ただ、遠くから…   作:AQUA BLUE

16 / 33
更新遅くなる詐欺申し訳ない。思ったより早く完成してくれましたので、てなわけでバレンタイン編今回で終結でございます。いつもに比べてやや長めです。

さて、リアルではバレンタインから1週間が経ちますが……まあ、どうでもいいですね(笑)




どたばたValentine 後編

「いってきます」

 

 手作りチョコを鞄にしまい、ドアを閉めた。

 チョコを渡しに行く前に、午前中は会社。絢瀬さんがたまった仕事を手伝ってくれるとの事で約束している。

 

 日曜日とはいえさすがバレンタイン。慣れた道のりでいちゃつくカップルをちらほら見かけ、リア充爆発しろ! な気分になる。本当に爆発しようものなら町が壊滅するのは避けられないが。くだらないこと考察してないで、頑張りますか。

 

 

 

 会社に到着して早速、自分の机に座って仕事を始めた。絢瀬さんより先に来てしまったが、進めておいて損はない。

 

 仕事を進めている際に時たま一昨日の光景がフラッシュバックする。心のどこかで辛さが呼応しているのか?胸を締め付ける痛みがした。それもいつもとは真逆の痛みで。

 が、俺は落ち込んでいない。叶わない恋と知った上でチョコを渡すつもりなのは変わらない。生活や行動に支障も出ていないあたり、このように肯定できる自信がある。

 

 光景を目にした当初は、さすがにキツイものはあった。それでも眠ればメンタルは平静通りになり、あれから二日経った今では先程のように余計な考え事をする余裕さえ戻った。

 

「立ち直りつつあるんだ」

 

 独り言を呟いて、考え事に止まった手を動かす。一般から見ても、この心理状況を話せば全員とは言わずともたいがいはそうだと頷いてくれるだろう。

 

 なんか未練がましいや。

 

「おはよう!もう始めてるのね」

「うん。おはよ、絢瀬さん。量が多いもんで」

 

 絢瀬さんに反応して思考をシャットアウトした。そーそ、仕事を片付けないとな!

 

 

 

 

 

 

「これをこうすると、効率良くできるわ」

「ほうほう、なるほどなー……」

 

 絢瀬さんと仕事に取り掛かって早2時間。もうすぐ、たまって終わりそうになかった仕事が終わろうとしている。俺がやれば1週間はかかりそうな量の仕事がまるで幻といわんばかりの早さで消化されていく。

 

 彼女のサポートは素晴らしい。サポートしてくれているというか、もう彼女が進めてしまっているようなものだ。俺は途中からついていけなくなった。

 

 付きっきりで手伝ってもらっていてかなり申し訳ない気持ちになるのだが、それだけではない。俺の机で教えてくれているため至近距離になる。甘い匂いが俺を包み、横を向けばすぐ絢瀬さんのNice bodyが目に入るのだ。そして絢瀬さん可愛い。天国 !それ故に集中力を削ぐ宿命にあるのも避けられぬ。

 

「聞いてる?」

「ごめんごめん」

 

 注意を促す絢瀬さんもいいね!

おいこら無心だ無心。もう考えるな。

 

 ぐへ……たまには仕事をためるのも悪くないかも。

 

 

 

「これで全部?」

「うん!本当に助かった、大満足だよ」

 

 違う意味も含まれてるのは内密で。

 

「今日はごめんよ。付き合わせちゃって」

「いいのよ。困った時はお互い様!」

 

 優しいなあ、今時こんな女性は居ねえや。都会ってすげえだなぁー。

 

「絢瀬さんはいいお嫁さんになるだろうね~」

「や、やめてよ……」

「ははは!」

 

 恥ずかしがってるね。いやー、可愛すぎる。俺はいじりたくなる気持ちを堪えて、身支度を始めた。

 希にチョコは無念の0だと報告した後、どこにいるか知らないあの人を探してチョコを渡しに行く予定があるからゆっくりもしていられない。

 

「また来週ね。バイバイ」

「ねえ……」

 

 軽く手を振って仕事場を出ようとしたら、絢瀬さんが俺を引き止めた。

 

「これ、受け取ってくれる?」

 

 

 俺は硬直した。彼女から差し出されたのは、可憐な模様入りの紙に包装された四角い形の箱。待つんだ。これは一体何だ!? 新手のティッシュかな? 待て、こんな豪華なティッシュは見たことがない。

 

「もちろんっ…!」

 

