ただ、遠くから…   作:AQUA BLUE

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雨!濡れずにはいられないッ!


雨の中で

 風があまり吹きこまず、先週よりほんのちょっぴり暖かいことも相まって人々は学校や仕事をめんどくさがったり、頑張るぞと気合いを入れたりとよりさわやかな朝をお出迎えしている。しかも明日は休日ですからな。

 

 駅のホームに、“あの人”の影は今日もなかった。ところがどっこい、俺は駅に来るたびたいがい考えるあの人を想うことはなかった。なかったというより、そういう余裕が皆無であった。倒れないようにするのでいっぱいっぱい。

 

 

「ぷはぁ」

 

 電車待ちに、ポカリで失った成分をゴクゴクと補給。うめえええ! 動いた後でありインフルでもあるこの瞬間、ポカリがうまいのはごくごく自然なお話。おおっと洒落ではありません。

 

 なぜかあたりの気温が下がったので、ついつい悔しくて小さく地団駄。洒落を言ったわけでもなく思っただけなのにこの仕打ちか! ……しまった、洒落と認めてしまった。

 挙げ句、地団駄を踏んだことによりふらつきが強くなった。結果俺は地雷も地団駄も踏んだ。

 

 

 

 仕事の調子はすこぶる悪くなっていた。意識を保ちながら、ミスのないよう慎重に仕事を進めていく。時間の経過がスローモションに感じる。昼休みが終わった頃には吐き気まで催してきた。苦しいことこの上ないねと、俺は苦笑した。

 

 火曜からインフルだというのにこの苦痛の差。病気を「自覚」しているか否かでこんなに精神的違いを生むなんてな。これならば、きっと知らずにいた方がよかった。

 

 そのうえ、「今日を耐え続ければいい」だけではなかった。人からみれば明らかに体調が悪くみえるので活気を装い病気と疑われぬようにするフェイクも必要で。現に朝会社で元気一杯にあいさつしたつもりなのに「今日元気ないね」と言われる始末。常にフルパワーで声を出してやっと、普段くらいの音量になる程度まで弱っていた。

 

 

「長かったぁーー!」

「お疲れ様です!」

 

 

 勤務時間が終わり、社員らの歓喜の声が上がる。どうなるか心配ではあったが乗り切れた。長かった? ほんとだよ。数時間どころか1年ぐらいの長さに感じたぜ! 自分から選んだ道だけどね。

 もー限界。頭はガンガンして止まらずめまい、倦怠感、吐き気がピークに達してる。

 

「さて。帰r「戸宮飲み会行かねー?」

 

 同期が誘ってきたか。行きません、あんたらで行ってくれぃ。俺は病院行くの!!

 

「オコトワリシマス!」

「そう言うなって! ほらほら」

 

 今日に限って強引かよ。やだね!と言わんばかりに俺は振りほどき……いかん。体に触れられた。

 

「おい……お、お前すげえ熱くないか?」

「いや、お前らのハートが冷めてるんじゃね?」

「何だとー!」

「ふっ。じゃあな!」

 

 冗談で茶化して皆が戸惑ってる間に俺は仕事場をあとにする。ふぅ、危うくバレる間際でしたわ。

 ニヤリと笑みを浮かべ颯爽と道を行こうとして体がぐらついた。踏ん張ってまた進む。ここから先は時間の勝負だな。俺が全てを耐えきって家までもちこたえるか、はたまた…… 

 はたまたは、ないな。耐えきってみせるんだ。最悪の事態に陥ったら、会社に出れなくなって仕事遅れて、皆に追い付けなくなって、社会人生命が危うくなる。

 生活がかかってるから、退けない。ただの保身だけど重要です。

 

 

 ――希が言っていた通り俺が駄目になれば元も子もないのにな。後日ちゃんと謝らないと。

 いっけね、病気というやつはメンタルをネガティブな方向に持っていくから困る。空は薄黒い雲で覆われ、近いうち雨が降りそうな色をしていたが、なかなか降らないようなもどかしさがあった。降るなら降りなよ。

