あれから数日がたったが、一色を説得できる決定打が思いつかない。このままではだめた。俺では思いつかない。彼女に頼るしかない。そう考えて俺は学校に向かう。
退屈な授業が終わり、時刻は昼休み。俺は昼食を食べるべく、ベストプレイスに向かう。しかし、教室を出る前に誰かから声をかけられた。
「ヒッキー待って」
声の主は由比ヶ浜だった。あの時から一切話していなかった相手だ。
「………なんだよ」
俺はぶっきらぼうにこたえてしまう。
「その……相談したいことがあるの。ゆきのんのことで……」
「………話せよ」
自分でも驚くぐらい低い声が出た。
「その……今回の件でゆきのん、生徒会長に立候補するんだって。自分が立候補すれば、いろはちゃんが生徒会長にならずにすむからって」
この話を聞いた俺は心底どうでもいいと思った。ただ、今回の依頼は俺が解決する。邪魔をしないでもらいたい。ただそれだけだった。
「……それだけか?」
「待って!…このままじゃ、奉仕部が壊れちゃうよ。ヒッキーだってわかるでしょう。もしゆきのんが生徒会長になったら、ひとりで頑張って奉仕部の方にこれなくなることを……」
………おかしいことを言うな。奉仕部が壊れる?何を言っているんだ。もう壊れているんだよ。
「ねぇ、ヒッキー、私はどうしたらいいの?」
「………知らねぇよ」
そう言って、俺は出ていく。こいつと話しているとイライラが止まらない。
ベストプレイスについた俺は、マッカンを飲んで心を落ち着かせた。そして、彼女にメールする。一色を説得するのを助けてもらうために。少し時間がたって、彼女からメールが返ってきた。
『放課後、一色さんを連れて部室に来てください。』
これをみて、彼女の優しさに胸が暖かくなるのを感じ、勇気付けられた。
時刻は放課後。俺は一色を連れて文芸部の部室にきている。
「先輩、ここはどこですか?」
「ここは文芸部の部室だ」
一色の問いに答え、ドアをノックする。
「どうぞ」
彼女の許可を得て、ドアを開け中に入る。
「どうぞ、開いてる席に座ってください」
俺達は椅子に座った。彼女はお茶を出し、話始めた。
「まずは自己紹介を。私はこの文芸部の部長をしています、藤咲礼美です。よろしくお願いしますね」
「えぇと、私は一色いろはです。よろしくお願いします、藤咲先輩」
一色は戸惑いながら返した。
「それで~その…何で私をここに呼んだんですか?」
「それは、お前の依頼のことだ」
「……はぁ、またですか。頼まれても私は生徒会長になりませんよ」
やはり一色は俺には説得出来なそうだ。俺は頼りの藤咲の方を見ると目があった。そして笑顔をみせた。
『後は私に任せてください』
そう言っているようだった。
「本当に生徒会長にやる気はありませんか?確かに仕組まれたことですが、この機会は貴方にとっていい方向につながると私は思っています」
「……………………」
「それに、仕組んだ相手にとってどっちでもいいんです。当選すれば生徒会長にさせることができるし、落選しても負け犬としてバカに出来ますから。だから、もう一度聞きます。貴方はどうしますか?」
本当にその通りだな。当選しても落選しても、結局は大変な目に遭う。さぁ、一色はどちらを選ぶ。
「私は………」
「後、雪ノ下さんが生徒会長に立候補したらしいですよ」
「雪ノ下先輩が………」
………このままでは一色は嫌々選ぶだろう。本当にそれでいいのか?俺は一色を利用しようとしている。けど何でこんなに胸が苦しいんだ?俺は罪悪感を感じているのか?
「もし、2つの選択肢があって、どちらも大変だとしましょう。しかし、貴方の選択する時の気持ちで変わります。自分で選ぶか、嫌々選ぶかで。貴方はどちらを選ぶのでしょうか。私はどちらを選んでも、責めません。ただ、後悔しないようにしてください」
……後悔しないように、俺はこんな気持ちでいたくない。だから言う。
「一色、俺はお前に謝らないといけない。それは、お前を利用しようとしていることだ」
「私を……利用……」
「あぁ、そうだ。俺は奉仕部を辞めるためにお前を利用した」
「………どうして、本当のことを言うですか?」
「後悔したくないから。俺は今変わろうとしている。だけど、お前みたいな人を利用してまで変わりたいと思えなかったから」
「……お人好しなんですね、先輩は。そして、優しい上にバカなんですね。……ねぇ、先輩はどうして変わりたいんですか?」
「それは、俺は本物が欲しいから」
「本物ですか……わかりました。私は決めました。生徒会長になります。自分で選んで決めました」
そう言って一色は笑った。その笑顔に俺は嬉しく感じた。
それから、一色と選挙のための話し合いをした。終わった後、一色は帰った。今、この部屋では藤咲と二人きりだ。沈黙ができてしまう。だが、その沈黙を破ったのは藤咲だった。
「やはり、比企谷君はすごいですね。結局、一色さんを説得したのは比企谷君ですから」
「……そんなことねぇよ。説得出来たのはお前のお陰だ」
「……そうですか。後ひとついいですか?」
「いいぞ」
「比企谷君、貴方は変わっても変わらなくても、その優しさは変わらないですね。それが今日知れて、私は嬉しいです。そして、その優しさを忘れないでくださいね」
そう言った彼女は笑顔でいた。俺はそれを見ているだけで、胸に何か暖かいものを感じた。これは一体何だろう?
今回は比企谷君が自分のために人を利用できるのか。そう言った部分を書きました。私の主観では、比企谷君は優しい人なので、出来ないということにしました。また、徐々に自分の内面とぶつかっていくように書いていこうと思っています。