ただ、遠くから…   作:AQUA BLUE

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しゅらばとこども

「あなた、なぜ私の名字を知って……?」

「っ!!」

 

 背筋が凍る。返事をした時、うっかり絢瀬さんと言ってしまったのだ。俺は口ごもった。

 

 バレないように変装した(・・・・・・・・・)のが裏目に出たんだ。彼女からの視点だと――

 

「自己紹介すらしていない初対面の男に名字を呼ばれた」

 

 こういう事になる。そんなのは彼女にとって不自然極まりなく、恐怖と警戒を招く以外に何があるというのだろう。

 

 焦燥で回りにくい頭を可能な限り働かせ考える。墓穴をチャラにする、あるいは墓穴を少しでも埋めてやる方法は…………残念ながら思い付かない。

 

 座っているテーブルから何十メートルか離れた所にある木々、それらの葉と枝がざわめく音が耳にしっとり溶け込むように刻まれ残る。

 感慨にふけたり自然溢れる落ち着いた場所じゃなきゃ、たいがい聞こうとしないし聞こえにくい優しい音。

今その音は、逆に鳥肌を立たせた。

 

 

~★~★~★~

 

 

 あれから俺は口を開けず。要するに手詰まり。緊迫で麻痺した感覚では時の流れなどわかったものではないが、嫌でもコンマ数秒、1秒、10秒と俺が黙りこくったことにより生まれた“間”が伸展を続ける。

 それにつれ絢瀬さんの表情は困惑から不審がるものに変わる。

 

 園田さんと希も俺が絢瀬さんの名字を口にしたのは驚きだったらしく、俺に視線を集めていた。それぞれに繋がりはあっても結局二人は俺と絢瀬さんの関係性を知らない。

 

 いずれにしろ俺と絢瀬さんが初対面同士という前提でこの状況に居るのだ、だから起こった出来事は二人にも絢瀬さんと同じくして不自然に映っていると思う。

 

 

 道をイチャついて歩く熟年カップル。何があったのか道端でおぼつかない様子でたたずむ幼い子供。あーあ……見渡せばワンダーランドなのに、狭くもここだけ空気がやけに重いよ。直感がしたからといってここまで拗れるならはじめから従うべきではなかった。後悔先に立たずである。

 

 三人の不安を煽るだけ、仮に変装を続けたとして、いつ不審者街道まっしぐらになってもおかしくない――もう意地を張るのはよそう。俺は、正体を明かすことにした。

 

「実は……」

 

 切り出しつつ俺は小さく手を伸ばす。断じて犯罪など犯していないけども、まるで警察に投降するような気分だ。両手をあげる代わりに俺はサングラスに手をかけた。

 

 

『ピンポンパンポーン』

 

 

 が、サングラスを外すすんでのところで放送が入ってきた。俺は気を取られ、手を止めそれを聞く。彼女らもまた、放送に耳を傾けていた。

 

 【本日はご来場いただき、誠にありがとうございます。会場内の皆様に迷子のご案内でございます。青い帽子とオーバーオールを着用した○○くんを見かけた方、お父さんとお母さんが探しておられますので、心当たりのある方は迷子センターへご連絡、もしくはお近くに居られます場合はお手数ですが迷子センターまでよろしくお願いいたします。繰り返します……】

 

 迷子になっている子がいるらしい、俺は一応皆に尋ねてみた。

 

「皆さんって心当たりあります?」

「私は見覚えがありません」

「私も……」

「ウチも……」

 

 やっぱりか。訪れている大勢の人のうちの一人だもんな。厳しいものはあるわな。

 

「可哀想だが簡単に見つかりそうにはないか……」

 

 

「ねえ、くろいめがねのおにーさん!! まいごってなあに?」

 

 肩を落としていると、3~4歳くらいの子供がひょっこり現れ、話し掛けてきた。

 

「おう坊や。迷子ってのは、一緒にいるお父さんやお母さん、保護者から離れてしまうことでね? ああ、言い方が坊やには難しかったかな。わかりやすく言うと……そうそう、君みたいな子のこと――――あれ?」

 

 淡々と答えてしまっていたが、目にしたこの子の特徴に全員が段々とフリーズしていった。

 

「青い帽子にオーバーオール」

「この子ってアナウンスの……まさか」

「「「「迷子の子!?」」」」

 

「え、え?まいごはぼく?」

 

