”艦娘たちよ、永久なれ……”
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「艦これ」的「ブルネイの旭日」(みほ5ん)
:第17話(改)<最後の攻防と、艦娘の哀歌>
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<<夜戦:嫌な気配>>
武蔵様が、その主砲で砲撃をするたびに、辺りが明るくなる。46センチ砲が発射される際の、砲撃の火球が凄まじいの一言だ。これは滅多に見られるものではない。ボートに居る私たちは、まるで夏の花火見物客のように、その模様を見詰めていた。遥か彼方に、弾着があるようで、時おり時間差で爆破音と、彼方に火柱が立つのが見えた。若干、敵の砲撃も弛んだように感じられたそのとき、青葉さんが叫んだ。
「敵が……駆逐艦?何か小さな艦船が多数、こちらへ高速度で向かってきています!」
それは、すごく嫌な気配を感じた。実物は見たことがないが、変な噂を聞いたことがある。敵の中には通常の駆逐艦よりも、遥かに小さいボートのような船体に魚雷を積んで、特攻のように突っ込んでくる部隊が居るという。名前は何て言ったかな?だがすぐに疑問は解消された。青葉さんが呻くように呟いたのだ。
「間違いないです……PT小鬼群です!」
「何だそれは?」
ブルネイ司令が聞く。
直ぐに青葉さんが解説をする。
「雷撃を主とする敵の艦船で、高速移動してくるんですが、とにかく小さくて、戦艦や普通の主砲では補足出来ないんです。今、私たちの戦線は武蔵さんが持ちこたえてくれていますが、もしそいつらが大挙してこちらへ到達したら、もう防ぎ切れないかも知れません」
「つまり奴らが防衛網を、すり抜けるってことか?」
ブルネイ司令が確認するように聞く。
「そうです。あれが出てくると、もう厄介で……しかも今、夜戦ですから、なおさら私たちの命中率が下がります」
ボートにいる私たちは、恐らくは問題ないだろうが、むしろ海上の艦娘たちが危ない。
青葉さんは続ける。
「祥高さんが、今、注意を喚起しています。ただ、そいつの魚雷の航続距離が短いのが幸いで、敵もある程度は、私たちとの距離を詰めないと攻撃してこないのです」
「まだ距離はあるか?」
私は聞いた。
「はい。ただ結局は、武蔵さんの砲撃で、敵の切り札が、あぶり出された形になっているのでしょう」
答える青葉さん。
私は言った。
「とりあえず、駆逐艦だけでも、退避させるか?」
「……」
青葉さんは何も答えなかった。同じ艦娘仲間としては、敵前で戦わずに撤退するのは嫌だろう。ましてや、艦娘が少しでも減ることは、圧倒的に不利になる。しかも、このまま行けば、残された艦娘たちが、PT小鬼群の餌食になるのも目に見えている。
そのとき不意に爆破音が響いた。振り向くと、武蔵様に敵の魚雷が命中した模様だ。苦しそうな体勢の武蔵様……いよいよ第一波が到達したのか?
「散開だ!」
私が叫ぶまでもなく、艦娘たちは悲鳴を上げながら逃げ惑う。そんな中でも、武蔵様は、全身で一手に魚雷を引受けようとしている。頼むから、もう被害担当艦は止めてください!
