俺、技術屋だよな?   作:かんせつ

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第四十五話 迫る影

 12月1日

 

《鎮守府・提督室》

 

俺は一人提督室にいた。損傷は無かったため入渠の必要もなく、夕食を取った後も仕事をしている・・・フリをしていた。すると提督室のドアがノックされた。

 

「補給艦速吸です。失礼してもよろしいでしょうか?」

 

来たか・・・後は彼女の出方でわかるな。

 

「入ってきなさい。」

 

「失礼します。」

 

入ってきた彼女の瞳には輝きは見えなかった。ビンゴ・・・と言う訳か。

 

「提督、お聞きしたいことがあります。」

 

「何だ?」

 

「昼の敵艦隊襲来の時のことです。提督は何をしていたのですか?」

 

「俺はただ迎撃兵装をマニュアルにするために発令所を離れただけだが?」

 

「嘘を言わないでください。私の通信機からは戦艦桐生と言う言葉が聞こえました。これはどういう意味か説明を求めます。」

 

「何のことだかサッパリだ。」

 

「そうですか・・・仕方ありません。」

 

チャキッ

 

そう呟いた速吸の手には一つの拳銃が握られていた。

 

「何時の間にそんな物を。」

 

「そんなことはどうでもいいです。私は八村海将より密命を受けてここに来ました。それは「舞鶴の桐生提督がよからぬ実験をしている、か?」っ!?・・・そうです。」

 

「それで、そのよからぬ実験というのは見つけれたのかい?」

 

「それはあなたが身をもって証明しました。見つけ次第拘束せよと命ぜられています。抵抗するなら発砲の許可も受けています。」

 

「どうにもしないさ。ただ一つだけ答えてほしい。君と最初に会った時に言った俺への憧れは嘘だったのか?」

 

「そっ・・・それは・・・。」

 

一言で速吸の手は震え始める。確かに色々と訓練は積んでいたようだ。だが・・・それは強制されたものだ。期は熟していなかったようだな。

 

「どうなんだ?」

 

「っ・・・それは・・・それは!!」

 

畳み掛けるか・・・。

 

「お前は疑わなかったのか?吹き込まれたことが嘘ではないかということを!!」

 

「やめて・・・やめて!!」

 

パァン・・・

 

「っ!!」

 

「あぁ・・・あぁ!?」

 

「提督!!」

 

追い込みすぎたのか速吸は狂気に陥りついに引き金を引いてしまった。銃弾は蒼一の頬を掠めるだけに終わった。だがさらにそれが引き金となり蒼一の命で付近で待機していた霧島、北上、青葉が提督室へと急行し速吸を抑えた。

 

「提督、お怪我は!?」

 

「大丈夫だ。それよりも速吸を放してやれ。」

 

「ですが!!」

 

「ならこうすれば安全だろう。」

 

そう言って蒼一は速吸の拳銃を取り上げた。

 

「こうすれば、何も恐くないだろう。」

 

「ですが・・・。」

 

「いいんだ、下がれ。」

 

「・・・はい。」

 

霧島たちが去ると蒼一はいまだに震える速吸に寄り添った。やはり純粋心を持つ艦娘にはこういう汚いことは強いてはいけないのだ。だがかく言う俺も北上や霧島、大淀、青葉に似たような真似をさせているのも事実。何も言えんな・・・。

 

「大丈夫か?」

 

「ひぐっ・・・うぐっ・・・。」

 

「今は全て忘れるといい。俺は別に君をどうこうするつもりは無い。安心してくれ。」

 

「わたっ私は!!」

 

「落ち着け・・・落ち着け。」

 

蒼一はかれこれ三十分以上、速吸の狂気を鎮めていた。そしてやっと落ち着いたのか来客用のソファに座って蒼一との会話に応じた。

 

「落ち着いたか?」

 

「えぇ・・・ですがもう、私には何がなんだかわかりません。誰の言うことが正しいのか。」

 

