「それは艦娘だ!最大限、援護、確保に努めろ!」
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「艦これ」的「ブルネイの旭日」(みほ5ん)
:第11話(改)<申請復活と最後の砦>
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<<指揮車内:覚醒>>
その場所での大井の体の温もりが私の想いと一つとなった感覚に包まれたが、同時に私の意識もまた、急に遠のいていくのだった。
「……ここは、いったい何処だろうか?」
私がいる場所は、薄っすらと何かの景色が見えるようだが、それでいて、つかみどころが無い。まるで霧の中に居るようだった。そして遥か遠くの方から何かの音が聞こえてくる。
「これは波の音か?」
それは、砂浜に寄せては返す波のように何度も繰り返している。それでいて強弱もあって、ときどき大きなうねりがやってくる不規則な音……。
「いや、声だろうか?」
波のような音は、次第に人の声に変わる。それは誰かが私のことを遠くから呼んでいる……何度も呼ばれ、同時にそれは、私の身体を揺さぶる大きな振動と変化した。
……あれ?
「司令っ、しっかり!」
ハッと気が付くと私の目の前には作戦参謀の美貌……いや、見慣れた顔があった。ただ、薄いメガネレンズの奥から覗くその瞳は普段の鋭い眼差しではなく、不安に満ちたものだった。
(作戦参謀も、こんな表情をするのか)そう思った。
私が気付くと同時に、参謀の心配そうな顔は、すぐに安堵の表情へと変わった。
「気が付いた!良かった……司令はどこか持病でもお持ちでしたか?聞いてませんが」
……ないよ、そんなものは。自慢じゃないが、この身体だけは健康なんだ。ふと見ると防衛次官やイタリア武官も心配そうに覗あき込んでいる。いくら参謀に色気が無くても(失礼!)負傷してもいない司令が女性=艦娘に抱っこされる光景には、我ながら急に恥ずかしさを覚えた。
私は慌てて立ち上がろうとしたが、やはり頭がクラクラする。自分の身体が空回りするような感覚だ。
「無理しないで!……安心して下さい、誰も司令を責めませんから。初めての総司令官というのは思いのほか重圧なんです。倒れても……おかしくないです」
さすが場数は踏んでいる作戦参謀だ。その言葉に私も救われる思いだった。私は彼女に支えられて何とか立ち上がった……。
何だか違和感が……そうだ、大井、大井はどうした?
<<指揮車内:報告>>
「艦娘たちの状況を……現場で動きがあったはずだ!」
立ち上がると同時に、直ぐに発した私の意外ともいえる質問に、その場にいる全員が一瞬、驚いたようだ。
すぐに作戦参謀が答えた。
「あれから、なぜか敵が総崩れになって……ちょうど今、攻撃可能な艦で何とか反撃したところです。でも、こちらの絶対火力が少なすぎる。膠着状態なのは変わらない」
「そうか……」
やがて艦娘たちからの報告が入り始める。
『状況確認……3から4隻の敵艦船を撃沈。艦種は不明』
『こちらの被害はありません。Uボートも無事です』
『さきほどの敵のリーダーと思われる深海棲艦は、いまだ不明』
「不明……か」
私は呟いた。
あの大井は何処へ行ったのだろうか?それとも、あれはやはり私が見た幻影だったのか?
私は居ても立っても居られなくなって通常無線で話しかけた。
「美保司令だ。その敵のリーダーは攻撃したのか?命中か?」
やや遅れて反応があった。
『敵が怯んだときぃ、祥高さんが攻撃したけどぉ~。主砲じゃないからぁ、とどめは刺していないはずよ~』
龍田さん……通常無線だ。
『でもさ~祥高さんってオレには、わざと外しているように見えたけどな』
これは天龍か。
そのとき作戦参謀が無線に反応する。ステルスモード、祥高さんからの直接無線だな。
『ああ……そうか。了解……事情は承知した。祥高姉さんは、まだしばらく様子を見てくれ』
すぐに彼女は私に報告する。
「祥高姉さんから、あの深海棲艦には何か”自分に近いもの”を感じて、どうしても撃てなかったそうです」
「……ああ、分かるよ」
私たちの会話に、いったい何のことだ?といった感じで顔を見合わせている次官とイタリア武官。
大井、必ず戻ってきてくれ。私は祈るような心地だった。だが彼女はこの海の何処かに必ず居る。この海に戻ってきている。私には、そんな確信があった。ただ、違和感が付きまとうけど。
また作戦参謀に入電する。
『……なんだ寛代か?ああ、無事だったか……。なに?近くに居るって、誰が?』
そのとき通常無線が反応した。
『あれは、何デスか?』
金剛がかん高い声を上げて驚く。
『海中から艦娘が急浮上しました!』
最上が叫ぶ。
『なにぃ?伊号はもう他には居ないはずだぜ!』
天龍も驚いているが、私には直ぐ分かった。
私は間髪を入れず無線で指令を出す。
「それは艦娘だ!最大限、援護、確保に努めろ!」
『了解!』
一斉に返事が返ってきた。
何か特異な状況が目の前で展開していることは、誰もが感じているはずだ。これが一度逝ってしまった艦娘の”復活”なのだ。
出来れば、あの海で再会したかったな、”大井”……お帰り。
<<海上:新生復活>>
『あの人……キラキラして、キレイなのです……』
ブルネイの電が呟いている。ふっと、敵の攻撃も一瞬だが止まっているようだ。
『マジ、パネェ~やばい、やばいよぉ~』
感極まっているらしいブルネイの漣だが、お前は何処でそんな言葉を覚えるんだ?
