ただ、遠くから…   作:AQUA BLUE

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早いもので、春がやって来ますね。
明後日からは3月。出会いの季節であり、別れの季節…三色団子が美味しくなってくる時期になりますね。
結局食い物に行き着くのはご愛嬌。

では、はじまりはじまり~


噴水で一悶着

 仕事場の机に座るなり、俺は微笑む。正しくはニヤけてる。

 

「戸宮君?」

 

 園田さんに遭遇して、成り行きで積もった雪の中を二人で走って――転ぶか心配でもあったけど。

 

「戸宮君!」

 

 あの後流れ解散して今に至る。彼女はずっと必死で、俺の袖を引っ張ったまま会社のそばまで来たところでようやく落ち着いて…そしたら次は我を失っていたことに恥ずかしそうにしてて。せわしない姿が可愛らしくてたまらなかった。ぐふふ。

 

 俺は咄嗟に口を両手で抑えた。あとちょっと遅ければテンションで叫ぶところだった。最も、いきなり口を抑える時点で周りからは変にしか見えないだろうがな。ああ、幸せだったなあ……。

 

「フフ…」

 

 なお戸宮はまだニヤけ足りないようです。

 

 

「戸宮君!!」

「ぬおっ!!?」

 

 隣から大音量が飛んできた。びっくりして椅子から転げ落ちそうになって踏ん張るも、耐えきれずに俺はあえなく落ちた。

 

「なにさ絢瀬さん! いきなり呼ぶから転げ落ちたじゃないか!」

「何度も呼んだわ。戸宮君が上の空、って感じだったから……」

 

 そっか、すっかり浸っていたんだなあと俺は椅子に座り直す。

 

「無視して悪かったね。それで、俺を呼んでどうかした?」

「用というほどでも……。ただ、職場に入っても珍しく挨拶ひとつしなかったし、ずっと考え込んでいたように見えて。おまけに表情もころころと変わるんだもの」

 

 心配げに絢瀬さんが眉をひそめる。いやね? 何も心配することはないんだ。うん、ならば何があったか教えて彼女を安心させてあげよう。

 

「もうすぐ仕事が始まる時間だから要約して伝えるよ?」

「ええ……」

 

絢瀬さんの表情が引き締まり、心から聞く姿勢になっていった。それも彼女の真面目さと優しさゆえなのだろうけども。

 

「あのさ、そんな顔しなくても大丈夫だよ? 別に重い話とかじゃないからさ」

「そうなの?」

「実はね。今朝道で綺麗な女性に遭遇して、会社の近くまで一緒に歩いたんだ。年齢=彼女いない歴、すなわちチェリーボーイの俺にとってはそりゃもう嬉しくてね!!」

 

 言うほど要約できていない件。殆ど全貌を熱く語っていた。そこは置いといて、これにてだいだい理由はお分かりいただけたでしょうな。ついでによく聞く語群も入れてネタ仕立てに説明した。ちっとばかしイタいけど、絢瀬さんなら苦笑いしてくれるはず。

 

「へぇ、それはよかったわね~♪」

 

 な、なんだ? 口は笑っているのに目が笑っていない。怖いよ絢瀬さん。どうしたんだよ……

 

「あの~絢瀬さん?」

「さ。仕事始めましょう!」

「絢瀬さんってばー!?」

 

 

 

 

 昼休みに入った。コンビニのレジ袋からブツを――おっと、朝は園田さんに遭遇してデザートと水を買い忘れてたんだった。

 面倒だけど朝飯も食っていない、買いに行こうか。俺は仕事場を抜けて、そこらへんのコンビニを探しに外へ駆り出した。

 できればロー○ンのデザートがいい。んにゃ、セ○ンイレブンのやつも捨てがたいな……と美味しそうな洋菓子を想像しながら。

 

 

 歩く過程で噴水が見えてきた。雪が積もった今日、それ以前に冬は人が噴水には殆ど訪れない。寒いからね。

 

 ところが春や夏は一転、噴水付近は人々の心を癒す憩いの場へ変貌する。辺りの木に若葉が生い茂り、それらに囲まれし世界できらびやかに水を放出する噴水。風情あるこの場所は、人々を惹き付けてやまない魅力が陰ながらある。

 

 冬の噴水の風景も実に美しいと思うのだが、春・夏と比べるとどうも少数派になる。俺は冬派な。決して、決して春・夏はたくさんのリア充が噴水でイチャつくからではありませんよ?

