『参謀……いえ、今は提督ですか?』
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「艦これ」的「ブルネイの旭日」(みほ5ん)
:第10話(改)<援軍と帰還>
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<<海上:イタリア艦>>
『お待たせ!リベだよ!』
無線からの明るい声……一応、英語っぽいが、訛りが凄い。その声を聞きながら、私は指揮車のドアロックを外した。
外で待っていた防衛次官と、隣に居たイタリア軍人が全身をススだらけにしながら入ってきた。戦場特有の焦げ臭い匂いだが、不快感は無い……お互い軍人だから。
入ってくるなり、防衛次官は明るく言う。
『いや~、参った、ミサイル攻撃とは参ったよね~』
『私、アフリカ沿岸で、経験ありますよ~』
イタリアも当然、明るい……こりゃ、まずいコンビだな。底抜けに賑やかになるぞ。
『チャオ!イタリア武官です、お見知りおきを……』
やや強引に握手をする。青い瞳と天然パーマっぽいクルクルの髪の毛。そして、大きな柔らかい掌が印象的だな。
『あのリベッチオがさ、もう~出たい~~~って聞かなくてねぇ~。噂じゃさぁ~ドイツも早々に出撃したていうじゃない~。もぉ~勝手に出ちゃおうかって思ってたらネ、次官が来たからさ~。許可貰った途端、あの娘、すっ飛んで行ったわよ。脚は速いからねぇ』
下手では無い英語だが、語尾がクネクネした発音で……オネエか?ガチガチ感のあるドイツ軍人との落差が激しすぎるぞ。
『そこのUボート!聞こえて?ちょっと伏せてね~~~』
無線が聞こえた。
『……!』
そのドイツ艦娘が驚いたと同時に、すぐにノイズと轟音が入る。
無線が続く。
『敵、駆逐艦、大破2!』
<<海上:対空戦>>
続けて美保の艦娘たちの無線が次々と入る。
『敵陣が崩れた!早くあの艦娘を!』
『任せるっぽい!』
『瑞雲は、もうちょっと踏ん張れないか?』
『済まない、手一杯で……』
『空も行くわよ~~~』
これはイタリア艦娘だ。耳に刺さる声だな。
『え?』
少々ノイズが入り、直ぐに報告が入る。
『敵機、3……いえ、4機撃墜!』
『やるわね~』
誰かの闘争心に火がついたらしい……夕張さんか?
頭のクルクルに、指を突っ込みながらイタリアが割って入る。
『あの娘、どっちかって言うとさぁ、対空射撃のほうが得意なのよね~』
『負けていられないな、行くぞ伊勢』
『よしきた』
ほう、航空戦艦部隊も、尻に火が付いたか。
ちょっと間があって無線が入る。
『敵機、さらに撃墜……多数』
少なくとも日向は、射撃能力はピカイチだからな。何となく、形勢を盛り返しつつあるのあろうか?
だが次の瞬間、その考えは甘いことに気付かされるのだった。
<<海上:強敵>>
『きゃあ~』
この声は、夕張さんか?
『……痛ッ!』
『日向ぁ!』
『気をつけて!魚雷多数!』
『日向、中破!』
誰かの報告が入る。まずいな、日向が被弾したか?
『oh~シッ……』
『金剛、中破!』
戦艦までやられたか。
『気をつけて……魚雷多数!』
なに、魚雷か?すると潜水艦がいるのか?確かに、空ばかり見ていた連中が、軒並みやられているが。
『なに、酸素魚雷?……敵が!』
そのとき、私を異様な寒気が襲う。なんだこれは……鳥肌が立った。まさか?
『……あれは?』
誰かが叫んでいる。
『深海棲艦?……いや、お前は』
続けて苦しそうな日向が呟く。そう、これは間違いない、あいつだ。
『ヤハリ、オマエタチダッタカ……』
<<海上:深海棲艦>>
『アマリ、デアイタクナカッタ……』
間違いない。深海棲艦(大井・仮)だ。現場海域にいない私たちも、そして恐らく技術参謀も凍りついているだろう。こいつの、この威圧感は相変わらずだ。
深海棲艦(大井・仮)は、無線にも良く通る声で言う。いや、これは割り込み無線なのだろうか?
『ワルイコトハ、イワナイ。スグニ、タチサレ』
『なに言ってるの?こいつ!』
妙な訛りでリベが叫ぶ。
だがすぐに『えぇ?なんで?』
……恐らく彼女は単独で攻撃しかけ、その場で誰かに制止されたようだな。
イタリア武官がクネクネして言う。
『なァに~?変わった敵が出たのぉ~?』
ひっ……やっぱり苦手。違う鳥肌が立ちそう。すぐに作戦参謀が説明する。
『ああ……彼女は元、艦娘ではないかと思われる奴だ。厄介な敵だ』
そうか、参謀も深海棲艦(大井・仮)のことは知っていたか。
『アイツモ……ココニ、イルノカ?』
深海棲艦は攻撃せず、問いかけてくる……え?”アイツ”って、ひょっとして私のこと?
