12月8日
《大本営・控え室》
「とうとう、この日が来てしまった・・・。」
俺は個室で一人呟いた。俺は制服を着て時間が来るのを待っている。もうここから出て数分したらそこはカメラと飢えた目がひしめく巣窟なのだ。そう思うと気が引ける。大本営にいたときは研究職だったから白衣で済ませられたが今は違うのだ。そう思うと憂鬱だ。
トントンガチャッ
「鍵・・・かけていたはずなんだがな。」
「あんたの事だからそう思ってあらかじめマスターキー持ってたの。」
「用意周到なことで・・・。んで、どうした?」
「もうそろそろ時間だからね。」
「そっか、もう時間か。そいじゃ、行きますか。」
蒼一と真那は部屋を後にして魔がひしめく巣窟へ足を向けた。
「お前の事だ。様子は監視しているんだろう?」
「まぁね。」
「様子は・・・考えたくも無いな。」
「見たら恐怖すら抱くわ。っと、ネクタイちゃんとしなさいよね。」
「ん、すまん。」
そう言って真那はネクタイを直すためネクタイを掴む。
「ふむ・・・熱いのう。」
そんなところに運悪く、お三方の登場だ。三人とも俺と真那を見て何を思ったのかそれぞれ頷いている。そして三人に続いて白鳥はなぜか笑顔でサムズアップしてきやがった。そして俺は悟った。あぁ、また苦しい思いをするんだなと・・・。
「ちょっと!?いきなりなにを言ってんの!?ただわっわたしは!!」
ギュゥゥゥゥ・・・
「慌てるのは良いが彼を離してやってくれ。」
「あっ・・・。」
そう、前回というか初めて制服を着たときもそうだった。入隊式当日、真那はわざわざ俺の家まで来てさっきのようにネクタイを直してくれた。そしてそれを孝三さんと俺の家族にからかわれ、そして今と同じように首を絞められたのだ。思い出に浸っているとやっと解放された。
「はぁ・・・死ぬかと思った。」
「ご、ごめんなさい。」
「いいさ。二回目だけど、慣れた。」
「変なことに慣れないでよ・・・。」
「さて、いい具合に緊張がほぐれたところで行くとしようか。」
孝三さんの言葉で一同は足を進めた。目的地に近づくにつれて騒がしいのが聞こえてくる。そしてついに扉が開かれた。
《大本営・会見場》
『あっ!!今、神代元帥が来られました。』
どこからかその声が聞こえたとたん、目を瞑らざるを得ないほどフラッシュが焚かれた。
元帥から順に階級順に座っていき俺は真那の次に座り、最後に白鳥が座る。全員が着席したのを確認した司会が会見を始める言葉を言う。
「ただ今より、日本国防衛特務組織大本営総司令官神代元帥による会見を行います。では元帥、よろしくお願いします。」
司会の言葉で孝三さんはマイクを取る。
「うむ。まずはこれを見ている国民の皆さん。大本営総司令官神代孝三だ。今日は皆さんに通常報告と・・・良い知らせを持ってきた。」
おぉ・・・
元帥の言葉に会場にどよめきが起こる。
「まずは報告からだ。桐生君。」
「はっ!!」
俺は名前を呼ばれて起立した。
「彼を見たことある人は多いだろう。大本営の技術研究の貢献者、桐生蒼一君だ。そして今の彼は提督として舞鶴鎮守府に着任していると同時に現在も大本営の技術研究部の最高顧問として研究の指揮を執ってもらっている。」
ザワッ
さらに会場がさわがしくなる。そりゃそうだ。俺の提督就任は世間からすれば異例の異動だからだ。
「彼は元々作戦指揮能力、統率力に優れていたが技術研究の方を優先してもらっていた。だが四国奪還作戦を見越して舞鶴鎮守府に着任してもらい、作戦後も提督として海域奪還に励んでもらっている。」
『〇〇放送です!!質問よろしいでしょうか!?』
孝三さんが一息入れた瞬間、一つの放送社が手を挙げた。
「うむ、よかろう。桐生君、座りたまえ。」
そう言われて俺は席に座り、交代で記者が立ち上がる。
『先ほど元帥は四国奪還を見越してとおっしゃっていました。つまり、7月に四国を奪還した司令官は桐生提督でよろしいのでしょうか?』
「うむ、桐生提督が指揮を執ったことは紛れも無い事実だ。」
ザワッ
『◇◇新聞です!!その後の海域奪還はどうなっているのでしょうか!?』
一つ許したからか一気に会場が質問の渦と化してしまった。
