9月26日
《鎮守府正面海域》
「ひゅー、これが海の上を走る感覚かぁ。案外特訓方法は間違っていなくて良かったよかった。」
目の前に敵がいるというのに俺は軽口を叩きながら初めての感覚に歓喜しながら滑り、砲塔を旋回させたりと感覚に慣れようと努める。
『提督。今は何故あなたが艦娘になっているかは聞きません。ですがあなたの掲げる掟、『生きて必ず帰る』は守ってくださいね?』
「あぁ、そのつもりだ。」
霧島は冷静に俺の様子を分析していたようだ。
「さってと、準備運動はこれくらいにして、始めますか。」
接近しながら準備運動をしていたのでもう敵は近い。敵も俺を視認してこちらへ化け物の口を向け砲撃をする。
ドウンドウン!!
「左右一発ずつ、か。実際に見てわかるが、良くもまぁこれを避けれるな。」
そう言いつつ俺は飛んでくる砲弾を蛇行しながら避ける。これは感覚だ。何度も練習したじゃないか。だから・・・いける!!
「・・・砲戦用意。」
俺は独り言のように呟く。一応艦娘だけでも全ての戦闘行動が可能だが、通常はより戦闘に集中させるため艦娘の艤装に妖精が乗ることが一般的だ。だが、俺は正規の出撃ではないので一人で全てを行う必要がある。
「主砲塔旋回。弾種徹甲。」
俺の合図と共に装弾が開始される。それと視界がスコープ画面に変わる。
「およ?これはおもしろいな。さて、照準良し。両舷一杯、最大戦速。参る!!」
俺は一気に速度を上げ敵に肉薄する。
ガァァ!!
吼えるような音と共に砲弾がこちらへ迫る。だがそれを紙一重で避け、勢いを殺さずに跳ぶ。目標は敵の頭上だ。
「オルァァ!!」
俺は両前腕に装備した射突型杭を使用する。圧縮ガスで杭が高速で飛び出す。それに落下のエネルギーが加わり敵の障壁と衝突し甲高い音を発する。
ギャリギャリギャリギャリッ
「この距離ならば!!」
俺は一気に主砲副砲を一斉射する。多数の砲弾が至近距離で炸裂する。
ドガンッ!! ギャッ!!
「んな!?」
至近距離で砲撃を受けても敵の障壁は健在だった。
「ゴァァ!!」
「マズッ!?」
そう思ったときには俺の身体は二本の化け物の首に喰らい付かれ、身動きが取れなくなる。
「グワァァ・・・。」
「ちょっ!?」
ゴワァァ!!
「がはっ!?」
俺はさっきのお返しとばかりに喰らいつかれた首から至近距離で砲撃を受ける。俺はそのまま飛ばされ、海面に叩きつけられる。そのまま俺は身動きができず、ただ浮かんで沈むのを待つだけだった。そして徐々に敵が近づいてくるのがわかった。
これで・・・終わりなのか?結局、俺は一人すら守れなかったというのか・・・。
《過去》
俺は妹を亡くした悲しみに暮れながらも辛うじて残った廃墟から遺品を探していた。
「・・・これは?」
半壊した屋根に引っかかるように袋があった。開いてみると中身は一冊のノートだった。名前は『艦娘観察記』どうやら親父の物のようだ。
第―回艦娘魂憑依実験報告
本日―に人体への魂憑依実験が行われた。対象はまたも死刑囚。今回も失敗するだろう、そう思っていた。だが結果は違った。当時の会話の記録を残しておく。
『はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・なんだったんだ、今のは。』
『今のは、とは?』
『目の前が真っ暗になったと思えば声が聞こえた。女性の声だ。』
『女性の声・・・艦娘の声か!?』
『さぁ?俺にはよくわからん。それからそいつには名前が無いらしい。』
『名前が無い艦艇か・・・艦種は?』
『駆逐艦と言っていた。』
私はそれを見て実験は成功と思えた。だが、実際に演習に参加した時、彼は豹変してしまった。自らの強大な力に溺れてしまったのだ。私はやむなく艤装に仕込んであった自爆装置を起動し、彼を葬り去った。そして上へは前回同様、自己崩壊を起こし、爆死したと報告した。
それを境に極稀と言えるほどの確立だったが憑依に成功する者もあった。だがその者たちも同様、強大な力に溺れ、そのたびに私は大惨事になるまえに処理していた。そしてわかったことが一つだけあった。魂を憑依できた者たちの共通点だ。それは何かを守りたいという強い志を持つ者は憑依に成功していたケースが多い。大抵の実験台として寄越される死刑囚が国を変えたい、恋人、家族を守るために重罪になった者たちばかりだった。どうやら艦娘の魂は強い意志を持つ者に憑依するものと私は考える。そしてより強いものが上位の艦種の魂を呼び寄せるものと推測する。だが、それを上へ公表するのは止めておく。上は只でさえ自己保身に走る者が多い。こんなことを報告すれば消費資材を削るために非人道的なことをする可能性も否めない。
