救われる話   作:高須

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22話

深夜。

なかなか寝つけなく、喉が乾いた。水を飲もうとリビングに向かう。リビングからは光りが漏れていた。誰かいるみたいだ。ドアを開けると、ビールを飲んでいた親父がいた。

 

「おいおい、なんだよお前か。母ちゃんかと思ってびっくりしたぞ」

 

どうやら、母ちゃんにばれないように飲んでいたようだ。俺は親父を無視して、コップに水を注ぎ、一気に飲む。そして、自分の部屋に戻ろうとする。

 

「……なんかあったのか」

 

親父から言われて、足が止まる。俺は誤魔化すように言う。

 

「なんもねぇよ……」

 

「じゃあ、なんで辛気臭い顔をしてるんだ?」

 

いつも、親父はこんなに関わってくることはない。というか、うちは俺に関して放任主義だ。だから、今日はいつもと違うので、不思議に思う。

 

「あぁ、あれか、好きな子に振られたのか」

 

いきなりのことで体がびっくと動く。反応してしまった。親父にばれてしまう。

親父は頭をかき、バツが悪そうにする。

 

「……なんだよ、図星か」

 

親にそういった恋愛事がばれるなんて嫌だし、そのうえ振られたことを知られたなんて最悪だ。笑われる。そう思っていた。けど、親父は笑っていなかった。それどころか、顔つきが変わっていた。

 

「それで、お前は諦めるのか?」

 

「……………」

 

雪ノ下さんと同じ質問だが、俺は何も答えられなかった。

 

「……まぁ、お前の事だからまだ好きなんだろう」

 

極力体を動かさないようにしたが、反応してしまった。親父は些細な動きから俺の心を読む。

 

「また、当たったか……」

 

簡単に思考が読まれてしまう。

これ以上、ここにいたくない。そう思った俺は逃げるように出ていこうとする。

 

「……まだ好きなら、諦めなきゃいいだろう」

 

ドアノブに手をかけたところで静止する。

親父は簡単に言ってのけた。俺がそれで苦しい想いをしてるのに。何も知らないくせに。そう思ったら、怒りが込み上げて来る。

 

「……何もわかんねぇくせに、簡単に言うんじゃねぇ」

 

親父に怒りをぶつけてしまった。筋違いのものだとはわかっている。それでも、押さえることが出来なかった。

親父は軽く笑って、こう言ってきた。

 

「簡単に言うぜ。だって、俺の問題じゃねもん」

 

はぁ?ふざけるなよ!

喉まででかかった言葉を飲み込む。親父に言っても無駄だから。その代わりに、俺は親父を鋭く睨む。だが、親父は一切気にしなかった。

 

「そうだろう。これはお前の問題だ。なら、自分で解決してみせろ」

 

そんなことはわかっている。でも、自分でもどうしたらいいのかわからない。

 

「どうしたらいい……」

 

すがるように、親父にきく。

 

「自分のしたいことをすればいい。後悔しないように。真っ直ぐ正直にな」

 

すうっと、体に入ってくる。

それは、簡単に思えて難しい。俺が望んでいるのは凄く自分勝手なものだ。そのうえ、俺には資格がない。振られた俺には……

 

「……無理だな…俺には資格がない……」

 

俺の弱音を聞いた親父はドンと、手にしたビール缶でテーブルを叩いた。

 

「逃げるな!」

 

怒声が聞こえてくる。

いつになく親父の顔は怖かった。

 

「そうやって勝手に決めつけて、自分の逃げ道を作るな!」

 

頭を殴られるような強い衝撃を受ける。

……あぁ、その通りだな。俺は自分で作っていたんだ。資格がないって勝手に決めつけて、諦めようとしていた。でも、別に諦めなくても良いってことなんだろう……まだ、藤咲のことを想ってても良いってことなんだろう……

心がすうっと軽くなる。頭の中のモヤモヤが消えてくる。もっと別の答えが見えてくる。

 

「……ありがとう」

 

そうつぶやいて、出ていく。

まったく、俺らしくない言葉だったな。軽く笑ってしまう。だけど、もう一度頑張ろう。そう決意する。

 

 

 

 

 

翌日。

目覚めはスッキリとしていた。よく眠れたようだ。顔を洗い、小町と一緒に朝食を食べる。そして、学校に向かう。

 

学校につくと、雪ノ下に出会った。

 

「久し振りだな」

 

「えぇ、そうね」

 

いつ振りだろう。こうして向かい合って会うことは。

 

「……そう言えば、貴方に言っておかなければいけないことがあるわ」

 

言っておかなければいけないこと?

一体なんのことだ。俺に関係すること……考えてもわからないな。

 

「……由比ヶ浜さんが奉仕部を辞めたわ」

 

まさか、由比ヶ浜が辞めたなんて、驚きを隠せない。

 

「……理由はわかるのか?」

 

雪ノ下に疑問をぶつけてみる。雪ノ下は表情を変えた。それは、ひどく儚げであった。

 

「……わからないわ。私は平塚先生から聞いただけだから」

 

「そうか……」

 

あぁ、そういうことか。由比ヶ浜は平塚先生に退部届を出したんだ。つまり、雪ノ下に会わないまま辞めたということだ。

俺は何も言えなかった。

由比ヶ浜が抜けたことにより、雪ノ下はまたひとりぼっちになってしまった。彼女はこれからどうなっていくのだろう。

俺は知っている。雪ノ下雪乃は完璧に見えて、ひどく脆い。

 

「それで、お前はどうするんだ?」

 

彼女も奉仕部を辞めるのか。だとしたら、奉仕部は消えるのだろう。

雪ノ下は笑った。それは、決意を表しているようだった。

 

「私は最後まで続けるわ。いろいろあったけど、あそこは私にとって思い出の場所だから」

 

やはり、雪ノ下は強い。彼女ならひとりでもやっていける。

 

「それじゃ……」

 

「あぁ、じゃあな」

 

雪ノ下は踵を返し、歩いていく。俺も自分のクラスに向かう。

 

 

 

 

 

もっと素直になろう。理由をつけて逃げるのは、辞めよう。諦められないのなら、諦めなくていい。もう一度頑張ればいいだけだ。ただ、自分のしたいことをすればいい。

それに、まだ俺は聞いていない。藤咲の気持ちを聞いていない。『付き合う資格がない』そんな建前しか聞いていない。だから、もう一度聞こう。藤咲の気持ちを。

そして、俺は文芸部のドアを開く。




久し振りの投稿ですみません。
諸事情により、忙しく投稿できませんでした。次回は藤咲との話し合いです。ここで、八幡との関係がわかります。

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