「静粛に。まずは桐生君に対しての質問は他には無いかね?無いようなら次に移らせて貰う。次、国民全員が期待したであろう良い知らせの事だ。」
孝三さんの言葉で会場は先ほどの喧騒が嘘のように静まり返る。そして会場の視線が一点に集中した。
「良い知らせとは海域奪還の事だ。先日より舞鶴鎮守府は深海棲艦に対して無期限の反攻作戦を開始した!!」
孝三さんはここぞとばかりに熱く宣言する。やっぱこの人はいつでもこの人だ・・・。そして当然その言葉で会場は先ほどの喧騒を取り戻す。
「まずは9月にケル諸島及びヒサ諸島を奪還した。これにより日本の資源情勢は一気に上昇した。そして今は杜松諸島、及び西波島の奪還も開始した。こちらは前回より敵も多く戦果は芳しくないが手は打ってある。半年以内にはこの二つの海域を奪還しよう。」
その言葉で会場は携帯で連絡を取る者、仲間と確認をする者、我先に質問しようとする者であふれ喧騒は頂点に達した。
「静粛に。いきなりのことで焦るのはわかる。だが今は落ち着いて欲しい。君たちは国民に今話したことを正確に伝えるという仕事がある。だが君たちが焦っていては話にはなるまい。さて、落ち着いて君たちの質問に答えていこうかの。順番にするとしよう。ではそこ君から。」
「ではお言葉に甘えて。△△社です。以前発表された時舞鶴鎮守府の規模を大きくしたとお聞きしました。その理由をお教え願います。」
その質問は俺が答えるべきだろう。孝三さんもそう思ったのか目で合図をする。俺はマイクを取って離し始める。
「その質問には私がお答えします。まず現在国防の任を担っているのは艦娘という存在であることはみなさんご存知でしょう。彼女たちの出生は機密事項ですのでこの場では発表することはできません。機密であるから彼女らに何かしら疑問を抱き、見えぬ恐怖に怯える人もいるでしょう。そして艦娘は数が限られています。そのことを鑑みて技術研究部は艦娘に変わる防衛役を研究し始めました。そして先日完成したのが対深海棲艦迎撃兵装群です。」
『それは、旧世代なのでは?』
「確かに基礎理論は旧世代です。ですが新旧を分ける境目はどれだけ敵に対応しているか、です。そして完成した兵器群には実際の戦場にて収集したデータを元に深海棲艦を迎撃できるように調整してあります。」
『そ、それは日本全域に行き渡るものなのでしょうか?』
「それは残念ながら不可能です。深海棲艦の脅威から我々人類を守るものとは言え、兵器であることには科変わりありません。ですので大本営管轄の鎮守府・泊地にのみ配備と言う形になります。」
『それでは一部の人間しか守られないのでは!?』
「意見、最もです。その意見を採用した場合ですが・・・テロ組織をはじめとする過激組織の手に落ち、それが国民に向けられる危険性を考えると・・・おわかりですね?」
『・・・。』
「さて。他に質問はないかの?」
孝三さんが尋ねるがどうやら聞きたいことが無くなったのかは知らないが会場は静まり返る。まぁ、実際はメディアが聞いてきそうなことをこちらが全て言ってしまったから聞くことが無いと言ったところだろうな。
「ふむ、質問が無いようならこれにてこの会見は終わりだ。では、今度は奪還報告の時にでも。」
そう言い残して孝三さんは立ち上がって会場を去る。同様に俺たちも後に続いて会場を出た。
《休憩室》
「ふぅ、何とか終わったの。」
俺たちは会見場から出て近くにある休憩室で休んでいる。
「それにしてもほとんど元帥と先輩だけでしたね。しゃべっていたのは。」
「まぁ、彼の異動についてが会見の理由だったみたいなものだったからね。我々はおまけのようなものだ。」
「そうねぇ、でもしゃべらないに越したことは無いのよねぇ。」
「お前が話すことなんてほとんどないだろ。ほとんど山口さん辺りが話すことなんだから。」
「まぁ、そーね。」
「さて、今日はこれで終わりだ。皆、ゆっくりするといい。それと、真那、蒼一君。少し儂の部屋に来てくれんかの。」
「?・・・わかりました。」
俺と真那は頭の中にハテナを浮かべながら孝三さんに続いて休憩室を出て元帥執務室に向かった。
今更ですがこの章は今までとは違って戦闘は一切無いです。