では、はじまりはじまり~
手袋・マフラー・長靴の俺的「冬の防寒具・三種の神器」を身に纏って、道を行く。4駅分を雪が積もる中歩いて行くのだから、少々過酷なものがある…ましてや朝に氷点下の気温は厳しいぜ。
さらに寒さが手袋を貫通、やがて侵入して手が悴んできた。
「手袋仕事しろ」
何をかくそう、朝目覚めると昨日の夕方以降に降りだし始めた雪が積もっていたのだ。積雪量からして電車は動かなさそうと判断、歩いて会社に行くしかあるまいと思い立ったわけだ。
防寒具へのぼやきは白い息にとなって、キンと冷えている空気に消えた。神器とは何だったのか。されど自分と同じくして電車が動かないのを悟って、歩いている人も少なくない。一応同志はいるか、弱音を吐かずガッツ出していきますかね。
滑らないように気を付けて、慎重に足を踏み進めていると――斜め前方に園田さんが歩いているのを発見した。
彼女もまた、俺と同じ理由で歩いているのだろう。 しかし彼女はまだこちらを認識していない。バレンタインで変な風にチョコを渡してしまったからな……顔を合わせたとて、微妙な空気になること必至だ。
わざわざ行くことはないね。デザートと水を買い忘れていたのを思い出して、目の前にあったコンビニに方向転換しようとした時だった。
人はふと、振り返ることがある。その現象が園田さんに起こったようで。
園田さんが振り返り、彼女から見て斜め後方にいた俺と、彼女は目が合ってしまったのだった。
どうしましょうねえ、これ。こうなったら覚悟を決めて挨拶してみるか? いやいや……ん~……よし、いっそ元気な挨拶をかましてみますか!
「お、おはようございます」
しょぼい、相も変わらずヘタレな俺。話し掛けられるようになっただけ進歩としようじゃないか。
「……おはようございます」
園田さんは軽く会釈をして、照れくさそうに小さく笑った。俺はドキッとして後ろに飛びそうになった。もはやこれだけで生きていけそうである。
彼女がこちらに歩み寄ってきた。ビビったが、俺もおどおど彼女に歩み寄った。
「昨日はチョコレートをありがとうございます。美味しくいただきました」
「どういたしまして。あっ、あれは逆バレンタインということになるのでしょうか?」
何言ってるんですかね俺は。くそったれの口をぶん殴ってやりたい。
パニックフラグが建設されてきやしたぜ。そして、無様な渡し方につき一切触れてこなかったところに園田さんの優しさを感じる。
「えっ……?」
ほうらいわんこっちゃない、彼女を戸惑わせてしまった。ま、まだだ! 俺はお茶を濁す選択肢を選ぶぞ!!
「そ、それより!余計なお世話かもしれませんが、こんなところで俺と話していてはお仕事に遅れてしまうのでは?」
「はっ……! そうですね。私はこれで失礼します。戸宮さんも仕事に遅れないように、雪には十分気を付けて会社に向かってくださいね!」
「頑張ってください! では!」
俺と園田さんは滑らないように早歩きした。彼女はまっすぐ進んで、対して俺はまっすぐに――あ。
方向同じでした☆
「……同じ方向でしたね」
園田さんも同じ事を考えていたみたいで、なんともいえない表情で俺に言った。
「思えば俺達は降りる駅も同じ、すなわち互いの会社が近くにあるのでしょうね」
「なるほど。
「まあ会社がどうこうだなんて考えませんよね……えっ?」
今度は俺が戸惑う番だった。会社についてではない。ずっと前から知っていた?聞き間違いなのだろうか。
「あああっ!? 戸宮さん、会社に遅刻してしまいます!!早く行きましょう!!」
深く考えようと頭を回転させる前に、唐突に園田さんは焦りだすと、俺の袖を引っ張り走り出した。それが俺の疑念を忘れさせた。
彼女が俺の袖を引っ張っている。奇跡だ!! なんか知らないけど奇跡だ!!! 興奮してる場合ではない。転ぶといけないから止めなくては。
「走ったら危ないですって!」
どうやら何も聞こえていないらしい。何故か園田さんは顔も耳を真っ赤にしてパニックに陥っている。…すさまじく可愛いな、この様子を写真に撮りたい。違う、止めなくては。
つるんっ
と二人ともコケることはなくて安心した。
園田さんのパニックは暫く収まず、そのまま二人は走った。これ、一緒に会社に通勤した……ってことになるんだよな? 焦る園田さんをよそに、俺はそう思ってニヤニヤしたのだった。
前回とは違い、今回はくっそ短めです。
自己紹介されるまで戸宮の名前すら園田さんは知らなかったのに、戸宮の事は知っていた…という件については説明が足りていませんが、後々説明が入る予定です。
たまには運動しないとな…と考える今日この頃。
寒いからしょうがないね!