園田さんのあの表情が頭から離れない。きっと俺の言った事が原因なんだ。でも、一々自分の言った言葉など覚えてはいない。彼女の表情を歪ませた直前の言葉も例外でなく、全部は覚えていなかった。
何度か思い出そうとトライしたものの出てこずじまい。坊やとストラップがどうたらという……大体の内容しか思い出せなかった。しかもあの表情は一瞬だけ、以降は平常と変わることは一切なし。
園田さんに一目惚れして一年間とちょっと。通勤電車を待つ駅のホームで彼女の姿を目にしては、見惚れていた。
近日、ひょんなトラブルで接近して、その後も運良く何度か一緒になる機会があって――成り行きとはいえ、今日に至っては遊園地に出掛けた。
そのわりには。何も彼女の事がわからない、わかっていない。彼女のことで頭がいっぱいになることだってあるくせに、結果ああして悲しませてしまったじゃないか。やり場のない、自分に対する憤りが募る。
考えているとホームが視界に飛び込んできた。駅に着いたのか、早いものだ。
乗客の大半は疲れている人で溢れている。日曜のこの時間帯は出掛け先や遠出から帰る人達が多いのだろう。元気そうな人もちらほらいて、その限りじゃないけど。
下車の準備をしなくては。荷物をまとめつつ、一応園田さんに駅に着いたのを通達しようと彼女の方へ向くと。
園田さんは眠っていた。
……麗しい寝顔。安らかに寝息をたてる彼女の、それはそれは美しいこと。普段みえないあどけなさがちょっぴりあってそこがまたそそる。そそるってなんやねん。理性を保て俺。
寝顔をじっと見つめたいのを堪え、すぐさま寝顔を記憶に刻み付けると、俺は園田さんを起こすのだった。
夏と遜色なく暑かった春の
「うううっ……」
外の物陰で泣きそうになっていた私の傍に
「おひさまがあっついね!」
「……ふぇ?」
忽然と現れたのは―――――
「駅、着きましたよ」
うっすら届いてくる声。声を辿ると、微笑む彼が。
次に目に入ったのは駅のホーム、プレートには見慣れた最寄り駅の名前。ホームの屋根と壁に阻まれているけれど、日が落ちて赤みのなくなった夜空が向こうに見え隠れしています。
「……もう着いたのですね」
少し遅れて、私は返事をしました。
私は夢を――夢を見ていた?
とても生々しくて、それは夢というより回想に近い気もしました。私は果たして自分が眠っていたのか、それとも深く考え込んでいただけなのかすらわからなくて。気が付いたらまるで魔法で時間が飛んだかのように、最寄り駅に列車が到着していたのです。
それほどに強く夢らしきものに意識が向いていたのは確かで……終わったことを気にしても仕方ありませんね。
プシューっと空気の圧が抜けてドアが開くと私たちは席を立ち、列車を降りました。ホームを発った列車を見送り、改札へ出るエスカレーターへと歩きます。
「お疲れでしたか?」
戸宮さんが気を遣う様子で私に聞いてきました。問題ありません、と私が答えると彼はよかったと胸をなでおろすのですが……彼に違和感を感じるというか、なんだかぎこちなさがあるような。
まさかさっきの事を気にして……?
戸宮さん、あなたが気にやむことはないんです。
ただ――――。
……いいえ。今は今、過去は過去です。そして今日、貴方に伝えたい事があるのです。
私は並んで歩いている彼との距離をほんの少し、こっそりと詰めました。
~◆~◆~◆~
あれから電車を降り、エスカレーターに乗って。改札を抜けた駅の南入り口に俺と園田さんは居る。帰路はそれぞれ反対方向なので、あとは二手に別れるだけだ。そこでちょっくら立ち話していた。
「今日はありがとうございました!」
「私が言い出した事ですから」
「本当に楽しかったです」
「……こちらこそ」
寒さで互いに鼻が少し赤くなっている。明日はれっきとした平日だ。彼女が体調を崩すことのないように、そろそろ帰ろうかな。
「日も暮れたのでお気を付けて!」
俺は緩くはまった手袋を引っ張って、園田さんに軽くおじぎをして、帰路へ踏み出した。
二人で歩いて、遊んで、話せた。求めるものはもうない。
出掛ける機会はたぶんこれっきり。こんな奇跡はそうそうないであろう、俺は未来永劫この幸せだった一日を忘れないぜ。
唯一心残りなのは、園田さんを悲しませてしまったこと、それをどうにもできなかったこと。
「あの!」
呼び止められるのに反応して振り返る。園田さんが意を決した目をして、此方に近付いてきた。
俺は、彼女が何か大事な話をしようとしている事を直感的に察した。
が、彼女が踏み出したのとほぼ同時に彼女の鞄から小物が落ちた。パチッと音を立てて、地べたに転がって。
その小物は――ストラップだった。
前回から二週間ぐらい経ってますね^^;
待っていてくださった方、申し訳ありませぬ。
そして。ひっそりとリクエストを募集し始めました!
よかったら活動報告をご覧ください\(^o^)/