第四十六話 似合わないもの
12月7日
《鎮守府専用リニア駅》
現在鎮守府は何時になく同じ考えが艦娘、妖精問わずに存在していた。
「っくくく・・・。」
「ふ・・・ふふふっ」
「もう・・・無理・・・限界・・・。」
「何か言いたいならはっきり言ったらどうだ・・・。」
「んじゃぁ、言わせて貰うよ。まったくもって似合ってないね!!」
「だから嫌なんだよ制服は・・・息苦しいし、変に笑われるし・・・」
そう、今日は珍しく蒼一が白衣ではなく制服を着ているのだ。普段着ていないのもあってか制服はシワ一つ無く、新品同様だった。なにせ蒼一が公の場で制服を着たのは入隊式でしか着たことがないのだ。職場の影響か彼の父親の影響かは知らないが(ちなみに彼の父親、桐生幸一の生涯でも同じく入隊式の一度しか制服を着たことが無い)制服を着ないのだ。おかげで若いながらも歴戦の風格を有していても真新しく見える制服がそれを台無しにしているのだ。当然、似合わないのだ。何故着ているのかというのは彼は一応、一佐階級の提督だ。大本営を歩くためには当然着なくてはならないのだ。
「それじゃぁ、行って来る。くどいと思うが念には念をで言っておく。俺が鎮守府を離れたのを狙ってよからぬことを企む奴らが行動に移すかもしれない。外の深海棲艦もそうだが今回は内の方を特に警戒しておいてくれ。」
「言われなくてもわかってるさ。それよりも一番気をつけるのは君の方じゃない?一番爆弾を抱えているのは君なんだから。」
まだ笑いが止まらない北上がなんとか耐えながら冗談交じりに返答する。
「まぁ、そうだな。俺も気をつけるさ。それじゃ、頼んだぞ。」
そう言って蒼一は一人大本営直行リニアに乗って大本営へと向かった。
《大本営専用リニア駅》
「相変わらずこういうときには時間きっかりに来るわね。」
「そりゃぁ、来たくないからな。本音を言うと遅刻したいぐらいだ。」
「先輩は相変わらずっすね。まぁ、それが先輩らしいんですけど。」
「それにしても似合わないわねぇ。あんたと制服は。」
蒼一の出迎えには旧知である真那と大本営で彼の後を継いだ白鳥の二人だけが着ていた。
「さて、恒例の挨拶も済んだことだし・・・っ!!」
パンッ!!
「っ!?」
真那は呟いた瞬間、蒼一の頬を全力で叩いたのだ。いきなりのことで隣にいた白鳥は慌てるばかりだった。叩かれた蒼一は最初こそ困惑していたが、真那を見て悟ったのか反論はしなかった。
「気は・・・済んだか?」
「明日国民の前に出る人の顔を何度も殴る勇気は生憎持ち合わせていないわ。」
「そうか・・・。」
「えぇっと・・・行きましょうか?」
恐る恐る白鳥はたずねると二人は笑顔で返答し先頭に立って大本営へと向かった。それを見て白鳥は肩を落として後を追った。
《大本営・技術研究部第一課研究室》
「いやぁ、ここに来ると大本営って感じがするな。」
蒼一は部屋に着くや深呼吸をして背伸びをした。ここは大本営配属時の彼にとって数少ない羽を伸ばせるところだったのだ(仕事場なのにだ)。
「やっぱ慣れた場所から離れたらそう思うようになるんすかね。」
「それは人それぞれだろうけど蒼一は異例だからね。何せ最初は命の危険すらある場所に行けと言われたんだから、そりゃぁ感慨深くなるわ。さて、慣れ親しんだ場所を見たところで目的の場所は別なんだから。」
「へいへい・・・。」
後ろ髪を惹かれる思いで蒼一はその場を後にした。
《元帥執務室》
「失礼します。神代一佐他二名、参りました。」
「うむ、入ってきなさい。」
「失礼します。橘海将、山口海将補もおいででしたか。」
約半年使わなかった敬語を使って入った部屋には慣れ親しんだ顔ぶれが揃っていた。
「久しぶりだね蒼一君。以前会ったのは四国奪還報告会の時だったかな。息災でなにより・・・ではなかったようだね。」
「えぇっと・・・はい・・・。」
「ふむ、どうやらその頬の腫れは娘にでもやられたかね?」
「えぇ、全力でやられましたよ。」
「やはり若いのは良いですな。」
「うむ。」
部屋に年老いたが活力のある笑い声が響く。だがそれも孝三さんの言葉で止む。
「さて、まず君に詫びねばならない。無能な儂のせいで君に多大な負担を強いてしまい、挙句の果てには君は・・・「べつに負担とは思っていませんよ。」じゃが・・・。」
「それにあっちでも色々と学んだこともありますし、むしろプラスですよ。」
「むぅ・・・君が言うならそうなのだろう。だがこれは言わせて貰うぞ。ありがとう。」
「どういたしまして。」
「さて、私事はこれくらいにして、明日の事については無そうかの。まず、明日メディアの前に出るのはここにいる我々のみだ。そして発表することは二つ、まずは君が舞鶴鎮守府に異動した件、そして我々人類が反撃の狼煙を上げたことだ。」
「狼煙って大げさな・・・。」
「確かに。だが国民を元気付けるのにはちょうど良いだろう。ここ数年は暗いニュースしか発表できてなかったからの。」