『それは、司令官のことですか?』
祥高さんが落ち着いて答えている。
その次の瞬間、私の心臓に激しい痛みが走った。
「ぐ……」
私の異変に気付いたらしい、作戦参謀が声をかける。
「おい、どうした?具合でも悪いのか?」
「……いや」
私は否定した。そのとき、もし今ここで私が倒れてしまったら、この戦線が一気に崩れる……そんな感覚があったのだ。私は心臓の痛みを必死で堪えた。
そのとき無線からノイズ。轟音に混じって報告が入る。
『タンカーに水柱!』
なに?誰が……そうか、これは伊号がやったのか。
『フフフ……ムダナコトヲ!』
だが深海棲艦(大井・仮)が不敵に笑う。次の瞬間、激しい轟音。
そして報告。
『海中より潜水艦、急浮上!……伊401、大破です』
まずい、やはり敵は上手だ。さらに、まだ続くノイズと轟音。
『伊401に敵の集中砲火、続けて急降下爆撃多数!』
まずい。
『きゃあ~!』
伊401の叫びが入る。このままでは401が轟沈してしまう。
『もうやめろ!』
私が叫んだその瞬間、フッと体が宙に浮いたような、すべて静止した感覚に包まれた。その直後に私は心臓に激しい痛みを感じて倒れたらしい。誰かが遠くで叫んでいるような……あの声は作戦参謀だろうか?
だが私の意識は、急に遠のいてゆく。
<<海上:パノラマ>>
ふと気付くと私は、あの”悪夢”の中に来ていた。
いったい、どのくらい気を失っていたのだろうか?周りを見て一瞬、舞鶴沖かと思ったが……明らかに違った。右手にはタンカーが見える。ああ、ここはブルネイ沖か。この状況は空から俯瞰しているパノラマのような構図だ。
そして中央付近に、攻撃を受けている伊401が居るが……なぜか、全体的に絵が止まっているように見える。いや、スローモーションのように動いているが……まったく、この忙しいときに、なぜ?
私はすぐに、どこかに大井……いや、あの深海棲艦(大井・仮)が居ないか探した。すると、ふいに横から落ち着いた声がした。
『参謀……いえ、今は提督ですか?』
声の質が違っている。私は、ゆっくりとその声の方を向いた。
『ああ、お前か……』
私が答えると、見覚えのある顔……いつも悪夢で見る彼女だった。ちょっと安心した。下の敵とは別人か?
『嬉しい……覚えて下さったのですね』
彼女は微笑んだ。その姿は普通の艦娘にしか見えない。だがこの艦娘は、実は敵ではないのか?
『お前は……敵か?』
つい私は疑った。その言葉に、彼女は海面に視線を移して寂しそうな顔をした。
『分からなイ』
いや、分からないのは私も同じだ。なぜか、この場に来るとまた彼女の名前が思い出せなくなった。
だが私はふっと、別のことを思い出した。
『あの、お盆のときに見た小さい娘は、お前の……?』
私が口にした言葉で、急に彼女は激しく反応し始めた。
『ワカらナイ!』
<<艦娘:ワカラナイ>>
……え、なんだ?あれは別に娘でも何でもないのか?
その割には首を左右に振って激しく否定している彼女。私はもしかしたら彼女の思わぬ地雷を踏んだのか?
彼女は先ほどまでの穏やかな表情とは打って変わって、どんどん異形に変化していく。いや、これはいったい、なぜ?
『ヤラナケレバ、ヤラレル!』
再び顔を上げた彼女は、もう艦娘とは似ても似つかない姿になった。人間らしい面影はまったく無くなっていた。ああ、この艦娘は、やはりそうだったのか……私は軽い衝撃を受けた。
その彼女が手を上げると、眼下の戦場に居る実体の”彼女”が指令して周りの深海棲艦たちが、一斉に砲撃を開始した。戦っている艦娘たちの周囲に水柱が林立する。この場には無線は聞こえてこないが、艦娘たちが軒並み被弾していくのが分かる。祥高さんも被弾。次々と立ち上る火柱と黒煙。そのスローな映像が、よけいに艦娘たちの痛みを伝えてくる。苦悶する艦娘たち。どんどん私たちの形勢が不利になっていく。
『バカメ……サッサト、ニゲナイカラダ』
私の存在は忘れたかのように腕を組んで眼下を見下ろして呟く彼女。
そのとき海面にいる実体の”彼女”の前に、誰かが飛び出してきた……寛代じゃないか!何をやっているんだ!バカ!お前が立ち向かえるような相手じゃないぞ。
『クッ……』
しかし、私以上に驚いていたのは、私の隣にいる”彼女”だった。
『チッ!マタオマエガ……ナニヲ、ヤッテイルンダ!』
意外な台詞を呟いている。やはり覚えていたのか?寛代のことを……。
『ワカラナイ……』
「なに?」
『ナゼダ?ワカラナイ……』
彼女は、寛代を見詰めてつぶやいている。
<<異形:ワカラナイ>>
『ワカラナイ……』
突然、彼女は両腕を押さえるようにして苦しみ始めた。
だが、もがきながらも彼女は攻撃を続行しようとしている。必死に顔を上げると、眼下の”分身”に指令をする。すると攻撃が続行され、寛代や祥高さんを始めとした艦娘たちが、次々と攻撃されていく。映像がスローなだけに、わが身が切られる如く痛々しい。心臓がキリキリと痛む。
「やめろ……やめてくれ!」
私は呟くように言葉を発したが、彼女は聞く耳を持たない。額に汗が出てきた。
「やめろ!」
もう少し強い口調で繰り返したが、なおも彼女は攻撃を止めない。
私は心臓を押さえながら横を向いて直接、彼女の顔を見た。彼女は一心不乱に眼下の艦娘たちを睨みつけている。そして、その艦娘たちは、次々と被弾し大破、傷ついていく。
『モウ、コレデサイゴダ』
彼女は、おもむろにタンカーを指差した。そこには装填が完了したらしいミサイルが、列を成して空を狙っていた。もう発射準備完了なのか?
