「別に構わん、お前には……」
------------------------------------------
「艦これ」的「ブルネイの旭日」(みほ5ん)
:第18話(改)<総司令官の”戦後”>
------------------------------------------
<<夜:正面玄関前>>
さっきまでは、西の空にも多少明るさが残っていたが、既に真っ暗になった。技師は「車庫に持って行きます」と言いながら作戦指令車を移動させた(彼も大型免許、持ってんだね)
そんな流れがある中で作戦参謀と私は、正面玄関前でただ、突っ立っていた。
「……」
「……」
だめだ、お互いに会話が続かないじゃないか?いつもなら矢継ぎ早に質問や意見が飛んでくる作戦参謀が、今日はちょっと変だな……どこか調子でも悪いのだろうか?
気が付くと風が出てきた。玄関前の椰子の木立がザワザワといい、気温はどんどん下がっている。私は参謀に改めて声をかけた。
「とりあえず、上に上がりましょうか」
私は、なぜか敬語。実はそろそろ私も総司令官の任を解任されたいのだ。それを期待して、態度だけでも解任後の、いや着任前の本来のお互いの位置関係にまで、戻して置きたいと思ったからだ。
ただ、作戦参謀の表情は相変わらず固い。そして、反応も鈍い(これも珍しい)。それでも、お互い軍人だから動けば何とかなるだろうと思った私は、取り敢えず作戦参謀は放置して本館に入る……何となく、背後から作戦参謀が付いてくる気配は感じた。やれやれ、いつもの作戦参謀らしくない。思わず水木しげるロードの妖怪を連想してしまった。
何か、今回の作戦上での判断ミスとか、致命的な問題でもあったのだろうか?ちょっと心配になってきた。
<<本館:提督執務室>>
ここは提督執務室だ。まさかとは思ったが、やっぱりBarに変化するような仕掛けは入ってはいない。当たり前か。つい未来を思い出してしまって、そんな私自身を一人で苦笑する。だがハッとして振り返ると、やっぱり魂が抜けたような作戦参謀が、入り口ドア付近に佇(たたず)んでいる。だんだん怖くなってきたぞ。
「あの~」
「……」
やだな、無視?いつもの作戦参謀なら、私のこういうフニャフニャした問いかけには、渇を入れられるか、檄を飛ばされるんだが……どうもしっくり来ない。
「……」
あれ?ようやく彼女、何かを言ったみたいだけど……良く聞こえないな。
意を決して聞いてみる。
「何か、仰いましたか?」
「……ふざけないでくれ」
「は?」
「いや……総司令官で居る間は頼むから、きっちり立ってくれ」
やや苦しそうに答える作戦参謀。口調だけは元に戻っているな。私それで少し安心した。正直私も、ちょっと言葉を失ったけど、作戦参謀は、あくまでも軍人なんだ。彼女の一途な姿に、ブレやすい私は思わず反省した。
「分かった」
仕方ない。彼女の言うことは当然のことだ。まして軍人の塊みたいな彼女の性格では、総司令官でありながらフラフラする私には激しく葛藤することだろう。
そこも含めて私は彼女に返事をした。
「分かった、申し訳ない」
「だからっ!」
いきなり激高する作戦参謀。私はちょっと驚いた。だが私以上に彼女自身が、ハッとしている。まるで自分自身の感情の高ぶりに、彼女自身がビックリしているように見えた。
だが、そこはお互い軍隊の指揮官だ。何が起きても瞬時に状況を整理して判断、収拾を図ろうとする行動が身についている。ちょっとの間があってから、改めて彼女は、ややまともな言葉を発した。
「総司令官、一つお願いがあります」
ま、また敬語に逆戻りですか?
<<提督執務室:本音>>
「何か?」
私も、そういいながらも、自分の中で必死に、”総司令官”の位置に自分を押し込めようとしていた。この鎮守府に戻っても、まだ一連の”作戦”は終わっていないのだ。私は内心、苦笑した。戦争とは最後の最後まで、戦後処理が終わらないものなのか。武器での戦いもあるが、実際には感情と感情のぶつかり合い……はあ~疲れるなぁ~!