『ちょっと、見とれてないでさぁ、誰か!服っ、早く上着かしてっ!』
夕張さんが叫ぶ。
あれ?キレイとか、服とか……ひょっとして?
『そりゃ~新しく生まれ変わるってことは、赤ん坊のようにスッポンポンってことでしょ?』
防衛次官、それ本気で言っているんですか?
『そうねぇ~誰か、写真撮ってくれないかしら?きっとゲージュツ的よね~』
イタリア武官まで……。なんだか崇高な話題も、この二人にかかると妙に下品に聞こえるのはなぜだろうか?まったく、この連中は変なところで意気投合しているよな。その脇で作戦参謀が青筋を立てながらも、必死に無視しているようにも見えるし。
青葉さんには申し訳ないが、今はカメラマンが現場に居なくて良かったかもしれない。艦娘の”新生復活”という現象。これは記録に残しておきたい反面、公然の秘密ということにもして置きたいな。
そもそも轟沈した艦娘が”新生復活”するという奇跡的な現象が、どういう理屈で再現されるのか、まったく分からない。だが、こういう超常的なことは下手に広まらないほうが良いだろう。そんな気がする。特に陸軍にバレると非常にまずい。これはきっと人間が悪用してはいけないんだ。
作戦参謀が無線を受けて報告する。
「”復活”した艦娘を無事に確保したそうです。敵も一時攻撃を中断しているから、この間に我々も、いったん前線を後退させます」
「了解だ」
無線の向こうからは艦娘たちも、また恐らくは敵も含めて、初めて目の当たりにする奇跡的な光景に半ば呆然としている感じが伝わってくる。そうだよ、これは奇跡だ。本来、誰も触れてはいけない神聖なものなんだ。なぜかその現場は、当然ここでは見えないんだが、感じるんだ。非科学的だけどな……私は苦笑した。
『あれが……”大井”なのか?』
そうか、ブルネイの天龍は量産型だから知っていたとしても知識としての”大井”しか知らない。
すぐに美保の龍田さんがフォローする。
『そうね~、私もチラッとしか会ったこと無いけど~。何となくそうみたい』
『何言っているのよ!これは大井よ!』
はあ、夕張さんは知っているようだな。
『確か……大井なら、美保司令が良く知っているはずだ』
ボソッと日向が呟いた。いいよ、そんな私的なことを無線で言わなくても。
『何ぃ?二人はどういう関係ネ~~~?』
ほらぁ~日向がそういうこと言うから、やっぱり金剛が高い声でカットインしてくる。なんで日向はいつも、そういう炎上しそうな方向に話を持っていくんだろうな~。
案の定、こっちでもイタリア武官が食いついてきた。
『あらぁ~、司令サンとは、そういう関係の艦娘が”復活”したのぉ?そりゃ俄然、興味あるわね~、ねぇねぇ』
ちょっと、小突くなって!まだ心臓がバクバクしてんだからっ。興味なんか湧かなくても良いよ!