参った……いよいよ、万事休すか?そのとき、青葉さんが弾かれるように反応した。
「え?誰?」
<<夜戦:援軍>>
私は叫んだ。
「どうした!」
青葉さんは信じられないといった表情だ。
「比叡2号と……戦艦の榛名さんが来ました!」
「榛名?なぜ……わざわざ本土から来たのか?」
私も驚いて叫んだが、青葉さんは続ける。
「榛名さんから祥高さんに通信が……あの榛名さんはブルネイの量産型です!」
「何だって?」
私は思わず、ブルネイ司令を振り返った。彼はニヤニヤしていた。
「ギリギリ間に合ったな……戦艦クラスだとは思っていたが、まさか金剛型とはね。でも脚の速い艦娘で良かった」
なるほど、そういうことか。今日の演習用の量産型が建造された直後も、ブルネイの研究所では、継続して建造作業を進めていたらしい。そこで、大当たりだな。日頃の行いがいいのだろう。
「榛名さんたちが、データリンクに合流します……すごい、情報が前よりも鮮明にになります」
そうか、元になるデータ量が多いほど、このデータリンクシステムは有利になるんだ。
「反撃できそうか?」
私が聞くと、青葉さんは、ニコッとしてブイサインを出した。
「榛名さんたちも、お任せくださいって!」
遠くに、あの金剛型の二人がチラッと見えた。直ぐに彼女たちは、暗い海上に向けて副砲で砲撃を開始する。少し間があって、弾着。即火柱が立つ。データリンクによる夜間射撃……電探並みの命中精度なのだろうな。
もしこれが、あの当時の舞鶴沖にもあれば……いや、もうやめておこう。過去は過ぎ去ったことだ。私も、過去はもう振り返らないで、前だけを見て進んでいこう。私は彼女たちの活躍を見ながら、そう思うのだった。
<<夜戦:掃討作戦>>
武蔵様は数発の魚雷を受けたが、まだ何とか反撃の余力はあるようだ。なおも遠くに居る残党を狙っているらしく、時おり砲撃を繰り返し行っている。その戦闘意欲も含めて彼女は、あまりにもタフだ。頼みますから、本当にもう、止めて下さい!……と言いたいところだが、無理だろうな。
比較的、近距離に接近していたPT小鬼群だったが、金剛を中心とした比叡2号と榛名さんたちの編隊によって次々と駆逐されていった。金剛もデータリンクには対応していたらしく、一人のときよりも、かなり命中精度が上がり、戦果も上々のようだ。
また、ある程度の攻撃続行が可能な他の艦娘たち……龍田さんや天龍、最上といったデータリンク対応艦娘を中心として、駆逐艦たちも、口頭指導を受けながら弾着補正を繰り返し、反撃を試みている。ただ、やはり自前でシステムを持っている艦娘と、そうでない艦娘の戦闘能力の差は大きいと言わざるを得ない。そこは仕方がないな。
「榛名さんかぁ……」
急に青葉さんが呟いた。私は彼女のほうを見た。
(もう暗いので、表情は、ほとんど見えない)
「何かあるのか?」
私が聞くと、暗がりで彼女は答える。
「何だか、彼女と私とは、いろいろと縁がありそうですよ~。彼女はブルネイの量産型でしょ?このまま戦闘が終わって私たちが本土(日本)に帰るときにはもう、お別れなんだなあ~って……」
表情は見えないけれど、残念そうな口ぶりだった。
海上も、かなり暗くなっていて良く見えなかった。だが比叡2号が探照灯をつけたとき、暗闇に浮かび上がった榛名さんの周りに、日向と伊勢が寄り添って、何かを話しているのが見えた。あいつらも、榛名さんには、興味があるみたいだな。何となく、性格も良さそうだ。
やがて青葉さんが受電して、私に祥高さんからの進言内容を伝達してくれた。
「祥高さんから……”データリンクのない駆逐艦には、これ以上の作戦行動は厳しいようです。潜水艦娘や海外艦娘と一緒に、ブルネイ地下埠頭へ戻し、あわせて哨戒艦から脱出した司令たちのボートも、駆逐艦に曳航させます。それで、よろしいでしょうか?”……とのことです」
