俺、技術屋だよな?   作:かんせつ

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第三十六話 頬の痛み 心の痛み

 10月6日

 

《鎮守府病棟・病室》

 

ピッピッピッ・・・

 

「「すぅ・・・。」」

 

規則正しい電子音と二つの吐息が部屋に流れる。

 

「っ・・・ここ・・・は?」

 

そして一つの声が部屋に響いた。

 

「・・・生きて・・・いるんだよな、俺は・・・。」

 

俺はゆっくりと起き上がり、自分の状態を見て生きていることを確信する。体は白い病服でベットに寝かされていた。そして傍らには今にも涎が出そうな感じで寝ていた北上の姿があった。俺は北上を起こさないように周りの確認をする。傍らにあった時計は10月6日16:32を表示していた。

 

「今考えれば10日も経ったのか・・・色々と、迷惑懸けただろうな・・・。」

 

「んあ・・・っ!!提督、目を覚ましたんだね!!」

 

「あ、あぁ・・・。どのくらい眠っていた?」

 

「二日、だね。案外、起きるのは早かったけど・・・帰ってくるのは遅かったかな・・・。」

 

「そうか・・・それにしてもお前が無事で何よりだ。」

 

「・・・そうじゃないよ。」

 

「?」

 

パン!!

 

北上が何か呟いたと思った時には俺は左頬に痛みを感じていた。

 

「何・・・するんだ・・・。」

 

「うるさい!!こっちがどれだけ・・・どれだけ心配したと思ってるの!?」

 

「・・・。」

 

いつの間にか北上の目には涙が溜まっていた。そして肩を掴まれる。

 

「こっちは散々君が言っていた『生きて必ず帰る』を遵守していたのに・・・君は・・・君は!!」

 

「・・・それはすまなかった。あの時はそれ以外方法が浮かばなかったからな・・・。今後は気をつける。」

 

「そうしてもらわないと困る。」

 

「そうするさ・・・つーかお前にも言えるんじゃないのか?」

 

「・・・あ。」

 

「さ~て、これにはどう弁解するのかなぁ?」

 

「そ・・・それは・・・。」

 

俺は肩を掴んでいた北上の手を肩からどかして仕返しに頬を抓る。

 

「いひゃい、いひゃい。わかった、わかったから、頬を抓らないでぇ。」

 

「わかればよろしい。」

 

「むぅ・・・。」

 

「こっちだって心配したんだからな?ホント、無茶なことしやがって・・・。」

 

「ごめんなさい・・・。」

 

「まぁ、これでチャラだな。次は、しないでくれよ?」

 

「・・・わかった。」

 

「よし、これで一件落着か?」

 

「・・・うん、それは良いんだけど・・・。」

 

「ん、どうした?」

 

「その・・・顔が・・・近い・・・。」

 

「おわっ!?そいつはすまねぇ・・・。」

 

俺は北上の頬を抓るのと同時に近づいていたようだ。俺はすぐさま手を離して距離をとる。病室には変な空気が流れる。

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

「・・・まぁ、私は良かったんだけど・・・。」

 

「何か言ったか?」

 

「いいや、なんでもない。」

 

「そうか・・・。」

 

変な空気は一向に消えない・・・。

 

「そういえば・・・他のみんなはどうしているんだ?」

 

「君が起きたのを確認してから霧島には一応連絡したけど・・・どうやら来てないのかな?」

 

「一度に来られると困るがな・・・まぁ、不幸中の幸いってか。」

 

だが、病室のドアを隔てた先は・・・

 

「むぁぁぁぁ!!離せぇぇぇ!!提督の膝は私のものだー!!」

 

「ちょっと響!?今回だけは静かにして!!」

 

「響、静かにして!!」

 

「あわわわ、落ち着くのです!!」

 

蒼一が目を覚ましたという報告を聞くや響は猛ダッシュで病室まで来たのだが、提督しか見えていない彼女とは違って今の状態がわかる姉妹や同じ駆逐艦たちに羽交い絞めにされている。そして・・・。

 

「HEYHEYHEY!?比叡、榛名、霧島、離すデース!!」

 

「お姉様落ち着いてください!!雰囲気が、雰囲気がぁ。」

 

「さすがに今回だけはお姉様を止めさせていただきます。」

 

「私も提督に一発入れたいところですが、今回ばかりは北上にそれは譲るとして、お姉様はマジな私怨ですので・・・。」

 

こっちは金剛が妹三人に止められてもがいている。戦艦の威厳などなりふり構っていられないほどとはある意味、蒼一が信頼されている証拠であろう。だが・・・これは流石に・・・。

 

《病室》

 

「・・・なんか外がうるさいような・・・。」

 

「・・・気のせいなんじゃない?」

 

俺と北上はドアの方向を見てそう結論付ける。まぁ、アレだ。現実逃避だ。

 

バン!!

 

「提督ぅぅぅ!?」

 

「あぁ、響!?抜け駆けは待つのデース!!」

 

「「あっ・・・。」」

 

どうやら彼女たちの方が勝ったようで二人がドアを蹴破ったような勢いで部屋に突入、俺一直線に迫ってくる。

 

「あ、えぇっと、北上・・・北上!?」

 

「まぁ、がんばってぇ。」

 

いつの間にか北上は俺から離れた位置に移動していた。そして障害が無くなったことを良いことに二人は俺に向かってダイブしてくる。

 

「ゴファ!?」

 

「「提督~。」」

 

二人はやっとの思いだったのか俺に抱きついてくる。それに続いて全員が病室に雪崩れ込んできた。

 

「痛ぇ・・・まぁ、心配させちまったんだし、仕方が無いのか・・・。」

 

「提督・・・。」

 

「霧島か・・・。」

 

いつの間にか傍らに霧島が立っていた。

 

「本時刻を以って鎮守府全指揮権を戦艦桐生・・・桐生提督にお返します。当然、受け取ってくださいますよね?」

 

「・・・こんな俺でも、まだ提督と言ってくれるのか?」

 

「そんなわかりきった事。聞かないでください。私たちの提督は、あなただけ。そして私たちが守るのは日本ではなく、あなたです。」

 

「・・・そうか、ありがとう・・・。」

 

いつの間にか俺の視界はぼやけていた。心から涙を流したのは、何時振りだろうか・・・。

 

「提督!!」

 

なぜかさっきまでバラバラだったみんなが声を合わせて俺を呼ぶ。

 

「お帰りなさい!!」

 

「あぁ、ただいま!!」

 

俺にはみんなの笑顔が輝いているように見えた。何が何でもこの笑顔は全て守る。何人たりともこの笑顔だけは汚させない。せめて、これだけは守らせてくれ。俺は焼けて少し変形したネックレスを誓いとともに握り締めた。

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