ただ、遠くから…   作:AQUA BLUE

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クリスマス番外編のくせして終了したのは12月27日という……うーんこの


甘々なクリスマス? 後編

 ミス発言より4時間ほどが経っても、俺達はまるでいっこうに進まないお見合いのようにだんまりとしていた。ただし、さすがにずっと街中にいるわけにはいかずに移動した。今はいるのは俺が住むアパート内のリビングで、その中心に敷いてあるホットカーペットの上にて向かい合う形で座っている。

 

 ダメだ、いつまでもこんなふうではサンタガール案件が解決しない、床の温かさを感じている余裕など皆無。俺は気まずさを堪えて話を動かすことにした。でも、まずは言いたかった本音を吐露する。

 

「……どうしてこうなった?」

「知りませんっ!」

 

 それを、寒き冬に出現せし本物のサンタガール……ではなく、サンタガール服を着ている海未ちゃんはチェリー並に真っ赤な顔で切り捨てた。彼女はわなわなと体を震わせている。おまけに涙目だ。正直なところ抱き締めたい……以下、欲望は割愛。

 

 思えばこのシチュエーションに辿り着いたのは、実にあっという間だった。

 

 4時間前、俺がとんでもないことを口にしたことによってどうしようもない空気になったし、どう足掻いても俺は変態の烙印を背負う宿命にあった。ところがどっこい、そこで突然にも豪雨が降ってきたのである。

 

 どちらも傘を持っていなかったので俺達はとりあえず動きざるを得なくなり、そうして真横にあった店に飛び込んだのだが――幸か不幸か、雨宿り先はコスプレ専門店だった。しかも落ち着いて店内を見回してみれば、そこには最悪の偶然が待ち受けていた。シーズンのためにピックアップされていたのか、サンタガール服が飾られていたのだ。

 

 当然ながら余計に気まずくなっただけなのだが、これにはまだ続きがある。

 

 この時、俺を圧迫していた緊張がとうとう極限に達した。だから血迷ったのだろう、今となってはよく覚えていないものの――俺は唐突に金をはたいてサンタガール服を購入してしまったのだ。我にかえった後で自分をぶん殴りたくなったね。

 

 しかしながら、ごく近くに俺が住むアパートがあった(そこでちゃんと雨宿りできるということ)のと「せっかくだから」という精神が奇跡的にもお互いに合意をもたらし、海未ちゃんがサンタガールに変身するに至ったというわけだ……。

 

 

「……本当にごめんよ」

「今更遅いです……」

 

 深々と謝る、するとリターンしてきたのは海未ちゃんの力なきお叱り。ああ、ただただ面目ない。

 

「あはは……な、なんだかんだで着てもらっちゃったけど、いつでも元の服に着替えてね! その時はリビング外に出るから!」

 

 そう付け加え俺は口を閉じた。サンタガールが拝めなくなるのは惜しい、けれども海未ちゃんにそのまま着ていて欲しいなんて言えるはずもない。

 

 もちろん、内心では最高だと狂喜している。第一、大和撫子なイメージの海未ちゃんがこのようなサンタガール服で身を固めること自体が新鮮かつ素晴らしいし、広めに露出した肩や鎖骨や太もも、華奢な腕が扇情的だ。加えて赤と白のコントラスト、もう様々な意味で目が眩んでしまう。

 

「…………です」

「ん?」

 

 ぼうっと考えていると、海未ちゃんが風があったら絶対かき消されてしまいそうなぐらいの声で、何かを呟くのが聞こえた。

 

「……あぁ、うん」

 

 僅かに迷ったが、俺は追及するのをやめた。呟いた内容はわからなかったが、きっと彼女にとって恥ずかしいことなのだろうと察したからだ。

 

 妙なふうにこじれてしまったけれど、好きなタイミングに着替えてもらってこのサンタガール案件は決着としよう――――

 

「その……こ、このままでいいです」

 

 とか思っていたのも束の間。なんと海未ちゃん、新たなる爆弾を投下してきた。

 

 心臓が跳ね、目眩がした。聞き間違いか?

 

「ちょっとお待ちになさって」

「何をですか?」

 

 思考回路とドキドキでショートしかかったのでタイムを取ろうとするも、通じない。海未ちゃんはあっさりとぼけてみせると、急に立ち上がってこちらにトコトコ向かってきた。海未ちゃんらしからぬ行動に激しい動揺が押し寄せてくる。

「う、海未ちゃん。どうし――っ」

 

 なんとか問いかけようとするも、近付いてきた彼女の顔を見て言葉に詰まった。それはさっきよりもっと紅潮した顔。

 

「なんだっていいじゃないですか……」

 

 俺の隣まで歩き来て、躊躇なく腰を下ろす海未ちゃん。

 

 そして、

 

「それと、海未ではありません。今の私はサンタガールですから」

 

 彼女はトドメを放った。

 

