俺、技術屋だよな?   作:かんせつ

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第四十八話 十年越しの

 12月8日

 

《大本営・元帥執務室》

 

「それで、俺たちが呼ばれたということは何かあったのですか?」

 

現在、俺は真那と共に元帥執務室にいる。会見後、俺と真那は孝三さんに呼ばれてここに至る。

 

「まぁ、あの会見も仕組まれたようなものだったし呼ばれるのも当然ね。」

 

三人だけの場合、階級無視で自然に話せるのだ。まぁ、真那は常日頃階級無視で話しているが・・・。

 

「まぁ、二人を呼んだのは他でもない。蒼一君は前線での指揮、真那は全体の作戦立案と日ごろの疲れも溜まっているだろう。」

 

「「?」」

 

「というわけで今日は仕事を忘れて二人でここにでも行って来るといい。」

 

そう言って孝三さんは俺に何かの紙切れを渡す。紙には日本で最も有名であろう箱根温泉の名前が書かれていた。どうやらそこの予約書みたいだ。

 

「あの・・・これって?」

 

「温泉で疲れを癒すといい。それに色々と積もる話もあるだろう?」

 

「まぁ・・・ねぇ・・・。」

 

真那は戸惑いながらもこちらに目を向ける。あの・・・目、恐いんですけど・・・。

 

「いや、さす「んじゃぁ、話は決まりね。それじゃぁ、行って来るわ。」おい・・・。」

 

「まぁ、明日までと短いがゆっくりしてきなさい。」

 

「え、ちょっ!?」

 

俺は真那に手を引かれて執務室を後にした。

 

《作戦部長執務室》

 

俺はそのまま真那の執務室に引っ張られてきた。俺は椅子に座って横で急いで準備をしている真那を待っている。真那は今から明日の朝までの休暇届を書いているようだ。

 

「それにしても・・・真那と二人、ね・・・。」

 

「何か言った?」

 

「いいや、何にも。」

 

相変わらず無駄に耳が良いことで。

 

「さて、できたわ。」

 

「珍しく早いな。書類を書くのは大が付くほど苦手だったはずだろ?」

 

「うるさいわね。何時の話?」

 

「よく言うぜ。俺がこっちにいたときはほとんど聞いてきたくせに。」

 

「う、うるさい!!」

 

「へいへい。それで、場所は・・・割りと近くのようだ。それよりも先に着替えた方が良いな。色々あるがすぐにこんなもんとおさらばしたいからな。」

 

「相変わらずね・・・。私もアンタも今日一日で一気に顔は広まっただろうからね。さすがにこの格好じゃ外は出歩けないわ。」

 

「じゃぁ適当にここの着替え部屋でも使わせてもらうとするか。」

 

「それならさっさと行きましょ。」

 

「ノリノリだな。」

 

「うるさいわね。休日皆無だけどやりたい放題のどこぞの提督さん(・・・・・・・・)と違って休みがあってもまともに休めない私にとっては貴重な休暇なの。」

 

「へいへい。」

 

急ぐ真那に連れられて俺はトレーニングルームの横にある着替え室に向かった。

 

《着替え室》

 

「急げと言ったわりにはお前の方が遅いのはどうかと思うぞ。」

 

「うるさい。女は時間がかかるの。・・・それよりも、アンタ相変わらずの服装ね。」

 

俺はワイシャツにスラックスと仕事の時の服装とまったく同じ。違いがあるとすれば白衣を着てないところだけだろう。

 

「仕方ないだろ・・・こんなことになるとは思っていなかったんだからよ。」

 

「まぁ、私も同じようなものだけどね。一応大本営にいるんだからっているのもあるけど・・・。」

 

「何かあったのか?」

 

「こういうのは聞かないのが筋ってものでしょ。」

 

「言い訳ご苦労さん。さて、やっと目的地へってところだが、どうやって行くんだ?」

 

「お父さんから貰った紙束の中に色々入っていたわ。色々といっても宿の予約証明と場所の説明くらいだけど。」

 

