そろそろ治ってくれると嬉しいのですが…。乾燥肌つれーなー。皆さんはどうですか?
目を覚ますと、意識が飛んだ歩道の上。偶然誰も通らなかったようで、十数分あのまま倒れていたと時計を見てわかった。病院は――もう間に合わないか。
一応意識が戻ったのは不幸中の幸いだ。もし戻らず倒れっぱなしだったら……考えるとゾッとするぜ。取り敢えず身を起こそうとするも、体が先程とは違い数十倍重く感じて衝撃、同時に動きたくない。
何気なく通り、特に何一つとして普段は思うことのない歩道。だがその歩道は今の俺にとって冷たくひんやりとしていて、まるで熱さまシートのごとく俺に安らぎを与えていた。
こんなに寒いのに、このままだと眠ってしまいそうだ。それだけは断じてよろしくないので、根性で立ち上がる。
「うぁっ……」
ズキリとした感覚が神経を伝い、おまけに激しい立ち眩み。ああ、本格的にやばいな。ドウシテコウナッタ。心底怠くなった頭で、状況の整理にかかる。
えっと。火水木曜とここまで仕事の調子が最高に良くて、でも火曜の時点でほてって頭がくらつくから病院に行こうとして――色々重なって火曜水曜両日行けなくて、木曜こと本日は病院に間に合いそうだったから会社を出て近くの病院へ向かって歩いてたら……はいはい、思い出した。
この3日間でおかしかったのは、仕事の調子が良すぎること、視界のぼやけとかふらつきのようなものを感じていたこと、余裕をもって会社に到着できる時間に出たのに着けばギリギリの時間だったこと。
だんだん繋がってきた。そうか、俺は風邪だと気付かずに動き続けてこれに至ったんだな。視界のぼやけとふらつきは症状、仕事の調子が良かったのは限界になり倒れる前兆。なんで限界寸前で物事の調子が良くなるかはわからぬが、俺の場合そうなんだろう。
仕事の調子が良いのに浮かれて、異変に本能では気付きながらも無視して休まず動き続けて、浮かれ舞い上がったモチベーションで倦怠感も感じにくくあらゆる行動が鈍くなりつつもなんとかできていたが体は正直なもので、とうとう悲鳴をあげて倒れた。なるほどねぇ。
長すぎる、最早解説書同然の整理を経て納得した俺は、大きく息を吸って吐いた。病院はもう無理だし場所が場所だ。ここで考えていても何もない、帰ろう。考えるのはそれから。
慎重に、じっくりと重い体を引きずって駅へ踏み出す。気を抜いたら、きっと倒れる。寒いのに伴って悪寒が俺に追い討ちをかけてくるが、自分の体温はなお熱くて、ようやく目の前まで迫った駅も千里の道みたいに遠く感じた。
▲▽▲▽
「うおおふただいまっ」
ふらふらしながら約一時間後、無事じゃないけど無事に帰宅成功。こんなに時間がかかるなんて信じられん。ぐぬぬ、半端なく動きが鈍くなってら。
明日をどうするかだが、会社は休まず出社する。俺は決意したのだ、明日は平日最後の金曜……残り1日をこのまま耐えきってみせようと。
ここまで我慢できたならいける! の方へ俺は望みを懸ける。“あの人”を思い浮かべながら耐えればへでもない! あああ、思い浮かべたらニヤけ顔に……余計熱が上がりそうだから止めよう。
コホン。厄介なのは、俺はおそらく風邪ではなく流行りのアイツ―――インフルエンザにかかってしまっていることだ。ついさっきまでは風邪をこじらしたものだと思い込んでいたがよくよく考えると引っかかる点があった。
『なんでも高熱らしい。お前も病気には気を付けるこったな』
絢瀬さんが休んだ日に、課長が言っていたこと。課長は「風邪」とは言わなかった。
『水曜日か木曜日くらいにはまた出社できそうってお姉ちゃんは言ってました』
絢瀬宅で邂逅した天使の言っていたこと。只の風邪で完治するのにここまでかかるとは思えない。そして極めつけは。
『違うの。私がかかったのは―――』
この絢瀬さんの言いかけたことだ。俺はあの後すっかり忘れてて追及しなかったが、絢瀬さんがかかったのは風邪ではないことは確かだと思う。
ピピピ、と体温計が鳴って取り出すとジャスト40,0℃。その他高熱、倦怠感、悪寒、目眩などももれなく俺についている。
現在は冬の季節であり、この風邪をパワーアップさせたような症状――――確信した、俺は……。
……それを踏まえて、明日は会社に行く。非常識なのは心得ている。菌をばらまきに行くのと同義だ。が、火曜から発病しているならどうせすでにばらまいてしまっている。だから会社の皆様申し訳ございません、出来る限りの非拡散対策をもって出勤させていただきます。
心の中で精一杯謝罪、ひとまずよし。仕事が人並外れて遅いから休んではいられない。だるいが休んだ日にゃたぶん追い付けなくなるからさ。これが、俺の休もうとしない最大の理由である。
さて!作戦は決まりだ。明日1日耐えしのいで、仕事が終わったら即病院へ。薬を貰って土日に治せるところまで治して、本当は良くないけど残りは自然治癒という流れでインフルを乗り越える!!