軍人が言うのもおかしいが、戦争なんて、つくづくやるもんじゃないよ。身も心も、すべてが消耗される一方だ。得るものは何もない。
私が悶々としている間、作戦参謀も同様に悶々しているようだ。なんだろな、今宵の、この司令官と参謀のダブルで悶々としている提督執務室ってのは!
「総司令官!」
作戦参謀が、ややギクシャクしながら意を決したように言う。
「はい!」
私も弾かれたように反応した。もう、こうなってくると漫才だよ。
「向こうを……窓の方を向いてくれませんか?」
「はい?」
何だろう?まさか、後ろからいきなり刺さないよな?彼女は参謀だから小さい軍刀くらいは携帯しているだろう。そうなったら冗談抜きで、漫才どころじゃない。クーデターだ。でも私は彼女を信頼して、そのまま窓の方を向いて言った。
「これで良いかな?」
もしも私に落ち度があって、刺されるようなら、もう刺して欲しいくらいだ。総司令官の位置は重すぎる。だがその次の瞬間、私は背中に、軽くしがみ付かれたのだった。
「あ……」
思わず、あの海岸での青葉さんを思い出した。こういう場合は、えーっと、私は黙っていたほうが良いんだよな?
そう思って、ただ黙っていた。
ちょっとの間があってから、作戦参謀は呟くように言った。
「ここから先は、オフレコにしてくれ……」
「分かった」
彼女は、そのままの体勢で、ジッとしている。何となく背中を掴む彼女の手の温もりが伝わってきた。彼女も暖かい手なんだな。
<<執務室:弱音>>
私の背中で作戦参謀は、淡々と語りだした。
「お前だから、正直に言う……これは姉貴にも、祥高姉さんにも内密にしてくれると助かる」
「ああ……」
秘密は守るけど、私には作戦参謀の気持ちを受け止めるだけの器はないぞ。だが彼女は私の背中で、話し始める。
「誰かに話しておかないと、私自身で整理が付かない。済まないが単なる呟きだと思って聞き流してくれ」
意外なほど申し訳無さそうな作戦参謀。まあ、こういうのは相手が木の枝でも、何でも良いんだよな。それなら私は木の枝に徹するとしようか。もともと、中身はないんだから。私は無言でうなづいた。
私の反応を見たのだろう、彼女は続けた。
「姉貴や祥高姉さんが前線を退いた頃、私も単独では、もはや戦い続ける気が失せてな。活動の中心を作戦参謀という立場に変えたんだ。以後、ずっと前線を離れていたが、やはり艦娘というのは前線を離れるとダメだな、感覚が鈍ってしまう」
そうなのかな……?今でも彼女の切れ味は鋭いと思うんだが。呟きは、さらに続く。
「今回、お前が総司令官になって、私はその下に付いたわけだが……久しぶりに”第二の位置”に就いて、忘れていた感覚が急に蘇ってきたのだ。そう、指揮官を必死に支える立場というのは艦娘にとっては本来あるべき位置なのだ」
(そもそも、参謀職って言うのは二の位置ではないのか?……と思ったが黙っておいた。彼女は切れ者だから、本省でも、ほぼ立案のトップの位置に君臨しているのだろう)
「だがこの作戦もいつかは終わる、そう思ったら、なぜか妙に焦燥感に襲われたのだ……この時間が、ずっと続いてくれはしないだろうか?とまで考えて……実に恥ずかしいことだ!我ながら情けなかったよ」
作戦参謀が弱音?まさか……しかし、立場が急変すると、それもあり得るのだろう。
<<執務室:私は艦娘か?>>
彼女は、なおも私の背中にしがみ付きながら続けた。葛藤する自分自身が恥ずかしいのか?また妙な想像を働かせる私。すると彼女は急に聞いてきた。
「なあ、お前から見て、私はちゃんとした艦娘か?それとも普通の作戦参謀に見えるのか?美保の司令官としてで構わない。率直なところを聞かせてくれ」
それはちょっと難しい質問だ。そもそも、そんなこと想像すらしていなかった。別にどっちでも良いじゃないか?とも思ったのだが、そんなことを口走ったら半殺しの目に遭いそうだから黙っていた。だがそれは甘かった。彼女は、いきなり私の背中の肉までつかむ勢いで力を込めてきた。
「お前、そんな質問は、どっちでも良いとか思っているだろう?」
(あ痛ッ!)