 

 

 木の方に視線のスポットを切り替えた。昨日の雪が未だ枝に乗っかっている。いずれはどしゃっと落ちてくるため、通行人は気を付けなければならない。観察する分にはしみじみと見ていられるが。

 この冬に雪はあと何回降るかな。今や2月中旬、もう降らないかもしれない。雪を被った木は冬の季節感と春の兆しを同じくして感じさせる。

 

 

 気が変わった。仕事場に戻らず、ここでランチタイムを過ごそうかな。デザートと水を買ってからね。

 

 

 

 

 

 コンビニにて調達を済まして、噴水付近のベンチに座った。昼休み明けまで時間の余裕がある。誰も居ない噴水の景色をいざ嗜もうではないか。

 

「毎日変な食生活ばかりしていたら糖尿病になっちゃうわよ?」

 

 本日のデザート“ダブルカスタードのシュークリーム”を食そうとした矢先、絢瀬さんがそう言って歩いてきた。機嫌は時間の経過で直ったみたい。

 

「絢瀬さんこそ何しに? 寒いから社内にいた方がいいと思うけど…てか糖尿病て。とにかく俺は今独りでいたい気分なのさ」

「お弁当。分けてあげようと思ったのになー」

「ハッハッハ………左様でございますか。

ごめんなさい絢瀬様どうか分けていただきたい」

「ふふっ♪」

 

 大抵偏った栄養分を摂っているワタクシには、ありがたきお話なのです。

 

 

 絢瀬さんは隣に座り、弁当箱を開いた。さりげなく距離が近いのでちょっとドキドキする。

 弁当箱の中には、バランス良く美味しそうなおかず達が色とりどりに詰められていた。

 

 ん? 分けてもらうのはいいが受け取る容器や食器がない。何処かから持ってくると伝えなくては。そう思った時だった。

 

「ほら、口開けて? あーん……」

「ファッ!?」

 

 おかずを摘まんだ箸が目の前に差し出されていた。

 

「お、おおう、待って絢瀬さん。それはさすがにマズイ」

「どうして?」

 

 正気なのかこの人は。どういう因果で「あーん」しようとしている? 誰かにやってこいと仕組まれた罰ゲームか? 真相はわからないがこれはマズイ。女の子の免疫耐性が極小の自分には悶え死ぬ領域だ。

 

「ア、アレだ。えと……あーもう!!」

「もしかして照れてる?」

「照れてないっ!」

 

 口では抵抗しても、悪い気はしていなかった。油断したらあーんされたい欲求が全面に出てしまうと、本能が俺に告げていた。

 

「赤くしちゃって……かわいい♪」

「覚えておきなよ絢瀬さん!いつの日かギャフンと言わせ――ぐむっ!!」

 

 ごちゃごちゃと言っている俺に、絢瀬さんの操る箸が口内へ軌道をなぞり、するりと差し込また。

 第一に広がったのは強い激震、第二に広がったのはおかずの味。

 

「美味しい?」

「美味しい……」

 

 う、美味い!? 紛れもなく美味しいぞ。グルメリポートの類は得意じゃないので一言だけ。ハラショー!な味だ。悔しいけどもっと食べたくなる類いのそれだ!

 

「……よかった」

 

 彼女は屈託のない、嬉しそうな笑顔をした。これでは責めるに責められない。

 何だコレ、まるで我が儘をごねる弟が最後はあっさり姉に上手にあやされたみたいな流れは。

 

 こんな事されたら勘違いしてしまいそうだ。あーんとかは好きな人にとっておくことを薦めるぜ、絢瀬さん。助言を心の中で行って、俺はそっぽを向いたのだった。

 

「あーん」

「おいぃ!? やめなされ二口目はないよ!!?」

「あら、お腹鳴ってるわよ」

「これは違う!」

「食べたいくせに……?」

「~~~っ!!」

「はいっ!」

「もぐもぐ。三口目こそはもういいからね」

 

 

 最終的には弁当の半分ほど食べさせてもらって、慌ただしいランチタイムは終わった。終始俺は彼女の手玉に取られていた。

 

 

 

~おまけ~

 

 

「仕事終わったぁー」

 

 疲労で大欠伸が出た。月曜のしんどさは折り紙つきですわ。

 

「戸宮ー」

「おう」

 

 即座に帰ろうとしたら同期が話しかけてきた。

同期は紙切れのような物を握っている。

 

「渡したい物でも?」

「いいね、話が早い!彼女と行こうと思ってたんだけどさ、予定が合わなくなっちまって。チケット余ったから、捨てるのもったいないし引き取ってくれよ!」

 

 チケットを俺の手のひらに置いて、別の仲間と飲み会なんだと告げて行ってしまった。

 

「おい! まったく強引な……。むっ、これは―――遊園地のチケット?」

 

 同期から無理矢理託されたチケットがこの先思わぬ機会を与えてくれるなんて、俺はまだ知る由もなかった。




読んだ方はお気付きになったかもしれませんが、ええ…そうです。今回は作者の妄想全開でした\(^o^)/
実質おまけが本編と言っても過言ではありません。
次回は話が進む…はず?はずです!
ではではこの辺で~
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