「君はやっぱり、君のままなんだな」
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「艦これ」的「ブルネイの旭日」(みほ5ん)
:第15話<復活は、君の愛のままに>
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<<哨戒艦:青葉さん>>
ブルネイの士官が報告する。
『間もなく現場に到着いたします』
『ありがとう……甲板に出ようか』
私はブルネイ司令に声をかけた。
彼は、さっきまでの勢いは何処へやら、一瞬、ボーっとしていた。だが、すぐに「ああ」と言って、立ち上がった。いろいろあったからな、彼がそうなるのも分かるよ。
私たちが甲板に出ると、日はかなり傾いて、ブルネイの海は、さっきよりもキラキラと輝いている。海上には艦娘たちのシルエットが並んでいる。既に祥高さんから聞いているのだろう、彼女たちは私たちが船で近づいても、さほど驚く様子も無かった。むしろ驚いたのは私のほうだ。
「あれ?青葉さん……戻らなかったのか?」
よく見ると、夕日を浴びた青葉さんが、まだそこに居た。彼女はイタリア武官の期待した裸体ではなかったが、服はボロボロで、かなりやつれた表情をしている。轟沈直後だと、裸体にならないのかな?と、変な感想を抱いた。
すぐに祥高さんが申し訳無さそうな表情をして哨戒艦に近づいてきた。私もそちら側の甲板へ寄った。海上から祥高さんが大声で叫ぶ。
「すみませーん、司令。青葉さんには何度も戻るように言ったのですが」
見ると青葉さんは、誰かの上着を羽織って、それでも何かを見据えるような真剣な表情をしている。私は思わず返した。
「青葉さんに言ってくれ。留まるのは構わないから、この哨戒艦へ上がって来いと」
祥高さんに促されて、ハッとした様な青葉さんは、ゆっくりと哨戒艦に近づいて来る。甲板からタラップが下ろされ、祥高さんに付き添われた青葉さんが上がってきた。
「青葉、戻りました……」
彼女は直ぐに敬礼をしたが、弱々しかった。
「ご苦労だった、よく戻ったな」
私と、ブルネイ司令も返礼していた。
私たちが敬礼を解くと、彼女は急にいつもの……あの悪戯っぽい笑顔になった。
「へへへ、シ・レ・イ……私たくさん秘蔵写真があるンだから……あれを”死蔵”させるなんて、とても死んでも死に切れませんから……」
その言葉に、思わず私も気持ちが楽になった。ああ、これでこそ、いつもの青葉さんだ。だが、そう言いながらも彼女は、ぼろぼろと涙を流し始めて、その場にへたり込んでしまった。うつむきながら彼女は言った。
「すみません司令。でも私、絶対に戻るって……そうしたら、司令の声が聞こえたんです……」
すぐに祥高さんが支える。思わず私も駆け寄った。
「もう良いよ、青葉さん。今は加賀さんのサルベージが先だ」
彼女は、黙ってうなづいた。そして、とても小さい声で呟くように言った。
「すみません司令……でも、嬉しい」
「ああ、私もだよ」
彼女は再び私を見上げた。とても安心した信頼の眼。この輝きを永遠に失ってはならない、私は改めて決意した。
『誰か!イスを持て!』
突然、背後のほうで女性秘書官が命令をする。
『ハッ!』
他の隊員が椅子を持ってきた。
秘書官は椅子を青葉さんの側に寄せて、祥高さんと代わろうというジェスチャーをした。祥高さんもうなづくと、そのまま立ち上がって私を向いた。
「では司令、作業を始めます」
「ちょっと待て」
私は祥高さんを呼び止めた。海上に赤城さんが居るのを確認したのだ。彼女も大破していたから服は、ボロボロだ。伊168に支えられて、なんとか立っている状態だった。
「赤城さんは、大丈夫なのか?」
祥高さんも振り返る。私たちの視線に気付いたのだろう、海上の赤城さんは私たちを見ると、軽く会釈をした。その表情は多少疲れているが、口をきりっと締めて何かを決意しているような眼差しだった。
祥高さんは言った。
「赤城さんも、合流した直後は不安定でしたけど、青葉さんの姿勢に彼女自身、何かを感じたようです。恐らく加賀さんの復活には、赤城さんの気持ちがカギになると思います」
「そうか、分かった。では続けて頼む」
彼女は軽く敬礼をすると、海へと下りて行った。ブルネイ司令も、うなづいている。
<<海上:艦娘たち>>
