俺、技術屋だよな?   作:かんせつ

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第二十四話 北上の日常

《鎮守府・公園》

 

私と提督は揃って公園の傾斜に寝転んで空を見上げていた。

 

「それにしても久しぶりだねぇ。こうやって空を見るのも。」

 

「そうか?大本営にいたときはいつも見ていただろ?お前は転んで、だが。」

 

「ち、違うよぉ。こうやって二人(・・)で見るのが。」

 

「なるほどな。確かに、お前が大本営から離れたのは一年位前だったから案外、久しぶりだな。」

 

「そう、わかればよろしい。」

 

「それにしても今日はどうしたんだ?」

 

「・・・色々聞きたくてさ。」

 

「聞くって何を?」

 

「この鎮守府のこと、大本営本部のこと。」

 

「・・・どこから聞きたい?」

 

少し、これを聞くのには抵抗があった。それは私たちにとっては悪夢の原因だからだ。

 

「あのクズのこと。今アイツがどうしているかを。」

 

「クズ・・・前提督か。そうだな、軍事裁判で独房行きになったと聞いたな。一応、最期まで独房暮らしだ。」

 

「そう・・・死刑じゃないんだ・・・。みんなを殺したのはアイツなのに。」

 

「元帥は死刑を要求したが、保身派が頑なに否定してな、挙句の果てには無罪を主張しやがった。結局元帥が重大作戦の安易な放棄、戦果は無く、鎮守府には甚大な被害等の責任を追求してなんとか独房行きになった。これだけあれば死刑になるはずだったのにな。後で判ったんだが、奴は保身派の一味らしい。どーりで保身派があれこれ動いたわけだよ。」

 

「ねぇ、そいつらはどうにかなんないの?」

 

「無理だな。いくらこちら側に元帥がいるとしても、こちらは少数、数で負けている。今の元帥が孝三さんだから何とかなっているが、上層部のほとんどが保身派だ。おかげで身動きすら間々ならない状態だ。」

 

「敵は深海棲艦だけじゃないってことか・・・。」

 

「さらに俺をここへ寄越してサルベージ技術まで独占しようとしているし、挙句の果てには本部をここに移そうとまで言う始末さ。おかげで週一以上のペースで周辺海域の事に始まり、舞鶴の技術情報まで細かに聞いてきやがる。まぁ、ここは横須賀と違って湾じゃ無く海岸線にある本当の最前線だ。すぐには行動には移さんだろうな。」

 

「君はどうするの?」

 

「もちろん抵抗するさ。部下を守るのは指揮官の義務。いやお前らの―としてか・・・。いや、その資格は無いかな・・・。」

 

「ん?途中、何て言った?」

 

「いいや。聞き流しておいてくれ。」

 

「・・・わかった。」

 

その言葉の後には変な空気が流れる。私は提督との付き合いは長い方だと思っている。大本営にいた時もこういう空気は何度も体験しているから慣れている。けど、やっぱり寂しいな。提督は私たちが知らないところを知っている。私たちは知らない方がいいことをたくさん一人で背負って隠している。何時になったら本当の意味で君の隣に立てるのだろう・・・。

 

「ねぇ、提督。」

 

「ん?今度はどうした?」

 

「提督はさ、何で一緒に戦ってくれるの?他の人間は私たちを自分のために利用しているのに、君は違う。ねぇ、どうして?」

 

「・・・。」

 

私は今一番聞きたいことを口にした。

 

「俺も自分のためさ。他の人間と一緒、自分のためさ。」

 

「そう・・・。」

 

確かにその通りだろう。提督は本当の理由は隠しているつもりなのだろう。私はわざとこのことを聞いた。答えは知っているはずなのに。でも、どうしても提督の口から本当の答えを聞きたかったのだ。でも、結果はだめだった。

 

「っにしても久方ぶりと言うのに、つまらん話ばっかだな。」

 

「仕方ないじゃん。私は他のみんなと違って色々と知ってしまったからね。」

 

「お前たち全員は綺麗なまま(・・・・・)でいてほしかったというのにな・・・お前ときたら。」

 

「私が自分から勝手に汚いところに踏み込んだんだ。君の責任じゃないよ。」

 