「そうだな。俺も実際に実験はしていた・・・訳ではないんだがな・・・。まぁ、結論からすればやっていたことと同じだろう。さて、もう一つ聞かせてくれるかい?君は連中に何を吹き込まれたのか。」

 

「最初はただ研究員は私のことを調べているようでした。ですが日に日に私が戦闘艦では無いとわかると今度はいかにも偉そうな人が来て件のことを話し始めたのです。それから私は他の娘とは離されて毎日過酷な訓練を強いられました。ですが私はその訓練すらまともにこなすことはできませんでした。そして結果が出ない日々が続いて、ついにその人は痺れを切らしたのか私を解体すると脅してきました。」

 

「奴ららしい手だ。」

 

「それで私は怯えながら必死に訓練に励みました。皮肉なことにそれが実を結んだのか成績は上がり、そしてこの任務に就くことになりました。」

 

「そうか・・・苦労をしたんだな。」

 

「同情はしないでください。」

 

「それで、俺のことは奴らに伝えたのか?」

 

「いいえ。」

 

「ほう?なぜだ。」

 

「その時は混乱していてただ連行するとことしか頭にありませんでしたので。」

 

「なるほどな。純粋ゆえに、唐突なことには対応しきれないと言ったところか。それで、今後はどうするつもりだ。」

 

「私は任務に失敗し、捕らえられていわば捕虜のようなものです。どの道どうこうするつもりはありません。」

 

「お前は、気づいていないのか?」

 

「?」

 

「よく考えてみろ。まずは今までの事を無いと仮定して、改めてお前が任務に失敗したと考えよう。だが、俺は何もしていなくただの憶測に過ぎなかったとする。そうした場合、お前はどうやって帰るつもりだったんだ?というか帰るつもりだったのか?」

 

「そっ・・・それは!!」

 

「それにな、ここはいわば奴らの手が届かない絶好の場所だ。」

 

「そうなのですか・・・?」

 

「だがこれも考えてほしい。今俺が言ったことが君を懐柔する言葉である可能性だ。」

 

「何故それを?」

 

「また奴らに焚き付けられた時に余計な復讐心に囚われないようにだ。」

 

「・・・わかりました。」

 

「まぁ、今日はゆっくりしたほうがいい。色々と考えることもあるだろうしな。」

 

「良いんですか?私を解放するなんて・・・。」

 

「別に俺は艦娘に何か害をなそうといているわけではない。ここは自由が基本だからな。」

 

「変わった人ですね。それで後悔しても知りませんよ?」

 

「それはそれでいい。」

 

「・・・私はあなたという人がわかりません。」

 

「まぁ、よく言われるよ。さ、他の娘たちに見つからないように戻るんだ。」

 

「・・・はい。」

 

そう言って速吸は部屋を出て行った。

 

「ふぅ・・・しっかし艦娘に銃を持たせるとはな。」

 

俺は速吸から取り上げた銃を握って怒りに震えていた。

 

「提督。」

 

「霧島、北上、青葉か。」

 

「影から見ていましたが何故あの娘を放したんですか?」

 

「別に彼女が悪いわけではない。ただ利用されていただけだ。しかし・・・。」

 

「しかし?」

 

「彼女の処遇だ。罪は責めない。だが連中の事をどうしたものか・・・というわけだ。」

 

「連中・・・保身派だね。」

 

「あぁ。日が経つに連れて速吸のところには任務について連日催促が来るようになるだろう。それを防いでおきたい。彼女は純粋だからな。」

 

「では、奴らに餌を与えればどうでしょうか?」

 

「俺もそう思っていたところだ。だがどうやって餌を与えるかだ。餌は決まっているが問題はどう場を整えるか、だ。」

 

「餌の内容は?」

 

「現在舞鶴に実験配備されている迎撃設備群の完成データだ。」

 

「なーるほど。身を守ること第一の連中は飛びついてくるだろうね。」

 

「まぁ、そうなるだろう。だが問題は状況だ。」

 

「速吸経由・・・はダメですね。逆に怪しまれてしまいますね。」

 

「まぁ、その辺はおいおい考えていくつもりだ。今日はご苦労だったな。ゆっくり休んでくれ。」

 