「やめろ、やめるんだ!」
私の言葉に、ようやく彼女はこちらを向いた。至近距離で見る深海棲艦は、何ともいえない不気味さである。だが、その紅い瞳は哀しげだった。その長い髪が、風になびいている。
そして彼女は、ひとこと呟いた。
『モウ……モドレナイ』
その言葉に私は反応した。
「そんなことはない……攻撃はやめてくれ。一緒に帰ろう」
私は心臓を押さえていた片手を離すと、ゆっくりと彼女に差し出した。何となく境港の神社の境内を思い出す。彼女もまた私に向かって手を差し出しかけたが……ハッとしたように動きを止めた。そんな彼女は何かを、ためらっているようだった。
<<異形:き……たかみ>>
動きを止めた彼女の長い髪が、また風になびいている。ゆっくりと首を左右に振った彼女は、手を引っ込めると、あきらめたように言った。
『……ダメ、戻れナイ」
そのとき私は祥高さんが、轟沈直後に三途の川の手前まで逝ったが、自分の意思で戻ってきたことを思い出していた。確か作戦参謀もまた、彼女の浮上を願っていたはずだな……その境界線上では、きっと本人の気持ちと、その人を想う、地上からの、もう一人の気持ち。そこに何か、鍵があるような気がした。
私は確信を込めて、再び彼女に力強く問いかけた。
「戻れるよ。お前が願えば……少なくとも私は、お前に戻ってきて欲しい!」
『……』
私の言葉に、彼女はさらに葛藤しているようだった。
その紅い瞳で、ジッと私を見つめていた彼女は、口を開いた。
『モドレルノカ?……私でモ」
表情が少し緩んでいるな……これは出来る。そう思いながら私は、大きくうなづいた。
「ああ、一緒に帰ろう。みんな待っているよ。北上も……」
その名前に、彼女は初めて表情を変えて、反応を示した。
『キ……たかみ……?」
「そうだ、北上だ。お前のことを心配していたんだ。あの”おにぎり”だって……」
その言葉に、急に胸を押さえ、うつむいた彼女。長い髪の毛で一瞬、表情が見えなくなった。
「きたかみ……」
小さい声で呟きながら、何かを思い出しかけているようだ。
「き・た・か・み」
何度も確認するように繰り返していた彼女の異形の風貌が徐々に薄くなっていく。
「司令……」
気が付くと彼女の声音(こわね)が変わっている。いつの間にか、その顔は普通の艦娘の表情に戻っていた。だが彼女の目は、まだ何かを恐れているような、寂しい、迷いの色が見える。
「私の……名前を……覚えておいででしょうか……?」
そのとき、一瞬緊張が走った。いつも、思い出せなかった彼女の名前だ。
だが、今なら言える。私は怯えるように見詰める彼女に向かって、自信を持って答えた。
「覚えているよ、”大井”。さぁ、一緒に帰ろう」
そう言って私は両手を差し出した。彼女はようやく手を差し出した……そして、私の手を取り、そのまま脱力するように、私に倒れ掛かってきた。
そんな彼女を私は、しっかりと両手で受け止めた。
「お帰り、大井」
「ただいま……戻りました」
やや小柄な彼女の身体は、小刻みに震えていた。泣いているのだろうか?
だが彼女の身体は温かかった。私はもう一度、語りかけた。
「一緒に、還ろう」
「はい」
彼女は応えた。間違いない、この艦娘は決して異形なんかじゃない!戻ってきてくれたんだな、大井。
「ありがとう……」
なぜか、そんな言葉が出てきた。
「はい」
小さく応えた彼女。気が付くと、私の心臓の痛みは消えていた。それは今までの蟠(わだかま)りが消えた瞬間だった。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ5ん」とは
「美保鎮守府:第五部」の略称です。