 皆の一斉の驚きの声を聞いて坊やの目が潤んだ。ヤ、ヤバイ。俺の先程の説明も手伝ってか、幼いなりに置かれている現状を理解してしまったようだ。

 

「落ち着いて?大丈夫だから」

「ぅぅ……えぐっ、ぼく……まいご……………うわああああん!!!!!」

 

 絢瀬さんがなだめにかかってくれたがおさまりきらず、坊やは大声で泣き出してしまった。

 

「マップによるとセンターが近くにあるみたいや。連絡するより行った方が早いと思うから、ウチ行ってくる!」

「わかった。頼んだよ希!」

 

 

「よしよし……」

 

 園田さんも坊やを撫でてあげたりと一生懸命。坊や羨ましい……間違えた。俺も何かやらないと! どうか泣き止んでくれ!

 

「べろべろばあ~♪」

「こわいよおお!!!」

「余計に泣いてしまいましたね」

「こんなはずじゃあ……」

「他の方法でなだめましょう」

 

 サングラスをはめての顔芸に魅力など欠片も存在しなかった。確かにこども側にすれば怖いだけである。嗚呼、俺ってなんという無力!

 

 

 その後も坊やの涙は止まらない。あれやこれやと試したけれども、坊やを泣き止ませるには至らなかった。

 

「泣き止んでくれないわね」

「希は?」

「センター周辺に居るであろう親御さんを呼びに行っていて……そろそろ戻ってくると思います」

 

 俺は園田さんに答えて、坊やの方へ向き直った。

 

「あとは坊やに泣き止んでもらうだけ!」

「泣き止みそうな気配はないわよ?」

「いい方法はないのでしょうか……」

 

 泣き止んでもらうだけなのはいいが絢瀬さんが言うように泣き止みそうにない。

 

 

 どうすれば――おっ?

 

「二人とも、そこで坊やをよろしくお願いします」

「どこへ行くのですか?」

「1分と待たせず戻りますので!!」

 

 俺は小走りでテーブルから目の前の売店へ駆けた。目的は売店ではなく脇にあるガチャポン。途方に暮れる中で見付けた糸口はこれである。

 

 200円を投入してハンドルを回す。この遊園地では需要のないコーナーっぽい。手入れがあまりなされていないためか、カプセルが排出されるときに鈍い音がたった。ガチャのラインナップも何年か前のコンテンツのものや、どさくさに紛れて今では絶対に無さそうなものまであるが関係ない。カプセルを持って俺は戻った。

 

「ふう。ただいま戻りました」

「売店で何を……カプセル?」

「ちょっとね」

 

 カプセルを見て解せないという面持ちの絢瀬さんに俺は苦笑いしてカプセルを開け、中身を坊やへ差し出した。

 

「これをあげる。辛くなったらこれに元気付けてもらうんだよ」

「うっうっ……これ、くるま?」

 

 中身は車のストラップ。緑の車体に黄色の線が何本か入っているデザインで、単純に赤や青が好きそうな男の子には受けが悪いだろうか?と思うけど出ちゃったからには渡す。

 

「男の子なんだから泣くな! とか固いことは言わないけどさ、独りじゃないからね?坊やには今日からそいつがついてるよ」

 

「ぐすっ……ねえ……うっ、おにーさん。ほんとに?」

「おにーさんが嘘をつくとでも?心配いらない、ずっとそいつは坊やの味方だ」

「うん、うん、おにーさんありがとう……!」

 

 鼻を啜り泣きじゃくるのを止めて、坊やは涙で目を腫らしながらも笑みになった。

 

 心からの笑みってこんなに素敵なんだな。っと、俺が泣きそうになってどうするんです。

 

「泣き止んだ!」

「ね、泣き止んだでしょう」

「………」

 

「……海未?」

「あっ、はい。まさか泣き止むとは思いませんでした」

 

 

 俺はグッと親指を立てた。本日最高のドヤ顔をしていることだろう。

 

「でもなんで泣き止むってわかったの?」

「そうですね、なんででしょう」

 

 首をかしげた。何故そうなるかと問われたら自分でもわからないのだ。売店のガチャポンコーナーを見た時ピンときたと思ったら、失敗を疑うことなく既に行動へ出ていたんだよな。

 

 うーむ、やはりわからない。でも……デジャブな気がする。

 

 いやいや。今日はまだしも過去にガチャポンを渡して子供を泣き止ました経験があるとか、デジャブにしては可能性が低すぎるだろう。過去に身に覚えだってないし。

 

