睡魔は凶器で尊いぜ。
なんだかんだ誘いに乗り、俺はお母様に案内されながら海未ちゃんの居る部屋へ向かっていた。断らなかったのかって? あの状況で断るのも失礼だし、海未ちゃんの日舞には興味がある。
……見たい! 見たーーいっ!!
「よろしかったのですか? こんな唐突に……」
が、畏れ多くて再確認である。チキン精神。
「いずれ彼女には家を継いでもらわねばならないので。 それに様々な方に見て頂いておくにこしたことはありませんから」
お母様はバッサリ断言。ひええ、俺が海未ちゃんの立場だったらプレッシャーでやられてしまいそうだ。
「この部屋です」
着いたみたい。お母様が閉ざされた襖へ屈み、正座の体勢に。俺は部屋へ注目する。
「海未、入りますよ」
「……はい!」
やや遅れて、海未ちゃんの声が返ってきた。彼女のことだ。集中していたのだろう。
お母様が襖を開く。視界に飛び込んだのは、和の貫禄漂う大和撫子。彼女の片手には薄海色と白色が淡く交わった扇子が構えられていた。
おおお……まばゆいですぞ海未ちゃん。
お母様の右斜め後ろで崇める表情で立ち尽くす俺を見た彼女は、念を押すように訊ねた。
「彼は?」
「元気を取り戻してくださいました」
よかった、と小さく海未ちゃんが呟いた。
心配してくれていたんだ。嬉しくて口角がゆるんでしまう。空気が空気なので頑張って抑える。うん駄目だゆるむ。
「では彼がこの部屋に来たのは……」
「彼に一曲踊って差し上げて?」
ついに本題が告げられた。「ついに」って言えるほどもったいつけてもいないか。
「わかりました」
彼女の返答は比較的早かった。こうくるとわかっていた風にもみえる。アポなしに自分の前へ人が招かれてきて踊る――こういうのには慣れているのだろうか。
準備が整い、曲がかかる。ゆったりしたテンポの和風チックな伴奏に合わせて、海未ちゃんが舞いはじめた。
曲中の細かい仕草――指先、足にぶれは皆無。すべての動きから目が離せない。
はじまってすぐ、舞いに惹かれていた。
曲へ彼女が動いているのに、曲が彼女のために流れているかのようだった。山場に入り、彼女が扇子を広げた。俺は考えることも忘れて、舞をただ貪って見つめる。
美しい、美しい、美しい――――。
感情は、それだけに支配されて。
悠久に続いて欲しいと思った舞いが終焉した。薄緑の畳が敷かれ、花瓶が奥の台座に飾られている簡素かつ渋い和室に、一人の男の拍手が鳴り響く。
言葉はいらない。彼女へ抱いた率直の感動を拍手へと変え、送った。
とんでもない女性に惚れた、そう思いながら。
あれれ?これ前回と一つにまとめて書けばよかったんじゃないか()
日舞につき無知ゆえ間違っていたら申し訳ありませぬ。
ではでは~!