俺は注文したカフェオレを持って、雪ノ下さんの隣の席につくと、話を切り出す。
「それで、話ってなんですか?」
雪ノ下さんは俺の顔をじっくりと見る。まるで、品定めされているようで萎縮してしまう。そして口を開いた。
「う~ん。比企谷君ってさ、変わったよね」
前にあった時も同じことを言われた。あの時は、変わっていないと思っていた。だけど今なら、変わったと思える。
「俺は変わりましたよ」
「そっか……うん。そんなこと言えるようになったのも、変わった証拠だね。それに、目も腐れがとれているね。すごくかっこよくなったね」
まさか雪ノ下さんにかっこよくなったと言われるなんて思ってもみなかった。驚きで思考が停止してしまう。徐々に顔が赤くなるのを感じる。俺は誤魔化すように、カフェオレを飲む。
「あはは、照れちゃてる。可愛いね、比企谷君」
雪ノ下さんは笑っていた。恥ずかしくなった俺は、話題を変えるために切り出す。
「それで話はそれだけですか?」
「それだけじゃないよ。まったくせっかちだね~……じゃあ、本題に入るね」
そう雪ノ下さんは切り出す。雪ノ下さんの真剣な表情に変わる。俺は息をのんで身構える。
「ねぇ、何で奉仕部を辞めたの?」
やはり奉仕部のことだ。このタイミングで呼ばれたのは、これしかない。そう思って来た。ただ、疑問がある。何でこの人は俺が奉仕部を辞めたことを知っているんだ。雪ノ下から聞いたのか。嫌、違うだろう。二人は仲が悪いから話したりはしないはずだ。じゃあ、一体誰がこの人に話したんだ。それに、聞いたところで何が目的なんだ。
「……ねぇ、話してくれないの、比企谷君?お姉さん聞きたいなぁ~奉仕部を辞めた理由」
そう言って催促してくる。この人は俺が話すまで帰らないし、逃げることも許さない。例え、俺が嘘を話しても、追求し真実を話させるのだろう。ここは本当の事を話すべきだ。
「それは……あそこに本物がないとわかったからですよ。俺は……本物が欲しいんです。だから奉仕部を辞めました」
それを聞いた雪ノ下さんは笑みを浮かべる。その笑みの意味は俺にはわからない。
「本物ねぇ……やっぱり、自分のやり方が否定されたからそう思うの?だとしたら、君にとっての本物はすごく歪んだものだね」
雪ノ下さんの言葉に、衝撃が走った。
「……歪んだもの」
「だってそうでしょう。自分のやり方を否定されたからって、逃げたして、そんな人の本物なんてたかが知れているでしょう」
……俺は逃げているだけだと。そんな訳ではない。違う、違う、違う。
「それに、比企谷君は依存しているよね。あの……文芸部の子に。薄っぺらくなったね、隼人みたい」
……俺が藤咲に依存しているだと。それなら、俺が感じたあれは紛い物なのか?
「気づいていなかったんだ。………じゃあ、質問するね。比企谷君にとって本物って何?」
「…………………」
真剣な雪ノ下さんの目を見れなくなった俺は顔を伏せてしまう。答えられない。自分の中にあったものが、すべて喪失した気がした。結局、俺は何も言えなかった。
「はぁ……今の比企谷君はつまらないよ」
そう言って、雪ノ下さんは席を立つ。
「次会うときまでに、答えを用意しておいてね。じゃないと……私が君を……」
最後のセリフは聞こえなかった。そして、雪ノ下さんは帰って行った。残された俺は、何も考えられなかった。
あれから家に帰ると、小町に心配された。大丈夫だと言っておいた。何もする気に慣れず、食事も取らず、ベッドに横たわり考える。
「自分のやり方を否定されたからって、逃げたして」
そんなつもりはない。逃げ出した訳じゃない。どんな言葉を出しても、言い訳に聞こえてしまう。あの時に弁明出来なかった。それはつまり、認めてしまったと言うことだ。
「それに、比企谷君は依存しているよね。あの……文芸部の子に」
どこに依存しているのか。自分ではわからない。でも、認めたくはない。そんな関係を求めたくはない。俺は心の中にある藤咲に対しての想いを、依存だとは思いたくはない。
「比企谷君にとって本物って何?」
自分でもわからなくなってしまった。考えられなかった。でも、ない訳じゃない。あったはずだ。だから、求めたはずだ。
雪ノ下さんがタイムリットをもうけた。次会うときまでに、俺は見つけなきゃいけない。でも、見つけられるのかわからない。不安になる。けど、もう立ち止まらない。だから、必ず見つける。そう結論付けて、俺は眠る。
久し振りの投稿です。今回は陽乃からの指摘をされる回でした。これにより、比企谷君がどうなっていくか楽しみにしていてください。次回はある人物が出てきます。次回は週末に投稿する予定です。