救われる話   作:高須

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20話

いろいろあった一年が終え、新たな年が明けた。

新年明けましておめでとうございます。そんなことを言う相手は特にいない。しいていうとするのなら、家族ぐらいだろう。そんな俺に届いたのは藤咲からのメールだった。

 

『新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。』

 

家族以外の誰かから貰うのは、初めてな気がする。嬉しいと思うのが普通かもしれない。ただ、俺は喜べないでいた。素っ気ない文章に、もっと別のものを期待していた。まだ俺は諦めきれないでいた。

 

 

「お兄ちゃん、早く行くよ」

 

小町にせかされる。俺は無難にメールの返信し、小町と一緒に家を出掛けた。

 

 

 

 

俺は初詣のため、小町と一緒に浅間神社に来ている。この辺りでは一番大きい神社だから、人がかなり多い。俺達はひとごみのなかを歩いていく。歩いていくなか、小町はきょろきょろ辺りを見回す。どうやら参道の両脇に並び立つ出店に目移りしているようだ。

 

「お祭りみたいだねー」

 

「そうだな、先にお参りを済ませてからな」

 

「うん!」

 

人波の流れに乗って社の前までやってきた。お賽銭を投げ、がらがらと鈴を鳴らした。そして、二礼、二拍手。静かに目を閉じる。そして、思い出してしまう。あの時のことを。

 

 

 

 

 

あの日はクリスマスイブ。

合同イベントの帰り道。俺は藤咲に気持ちを伝えた。

 

「好きです。付き合ってください」

 

藤咲は驚き、それから顔を伏せてしまった。俺は今か今かと、藤咲の返事を待つ。

 

「……ごめんなさい。ごめんなさい」

 

うつむいていた藤咲からきこえてきたのは、そんな言葉だった。それだけではない。泣いていた。うつむいていても、はっきりとわかってしまった。

そんな顔をさせたい訳じゃない。だから、泣かないでくれ。そう思っても、何も変わらない。

 

「……私には、貴方と付き合う資格がないから。ごめんなさい」

 

そう言って、藤咲は走って帰ってしまった。俺はかける言葉がなく、そのまま立ち止まっていた。

そして、わかってしまう。俺は振られてしまったと……

 

 

 

 

 

静かに目を開ける。隣の小町をみると、必死に祈っていた。たぶん、受験合格を願っているのだろう。

もう一度、俺は静かに目を閉じる。俺の願い事は決して願ってはいけないこと。もう振られた俺が望んではいけないこと。わかっている。それでも、まだ諦めきれていない。未練がある。つらい。だから、これをお願いする。もう、好きな気持ちを忘れさせてくれ……

 

 

参拝が終わり小町は出店の列に並んでいる。俺は人通りの少ないところで待っていた。そうすると、目の前を若い男女が通る。男の方から何か落ちた。それは、財布だった。大事なものを簡単に落として、バカじゃないの?そう思いながら、財布を拾い声をかける。

 

「おい、お前、財布落としたぞ」

 

俺の声に気づいた男女は振り返る。男の方が近づいてくる。

 

「おう、ありがとうな、じゃあな比企谷」

 

そう言って、財布を受け取る。そして、女の所に戻っていく。女から凄く怒られながら、人ごみに消えていく。

俺はどこか見たことのある人物を、思いだそうする。見た目からして、高校生だろう。なら、総武高校の生徒だ。それで、俺の名前を間違えて覚えていない奴なんて、一体誰だ?

考えても思い出せない。しばらくすると、出店の賞品を抱えた小町がやってきた。

 

「じゃあ、食べようお兄ちゃん」

 

二人で仲良くたこ焼きやらなんやらを食べた。

そして、初詣を終えた。

 

 

 

 

 

 

迎えたのは三学期。

休み明けで体がダルいが、身体にムチを打って登校する。教室に行くと、ざわざわとした雰囲気に満ちている。クラスメイトたちはどこか浮き足たっていたが、ある一ヶ所だけが沈んでいた。それは、葉山グループだった。男子と女子に別れていた。何かあったな。まぁ、俺には関係ないよな。そう思い、机につっぷし、睡魔に身を任せる。

 

時刻は昼休み。

マッカンを買うために、自販機に向かう。お目当てのマッカン買い、ベストプレイスに向かった。のんびり過ごしていると、声をかけられる。

 

「おーい、比企谷」

 

振り返ると、初詣で財布を落とした男だった。

 

「誰だ、お前?」

 

疑問をぶつけてみる。

 

「橘綾斗だ。よろしくな」

 

思い出した。俺はこいつのことを知っている。というか、この学校ではかなりの有名人だ。葉山隼人に並び立つほどのイケメンで、野球部のエース。

 

「それで、なんのようだ?」

 

こんなイケメンが俺になんのようかわからない。

 

「そうだな…その…頼みがあるんだ」

 

頬をかき照れながら言う。普通の男子生徒がすればキモいとなるが、伊達にイケメンなので、そうはならない。

 

「それで、頼みたいことは一体なんだ?」

 

俺の言葉で顔付きが変わり、真剣なものになる。俺も合わせて佇まいを変える。

 

「俺には好きな奴がいるんだ。で、そいつに告白しようと思うんだ」

 

戸部の時みたいだな。ふと、思う。

 

「それで、比企谷には協力してもらいたいんだ」

 

あぁ、なんとなく話の流れがわかってしまう。もしも俺の予想通りなら、頼むから、やめてくれと思ってしまう。別の奴でいてくれ。少しの可能性にかけ、橘に問いかける。

 

「……そいつは誰なんだ?」

 

沈黙が流れる。それは、短いものだったが、俺には長く感じた。

 

「あぁ、まだ言ってなかったな。藤咲だ。比企谷が入っている部活の藤咲礼美、その人が、俺が好きな人だ」

 

思考が停止する。橘は俺を気にすることもなく、話を続ける。

 

「比企谷が同じ部活に入っているって聞いたから、協力してもらいたいなって思ってな」

 

駄目だ。このまま考えないでいるのはいけない。まずは事実を確認をしなくては。

まず、橘が藤咲のことを好きなのはわかった。そして、同じ部活に所属している俺に協力してもらいたいのは、わかった。でも、ひとつ疑問ができた。俺が藤咲と同じ部活になったは最近だ。普通なら知らない。知っているとしたら、俺の身近な人物だ。そうすると、一体誰なんだ。

 

「……誰が俺と藤咲が一緒の部活だと言ったんだ?」

 

疑問をぶつける。そうすると、橘はあっさり言った。

 

「葉山だよ。あいつが言ってくれたんだ。比企谷なら頼りになって、助けてくれるってね」

 

いつもあいつが厄介事を持ってくるな。

 

「それで、比企谷、協力してくれるか?」

 

「……少し考えさせてくれ」

 

「……わかった。じゃあ、またな」

 

そう言って、橘は立ち去っていく。

俺には橘に協力する義理はない。そして、邪魔することもできない。振られた俺には関係のないことだから。じゃあ、俺はどうしていけばいい。

なにもわからないまま、俺は教室に向かった。


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