「了解しました。」

 

そう言って霧島たちは部屋から出て行った。

 

「さて・・・真那の方に連絡でも入れようかね。」

 

そう言って蒼一は携帯を取り出して真那の携帯にかける。

 

『あら、蒼一じゃない。どうしたの?』

 

「配属された新造艦・・・黒だった。」

 

『そう・・・それで、その娘はどうしているの?』

 

「自分の心と任務、圧力で板ばさみになって混乱しているようだから一人にしている。」

 

『・・・甘いわね。』

 

「今に限ったことじゃないがな。それで、そっちには動きはあったか?」

 

『ぇぇ、面倒なことが一つ。』

 

「・・・何だ?」

 

『去年の夏、日本国は約五年間に渡って深海棲艦に奪われていた四国地方全ての土地を奪還した。それは当然、国民の誰もが知っていることね。だがその情報は大本営最高指揮官神代元帥が発表しただけで一切の質疑応答は無かった。そして同時期から現在の日本国の科学技術の権威と言われたある人間が一切メディアに姿を現さなくなった。さらに同時期からいきなり日本国は深海棲艦に奪われていた土地を次々と奪還していった。』

 

「おい・・・まさか・・・。」

 

『ここまで言えばわかったでしょう。さすがにメディアが我慢しきれなくなってついにこちらが折れたというか上層部のほとんどを占めている保身派によって折られたと言うべきかしら・・・。まぁ、結論から言えば一週間後にあなたはメディアに顔を出さねばならないと言うことよ。』

 

「はぁ・・・そうか・・・。」

 

『ごめんなさい。私もお父さんもそれが保身派の工作だと疑っていながら実際に止めることはできなかった。本当にごめんなさい。メディア嫌いのあなたをこんな大舞台に立たせることになることになってしまったのは本当に・・・。』

 

「いや、何もお前が悪いわけではない。俺もいずれ来るだろうと覚悟していた。お前に責任は無い。それに、ちょうど良い。速吸を守るためにはいい舞台になりそうだ。」

 

『何か考えているのね。』

 

「まぁな。・・・っにしてもよぉ。」

 

『何?』

 

「やっぱ服装は正装か?」

 

『そりゃそうでしょう。何せ国の一大発表なんだから。それにあなたはもう大本営着きの研究員ではなくて提督なんだから制服は当たり前よ。』

 

「なぁ、それさ、大本営の権限使って俺だけでもいいからさ、普段通りの服にするのは無理か?」

 

『はぁっ!?あなたはは何を言っているの?』

 

「いやさ、だってきついじゃん、制服は。何で上に上がれば上がるほど辛くなるん?おかしくない?」

 

『ちょっと・・・まさかあなたのメディア嫌いは・・・。』

 

「制服を着たくないからに決まってんだろ。」

 

『はぁ・・・国の英雄がこれとは・・・日本の子供達はさぞかしがっかりするでしょうね・・・。』

 

「うっせぇ。これが俺だ・・・つーか何つった?えーゆー?」

 

『えぇ、お父さんがメディアの前で高らかに宣言したわ。』

 

「国の英雄の性格より国防の総指揮官のほうがよっぽど問題あると思うぞ・・・。」

 

『そこは気にしたら負けよ。』

 

「だよな・・・なんかすっげー嫌になってきた。休んでいい?」

 

『ダメに決まってるでしょ。』

 

「だよなぁ・・・。」

 

『ねぇ、これって何の話だったっけ?』

 

「制服に対する愚痴話。」

 

『真面目に嘘の答えを言わないでちょうだい・・・。これでこっちは言いたいことはすべてよ。』

 

「こっちは色々と言いたいが無意味だからな。それに疲れた。そろそろ本格的に休ませて貰うとするよ。」

 

『えぇ、ゆっくり休んでちょうだい。それじゃぁ、大本営で待ってるわ。』

 

そう言い終わると通話は終わる。蒼一は携帯を懐に戻して椅子から立ち上がった。




やっぱ心理系は苦手です・・・。
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