「確かに・・・大本営が設立されてからも諸外国とのつながりは失い、土地は奪われる・・・だがそれも終わりですな。」
「うむ。風は吹き、期は熟した。今こそ本当の狼煙を上げる時!!」
孝三さんは熱く宣言し、橘さんはそれを見て頷き、山口さんは拳を握る。盛り上がっているようだが・・・正直今じゃないでしょ・・・。
「おーい、お父さーん?まだ決めるとこじゃないですよー。」
「むぅ・・・少しは若い気分を味わいたくてなぁ・・・。」
「橘さんも山口さんも乗らないでくださいよ・・・。」
「いやぁ、まだまだ若いものには負けられなくてなぁ。」
「さいで・・・。」
「まぁ、発表内容はこんな感じだ。」
そう言う孝三さんの顔は赤い。・・・恥ずかしいならやらなければよかったのに・・・。
「そして後はメディアの質問に答えられる範囲で応える・・・だがこれが一番大変だろうな。何せ半年も大した発表はしていない。加えて君の失踪問題すら浮かびつつある状態だ。さぞかし苦労しそうだ。」
「いまさらですが何故四国奪還時に発表をしなかったんですか?」
「うむ・・・当初はすぐにまた奪われるだろうと思っていたのだ。国民を必要以上に盛り上がらせるわけにはいかないと思ってな。」
「今までは取り返してまた奪われる・・・というのを繰り返していましたからね。」
以前は泊地にて指揮を執っていたからだろうか、山口さんも橘さんも苦い顔をしていた。
「だかそれも終わりだ。今こそ「お父さん・・・いくらメディアに慣れてないからって練習はしなくて良いんじゃない?橘さんたちも。」むぅ・・・。」
「うぐっ・・・。」
「はぁ・・・。」
「あのう・・・先輩。俺、今目の前で起こっていることが信じられないっす・・・。」
今までの上層部三人の様子に戸惑ったのか、痺れを切らして白鳥が小声で訴えてきた。
「これがこの人たちの素だ。そう言えばお前は見たこと無かったな。」
「俺が見たことあるのは威厳があるお三方だけですよ・・・。逆にこれを知っている人は?」
「ここにいる面子だけだ。」
「ということは・・・神代一佐と先輩はいつも振り回されているんすか?」
「まぁな・・・。」
「色々とお疲れ様です。」
「オッホン・・・。」
真那は上司のはずの山口さんと橘さんに説教を始め、白鳥は混乱するという状況の中、元凶であるはずの孝三さんがワザとらしい咳払いで治める。
「ちょっと「ん!?」・・・どころかかなりこんがらかってしまったの。」
『ナイス真那』と心の中で思いながらいつの間にか表情を真剣なものに変えた孝三さんの言葉を待つ。
「一番重要なことを話していなかった。蒼一君、君の事だ。」
「・・・そうでした。」
「メディアの前では例の一件は話してはならない。それから艦娘の出生についてもだ。承知の事だろうが一応言っておかないと思ってな。」
そう、俺はもう・・・。
「てい!!」
「痛っ・・・いきなりなにすんだ。」
「あんた今、悔やんでいたでしょ?」
「それは・・・。」
「別にあんたがやったことは間違っていないと思うわ。あなたがそう決めたんだから、ね?」
「・・・ったく、お前は変わらんな。」
「へへっ。」
ほんと、昔から変わらんな・・・こいつは。
「元帥、若い者はいいですな。」
「春、ですな。」
「うむ。蒼一君、娘の事、頼むぞ。もう、手に負えんのでな・・・。」
俺と真那のやり取りを見てお三方はここぞとばかりにからかってくる。そして白鳥、お前もお前もで影で笑うな。
「ちょっと・・・いや・・・でも・・・!?」
お前は少しは耐性をつけろよ・・・。
「さて、話はこれで全部かの。」
「と言うかほとんどこれといって話し合う内容はなかったですよね・・・。」
「ただ単にお父さんは緊張して盛り上がりたいだけよ。」
真那の言葉に本心を突かれたのか孝三さんの額には汗が見える。
「ま、まぁ今日はゆっくりしたまえ。積もるところもあるだろう。」
もう威厳も何も無いな・・・。
「えぇ、色々と疲れは溜まっているのでそうさせてもらいます。」
そう告げて俺たちは元帥執務室を出た。
《廊下》
「はぁぁ・・・疲れた。」
「あんたはまだ良いじゃない。私なんかメディアの件が決まってからほとんど毎日付き合っているんだからね?」
「それも仕事の一つと思え。」
「そう思えるならそうしたいわ。」
「しっかし、かれこれ何時間部屋で話していいたんだ?」
「二時間ちょっとっすね・・・あぁ!?待ち合わせが!!」
「ん、待ち合わせって?」
「あぁ、そう言えばそうだったわねぇ。白鳥君、彼女できたのよ。」
「ほ~?まぁ、今は追及しないほうが良さそうだな。まだ間に合いそうか?」
「何とか間に合いそうです。それでは!!」
そう言って白鳥は走り去った。
「相手は誰なんだ?」
「同じ技研の人。確か同期って言ってたわ。」
「そうか。」
その後は会話は続くかずにそのまま俺たちは大本営の玄関で別れ、明日を迎えた。