ただ、遠くから…   作:AQUA BLUE

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いつもの前書きですが…特に書くことなし!!
それではどうぞ!


揺れつつある心

 俺は“あの人”を見て、高ぶった心境に耐えきれずに逃げてしまった。百歩譲って逃げただけならまだしも、隣にいる絢瀬さんをほっぽりだしてその場から消えた自分が許せなかった。だから俺は穂むらに行くのを止めて、ある場所へ赴いている。

 

「きっつ……ここってこんなに長かったか?」

 

 俺は石の階段をお出掛けで疲れて重くなった足で上りながら、溜め息混じりにぼやいた。加えて冷え込んだ風も襲い掛かってくるのでどうしようもない。

 めげずにせっせと上って、やっとながーい階段の終わりが視認されたかと思うと、お次はその奥に露となってきた存在感溢れる建物らに気圧される。

 

 

「初詣に来て以来、か」

 

 いつ来ても大きいな、ここは。夕暮れ時で人が少ないだけによけい大きく、広々としているように感じるよ。

 

 

 かくして、俺が訪れた場所とは――

 

 

 

 神田明神だ。

 

 初詣やお参りに行くのはもちろん、悩んでいたり自分の行いを反省したいと思った際に、この神社へと赴く。今日やって来た理由は無論後者である。

 本堂の前に立ち、目を閉じて手を合わせ静かに祈りを捧げる。「視覚」を一時的に封じたためか、それとも祈りで邪念でも抜けてくれたのか、自分でもはっきりとはわからない何かが研ぎ澄まされていくような気がした。

 そして祈りを捧げ終わると、俺は邪魔にならない座れそうな所に腰を下ろした。

 

 

 俺は一度悩むと、くよくよする節がある。それは己のウィークポイントだと自負しているが、こればかりはくよくよ考えなければならぬ事だ。

 

 ――“あの人”をどう思っているのか。

 

 1年前、駅で初めて見てからずっと好きだ。それは事実。問題はその部分ではない。俺は結局、この恋をどうしたいのだろう。

 答えは、至極簡単だ。ただ、遠くから…一目惚れした“あの人”を見ていられるだけで、それだけで、幸せ。自己満足かもしれないが、それが俺の想いと恋心の結論。

 

 ……そう思っていた、しかし最近はどうだろう。

 

 気が付けばあの人の事を考えることが多くなっている。あの人を見るたびに、動揺は増していく。1年前に初めて見かけたときにもドキドキはした。しかしながら、平静が保てなくなる程では全くなかった。

 

 同じ車両に乗ろうと、ハプニングが起きて大きく接近して至近距離で彼女を見たとしても――遠くから見るより動揺こそ大きかったが、今日のように平静を失って動揺して逃げるというような事はなかった。

 

 そう考えると、俺の気持ちが変わってきているのは、否めないんだよなあ。

 

 

「否めない、その通りだ」

 

 だが、それを悟ってどうだというのだ。

 自問自答の終幕は、まだまだ来そうにない。

 

 俺は鳩が一匹、そこら辺を歩き回って飛び立つまでのさまを、ぼうっと眺めているのだった。

 

 

「ずいぶん悩んでるみたいやんな?」

 

 優しい、包み込むような女性の声がした。

 

「……ばれたか」

 

 俺はその声に、間をもって答える。

 

「なーんとなくね。そんな気がしたん」

「お見通しってわけね。神社のお手伝いごくろうさん、希」

 

 後ろから俺に声を掛けた、似非関西弁が特徴の人物は――東條 希(とうじょう のぞみ)だった。

 紫がかった髪をしていて、柔和な雰囲気を持つが……スピリチュアル? とでも言おうか、どこか凄いパワーを秘めていそうな、これまた“あの人”とは違った意味で魅力的な女性。 ……俺、美女を見ては分析してるよな。これだから男ってのは。

 

 小さい頃から神社の近くで遊び、高校になってもこの神社に来ることが比較的多かった俺は、その時期に神田明神で巫女の手伝いをしていた希と知り合った。

 きっかけとして目立つ点はない。時折神社で見かけるなあとか思っているうちに、どちらからともなく話しかけるようになり、少しずつ慣れ親しんで今に至る。彼女は信頼できる親友、といったころさ。

 

「かれこれ数年の付き合いやからね。計くんの事はだいたいわかるんよ」

「ほほう。ならば今俺が何を考えているかわかるか?」

「そんなのわかったらエスパーやん!」

「ハッハッハッ……」

 

 知り合った頃から、やることはあまり変わっちゃいない。こんな風に希とそれとなくグダクダなやりとりを繰り広げるのだ。

 あと、突っ込まずにはおいたけど。気配を感じさせずに後ろまで近付いてきてたのって……よくよく考えば末恐ろしいっつーの。

 

 

 

 

 

▲▽▲▽

 

 

 

 

 

「よっこらしょっと」

 

 俺はおもむろに立ち上がり、あくびをひとつ。かなり話し込んでしまったな、日が完全に落ちている。もう地面の石っころがすっかり見えない。

 

「どこ行くん?」

「明日はまだ休日だし、ちゃっちゃと戻って家でゆっくりするぜ。よって帰る!」

「あはは…計くんらしいね」

「じゃあな希。また会う日まで~♪」

「変な言い方~」

 

 希に適当な別れの合図を送り、階段を下りていく。俺の顔は歩き出してすぐに曇った。希との談笑は気が楽になったが、一時的。

 

 葛藤に――――何の答えも出ない。俺はどうしたいんだ。

 どうすればいいんだ。

 

 

「――計くん!」

 

 走ってきたのだろうか、少し上ずった希の声。俺は振り返らず、彼女の呼び掛けに立ち止まった。

 

「何?」

「ウチは計くんが何を悩んでるかは知らんよ。けどね……計くんが大切な何かと向き合おうとしていることはわかるん。 ……だからこそ、思い詰めすぎるのは良くないと思うんよ。もう少し――肩の力を抜いてもいいんじゃないかな?」

 

 ドキッとして、振り返りそうになった。彼女の言うことへの驚き。

 希はもう何も言わなかったがおそらく、呼び掛けたその場に立ち、此方を見据えている。

 

「ありがとうな、希」

 

 俺は一言のみ残すと手をピッと上げて、再び階段を下り始めた。どうして振り返らなかったか――それは、今振り返ったら泣いちまうかもしれないから。

 豆腐メンタルもいいとこかもしれない。でも希の一言は、今の俺にとって……温かかった。

 

 本当にお見通しって事ですかね。親友ってすごいっすわ。「希のおかげで肩の力が抜けた」なんて本人にはこっぱずかしくて、とても言えやしない。

 

「さて……明日も休日満喫すっか!」

 

 なんだか吹っ切れた俺は、ゆるりと家路をゆくのであった。

 




卵スープがうまい。何杯も飲んでしまう。
お湯を入れて飲むインスタント式だが、私的にはインスタントラーメンより好きです。それではまた次回!
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