 目をぱちくりさせながら、答えた。異様に汗が出てきて、心臓が強制的に高鳴ってくる。君が渡そうとしてくれているのは――

 

 手と手が触れ、箱が俺に渡った。絢瀬さんは優しく俺を見据えている。怖い、けど確認しなくてはならない。俺は恐る恐る質問した。

 

「……バレンタイン、チョコ?」

「ええ……」

 

 

 返答を聞いて、頭がくらっとした。生まれて初めて貰ったチョコ。信じられない………チョコじゃなかったらどうしようとばかり思っていた。

 

 しみじみと心から込み上げてくる喜び。

嬉しくてたまらないのに、想定と反して発狂しなかった。湧き出る温泉のように温かいものが胸の内を満たして、知らずのうちに目頭が熱くなる。

 

「戸宮君?」

 

「え、あっ、涙!? おかしいな……あはは」

 

 自分に涙が伝っていると知り、笑顔になろうとするけれど、涙でうまくいかない。ただ、俺のためにチョコをくれたのが嬉しいのは本当で。

 

「ありがとう絢瀬さん。絶対にホワイトデー、返すからね」

 

「戸宮君!?」

 

 俺は絢瀬さんをぎゅっと力いっぱい抱き締めた。言葉だけでは足りなくて、“ありがとう”の気持ちをひた込めて。勢いで彼女のポニーテールが揺れ、その揺れがおさまっても、暫しそのまま時は流れた。彼女の体温を全体で感じるがこんな時は邪心も芽生えないもので――不思議だよね。

 

 って!! 何ナチュラルに抱き締めてんだ俺は! どのくらいこうしていた!? こりゃセクハラと言われても言い逃れできない…! 終わった。俺の社会人生活終わった。

 

「ごめん!!!」

「あ……」

 

 サッと絢瀬さんから離れる。感動のあまりやらかした、通報されてもおかしくないぞ。

 

 絢瀬さん悲しそうな顔してる。抱きつかれて嫌だったんだろうなあ。ごめんなさい。

 

「つ、通報せずにくれたらありがたい!!」

 

 彼女に苦笑いして懇願した。

 

「……バカ」

「えっ。ちょっと!」

 

 ぽつんと「バカ」とだけ言って絢瀬さんは歩き出して仕事場を出ていった。

 

「通報は免れたのかな?」

 

 心配の声が自分以外誰もいない、孤独の地と化した職場にあがった。

 

 

 

 

 この時、彼は知らなかった。ドアを出ていく間際、彼女が赤面しながらも微笑んでいたことを。

 

 

 

 

 

~~~♪~~~

 

 

 

 

 気持ちも落ち着き、すっかりルンルン気分になって神田明神へ向かっていた。そこら中が花畑と錯覚するほど世界が美しく見える。もう誰も俺を止められない。

 

 バレンタインチョコもらった!! ひゃっほう!!!!! 生涯0だったんだぜ。歓喜は、計り知れないほどに大きい。

 

「わしっ」

「うああっ!何すんだ希!」

 

 おい、どっから現れた!? 浮かれて希の不意打ち(WASHI WASHI)に対処できなかったじゃないか。

 当然胸はないので、俺の場合事実上揉みしだかれるのではなく過剰にこちょこちょされる形になる。

 

 個人的にわしわしされる感覚を説明するなら、「くすぐったくて笑い転げそうになる生き地獄+密着されて希のチャームポイントがぷにぷに攻撃してくるご褒美のダブルパンチ」だ。

 俺は最近吹っ切れたのか? 心で慎むのを止めつつある気がする。

 

「計くんやらし~」

「一番読まれたくないときに限って心を読むな!」

 

 やりとりを見た通りすがりの男性が憎悪の眼差しで睨んでいった。誤解ですって。

 

「まあいいや、神社に行く手間が省けたよ。で、報告だが……」

 

 表情が一変、俺は自信に満ち溢れた顔になった。今年も0なんやねなんて言わせない。

 

「今年はチョコをいただきましたーっ!!」

 

「おお~っ、よかったやん!」

 

 なんか違う。「う、嘘や……!」とかオーバーに驚いたりすると予想していたから拍子抜けだ。なんか違うぞ希!

 

 そして気に掛かるのは、笑顔で祝福してくれているが、なんらかの複雑な感情がその笑顔の裏から見てとれる点だ。

 

「希、お前……」

「ん~?」

「いや、何でもない。いずれにせよ俺は万年チョコレート0は卒業した。報告は以上だ!」

「じゃあウチからも、卒業祝いのチョコを計くんにあげようかな♪」

 

「え」

 

 ダイレクトにチョコと言ったぞこの子。わしわし以上の不意打ちである。

 

「ちょっと待っててな」

 

 希はすぐ近くの角に消えると、そこから希の上半身並の大きさはある箱を持ち出してきた。

 

「でかっ!?」

「よっこらしょっと。はいどーぞっ!」

 

 ズッシリと箱が俺に手渡される。嬉しいのはそうだが、圧倒的インパクトに押されてリアクションできなかった。

 

「あ、ありがと希……」

「どういたしまして! 食べたら感想でも聞かせて欲しいなあ♪ ウチは用事あるから、またね」

 

 感想? 頭に疑問符が浮かぶ。売ってるチョコは皆美味いの一言では?

 

「おい、それってどういう……」

 

 疑問を遮るように、希は去りがてら耳に囁いた。

 

手作り(・・・)なんやから」

 

 

 強い風が、吹き抜けた。俺は囁きに何も言えず――希を後ろから見送るしかできなかった。

 

 

 

 

 