じ、実は図星です~!痛い、痛いぞ~……うひ~!作戦参謀の握力は、私の背面でも鋭いな……まあ、彼女も艦娘だからな。
しかし私が即答しなくとも、彼女は、その質問について、それ以上は特に何も言わなかった。
「まあ良いさ……これが艦娘である私の限界なのかもしれない。悔しいが」
そして、フッと力を弱めた。ああ、ホッとした。
弱気を見せる作戦参謀も気持ち悪いが、その姿に私はあの日向や青葉さんを思い出した。”艦娘である限界”という単語。これは艦娘たちの抱えるジレンマなのだろうか?なおも彼女は続ける。
「スマンな。鈍感な、お前以上に私は、こういうことに関しては不器用なんだ。だがお前の鈍感さゆえに、変な話だが、私はお前に安心して愚痴でもこぼせるのだ……そういう総司令官で居ることには、感謝するよ」
それは褒め言葉なんか?けなしているのか?よくわからないが、私は応えた。
「恐縮です」
私が油断してそう答えた途端に、ゴスっと参謀から背中を小突かれた……参謀的には軽いタッチなのだろうけど、私には十分に痛かった。でも叫んだら、また何か言われそうなので、必死にこらえていた。多分、背中はアザになっているに違いない。はあ~、総司令官は身も心も打たれ強くないとダメなんだなあ~。
ちょっと間があった。作戦参謀も、何も言わなくなったので、もう良いのだろうと思って、私はそのまま、ゆっくりと振り返った。だがそこで私は度肝を抜かれた。彼女が、静かに泣いていたのだ。
ああ、やっぱり青葉さんや日向を連想した。艦娘の見せる、意外な涙。そして、こういうのには弱い私。とはいえ相手が相手だけに、私は慌てて目を反らした。だが、彼女は言った。
「別に構わん、お前には……」
そのとき、執務室のドアを軽くノックする音が聞こえた。と、同時に激しくドアが開いた。
<<執務室:乱入者>>
ドアを開けて入ってきたのは次官と羽黒だった。最初は、羽黒だけがドアの前に居てノックをしたらしいけど。後からすぐに次官がやってきて入口で合流したらしい。入って来るなり次官は言った。有無を言わさず乱入してくるのは彼らしいよな。
「下でブルネイ司令に出会ってな、お前たちが先に上がったって聞いたから……あれ、何やってんだ?お前たちは」
一瞬間があって私たちはハッとした。確かに端からみると確かに妙な状況だ。総司令官と作戦参謀が執務室のドアの近くで二人で向き合っているのも変だけど、だいたい作戦参謀はメソメソ泣いているし、私は棒のように突っ立ってるし、まさに痴話喧嘩の真っ最中だよな。初心(うぶ)な羽黒には、この状況が良く分かっていないようだけど。さすが経験豊富そうな防衛次官は、この状況を見て直ぐに、“こいつら痴話喧嘩でもしたのかな~”なんて妄想を膨らませているに違いない。
「はっはぁ~ん?総司令官殿は、なっかなか、隅に置けないですなあ~」
……って?何を、訳の分からんことを言うんだ!
「いや、 そういう訳ではなくて」
慌てて弁解する私。
「へえ~、どういう訳ですか?」
次官は、どうでも良いツッコミを入れてくるし。
「えーっと、そのぉ~……」
うーんと考えてしまった。いや次官は、いま急いでいるんじゃないのか?まったく。何を優先させるつもりなんだ?