そうだな。戦闘もほぼ、収束に向かいつつあるし、ボートも戻していいだろう。
「了解、よろしく頼むと伝えてくれ」
私は承認した。
「イエッサー!」
冗談が言えるくらいなら、だいぶ元気になったんだな?青葉。
<<帰還~艦娘の哀歌>>
やがて、暗闇から次々と私たちのところに艦娘たちがやってきた。
「あ~、司令っぽい」
すぐに夕立と分かる。相変わらず、謎の日本語を話すな、お前は。だが無事で良かったよ、夕立。
「ぽい?」
……はい、はい。
「他のボートには、伊401とか、伊168が向かったっぽい~。じゃ、ボートに、これを付けて~……っぽい?」
夕立はワイヤーロープのような線を、どこからともなく取り出してきた。私たちのボートに、それを接続すると夕立は少しずつ前進を始めた。
もし日中だったら十分に奇妙な光景……艦娘がボートを引っ張るという構図なんだけど。幸い、暗いからな……ボートからは、夕立の金髪の後姿がボンヤリと見える程度。それでも、頼もしく見えるよ夕立。
当たり前だけど、やはり艦娘に引っ張られると速い。ボートはぐんぐん岸へ向かって進んでいく。
曳航されて、しばらくすると、波の音に混ざって何か、鼻歌のような歌声のような音が聞こえはじめた。まさか夕立が歌っているのか?……いや、気のせいだ。周りの人間の兵士たちには、何かが聞こえるとか、不思議そうな素振りをしている者は一人もいないようだった。
でもやっぱり……他のボートの方向からも、歌声のようなメロディーが聞こえ始めた。ただ、これは水しぶきのようでもあるし、風の音かとも思わされた?耳障りでないから、まるで自然の音のようだ。それでもジッと耳を澄ましていると、周期的であり、和声のような調和が感じられて、何かの旋律のようにも聴こえる……断片的に、何かを感じるのだ。
そういえば私の目の前にいる青葉さんも、さっきから黙りこくっている。そもそも、私たちを引いている夕立も、珍しく振り返りもしない。ただ何となく、彼女たち自身が、その歌声に共鳴している感じがするのだ。不思議な感覚……それは、耳で聴くと言うよりは、むしろ体全体?いや、もっといえば精神で”感じ取る”ような、感覚的なメロディなのだ。
耳障りではない代わりに、何だろうか?胸が締め付けられるような成分を含む音だ。これは、もしかすると艦娘たちの歌声なのだろうか?そして、この歌は凱旋歌なのか?あるいは、戦士たちへのレクイエムなのだろうか?今は良く分からない。
ただ艦娘たちが激しい戦闘が終わると、誰ともなく自然に歌いだすものかも知れない。そう考えると、まるで哀歌のようでもある。何とも心にしみてくる。そうか、やはりこれは戦争という不条理に対して、黙々と立ち向かい、傷ついていく艦娘たちの心の歌声なのだろう。
この歌声が聴こえているのは、艦娘たちを除けば私だけのようだ。ひょっとすると艦娘たちが、私に心を開いてくれているのだろうか?いや逆なのかも知れない。鈍感な私でも、ようやく艦娘たちと相対出来るようになったのかも……それは、無我夢中で艦娘たちの司令として立ち、突っ走ってきて、いま初めて感じる、不思議な一体感だった。
やがて、向こうからやってくる、眼に見えない波のような巨大な”うねり”が、さらに大きく、厚くなって、私を包み込んだ。その中に居ると、胸が痛くなり、その痛みに応じて、心が熱くなってきた。同時に、彼女たちと一本の線で繋がっているような、道が通っているような、揺ぎ無い信頼感にも包まれるのだった。
そうか。私は、この瞬間のために、今までずっと、彼女たちと一緒に戦っていたのか。自然にそう思った瞬間。夕立が、そして青葉さんが……その他、大勢の艦娘たちが、一斉に私を振り返ったようだ。そして、再び、穏やかな気持ちに包まれた。なんだろうか?これは……不思議な抱擁感だった。
”司令、これからもよろしくお願いします。私たちは、ずっと一蓮托生ですね!”