~~~※~~~

 

 

 

 

 チョコの持ち運びが厳しくなり家に一旦いらない荷物とチョコを置いた後で、園田さんを探していた。

 

 希のくれたチョコ。手作りとは言ったが友チョコ、なんだよな? 俗にいう本命チョコではないよな。希が俺に……? ないない。アイツのことだ、運命の人をとっくの昔に見つけてるに決まってる。

 

 

 できれば日が沈む前までにはあの人にチョコを渡したい、ちょっと急いで探すか。

 

 ランニングくらいの速さで思い当たるところを走った。園田さんの居場所がわからないからいわゆる運任せ。家に居たらそれまでだし、見つかれば見つかるで必ず渡す。本日バレンタインデーに全力を尽くす。そこに意味があると俺は思ってる。

 

 

 

 

「見つからねぇ……」

 

 いけそうな所は全て回ったが見つらなかった。運動が足りない俺には熾烈をきわめる所業であり、息が切れて足がビリビリ痛む。明日は筋肉痛確定だな。

 時刻は18時半。この分だと、あの人はたぶん家に居るかな。

 

「うむむ、詰んだか」

 

 諦めて帰ろうか……否、諦めない。帰宅したら、またズルズルとあの人の想いを引きずってしまう。

 一昨日決めたんだ、渡してすっぱりと今日であの人のことを諦めると。そのために、まだまだ粘る。

 

 粘るはいいが、彼女はここ居そうだという所が思い当たらない。もう一回探してきたところを回ろうかと考えたその時、道を真っ直ぐ行った先に小さく見える穂むらが目にはいった。

 

 ……園田さんが穂むまんを買いに行くことだってあるかもしれない。あそこにはまだ探しに行っていない。僅かな可能性に懸けてみようか。だって、可能性感じたんだ。

 

 店の戸を開けたら、中にあの人が居るのを祈って。

 

 

 

 

 歩くこと1、2分。俺は穂むらの戸を開けた。中には、看板娘さんと…………園田さん!?

 目を疑った。低すぎると思っていた確率がこうしてジャストミートしたのである。

 

「「「あっ」」」

 

 俺は衝撃で、お二方は人が入ってきたことに気が誘導されて声を揃えた。

 

 しかも、お邪魔なタイミングに入ってしまった模様だ。園田さんはチョコを手に持っており、看板娘さんは園田と向かい合う形で立っていた。つまり、おそらくはバレンタインの友チョコを渡そうとしているであろう局面に、俺が入り込んでしまったらしいのだ。

 

「お邪魔しました~♪」

 

 微妙な空気に耐えられず引きつった笑顔で戸を閉めた。申し訳ないことをしてしまったかなあ……。友チョコを渡すだけでも緊張したり照れくさくなってもじもじしてしまう人は多いだろうに。俺が凡例。

 

 ん。園田さんがチョコを持ってた――?

 

 あれは友チョコ? チョコの箱からして義理ではなく手作り……一昨日チョコ作りの材料を園田さんが買っていたのは、本命の男性のためではなく相手は看板娘さんで、そのためのものだった……のか??