再び艦娘たちの輪の中へ戻って行く彼女を目で追うと、その中に、ひときわ目立つ艦娘がいた。ああ、武蔵様だ。同行している駆逐艦は、清霜だろう。武蔵様は私と目が合うと軽く手を上げた。私も思わず敬礼をした。夕日にきらりと彼女のトレードマークのメガネが光る。
ブルネイ司令が言う。
「あれが武蔵か?やはり存在感があるな」
「ああ……彼女とは、いろいろあってな」
思わず口が滑った。ブルネイ司令が何かを言いかけたが、私は逃げるようにして青葉さんの近くに行く。そして女性秘書官と並んでイスに座っている青葉さんに話しかけた。
「加賀さん復活のためには意識の集中が必要だが、君は戻って早々、体調もすぐれないだろう。無理はしなくて良いぞ」
秘書官が持ってきたのだろう。タオルケットを羽織っている彼女は鼻をすすりながら、まだ少しべそをかいていた。
だが私を見上げると、また軽く、悪戯っぽく笑って言った。
「えへ……真っ暗闇のところから、この海上に戻って直ぐには私も混乱していたんだけど……記者の勘っていうか。この千歳一隅のチャンスを逃してはならないっていう思いが強くて、ホントは、そっちなんです。でも、これはナ・イ・ショだよ」
さっきよりも、元気な感じがした。
彼女の笑みに、私もホッとして、微笑みながら言った。
「安心した。君はやっぱり、君のままなんだな。本当に良かったよ青葉さん……戻ってきてくれて、ありがとう」
そう言って、私は彼女の肩に手を乗せた。彼女の温もりがホンノリ伝わってきた。それは、彼女の生命そのものの脈動のように感じられた。
「やだっ……」
そう言うなり、彼女は下を向いてしまった。何となく、耳まで真っ赤になっているように見えるんだが、夕日に照らされているから確信は無かった。
ふと顔を上げれば、煌めく海の上で夕日を浴びた艦娘たちが円陣を組んでいる。その逆光のシルエットを哨戒艦の上から見詰める私たち。私も海軍に居ながらここ最近は、ほとんど船に乗っていなかったから、この海の揺れる感じは心地良い。何かが蘇ってくるような、波の奏でるリズム感だ。
「始まるぞ」
ブルネイ司令が言う。私たちも、それぞれの位置で、意識を集中し始めた。
<<海上:艦娘と愛>>
『総司令官、その救出までは、だいたい、どのくらい時間が必要ですか?』
青葉さんの隣に座っている女性秘書官が聞いてくる。
私は、ちょっと考えてから答えた。
『うちの……美保鎮守府の秘書艦が言うには長くても20分くらいが目安のようです』
こちらを見上げている青葉さんを見ながら、私はさらに続けた。
『この青葉さんの場合は、短時間でしたから、恐らくケース・バイ・ケースでしょう』
するとブルネイ司令が呟くように言う。
「……人の愛は相対的だが艦娘は違う。五月雨の純粋さ……あの艦娘の姿は衝撃だった。艦娘の気持ちってのは痛々しいほど一途だ。まさに”絶対愛”かな?」
何を言い出すんだ?いきなりでビックリした。でもこいつはキザな台詞が似合うから良いんだよ。私なんか冗談でも言えないって。
私に構わず彼は遠くを見ながら続ける。
「今、うちの試作艦娘たちが比較的安定しているのは艦娘同士で上下左右のつながりが出来始めているからだろう。そういう連携……特に姉妹艦同士のつながりって言うのかなぁ。そこに何かポイントがあるような気がするんだ。オレの仮説だが……それが”愛”なのか」
「……なるほどね」
本当は、よく分かっていないけど、適当に相づちをうった私。
「逆に彼女たちが人間に裏切られたとき、そのショックは、計り知れない。だからあの深海棲艦は人間のエゴによって出現したと言う話を今日、技術参謀から聞いたんだ」
ああ、それは何となく……大井からも聞いたような気がする。
彼は止まらない。
「技術参謀が言うには一度ケッコンしてリコンすると、人間は大丈夫だが艦娘は廃人同然になるらしい。だからいま男性側からも簡単にリコンが出来ないように法律を改正しようと、あの次官と作戦参謀が動いているんだ」
「そうか……」
聞きながら冷や汗が出ていた。何だ、あの次官、あんな尻軽なこと言ってる割には艦娘のために、しっかり動いてるんだな。
しかし何だか、その法案が通ったら逆に艦娘とケッコンしたいと言う男性が減るんじゃないか?もっとも艦娘たちの本当の幸せを考えたら、そのくらい規制をしたほうが良いのかも知れないが。