 いいや、本人にそんなつもりは毛頭なかったはずだ。単にいつも通り、目を合わせて話しただけに違いない。強いて言えば恥ずかしさが一周して、海未ちゃんは自分らしく振る舞えなくなっているといったところか。彼女は感情のメーターが限界を超えるとたまにこうしてキャラが崩壊する時があるので、おそらくはそれだろう。

 

 だが、俺の理性(ヘタレ)を揺るがすには圧倒的すぎる。サンタガール服を召した海未ちゃんが、これほど近くで潤んだイエローブラウンの瞳をじっと向けている――――とんでもないや。下手したら聖夜の間違いをしかねない。俺と海未ちゃんはこれまでの付き合いでそこそこに親しいが、恋人同士ではない。無責任なことはやっちゃいけない……って、今日は12月23日だから聖夜じゃなかった。

 

「……」

「っ!」

 

 危うく情けない声をもらしかけた。言葉こそ発さなかったけれど、今度は海未ちゃんがもたれかかってきたのだ。やはり彼女はキャラ崩壊を起こしているようだ……と、そんなことより大変だ。海未ちゃんが腕を俺の右腕に絡ませて離さない。右に海未ちゃんがぴったりくっついている、我ながら信じられない光景だった。

 

 どうしようもなく愛おしいぬくもりに、海未ちゃんの柔らかい体が腕を伝ってくる。新品なる服独特の匂いと、清涼感ある彼女の香りが嗅覚を蹂躙する。おかげで理性が蜃気楼のように薄っぺらくなっていく。

 

 ――やばい、冗談抜きで襲ってしまう!

 

 俺はハラショーな空間に甘えたくなるのをギリギリのところで抑え込み、断りにかかる。

 

「うーんと……サンタガールさん? これはいったい……」

「少し――――こうさせてください」

「はい勿論です」

 

 無理だった。とても断れなかった。海未ちゃんの声が震えていたのだ。俺は悟る。海未ちゃん自身、もはやどうしたらいいのかわからないのだ。すなわち俺達はお互いに混乱しているということか……。

 

 と、俺が再び理性との戦いを再開した時。

 

 ――ゴォロロロロロロ…………

 

 黄と青白を足して割ったような色の光が射し、雷鳴が轟いた。

 

「ひぃぃぃぃぃっ!?」

 次いで部屋中に大きな悲鳴。しかし叫んだのでは海未ちゃんではなく、俺。

 

「うわっ、おい、やべぇこええええええっ!」

「計!?」

 

 俺、戸宮計はお化けだろうがゴキブリだろうが全然平気だ。が、雷だけはどうしても苦手なのである。

 

 さっぱり忘れていた。左側の窓に掛かっているカーテンの先に広がる外は、未だに悪天候だったのを。雷のおそれがあったのを。

 

 さらに追い打ち、不意に室内が闇に還った。

 

「え……また雷かっ?!」

「違います! これは停電……きゃっ!」

 

 海未ちゃんの声と倒れるような音がしたが、そこまで気を回せる精神状態ではなかった。暗い世界で必死にもがく。

 

 結果、俺は自分の体をホットカーペットへ伏せようとした。何故か普段よりやけに熱くてふにっとしていたが、それどころではない。たぶん困惑のせいで感覚が狂っているだけだ。

 

「っん……ぁ……っ……」

「……あれ?」

 

 しかし艶めかしい吐息が顔にかかっているのに気が付いて、俺は冷静さを取り戻した。どうもおかしいのだ。ドタバタゆえに配慮を怠ってしまっていたが、そういえば海未ちゃんはどこにいるのだろう。ちゃんと謝りたい。

 

 ――って、もしや彼女は俺の真下に?

 

 ここまで考えて目線を下に向けた瞬間、雷の影響で落ちた電気が復活した。

 

「い、いきなりひどい……です……っ」

 

 想定通り、真下。そこには泣きそうな、くすぐったそうな、それでいて恥ずかしそうな――そそる、弱々しい表情の海未ちゃんが。

 

「あっ。あ、あああ……ごめん、すぐにどく!」

 

 噛みっ噛みながらに弁解し、俺は全速力で海未ちゃんから離れる。最低な失態だ。海未ちゃんを体ごと押し倒すなんて。

 だが、俺の動きは途中で止まった。違う。止められていた(・・・・・・・)、海未ちゃんに。

「なっ――」

「待って、ください」

 

 

 ――ゴォロロロロロロ…………

 

 また、天から降り注ぐ光と雷鳴。

 

 だけど俺は、珍しくもその大っ嫌いな恐怖に反応することはなかった――――。

 

 




サンタコス海未ちゃんを拝みたい人生だった。
クリスマス番外編は以上でございます! この後どうなるのかは皆さんの妄想にお任せ致す。というか、このまま書いたらR18になりそうだったのである()

ではでは!
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