちょっと吹雪の件で蒼一が恐いですが、それも彼からすれば当然の事です。何せサルベージを許せば、俗に言う大破進軍が定着化してしまいますからね。蒼一が舞鶴の艦娘をサルベージしたのは前提督の愚かな艦隊指揮で沈んだ子たちへの罪滅ぼしだったからです。
以上、かんせつでした。