「一応聞いておくが、その証明書、誰名義だ?」

 

「お父さん名義だけど、実際の予約した人の名前は私たちになっているわ。それにこれを見る限り既に料金は払っているようね。」

 

「・・・まぁ、うん・・・なんと言うか・・・。」

 

「さ、すぐ近くの駅から旅館直行のバスが出ているから歩いて行きましょ。」

 

「あぁ、そうだな。」

 

俺は言い切れない思いを持ちながら目的地に向かうことにした。

 

《箱根湯本》

 

行きのバスでは俺も真那も仕事の事は忘れて休暇の第一歩を楽しんでいた。そしてそれも終わりは来る。

 

「んあ~、やっぱバスは退屈だな。」

 

「よく言うわ。子供みたいにはしゃいでいたくせに。」

 

「仕方ないだろ。こんなとこ、旅行でも数回しか来たこと無いんだからさ。それも子供の時だけだ。つーかはしゃいでたのはお前もだろ。」

 

「まぁ、境遇は私たちは似ているからね。気持ちはわかるわ。さ、ゆっくりするなら部屋で休みましょ?」

 

「あぁ、そうだな。時間は明日の夕方までだ。できるだけゆっくりしたいからな。」

 

俺と真那は久しぶりの温泉に心踊り、競うように宿へと入った。

 

《客室》

 

「さて、部屋まで来たのは良いが・・・やはりと言うべきか・・・。」

 

「そうね・・・まぁ、大方予想はついていたけどさ・・・。」

 

そう、今の状況は俺と真那の泊まる部屋が一緒なのだ。加えて部屋のベランダには露天風呂まで付いているのだ。俺たちは使わないと思うが・・・。まぁ、予約したのが孝三さんなのだから少しは予想していたのだが・・・今日ほど予想がはずれてほしいと思った日は多分無いだろう。

 

「そ、それじゃさっそく温泉でも行く?」

 

「あ、あぁ、そうだな。」

 

俺も真那も声がどもりながら会話を続けながらこの宿の温泉に向かった。

 

《温泉》

 

「ふわ~・・・。やっぱ入渠ドックとはまた違った感じだな。あいつらも何時か連れて来たいな・・・。」

 

俺は日ごろの疲れを癒すように時たまお湯をかけながら広い大浴場でくつろいでいた。

 

「もう、何年戦っているんだろうな・・・ほんと。この戦いが終わったらあいつらはどうなるのか、使ってきた兵器はどうなるのか・・・問題は山積みだな・・・っと、いかんいかん。仕事のことは一旦忘れようと思っていたが、無理のようだな。損な立場だよ、まったく・・・。」

 

そう、俺は実際たった六年程しか戦っていない。最初の一年は純粋な心構えで戦っていたが今は・・・私情を挟んでしまっている。それが軍人としておかしいことだとわかっている。だが無理なのだ。結局俺もその程度ということだ。よくもまぁ超大和型はこんな人間に力を与えるなんてな・・・。

 

「親父が今の俺を見たら怒るだろうなぁ・・・いっそのこと拳骨貰って一時間ほど説教してほしいな・・・。」

 

何時になく沈んだ気分になってしまった。それだけ、背負っているものの重みを知っているからだ。そしてその一つがすぐ傍にいる・・・そう思うと平常なんて無理な話というものだ。そしてそんな気分を消すために多めにお湯をかぶる。だが消えることは無かった。そのまま同じ事を繰り返しながら大浴場にある様々な温泉を回りながら時間を過ごしていた。

 

《温泉入り口》

 

「「あ・・・。」」

 

俺が男湯から出てくるのと同時に真那も女湯から出て来て鉢合わせになってしまったのだ。それも服装はさっきと違い、俺も真那も浴衣を着ていたのだ。昔は何も気にならなかったのだが今は違い、些細なことでも気になってしまうのだ。おかげで俺も真那もまともに目を合わせることができなかった。

 

「ど、どうだった?」

 

「ま、まぁゆっくりできたな。そっちは?」

 

「まぁ、私もゆっくりできたわ。」

 