そんな声が、ふっと感じられた。
私は本心でうなづき、まごころを以って応えた。
”……そうだよ、私はいつまでも、お前たちと共に戦っていくよ”
”ありがとう”
その声は、独りではなかった。たくさんの、艦娘たちの熱い想いが感じられた。
このひと時が、永遠に続いて欲しいとさえ思った。それは私だけでなく、この場にいる艦娘たちもそうであっただろう。
艦娘たちよ、永久なれ……私からの想いだ、受け取ってくれ。
ふと気付くと、いつの間にか月が昇っていた。ブルネイの明るい月か……久しぶりだな。
そんな中、ボートはゆっくりと岸辺へ向かっていた。
<<帰還:地下埠頭>>
やがて、私たちはブルネイ鎮守府の地下埠頭へと到着した。通常、ここには同盟国といえども立ち入らせないのだが、今回は非常時だから仕方がない。
埠頭に接岸して上陸。ブルネイ海軍の兵士たちは、きびきびと整列して点呼をしている。各所からの担当官たちも、ここ地下埠頭に通されており、ブルネイ司令をはじめ、ブルネイの女性秘書官も、各担当者からの報告を受けている。
先に戻った艦娘たちも、埠頭に上がるとすぐに点呼、報告とバタバタしている……変な話、一番暇なのは私だったりする。まあ、情報が整理されるまではこんなものだ。
合間を見てブルネイ司令が私のところへ来て言った。
「情報の整理が必要だな……とりあえず、お前は上のオレの執務室分かるか?」
「ああ…」
(未来と配置が変わっていなければ)
「先に上がっておいてくれ。必要なら、電話も使ってくれ」
「分かった」
私たちは軽く敬礼を交わし、私はそのまま執務室へ向かおうとした。だが、何となく気になって、鎮守府の建物の正面玄関へ出た。そこには、例の作戦指揮車が停まっていた。もしや……と思ったら
「チャオ~」
振り返ると、イタリア武官が居た。その隣では、ドイツ武官が敬礼している。
<<鎮守府:正面玄関>>
ホント、対照的だな~この二人は。後ろから技師が降りて来て言った。
「本来は、この二人をそのまま通すのは、ご法度なんですけどね~守衛も笑って通してくれましたよ」
「そうだな。でも、大丈夫だよ、この二人は」
私が言うと、技師と二人の武官はホッとしたような顔をした。多少は、気にしていたんだな。彼らも軍人だから。
「総司令官がそう仰るなら、オッケーですね」
技師も、ちょっと冗談めいて言った……だが冗談抜きで、私がまだ、総司令官の任を解かれない限り、この地域の海軍のすべての判断は、私に委ねられているのだ。恐ろしい立場だよな、総司令官というのは。
「司令……」
作戦参謀も降りてきた。何となく、この作戦では彼女の印象が一番変わった。もちろん作戦上の立場と言う理由もあるだろう。本来は私のほうが階級は下なのだが、総司令官の位置が与えられたとたん、一時的にでも命令系統が逆転するわけだから。
作戦参謀が敬礼をして報告をする。
「司令、敵の残存部隊も、戦艦など主要艦艇はすべて撃破。一部の艦艇は外洋へ逃亡しましたが、祥高の判断で追撃はしておりません。武蔵を始め現地に残っていた部隊も現在、こちらへ帰還中です」
「ごくろう。何かあったら、報告を頼む」
「ハッ」
正直言って、早く次官か誰かが来て、この任を解いて欲しいと思う。あまり、こういう位置は落ち着かないから。
『わぁ~』
後ろから、かん高い声がしたと思ったらリベッチオとドイツ潜水艦が駆けて来た。彼らも無事戻ったんだな。リベッチオはイタリア武官に思いっきり抱きついているし、潜水艦娘はドイツ武官の前で、敬礼をしている。艦娘たちも、やっぱり対照的だな。
『ねえねえ~、今日は無理かもしれないけどサァ~。また後でさぁ、皆で会わない?お食事でもしながら』
イタリア武官がクネクネしながら提案する。その腰の振りは見たくないが、食事会は良いかなと思った。そんなに嫌なやつじゃないし。
ドイツ武官の方を見ると、彼もうなづいていた。
『普段の私だったら、断っているだろうが……今回は特別だな』
『bravi!そうこなくっちゃね~。じゃあ、日時は、またこっちから連絡するわ~』
さすが武官、お互いの行動は筒抜けだから、あえて連絡先は聞かなくてもいいらしい。彼は軽く手を振ると、リベッチオと一緒にゲートへ向かう。
その直後、ドイツ武官と、その艦娘も私たちに敬礼をして、イタリア武官の後に続いてゲートへ向かった。
最後の最後まで、対照的な二人だったな。
「とりあえず、ブルネイ司令の執務室に上がろうか」
私は作戦参謀に声をかけた。
「総司令官……」
彼女は私を見て言った。
「はい?」
彼女は、何かを言おうとして、ちょっと固まっている。なんだろうか?ちょっと思い詰めたような顔をしていないか?
やしの木がサラサラと音を立て始める。夜風が出て来た。
その風になびく、彼女の前髪が印象的だった。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ5ん」とは
「美保鎮守府:第五部」の略称です。