 それなのに――

 

 

「皆ー!」

「おっ」

 

 声の主は他でもない、手を振って戻ってくる希だった。坊やの親御さんも一緒だ。

 

「坊や。もう帰れるよ! お姉さんの一人が、君のお父さんとお母さんを連れてきてくれたぞ」

「かえらないよ。まだまだあそぶんだー!」

「ふふっ、見つかってよかった」

「迷子にならないように、気を付けてくださいね」

 

 元気になった坊やを引き渡す。親御さんは優しい人達で、何度もこちらにお礼を述べてくださった。

 

「僕達はこれで。本当にありがとうございました!」

「いえいえ。せっかくの遊園地です、僕らに構わずお楽しみになってきてください!」

「行こうか、おいで」

「おにーさんとおねーさんたちありがとう!! ばいばーーい!」

 

 こうして、親御さんと可愛らしい坊やを俺達は送り出したのだった。

 

「そーだ、おにーさんよくわかんないけど、“しゅらば”なんでしょー?がんばってね!!」

「こら!その言葉どこで覚えたの…」

 

 

「修羅場って言われてるけど、あなたってそういう渦中にいる人なの?」

「はははは、おかしなことを言うもんだねあの坊やは」

 

 見当違いだった。俺が瀬戸際なのを見抜いてるとは、坊やは何者なんだ。可愛らしいどころかあの坊やは将来とんでもない奴になりそうである。

 

 

 

 

~♪~♪~♪~

 

 

 

 

「色々あったけどご飯は食べたことだしここらでお開きにしよか」

「そうね。二人ともお疲れ様」

 

 なんだかんだで解散することとなった。さりげに名字のボロについても奮闘してる間にうやむやになってくれてて、ピンチも凌ぐことができウィンウィンである。

 

「はい。ありがとうございました、また何処かで」

「ごきげんよう」

 

「あ、待って。伝え忘れた事があるん」

 

 俺達が歩き出す前に、希が呼び止めた。

 

「どうかしましたか?」

「海未ちゃんじゃなくて、k……男の人の方ね」

 

 用は高校からの友達園田さんではなく俺に? わざわざ話す用など無いはずだが……む?

 

 訂正しよう、あるかもしれません。

 

「こっちに来てくれる?」

「……了解です」

 

 希は絢瀬さんと園田さんがギリギリ話を聞き取れなさそうな位置に立って俺を呼んだ、ピュアピュアな――それでいて全てをわかっているかのような微笑みを浮かべて。

 

 あるかもしれないからさらに訂正。彼女が俺に話す用があることを確信した。男の人って言う寸前に、計のkって発音しそうになっていたからな。もっと言うならあの微笑みをしてる時点でそうである。俺が希のもとまで歩くと、小声で彼女は呟いた。

 

「計くん、やんな?」

「御名答。いつからバレてた」

「最初からかなー、勘やったけど」

 

 希はニヤリとした。自信あったんだけどなあ、彼女のスピリチュアルパワーは平常運転だったようだ。

 

「さいですかぁ……」

「もちろん見破ったのを教えたかったのもあるよ? でも本題はここから!」

 

 話が終わったと思いきやまだあるらしい。これ以上自信を打ち砕かないでいただきたい。

 

「海未ちゃんとのデート頑張ってな?」

「へ!?? のっ……! の、希!!」

「図星みたいやね~顔真っ赤やし」

 

 本題ってこれか!?応援はありがたいがからかうんじゃない! 恥ずかしすぎるうううう!!

 

「ウチ行くね?」

 

 暫く応援と紙一重のからかいをして、希は二人の方へ戻ると園田さんに一言言って、絢瀬さんと向こうへ行ってしまった。解散したみたいだ。

 

 恥ずかしくて再起不能になりそう。バタバタしたため疲労もある。ぼっちで遊園地に来てて、この事態に遭っていたら俺はここで即帰宅の審判を下したことだろう。

けどまあ帰らない。帰るわけない。危機は去ったんだ。

 

 忘れちゃいけない。園田さんとの遊園地はシューティングをしただけで、事実始まったばかり。

 

 

 緊張を飲み込んで彼女へ、俺は歩み寄った。

 




子供がエスパー過ぎた件。
今回は珍しく前書きなしです。
ちょっと何も浮かばなくて\(^o^)/

ではでは次回!
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