『確か、美保司令がまだ駆け出しの士官の頃に、冬の舞鶴沖で沈めたんだよな……それで海軍内では、長らく美保司令は低能だとか、ヘボ参謀とか悪く言われ続けたんだ』
ちょっと防衛次官~それを今さら蒸し返して欲しくない……特に、あなたから言われると、なぜかよけい傷つく。
そんな私の気持ちを覚ったのかイタリア武官が言う。
『あらあ~大丈夫よ。名医ほど、人を殺めているって言うし』
イタリアさん、それ全然フォローになってないって。
<<状況:膠着状態、再び>>
「でも、このままでは……あのタンカーからは、間もなく第二次攻撃が始まります」
作戦参謀が聞いてくる。ここで立案が必要か。
「祥高さんが距離をとれば主砲を撃てないか?」
私は確認した。だが作戦参謀は首を振る。
「残念ですが先ほどの戦闘で祥高姉さんは中破状態です。主砲もほどんど使えません。他の艦娘も、だいたい似たり寄ったりです。状況的にみて敵も残された主軸の武器は、もうミサイルくらいしか無いようですが……それでもミサイルを撃てばブルネイ泊地を無力化するには十分。相手のミッションは達成でしょう」
「対空機銃とか艦載機で発射されたミサイルを落とせないか?」
私は確認してみた。
「まったくのゼロではありませんが可能性は低いでしょう。とりあえず可能な者には狙わせてみます」
あまり乗り気では無さそうだが、作戦参謀は艦娘たちに伝達をしている。
「だが敵の狙いが艦娘にあるとしたら、タンカーから一定の距離を取った時点で、連中がミサイルの照準を艦娘に向けてくる危険性もある。艦娘たちを、あまり急いで陸地に戻しすぎるのもキケンだぞ」
次官がいきなりカットインしてくるが、その分析は正しい。現に、岸辺に居た扶桑や山城が、やられたわけだから。
「……結局、膠着状態は続いているわけか」
私は肩を落とした。
『済まないわねえ~リベッチオ一隻じゃ、とても力になれないわねえ~』
イタリア武官が言うので私は返した。
『いえ、お陰でドイツの艦娘は助かりましたから』
私はフォローした。
『そうねえ~。お互い、貴重な艦娘ですからねえ~』
海外では、特にそれは言えてるな。
<<状況:人質>>
そのとき、作戦参謀が無線を受ける。
『何?それは本当か?……参ったな……分かった。相談してみる』
通話が終わった作戦参謀は、妙に複雑な顔をしている。
「司令、ご相談ですが……祥高姉さんから、あの大井が言うにはタンカーには人質が乗っているから攻撃をしないで欲しいとのことです」
「人質?それは、どういうことだ?」
作戦参謀は、耳を貸せというジェスチャーをする。ちょっと気恥ずかしいが私は彼女の顔に耳を近づけた。
『あのタンカーには、大井の娘が乗せられています』
「ええ?」
思わず大声を出してしまった。”おいっ”て感じで、しかめっ面をした作戦参謀、済みません!
……あれ?やっぱり違和感が……まあいい。
それよりも、あの女の子だ!あの子は、やっぱり、お前の娘じゃないか!大井。
そんな私を次官とイタリア武官が驚いて見ている。
「まったく、最後まで厄介な奴らだ……」
作戦参謀が吐き捨てるように言った。
そのとき、現場の艦娘から入電。
『敵、ミサイルを発射!』
その言葉に、車内の全員が硬直した。
「ついに始まったか……」
作戦参謀が歯を食いしばった。悔しいのは私も、いや全員が同じ気持ちだろう。だが、どうする?
思わず私は叫んだ。
「可能な艦は、ミサイルを狙え!」
『了解!』
艦娘たちは応えたが、果たして命中するだろうか?
そのとき、無線が反応した。
<<戦場:ミサイル防衛>>
今受信した無線は作戦参謀が受けている。私はそれを横目で見ながら、艦娘たちの様子を伺う。
『リベ、行きま~す!』
『伊勢、頼む!』
『任せて!』
『ああ!悔しい~』
この嘆きは夕張さんだと思う。多分、彼女が大井を抱えているから機銃が撃てないんだろう。済まないね~自慢の対空兵装だろうに。
『ダメです、撃ち漏らしました……』
祥高さんの、やや気落ちした報告が入る。仕方ない、もともと無理な話だ。
今のところミサイルは一発のみ。タンカーのミサイル部隊も、ミサイルの弾着を確認してから一気に来るのだろう。だからこそ、この初弾を撃ち落とすだけでも効果はある。
タンカーとこの埠頭の中間に誰か居たかな?……赤城さんは大破、伊168にはミサイルは無理だ……となると。
「山城さん!聞こえるか?ミサイルを狙えるか?」
私は無線に叫んだ。
「……やってみます」
いろいろショックを受けているだろうけど、最後の砦だ。何とか頑張ってもらいたい。直ぐに、海岸のほうから砲撃音が聞える。だが正直、あまり期待は出来ないか?