「「・・・。」」

 

会話が途切れると変な空気が流れてしまう。仕事の時ならこんなことにはならないが・・・こんな時はなぁ・・・。俺たちはそのまま部屋へと歩き始めた。

 

「そう言えば温泉、どのくらい周った?」

 

「俺は一応あるやつ全部周ったな。そっちは?」

 

「私も同じ・・・正確に言うと私もあなたも一つ浸かってないけどね・・・まぁ、それは無理か・・・。」

 

「何か言ったか?」

 

「ううん、何にも。それよりも今何時?」

 

「えぇっと・・・六時半と言ったところだ。そう言えば夕飯は部屋で食べるんだったな。六時半に頼んでいたから多分準備してあるだろうから急ごうか。」

 

「そうね、お腹もすいたしそうしましょ。」

 

やっと俺も真那も慣れたのかまともに会話が続くようになった。そうして俺たちは部屋に戻った。

 

《客室》

 

「「おぉ~。」」

 

部屋に戻った俺たちの第一声は歓喜の声だった。テーブルには所狭しと言わんばかりに料理が並べてあったのだ。

 

「それじゃぁ、食べましょうか。」

 

「あぁ、こんなの滅多に無いからな。味わうとしよう。」

 

「それじゃ、まずはこれから・・・!?美味しい。」

 

「あぁ、すごいな。こんなの何年ぶりだって話だ。」

 

「もう何年も食べてないわね。」

 

俺たちは一品一品感想を言い合いながら楽しい一時を過ごした。

 

「ふぅ・・・食べた食べた。」

 

「あぁ。見た目も凄かったが量も意外に多かったからな。満腹だ。」

 

現在俺と真那は布団に寝転がっている。温泉にも入り、豪華な夕食を食べ、もう後は寝るぐらいだ。

 

「「・・・。」」

 

そう考えているとまた会話が続かなくなってしまう。その証拠に俺たちは反対を向いている。

 

プルルル・・・

 

そんな空気を壊すように俺の携帯が鳴った。相手は・・・。

 

「やば・・・。」

 

「ん、どうしたの?」

 

「よく考えたら鎮守府に連絡してなかった・・・。予定は日帰りだったからさ・・・。」

 

「そうね、そんな予定だったわね。というか早く出たら?」

 

「ちと恐い・・・が仕方が無いか。・・・俺だ。」

 

『霧島です。提督、今どちらに?』

 

「大本営の宿舎だ。元帥にゆっくりしていけと言われたからな。悪いが今日は帰れそうに無い。」

 

「ふふっ!!」

 

『そうでしたらもっと早く連絡してください。みんな心配しているんですよ?』

 

「悪い・・・。明日の夕方には鎮守府に戻る。それまで鎮守府を頼む。」

 

『了解です。提督も短い時間ですが羽を伸ばしてください。』

 

「ありがとう。それじゃ。」

 

そう言って俺は通話を終わる。そして横にいた真那を睨む。そう、真那は俺が霧島と話している間、文字通り笑い転げていたのだ。

 

「ねぇ、鎮守府のトップって誰だっけ?立場逆転?ぷぷっ!!」

 

「うるさいな・・・。」

 

「「あっ・・・。」」

 

少し言い合っている間に真那と目が合ってしまったのだ。それを同時に知ってしまい俺と真那は全力で身体を捻って反対を向いた。そしてまた微妙な雰囲気になってしまう。

 

「「・・・。」」

 

俺はこの空気から逃げるために起き上がりそのまま。

 

「どうしたの?」

 

「外の景色を見てくる。日ごろ海ばっか見ているからこういう景色は久々だからな。」

 

「・・・なら私も。」

 

そう言って真那も着いて来た。お前も来たら意味無いんだがな、と思いながら外の景色を見る。真那も隣で同じように景色を見ているようだ。

 

「それにしても、山ってほんと久しぶりよね。仕事柄仕方ないって思うけどね。」

 

「おかげで山を見ると妙に安心するな。」

 