「・・・そうか。だが、もう止めた方がいい。これ以上は・・・。」

 

「わかってる。これ以上知ったら私も変わりそうだしね。」

 

「あぁ、お前はお前でいてくれ。」

 

私はそう答えたが、本当は全て知ってる。だからこそ、彼の傍にいたい。

 

「提督。」

 

「なんだ?」

 

「君の役割は何?」

 

私は一番肝心なことを聞いた。返答次第では彼の今の状態がわかるはず・・・。

 

「役割か・・・お前らを指揮する提督じゃあ答えとしては満足じゃないだろう?」

 

「もちろん。できれば濁してでもいいから。」

 

「そうだなぁ・・・剣は持たず、盾だけを持った剣士・・・いや、臆病者か・・・。」

 

「?」

 

「だからさ、俺に剣を握らせないでくれ(・・・・・・・・)。」

 

「・・・えっ?」

 

「すまん、今のは失言だった。忘れてくれ。ん、通信か。誰からだ?」

 

私がさっきの言葉を追求しようと口を開こうとする前に邪魔が入る。提督の通信機が鳴ったのだ。提督は通話の間に体を起こし座る。

 

「何かあったの?」

 

「大本営から新しい指令書が届いた。近々隠岐の島北東50にある杜松諸島海域の奪還作戦を行うそうだ。それで、ウチからも少し艦隊を出せってさ。」

 

「ふ~ん。指揮系統は?」

 

「呉鎮守府が総指揮を執るらしい。拠点は呉管轄の境港だそうだ。」

 

「案外ウチからしても近いね。ケル諸島からそこまで距離ないんじゃない?」

 

「あぁ、あっても30弱だな。」

 

「だったらウチが主導してもいいんじゃない?」

 

「呉も鎮守府昇格後で戦果が欲しいんだろうさ。そういや呉が泊地だった頃の司令は保身派が選定したっけ。だったら尚更だな。保身派は一丁前に自己保身欲と上昇志向が強いからな。」

 

「はぁ・・・付き合わされるこっちの身は?」

 

「もちろん、度外視だろうな。」

 

「やってられないね、ホント。」

 

「でも上から正式に指令書が届いたんだ。それに、老人共は細かに舞鶴の管轄海域の資源情報を探っているようだからウチに余裕があることはバレているだろうから、参加辞退はできねぇだろうな。」

 

「面倒だねぇ。まだヤシマ作戦が終わって一週間も経ってないのに大規模作戦とは忙しすぎるよ。」

 

「普通だと早くても一ヶ月後以降だろうが、功を焦っているとすれば残り時間は少ないかもな。」

 

「じゃぁ、すぐにでも方針を大規模作戦に変えないとね。」

 

「あぁ、まーた忙しくなるな。そうだ、いっその事ダミー火器艦艇総出はダメかな?」

 

「いくらなんでもダメだと思うよ・・・。」

 

「ですよね~・・・はぁ、やっぱお前らにがんばってもらうしかないのか。」

 

「まぁ、そのための私たちだからね。しょうがないさ。」

 

「さってと、俺も動かないとな。」

 

そう言って提督は立ち上がった。

 

「もう、行くのかい?」

 

「あぁ、俺もできるだけ被害を減らすためにも色々小細工しないとな。」

 

「堂々と言ったねぇ。」

 

「まぁ、そうでもしないと連中に呑まれるからな。」

 

「まぁ、期待しているよ。」

 

「そりゃどうも。一段落したら、今度は悲しい話題以外で話そうぜ。」

 

「うん。」

 

そう言って提督は管制棟へ向かっていった。私は彼の背中が消えるまで見ていた。その背中は何か大きいものを背負っているように見えた。その背中に背負っているものを知っていても一緒に背負えないのは辛いものだ。

 

「いつか君を提督以外の呼び名で呼べるようになりたいな・・・――――ん。やっぱ恥ずかしいな、この呼び名は。」

 

私の呟きは誰にも聞こえることなく消えていった。




日常編ラストです。ちょっとシリアスですかね・・・。

ちなみに序盤の蒼一の―と最後の北上の―には同じ意味を持つ言葉が入ります。暇があれば考えてみてください。
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