それを見て俺は適当にページを捲っていった。すると、最後のページに目が向いた。
―月―日
私はもう長くはないだろう。原因はわかっている。もう若くはないのにのに無理をしてしまったからだ。上からの催促、進む技術への喜び、色々と原因はある。おそらく、この記録を書くのも最後になってしまうだろう。よってこれを見つけたであろう息子、蒼一に頼みがある。口では言えないことだ。艦娘は私の娘だと思っている。だが、大本営の上層部には艦娘の私的利用を企む者もいる。私は日々そう言った者たちに裏で抵抗してきた。だが、もう私は長くは無い。だから勝手ながらお前に後の事を頼もうと思う。母さんの事は当然、美由のこともだ。遺していくのが重荷ばかりで済まない。だが、お前ならやってくれると信じている。私の娘であり、お前の妹でもあろう艦娘たちを頼む。
俺はそのノートを見て改めて父の背中を思い出す。その背中は大きく、だがその背中は寂しそうに見えた。やっと、その意味がわかった気がした。親父は一人で戦っていたのだ。自分の娘とも言える艦娘を守るために。
「安心してくれ。親父の遺志はちゃんと俺が引き継ぐからよ。」
そう言って俺はノートを袋に戻し、袋をバックに入れて遺品整理に戻った。
《現代》
どうやらこれが走馬灯ってやつか?結局、約束を果たせず俺は無様に沈み始めている。
俺は悔しかった。何もできず、こうしてまた何もできずに先に進むのを待っていることが。
―悔しい― ドクン・・・
俺は悲しかった。また一人、大事な家族を失ってしまったから。
―悲しい― ドクン
俺は憎かった。何もできなかった非力な自分が。
―憎い― ドクンッ
俺は憎かった。俺の大切な妹を奪った深海棲艦が。
―憎イ― ドクンッ!!
返せ・・・俺ノ大切ナものヲ返せ・・・返セ・・・!!
「
ドバァァァ!!
《鎮守府・発令所》
「提督!!」
私はモニターに移る提督の姿を見て叫んだ。私たちですらできないような動きで敵新型と戦っていた。最初は良かったものの、結局は敵の強大な障壁に阻まれ、倒されてしまったのだ。そして今も提督は沈みそうな姿だった。
「・・・っ!!」
私は震えていた。恐怖、怒り、悲しみ。様々な感情が混ざり合い、反発し合い、悔いというものが生まれいた。
『て、提督の座標に高エネルギー反応!!』
「ど、どういうこと!?」
私はてっきり提督の策かと思った。あの提督だ。『敵を騙すにはまず味方から』というのを平気でやりそうだからだ。
「提督・・・。」
私は希望の言葉を呟いた。すると派手な水飛沫が上がり、それが消えると中心には提督が立っていた。
敵は再び立ち上がった提督を視認して砲撃をする。だが、提督はそれを見てもまったく避ける素振りを見せなかった。逆に提督は砲弾に向けて右手を突き出す。すると迫っていた砲弾は壁のようなものに当たり、爆発した。それには見覚えがあった。私たちはそれに幾度となく叩き伏せられたからだ。
「障壁!?何故提督が!!」
そう、深海棲艦特有の防御方法、障壁だ。私たち艦娘と同じ構造のはずなのに深海棲艦だけが行使できる謎の力。それを今、提督は使ったのだ。それに提督の艤装をよく見てみると敵の攻撃でボロボロだったところが塞がっていたのだ。だが、それは黒いもので塞がっていたのだ。まるで、深海棲艦の装甲のようなもので・・・。
「提督の身に何が起こっているというの!?」
『て、提督の体内エネルギーがみるみる増大しています!!これ以上は危険すぎます!!』
「提督!!それ以上は危険です!!落ち着いてください!!」
私は提督に今の状態を伝えるために通信機を持って叫んだ。
《鎮守府正面海域》
『提督!!それ以上は危険です!!落ち着いてください!!』
焦ルヨウナ霧島ノ声ガ聞コエルガ気ニシナイ。俺ハ今、最高ニ苛立ッテイルノダ。俺ハユッタリトシタ足取リデ敵ニ近ヅク。
「グルァ!!」
敵ハ砲撃ガ効カナイノヲ見テ、今度ハ首ヲ伸バシテ攻撃シテクル。ダガコレモ障壁ヲ張リ、無傷デ済マス。何故イキナリ障壁ガ使エルヨウニナッタカハワカラナイ。ダガ、今ハ使エルモノハ全テ使ワナケレバナラナイ。ソレガ例エ、俺ノ身ヲ滅ボソウトモ。
「フンッ!!」
ゴスッ!!バリンッ!!