 げ、ポカリ切れてら。自販機がちょうど横にある、買っておこうかね。

 

「戸宮君!!」

「おお」

 

 自販機に歩み寄ろうとした時、俺は比較的大きめの声に呼び止められた。

 空元気モードに切り替える。用でもあるのだろうか、俺を呼び止めた人――絢瀬さんは真剣な眼差しを俺に向けていた。

 

「どうして、今日会社に来たの」

 

 なんというデジャブ。相手は違えど、希のときと全く同じ状況に陥っているではないか。けれども今度は、別の方法で切り抜ける。第一この人混みの中、このコンディションで絢瀬さんをまけるとは思えない。

 

 一か、八か。俺は絢瀬さんの肩に手をポンと置き、

 

「俺は大丈夫だから。また来週ね!」

 

 

 マスクを取って、目をしっかりと見て出せる限りの一番元気な声色で、彼女に笑いかけた。そして、軽い駆け足で俺は人混みの中に紛れ去った。

 

 さりげなく説得して、安心してもらおうという寸法。絢瀬さんは戸惑っていたようだができればこれで、「なんだ大丈夫じゃない」と思い込んでいただきたい。騙してるようで心が痛いが、希同様絢瀬さんに心配はかけられまい。

 

 腕時計腕時計……よし、今からだと地元の西木野病院が間に合いそうだ。絢瀬さんは、追ってきていない。一か八かの一だったらしい。

 これで残るは病院だけ。ゴールが近いとモチベも変わるのか、体調はひどくなるばかりなのに、いける気がしてくる。正確には、そう思うことで俺はなんとかもっている。

 

 駅を、2つ3つ4つ。最寄り駅まで到着し、西木野病院へ着々と距離を縮めていく。

 

 電車に乗って最寄り駅に向かううちに、心配していた雲は無情にも雨を地に降らし始めて――俺が駅から歩き出す頃には土砂降りと状態になっていた。

 

 

 

「ハァ……しんどっ……」

 

 雨が丁寧に俺の体に打たれてくる。晴れると思っていたのため、傘は持ち合わせていない。ドラマや漫画に出てくるような旅人も時にはこんな天候に見舞われる事があるが、どんな心境で雨に打たれるのかな? 俺はふざけているのだろうか。いや、必死だからこそこんな事を考えたのかもしれない。

 

 雨水は俺の顔から足まで全体を濡らして、共に吹く風は体を冷たく、冷たく悴ませていく。ダメージが重なるに重なりまくってもうよくわからない。

 

「建……物……」

 

 力がほとんどなくなったふやけた声で呟いた。建物だ。大きい建物、すなわちこれは目指していた西木野病院だ。一応、持ちこたえられた。診察してもらって早く家に――

 

「は……?」

 

 俺の希望はへし折られた。

 

 

 

 見間違い、だった。目眩と視界不良が引き起こした“幻覚”。俺が辿り着いたのは西木野病院もとい自分の家のマンション。嘘だ、と何度目をこすってもマンション。

 

 俺は歩いて5分くらいでいける距離を、必死こき時間をかけて歩いていたに過ぎなかった。病院まではまだ普通(・・)に歩いて12分はかかる。

 自分を支えていたモノが切れて、膝をついた。残された僅かな徒歩距離が、俺に大きな絶望をもたらした。希望は消え、反対のそれが膨らんでいく。

 

 

 

 ははっ……素直に、休めばよかった。

 

 

 

 

 

「――――大丈夫ですか!?」

 

 誰だか知らないが心配してくれる人が居る。嬉しいけどもう動く力は無い。迷惑をかけてもあれなのでお礼だけ、と顔を向けた。

 

 

 

 

 

 その瞬間、俺の中で時が止まったのかと勘違いするほど、世界のハイライトが変わった。

 

 膝をつき絶望する俺に話しかけてきたのは、“あの人”だったのだから。




次回で一区切りつけたいなぁ……つくかなぁ。
自信はありませんが頑張ります\(^o^)/
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