「うぉぉーーっし!」
俺は空元気でガッツポーズをかまして、布団に潜り……すんなりと眠りに飲まれたのでした。
熱は38,8℃。よきかなよきかな。40,0℃に比べれば軽いもんよ。怠いが昨日よりは遥かにまし。うん感覚狂ってる。
インフルで起きれるか懸念があったが、寝坊することなく大きく余裕をもって起きることができた。自分の平常の視点からみれば早すぎる起床とはいえ、これでいいのだ! 動きが鈍くなってるし、逆にこのくらい早く起きれた方がちょうどいい。
コンビニにて装備を調達する。購入はポカリスエット500ml×3本。飲む点滴といわれるコイツの活躍に期待したい。食欲はほとんどわかないが食わぬわけにはいかない、栄養補給にカロリーメイト。
「なんて頼もしい奴らなんだ!」
などと大の大人にしてほざいたりしていた。ポカリとメイトに目を輝かせていたのを弁当を選んでる学生にガン見され、赤面するほかなかったのもまた一興である。
会社へ行くその前に、神田明神に立ち寄って祈る。健康祈願、悪く言えば神頼み。神様お願い致します! この1日を耐え抜けられますよーに!
入念に気持ちを込め祈った。大丈夫なはずだ。
「ッ!」
早々に立ち眩み、いただきました。うぇぇ……心配すぎる。なるようになる、か? ホント頼みますって。
「計くん?」
「うおっ!? の、希?!」
唐突に背後から声がして、俺氏飛び上がる。いきなり現れないでくれ、心臓に悪いわ。
っておかしいぞ、この時間に希は居ないはずだ。高校の頃はたびたび朝に遭遇することもあったけど今や社会人、神社の手伝いでもない。
「うふふ。カードが神社に行きなさいって出てたんよ」
俺の心の疑問に答えるように、希は懐から十八番のタロットカードを取り出した。カードさん半端無さすぎしょう。スピリチュアルパワーってなんなんだよ。力を通り越して超能力?
「なんつーか、さすが希だな。神社に来ると良いこと事でもあるってカードが告げてくれたのか? はははー!俺は今から仕事行くからまたなっ」
体調不良と見抜かれないよう、足早に歩き出す。
「体調が悪いんやね」
もう見抜いたんですかい、早いって。付き合いが長いとすぐわかるのだろうか?
「心配ご無用!俺はいたって健康体だ」
「……嘘」
「嘘じゃないさ」
あくまで、しらを切った。希に心配をかけたくない。ましてやインフルがうつったら大変だ。
「仕事が差し支えないように、とか考えてるんやろうけど、計くんが駄目になってしまったら元も子もないやん?」
「だから健康体だって。考えすぎさ、それに俺がしてるマスクは予防のため」
「それ以上嘘ついたらわしわしするで~」
まずいぞ。このままだと希のペースだ。
しかーし! この時インフルで滅入っていたせいか、俺はとっておきの奇策を思い付いた。
「じゃあ俺も希をわしわしするけど?」
「へっ!?」
希が口ごもった! しめたぞ。ハッタリとはいえ効果は絶大だったようだ。ひょっとして実は希は攻めに弱かったりして。慎みなさい俺。
「計くんにそんな事できる勇気あるの~?」
希は一瞬驚きの表情を見せたが、すぐに立て直した。やはり手強い。しかも核心を突いてきた。でも、もう一押し。
黙って希の胸部に両手をじわじわ近づける。ポイントは無表情気味に。とどめは触れるすんでのところでピタリと手を止める。
「では遠慮なく」
「えっ! あかんよ計くん!」
――隙を見せたな希。少しでも本気と思わせれば十分なのだ!!
「ごめんな希ー! 今日ばっかりは退けないわ!」
「あーーーーっ!」
俺は弱りきった少ない力を振り絞って一気に駆け出し、立ち去った。
「はぁっはぁっ……げほげほっ!!……くそっ」
まいたところで、強く咳き込んで止まってしまった。いよいよ頭痛はさっきまでの比ではなくなり、滲む汗も異常の域に入っている。息は切れ、吸い込む息が苦しい。
まだ――まだ、大丈夫。所詮は昨日の帰りのコンディションになった位のものだ。ぽーっとする頭に暗示を効かせて、頑張る。
仕事やって終ったら病院行って。最後に家のお布団にゴール。なぁに、たった十数時間我慢すればいい……だけだろう?
戸宮君生きてました。死んだら終わりですからね。
この季節はインフル流行りますから、どうか皆さんお気をつけて。もしなったらすぐ病院へ⭐
それではまた次回!