やがてヒュルヒュルという嫌な音がハッキリ聞えてきた。指揮車内の私たちはミサイルの衝撃に備えて身体を安定させた。
そういえばブルネイ市民たちも、多少は避難する時間があっただろうか?ブルネイの街の被害も最小限で済んで欲しい。私は心底、願うのだった。
そう考えていた次の瞬間だった。激しい轟音が海岸のほうから聞えた。ちょっと間をおいて無線が入る。
『……やった、当たったわ……』
山城さんが、か細い声で呟いている。
「なに?やったのか!」
私は叫んだ。だが山城さんは『お姉さま、見て……私、やったわよ……』という、やや危ない雰囲気だ。ぶつぶつと呟き続けている……まあいい。意外ではあったが、これは大金星だ。
よくやった!……と伝えたいが、今の彼女は、聞く耳を持たないだろう。取り敢えず、そっとしておこうか。
「まさか……」
さすがに、これは次官も驚いている。偶然のまぐれ当たり?私は苦笑した。
「これで時間を稼げるわねえ~。よぉし、私も防空を呼びかけてくるわ」
イタリア武官が帽子を被りなおすと、突然やる気を出して立ち上がっている。
「危険じゃないか?」
次官が心配するが、イタリア武官は笑った。
「アタシも軍人よ。前線の兵士が命がけで頑張っているのに、私だけが安穏としてられないわよ!」
そういうと彼女……もとい、彼は外へ出て行った。見直したよ、イタリア武官。
<<戦場:武人、再び>>
あれ?ふと見ると作戦参謀が、嬉しいような信じられないような変な……いや不可思議な表情をして、こちらを見ている。直ぐに報告したいというオーラに満ちているけど。
「司令ぇ……」
なぜか駆逐艦娘の如くに、ろれつが回らず言葉が続かない作戦参謀、珍しい。
「えぇ?なにぃ?」
思わず聞き耳を立ててしまう私。彼女は必死で無線を指差すのが精一杯……うわ、そのしぐさ!ちょっと……妙に可愛いんですけどぉ~って。どうしちゃったんですか?さっきから……違和感が……でも、そんなに緊急事態?
その驚愕する理由は直ぐに分かった。無線から聞き覚えのある声が聞えたのだった。
『今のは、まぐれとも言い難いが……待たせたな、美保鎮守府の司令殿。……私だ』
……この声は、まさか!
『美保司令殿……断片的に通信は聞かせてもらった。まだ距離があるが、私なら十分だろう。ここからタンカーを狙っても良いが、どうする?』
武蔵様?いや、ここは現代だから未来の武蔵様ではない……でも本当にリアル武蔵様が来たのか?まさか、わざわざ本土から?
寛代が何かを調べて応える。
『戦艦”武蔵”および駆逐艦”清霜”沖合いに展開中……』
私は直ぐに状況説明をした。
「いや、タンカーには人質が……」
『分かっている。だが時間稼ぎも必要だろう?』
さすが武蔵様。彼女は頭も切れるんだよ。あの眼鏡越しに見詰める洞察力を含んだ瞳を思い出す。時代は違うが、この武蔵様とも気が合いそうだぞ。
急に合点がいった……そうか!時空を越えて分かり合える、それが艦娘という存在なんだ。そう思った私は今は彼女を全面的に信頼することにした。
「了解。武蔵様、数発お願いする!」
『フフフ……妙だな、美保司令とは初めて会った気がしないが。まあいい、付近の艦娘を直ぐに退避させろ。清霜も少し下がっていろ……ゆくぞ!』
私は慌てて無線機に向かって叫んだ。
「みんな聞こえているだろう!46センチ砲が来るぞ!全員、迅速にタンカーから離れろ!ミサイルを気にせず十分に離れろっ!」
『了解?』
状況が分かっていない者も複数いるが、ここは戦場だ。とにかく逃げろ!
突然、妙な威圧感が辺りを支配する。これだよ、この感じ。大型艦が持つ特有の威圧感。これが本当の戦場なんだ。車内の次官も武者震いだろうか?こわばった表情でニタニタしている。気持ち悪いなあ。
幸い敵のミサイル第二波はまだ来ない。やるなら今しかない!
『撃てぇ!』
無線から武蔵様の声が聞こえた。来るぞ!
こちらは狙われていないのに、車内の私たちは思わず身構えた。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ5ん」とは
「美保鎮守府:第五部」の略称です。