あれ?でも技術参謀自身は、夫である提督が戦死しているんだが、大丈夫なのか?そう思っていたらブルネイ司令が補足した。
「相手が病死とか戦死した場合は問題ない。特に子供が居れば、感情も安定する。とはいえ艦娘の場合は相手が死去しても、ほぼ再婚はしないらしい」
……って、技術参謀の感情は安定しているのか?ちょっと疑問だが。私は思わず苦笑した。
しかし艦娘とのケッコンなんてゼロではないけど、私の知っている範囲ではほとんど聞かないしなあ。
そのとき私はふと大井を連想した。彼女の場合は、さらに複雑そうだ……相手も謎だし。ただ相手が誰であれ彼女とその娘は、美保鎮守府で護ってやりたい。そう思う。
『始まりますよ……』
秘書官に諭されて、私たちは集中を始めた。夕日に照らされて紅く染まった空と煌めく海。そこで聞いた艦娘たちの愛の話。何とも言えない気分になるな。
<<海上:死と生>>
私たちも黙って……黙祷のような体勢をとった。まるで海上葬みたいだが……うまく行けば艦娘の生命が復活するのだ。死と生が交差する不思議な空間だ。
ブルネイの人たちはイスラム教が多いだろうし、ドイツやイタリアは多分、キリスト教だろうけど。日本は何だろうか?神道か?鎮守府にあるのは神棚だけど、形ばかり参拝して正直、信仰心の”シ”の字も無いよな。
それでも日本人の場合は八百万の神とか言うし。美保鎮守府だって美保関や出雲大社が近い。多かれ少なかれ日本人そのものは自然な形で超越した存在への畏敬の念は持っている。それが在るから艦娘のような超越した存在に対しても、異形ではなく仲間として自然に受け入れる素地があるように思える。
”海端に国あり、名づけて扶桑とす”……あれ?だれかの言葉だっけ?
「意識を加賀さんに集中してください」
祥高さんのステルス無線を傍受しているのだろうか?青葉さんが呟くように言う。思わず私は反省して、加賀さん……というよりも、赤城さんに意識を集中した。
何しろ加賀さんとは縁がなかった。正直、意識のしようがない。むしろ、赤城さんを支える気持ちの方が、効果があるような気がする。それに、人間側で最も意識が高いのは、ブルネイ司令だよな。彼にも期待しよう。
<<海上:意外な艦娘>>
紅く染まった海上で、あるいは哨戒艦の上で……恐らくは、鎮守府や、作戦指揮車内でも、皆が心を一つにして加賀さんの復活ために祈ってくれている。そうして徐々に高まっていく独特の高揚感と緊張感。ある意味、そこまで想われる艦娘は、幸せだなと思う。もちろん、ブルネイ司令の心に何かを灯した五月雨も忘れてはいけないが。
しかし、この作業は20分が目安となっている。普段から瞑想とか祈りを以って集中する訓練が出来ている宗教者ならいざ知らず、そうでない平凡な私たちにとって、誰かを想い続けて集中するのは20分くらいが限界だろう。ましてや、ほとんどのメンバーが戦闘直後で精神も肉体も疲れている上に、それを一日に2度、3度と繰り返すことは、とても無理がある。
そう考えている、雑念に満ちた私自身も良くないよな。ああ!ごめんなさい、加賀さん。私なんか無視して、どうか復活してくれ!
私の心情とは裏腹に、海上では静かな時間が流れる。時間にして10分くらい経っただろうか?さすがに青葉さんのときよりも、今回は時間が必要らしい。何となく、ソワソワしている艦娘も出始めている感じだが大丈夫かな……そう思っていた瞬間だった。
『来た!』
また、寛代が叫んだ。よし、ついに来たぞ!
すぐに海面が盛り上がった思ったら、派手に水しぶきを上げて一人の艦娘が現れた……あれ?
『んあ~~~っ!』
だ、誰だよ?
海上に飛び出した艦娘は、水しぶきを散らして夕日にキラキラと反射している。それは綺麗なんだけど……。その艦娘は、よく見ると服は加賀さんと同じような青色だけど、なんで水着なの?しかも髪の毛も青くて……って、加賀さんじゃない!どう見ても彼女は潜水艦娘じゃないか?
驚いたのは私だけではなかった。その場に居た全員が驚き……というよりも、唖然としている。
中でも一番驚いていたのは伊168と伊401だろう。
『……なんで!』
『……ていうか、あなた、もしかして?』
そうか、この場に居る潜水艦娘たちも知らないうちに、この艦娘は沈んでいたのか!
そんな艦娘が、どういう因果か、この場に割り込むようにして”復活”したようだ。でもなぜ?いきなり関係の無い、この艦娘が”復活”してくるのだ?