 

 顔が青ざめてゆく。早とちりだったかもしれない。

 

 

 頭がパニックに陥った。穂むらには入るに入れないし、一時撤退が最適だろう。あ、そしたらチョコが渡せない。

 

 優柔不断に戸の前で悩んでいるのがミスだった。ガラガラと戸が開いてゆくのに全く気が付かず。

 

「さっきは何か……?」

「ひゃいいいいいっ!??」

 

 いきなり園田さんが目の前から戸を開け出てきたので後ろに仰け反ってしまう。パニックは頂点に達した。

 

「おっ……あの……○☆△※!▼?」

「えっ? すみませんがもう一度お願いします」

 

 呂律がやられたせいで、園田さんは俺が何を言っているかわからず戸惑っている模様。喋ろうとするも口は言うことを聞かず、焦った俺はフラフラ後ろによろけて後ずさり、しまいに電柱に後頭部が直撃した。

 

「あがっ!!」

 

 ぐわんと頭にダメージが響く。だがすっとこどっこい、この間抜けな激突が俺を冷静にさせた。

 

「いてー……ハッ! こんばんは園田さん。先程はお取り込み中失礼しました。挙げ句、たった今取り乱したばかりに戸惑わせてしまい、申し訳ありません」

「そんなことは……それより頭を強打していましたが大丈夫なのですか?」

「これしき問題ありません、頭を打ったおかげでむしろ落ち着きましたよ、フフ……」

「は、はあ」

 

 言葉が滑らかに出てくる。いける、電柱(グングニル)から授かりし(頭打っただけ)冷静さがあれば、俺はチョコを無難に渡せる。今こそ渡す!

 

「話は変わりますが」

「はい」

 

 シリアスな雰囲気を感じ取ったのか、園田さんは此方の目を一点に見た。

 ……一点に見つめられて、今度は毎度お馴染みのドキドキが襲ってきた。そう思った時にはすでに遅し。冷静さは彼方へ消えていた。

 

「変わります……が」

 

 ここで渡せなければ次のチャンスはない。やるしかない、だが言葉が詰まって出てくれない。

 いけ、逃げるな。なんのために頑張ってきた、やりきれなくては男が廃る。

 

「ハ、ハ……」

「?」

 

「ハ、ハッピーバレンタインっっ!!!」

「えっ? あっ!!」

 

 園田さんにチョコを押し付けて俺は猛スピードで自宅へダッシュした。なんだハッピーバレンタインて。不器用だと自分でも思うが、これで精一杯でした。

 

 でも……渡せた。やったぞ、想いよ届いてくれなんてわがままはいわない。園田さんに美味しく食べてもらえればひとまず本望だーい!!

 

 

 

 

~~~#~~~

 

 

 

 

 家に戻って、俺は床に突っ伏した。

まだ心拍数が上がってドキドキしている。渡せたには渡せたけど、変な人と思われたか?

 なんにせよ、園田さんが本命チョコを誰かのために作っていたのではなかった。俺の早とちりだったのだ。

 

「はあ…………疲れた」

 

 園田さんに積極的に関わってゆく勇気もないくせして俺は安堵していた。突っ伏したまま顔を上げると、フックに掛けてあるカレンダーが見えた。そっか、明日月曜か。溜め息が増量した。

 

 絢瀬さんと希にもらったチョコでもいただこうかな。俺は包み紙を剥いで、箱を開けた。

 

 

「うめぇっ」

 

 口のなかでチョコと共に疲れも溶けていくようだ。あらら? 食べるまでわからなかったが絢瀬さんのチョコも手作なんじゃないか?

 

 妄想もたいがいにしよう、きっと気のせい。

 

 希のチョコはまるで彼女のような包容力を感じさせる味がした。彼女はうどんぐらいしか作れないと評していたところから、一生懸命作ってくれたのだろう。

 

「――へへっ、すごく幸せだ」

 

 外にほんのりと、白い雪が降りだしてきた。俺は絵に描いたようなグッドタイミングだなおいとツッコミを入れながら、チョコを堪能した。

 

 ありがとう。絢瀬さん、希。

 

 

 色んなことがあった。こんなに慌ただしいバレンタインはできるなら今年っきりで勘弁していただきたい。といっても、原因はほとんど自分にあるのだが。

 

 明日もまた、頑張ろう。俺はチョコを一旦冷蔵庫へしまい、風呂を沸かしに自室を出た。

 

 

 ――希のチョコは案の定めちゃくちゃ大きくて、一日で食べきれなかったのはまた別のお話です。




バレンタイン書くのって難しいですね。クオリティーが低くてすみませんm(__)m それにしても戸宮君、表に出ようか。作者は安定のチョコ0でしたよ(T^T)

それではまた次回…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。