「そうね、ここは静かだから安心するわ。」

 

「外の明かりも少ないから星も綺麗だな。」

 

「綺麗・・・。」

 

不意にベランダを背もたれに夜空を見上げると月もそうだが星も綺麗だった。

 

「それにしても・・・今考えればあの頃は楽しかったな・・・。」

 

「平和、だったわね。海も静かで、夏には海で遊んでさ。もう、十年か・・・。」

 

「十年、いろんなことがあったな。」

 

「いきなり自衛隊が軍に変わって、父親は要職に就いて・・・。」

 

「俺たちも同じようにそこを目指して・・・。」

 

「そんな甘い考えでいざ入ってみればそこは人の欲望まみれで・・・。」

 

「深海棲艦以外とも戦うようになって・・・。」

 

「一体、どこで変わったのかな・・・。」

 

「さぁな。少なくとも中学卒業後からだな。お前は中学の時の将来の夢、憶えているか?」

 

「うん、忘れるわけ無いわ。あなたは?」

 

「もちろん憶えているさ。それが今では人類の命運を背負うことになるとはな。」

 

「変わったわね。私も・・・あなたも。」

 

「色んなことを知ってしまったからな。逆に変わらない訳がない。」

 

「この戦争・・・何時終わるのかな。」

 

「わからん。だが、終わらせないといけないことであることは事実だ。」

 

「また・・・。」

 

「また?」

 

「また、海で遊べるのかな。」

 

「・・・そう思っているならやるべきことをやればいい。こんなくだらない戦いは終わらせるに限る。」

 

「相変わらず前向きだけど、提督になってからなんか変わったわね。」

 

「身を以って学んだからな。」

 

「身を以って、ね・・・。」

 

「しかし、結局休暇にはならないな。戦いに明け暮れている間は本当の休暇なんて無理なんだろうな。」

 

「そうかな?私はこれも休暇よ。だって、こうしてあなたとゆっくりしているんだもの。」

 

「確かに・・・というかお前こういう時は戻るよな。いつもこうだと良いんだがな。」

 

「悪かったわ、ね!!」

 

「おわ!?落ちる!!落ちるって!!」

 

「じょーだんよ。一応、服掴んでいたし。」

 

「はぁ・・・ん?もう時間か。」

 

「楽しい時は時間が過ぎるのも早いわね。」

 

時計を見るともう11時といった感じだった。どうやら体感以上に時間の経過は早いようだ。そして今は電気を消して寝る体勢に入っている。早く寝たいところだが隣で寝ている真那に意識が向いてしまって眠れない。まぁ、寝ようとしているから無言なのは当然か。

 

「ねぇ・・・。」

 

「どうした?」

 

「手・・・繋いでくれない?」

 

「・・・あぁ。」

 

俺はそう言って真那が伸ばした手を掴む。

 

「ホント、今日は懐かしいと思ってばっかりだな。お前と温泉に来て、布団並べて手を繋いで寝る。このまま思い出に浸っていたいぐらいだ。」

 

「でも、私たちにはすることがあるでしょ?」

 

「そうだな。だが、早く終われば終わるほどお前とこうしていられる時間が増えるからな。」

 

「え・・・それって・・・。」

 

「真那、好きだ。」

 

「遅いよ・・・ホント遅いよぉ・・・。」

 

「悪い。色々とあったからな。遅くなっちまった。」

 

「でも・・・いい。嬉しいから、いい。」

 

そう言って真那は俺の布団に潜り込んで来た。それを俺は抱きしめる。すると真那は俺の腕の中で泣き出した。

 

「怖かった・・・怖かったんだよ?あなたの轟沈報告を聞いたとき、私はすべてを失った気分だった。でも・・・良かった。またこうしていられるんだから。」

 

「ごめんな、心配させて。」

 

「そう思っているなら・・・ん・・・。」

 

「・・・わかった。」

 

俺は真那に応えるように差し出された唇に唇を合わせた。数秒後、恥じらいながら唇を離して笑った後、眠りについた。




どうしてこうなった・・・。
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