皆の動揺をよそに、現場の祥高さんが、落ち着いて問いかける。
『あなたは……潜水艦娘ですよね?』
問われた彼女は、ちょっとボーっとしているようだったが、すぐに頭をかきながら明るく答えた。
『へ……、あの……い……伊19。皆は”イク”って呼ぶんだよ~、……いひひっ』
ちょっとろれつが回っていない。というか、元々、そういう話し方をする艦娘なのか。
<<海上:潜水艦の事情>>
『19!』
伊168が叫びながら19に近づき、抱きついた。
『あなた……あなた……生きてたのね……』
伊168は、何度も確認している。その後は、言葉にならなかった。そうか、引き金は彼女だったか……熱い心を持っている感じだからなあ~彼女は。私は、戦闘中に赤城さんに激を飛ばしていた伊168を連想していた。
伊19は苦しそうにもがいている。
『わあ~、ちょっとぉ~168ってばあ~!痛いってぇの~』
『ああ、ごめんなさい……だって、あなた、ずっと姿が見えないと思ったら……』
ようやく離れた二人。
『んふ~、ごめんね~……ていうかさぁ、イクもねぇ、自分で分からないうちにさぁ、何だか沈んじゃってたんだよね~。でもビックリしたのはイクなの。何がどうなっているの?』
そうか。そう言う彼女自身も、訳が分からないよな。
『いいの……お帰りなさい、19』
伊168は、再び伊19を抱き寄せると、彼女のボサボサに爆発している髪の毛をなでながら、優しく言った。19も明るく……でも、ちょっと震えたような声で答えた。
『ん……まぁ……、た・だ・い・まっ!』
そう言って、甘えたように笑う伊19だった。紅い夕日と、煌めく海面を背景に、浮かび上がる二人のシルエット。それは実に絵になる。
突然の事態に固い表情で、最初は驚いていた赤城さんも初めて微笑んでいる。この伊19の復活は、赤城さんにも何か、刺激を与えたようだな。
潜水艦娘たちは多くの場合、単独で作戦行動をする。敵をかく乱しながら潜航していくが、その作戦形態ゆえに誰にも気付かれることなく戦果を上げる。しかし逆に、ひっそりと轟沈することもある。敵にはおろか、味方にすら気付かれないで、消えていく……すべてが孤独。それが潜水艦娘たちの宿命。だからこそ、芯が強い艦娘が多いんだな。
『どうやら、願っていた艦娘とは違う艦が”復活”したようですね』
ブルネイの女性秘書官が、呟くように言う。
『ははは』
思わず乾燥した笑いを浮かべた私だった。なんともばつが悪い。
海上の祥高さんが、大声で叫ぶ。
『ちょっと、手違いがありましたが、仲間の復活は喜ばしいことです。ただ、ごめんなさい。ひょっとしたらもう、加賀さんは、かなり難しいかもしれません』
珍しく弱気になっている祥高さん?だが、赤城さんがカットインする。
『お願い、皆さん!……力を貸してください!』
赤城さん、両手を広げて、皆に訴えている。何ともいえない表情だ。
『この中には加賀さんを知っている人も居るでしょうし、知らない人も多いと思います。もちろん、今沈んでいる加賀さんは、量産型ですから、本物ではないかもしれません。でも……私は彼女と一緒に戦って、感じたのです。量産型も、オリジナルも、何も変わりません。むしろ、新しい仲間として、一つになって、共に戦っていきたいのです!お願いします……皆さん、お願い……』
最後は言葉にならなった。顔を覆って、泣き出した赤城さん。そこに龍田さんが近寄ると、軽く肩を抱き、皆を振り返った。
『みなさ~ん、私からもお願いするわ~。もう、戦闘で疲れているし、気分的にも大変なのは分かるけど……私たちは同志でしょ?一蓮托生って司令もよく仰るし……もう一度、もう一度だけ、お願い』
夕日を浴びて赤城さんと龍田さんは、まるで情熱、あるいは血塗られた象徴の如く紅蓮の太陽光が当たる。艦娘たちは少しずつ手を取り、緩やかに円陣を組み始めている。海上の武蔵様も、腕を組んで様子を見ていたが、軽くうなづいて清霜と共に輪の中に加わった。清霜は何度も武蔵様に、念を押すような表情をしている。
「大丈夫そうだな」
ブルネイ司令が呟く。
「ああ、もうひとふん張りだ」
私も応えた。
陽は、かなり傾いた。恐らく、次が最後のチャンスになるだろう。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ5ん」とは
「美保鎮守府:第五部」の略称です。