直ぐに作戦参謀も弁解をし始める。
「これはだな、総司令官に対して、この私が作戦参謀として十分な作戦を立案出来なかったので悔し涙を流しただけだ。別に……いつものことだ」
ニヤニヤしながら、また楽しそうにしている次官。
「へえ~、いつもの事ねぇ~?」
全然信じてないな。しかし、それが当然か。次官の作戦参謀との付き合いは、私より遥かに長いから作戦参謀の性格は、私よりも良く知っているはずだ。だいたい作戦がうまくいかなかったぐらいで、司令官の前で悔し涙を流すような参謀でないことぐらいは次官が一番良く知っているだろう。ああ、このまま次官の低俗な興味で、貴重な時間を無駄に潰すのだろうか?でも、それは杞憂だった。
「まあいい、要点だけ手短に話そう」
次官は意外にも、すぐに話題を変えた。やれやれ、ホッとした。やはり、だてに防衛次官ではないんだな、この男。
<<執務室:総司令官は継続>>
「ブルネイ政府側と、ちょっと打ち合わせをして急きょ決まったことを伝える。いいか、よく聞けよ。お前さんは、明日からも総司令官のままだ、喜べ!」
「えっ!」
思わず声が出た。だが私の隣に居る作戦参謀はなぜか、ほくそ笑んでいる。期待してたんですか?
「そういうことで、よろしく!」
爽やかに笑顔を浮かべた次官。ちょっと待ったぁ~!
「戦闘は終わったから、私はもう解任じゃないんですか?」
私は慌てて言った。だがその言葉に次官は、ちょっと呆れたような顔をした。そして私の顔の前に指を一本、突きたてながら言う。
「いいかぁ?良く聞いて覚えとけ!普通はな、こういった国際的な大規模作戦の後は、プレスとか関係者に責任者が総括をして、続けて戦後処理の会議なんだよ。だいたい、お前さん作戦中は何にもしてないじゃないか?でもまあ、演習の最初にお前さんも、ちょっとだけ全体の前で挨拶しただろ?あんな感じでオッケーだから。行司の節目でプレスの前で総括してくれれば良いよ」
何だか、冷や汗が出てきた。次官は続ける。
「いや、その前にだな~内部関係者の前でも概要説明の時間があるし。とにかくだ、国際問題が絡むと物事は簡単に終わらないんだよ。でも、お前さんが仮に何も知らなくても、俺たちがしっかりサポートするから安心しろ。お前さんだって鎮守府の司令になって間がないし。そもそも着任後、初めての海外遠征先で、他国との直接的なトラブルに巻き込まれるなんて何10年いや、数十年に一回、あるか無いかだゾ!そういう意味では、お前さんは、超ラッキーなんだよ」
喜んでいいのかな?でも、だんだん胃が痛くなってきた。
「そうですか」
私は絞り出すように言った。
「そういうことだ……でも安心しろって。お膳立ては海軍省側で、きっちりしてやるから。お前さんは、明日からは、全体の顔!日本帝国海軍の顔だ。あっはっは~そういうことで、しっかりと頑張ってくれ!これからが本番だ」
うはあ~、げっそりぃ~。追い討ちをかけるように次官は、まだ続ける。
「明日は会議も幾つかあるんだけど、明日の午後だったかな?ブルネイ王国主催のイベントがあってだな。お前さんと秘書艦祥高で、ちょっと顔出さないといけないから。一応、今日みたいな、きちんとした服装も準備しといてくれ」
私は、ちょっと気になったので質問してみた。
「イベントって何ですかそれ?」
次官は、ニヤニヤしている。
--------------------------------------
※これは「艦これ」の二次創作です。
---------------------------------------
サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
---------------------------------------
PS:「みほ5ん」とは
「美保鎮守府:第五部」の略称です。