ドウンッ!!グシャァ!!
俺ハ一気に敵トノ距離ヲ詰メ拳デ敵ノ障壁ヲ破壊スル。ソシテ砲撃デ邪魔ナ首ヲ潰ス。
「ゴアァァ!?」
障壁ガ破ラレタコトニ驚イタノカ、体ノ一部デアル首ヲ潰サレタ痛ミカラカ敵ハ叫ブ。叫ビ声は鎧ノ隙間カラ聞コエル。マッタク煩イ。俺ハ間近ニアル黒イ鎧ヲ鷲掴ミニスル
ゴカカカカ!!
鎧ハ軋ム音ヲタテナガラヒビが入ッテイク。
「ガァァァ!?」
「北上カラ・・・離レロ!!」
バリンッ!!
「ギャァァァ!?」
ヤット顔ヲ覆ッテイタ鎧ヲ破壊デキタ。手ニ残ッタ鎧ハソコラ辺ニ捨テ、サラニ鎧ヲ掴ミ北上ノ顔ヲ見テ安否ヲ問ウ。
「北上!!大丈夫カ!?」
「・・・て・・・い・・とく?」
「アァ、俺ダ。今、助ケルカラナ!!」
「もう・・・ダ・・・メだよ。」
「ドウシテダ!?」
「もう・・・私の体は・・・私のものじゃない・・・だから・・・せめてこのまま・・・私の意識があるうちに・・・君の手で・・・破壊して欲しい。誰かを傷つける前に・・・。」
「お前ガ諦メタラダメダロウガ!!絶対助ケル!!ダカラ、お前ハ諦メルナ!!」
「・・・うん!!」
「グルァ!!」
「オワッ!?」
イキナリ敵ガ動イタノダ。北上ニ取リ付イテイタハズの鎧ガ外レ、今度ハ俺ニ取リ付イタノダ。
「グワァァァ!?」
「提督!!」
良カッタ。鎧ガ俺ニ取リ付イテクレタオカゲデ北上ハ解放サレタヨウダ。北上サエ救出デキレバ此方ノモンダ。
「北上・・・今スグ・・・俺カ・・・ら離レろ。」
「なんで!?まだ提督が!!」
「俺は自分デ・・・何とカ・・・スる。だガ派手ニヤらネェと、コイツは倒セそうニないカらナ・・・。頼む・・・必ズ・・帰る・・・だカラ、俺の意識があルうちに・・・。」
「絶対だよ?絶対帰ってきてよ!?」
「アぁ・・・やく・・・そくだ。」
「っ!!」
それを聞いた北上は俺から離れ、鎮守府に戻っていく。北上を助けたからか、俺を包み込んでいた黒い感情も消え、あふれるようなエネルギーも無くなっていた。俺は小さくなる北上の背を見ながら呟く。
「悪いな、北上。こればっかりは約束、果たせそうにない・・・。」
俺は北上を騙したのだ。今俺に取り付いている敵を倒すには・・・。
「・・・全艤装・・・解除。」
俺の呟きで背中にあった大きな艤装、足についていた艤装が俺から外れ、一足先に沈んでいく。
「ハァァ・・・。」
艤装が離れ、俺は当然沈み始める。沈んでいく間、俺は身体に一気に力を込めた。すると先ほどまであった莫大な力がまた体を包みこむ。そしてさらにそれを増大させる。
「おぉ・・・オォォォォ!!」
体が軋む感じがするがそれでも止めない。俺は体が熱くなるのを感じた。もっとだ・・・もっと!!
「ガァァ!?」
俺に取り付いていた敵が俺の異変に気づいて叫ぶ。だが、分離するには別の媒体が必要らしく、俺から離れることはできないようだ。
「悪いが、お前には付き合ってもらうぜ・・・地獄までな!!」
カァ!!ドゴァァァァ!!
「て・・・いとく・・・?提督ぅぅぅぅ!!」
最期に誰かの叫び声が聞こえたような気がした。だが、俺はそれが誰の物なのかを確認することはできなかった・・・。
はい、二章最終話です。最後あたりが見づらいと思いますがご了承願います。
そして戦艦桐生のスペックをば。
~超大和型戦艦一番艦・桐生~
主兵装
試製55cm連装砲二基
15.5cm三連装砲四基
副兵装
射突型杭二基
背部に空きあり
速力は高速戦艦である金剛たちすら超え、駆逐艦と張り合えるほど。艤装は戦艦大和と同一の物を改良して使用している。背部の主砲を撤去し、その分主機にスペースを割いて速力を上げている。それでも空きがあるので後で何か別の装備を積もうと考えている。
副兵装の射突型杭は俗に言うパイルバンカーである。
ちなみに試製55cm連装砲は蒼一が自分自身のために製作したとも言える。