「その駆逐艦が美保に留まれるのなら……」
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「艦これ」的「ブルネイの旭日」(みほ5ん)
:第23話(改)<脱走兵と艦娘の想い>
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<<会場:脱走兵の話>>
「お~い!」
私が夕立や日向と話をしていたら、さっきの防衛次官が大声を出してやってきた。何だよ?今度は。振り返ると、彼は上着を脱いで汗を拭っていた。
「やれやれ、もう暑くなってきたな~」
いや、貴方はいつも熱そうだぞ。
「今日は行事が目白押しだからな、スキマ時間的な今、ここでケリをつけよう」
「え?」
いきなり喧嘩を売られたのだろうか?
「違うって!」
彼は私の考えに敏感に反応した。
「あれだ、え~っとぉ、ほら!美保に来た脱走兵のことだよ!」
「あ~」
そういえば、そんな報告もあったな。
「ホラ、横須賀からの脱走兵。一応、そこの司令からは、判断を一任されているが、一つ条件があってな」
「条件?」
「あそこの司令は知り合いだから話が早くて良いんだが、こっちに一任する代わりに、横須賀の戦力が落ちないように注文が付いた」
「つまり?」
「え~っと……」
何だか言い難そうだな。
「美保へ転属する駆逐艦に別の駆逐艦がくっついてきて、まあ脱走したわけだが……実はな、脱走しなかったとしても……その一隻の穴が埋まっていないんだ」
私は驚いた。
「ええ?調整が付いたうえでの発令じゃないんですか?」
「うーん」
次官は、上の空になって、頭をかいている。なるほど、ポカをやったのはこいつか。
「たまにやるんだよな~、鎮守府の戦力バランスを考えずに配置換えしてしまうやつ」
何だよそれは?少しは反省しろよ、このイノシシめ!
「いや、素案は作戦参謀にも確認して聞いたんだが、良いでしょう、のひと言だったからさ」
お前ら、ダブル・イノシシだな。まったく~。
<<脱走兵:秋雲>>
「でも普通さあ、まさか金魚の糞みたいに、もう一隻オマケで付いて来るなんて思わないだろう?だから今回は二隻分の穴が開いてるんだよね」
そりゃご愁傷様。まあ、一隻分は貴方の責任じゃないけどね。
そこで祥高さんが質問した。
「もしかして、その脱走した艦娘は”秋雲”でしょうか?」
「あ~、良く知ってるね……てか、ああ~、あの横須賀で祥高に、やたら引っ付いてた、あいつかぁ~」
なんだ、次官も知っているのか。
「いや、横須賀から祥高が居なくなってからサァ、オレもあまり鎮守府へ行かなくなってサァ。今、横須賀に誰が居るかってのも正直、良く分からなくなったからなぁ~。もともとあそこは大所帯だし」
別に、それは関係ないだろ。
祥高さんが聞く。
「美保に着任したのは誰ですか?」
「えっとね~、あれだよ、アレ」
代名詞を連呼するなよ、よけいに分からないじゃないか。
「あの腕がダブダブでメガネのうるさい奴」
祥高さんが答える。
「巻雲ですか?」
「あ~、それそれ!」
お前らクイズ番組か?
「駆逐艦ってさ、特に横須賀は大所帯だから……」
もう、それは聞いたよ。
祥高さんは、ちょっとショックを受けたようだ。
「そうですか……」
私は聞いた。
「要するに、その脱走した秋雲を返しても、横須賀の一隻分の穴が埋まっていないわけだ」
「面目ない」
ホント、そうだね~。それでも憎めないのが、この次官の不思議なところだな。
「司令……」
そのとき、日向が声をかけてきた。
<<日向の決意>>
「どうした?」
何となく彼女は、思い詰めたような顔をしていないか?日向は続ける。
「そのお話……私に提案がございます」
「提案?」
次官が応える。
ちょっと間があって、意を決したように日向は言った。
「その脱走した駆逐艦の代わりに……私を横須賀へ配置換えして下さい!」
『え~!』
(ぽい~~!)
そこに居た私と祥高さん、それに夕立が叫んだ。しかし次官は意外に落ち着いていた。
「君自身は良いのか?それで……」
いや、美保鎮守府としてはかなり困るが……日向は、やや落ち着いて答えた。
「私は構いません。それで、その駆逐艦たちが美保に留まれるのなら……」
「ああ……」
祥高さんが感嘆の声を出した。ちょっとウルウル来て居そうだ。日向は、なおも続ける。
「その代わりといっては誠に申し訳ないのですが……あの伊勢を美保に、お願いします」
そう言って彼女は深々と頭を下げた。こんな日向は初めて見た。
「ああ、……あのブルネイの?試作型か」
次官は、遠くの艦娘たちの中に居る伊勢を見た。彼女は自分のことが話題になっているとは露知らず、ちょうど最上と話しをしていた。
その様子を見ながら、日向は静かに続けた。
「はい。彼女は今のところ安定していますが、不安定な要素を抱えています。出来れば、少しでも安心できる場所で……美保のような、こじんまりとした鎮守府なら、ちょっとは安心だと思うのです。それに……」
ちょっと恥ずかしそうにうつむいた日向。
「出来れば、信頼できる美保の司令の下で過ごさせたいのです」
「日向……」
思わず私もぐっと来てしまった。思い起こせば彼女ともいろいろあったが、ここブルネイで、ついに、お別れになってしまうのか?轟沈とかで永久の別れになるわけではないが、さすがにちょっと、寂しいものがある。
「……」
見ると祥高さんは、静かに泣き出してしまった。いや、しかし日向って、実はこんなに情の深い艦娘だったのか?私も感極まって……あれ?何泣いてんだよ!イノシシ次官!バカみたいに男泣きしている次官を見ていたら私のほうが、ちょっと醒めてしまった。
男泣きしていた次官は、ハンカチで目を拭うといった。
「分かった、分かったぞ!……こういうことは直ぐ決めよう!おーい!」
また、大声を出したと思ったら、向こうにいる作戦参謀と技術参謀を呼んだ。なるほど、この三人が居れば、ほぼ即決か。
「あと、おーい、そこのブルネイ司令!」
次官は、続けて向こう側に居たブルネイ司令にも声をかけた。確かに伊勢の移動となると、こいつに聞かないと分からないよな。しかしフットワークだけは軽いな、次官って。
<<国営墓地:会議>>
すぐに二人の参謀と次官、そしてブルネイ司令と私で緊急会議がその場で開かれた。祥高さんと日向もその場に居る。しかし国営墓地での行事があったとはいえ、外国の墓場まで来て会議って言うのも凄い話だな。まあ、兵士はいつも非常事態ってか。見ると少し距離を置いて、艦娘たちも徐々に、こちらに集まってきていた。
作戦参謀はメガネを指先で持ち上げながら言う。
「まあ、横須賀としては、日向が来れば、まったく問題ないだろう。むしろ大歓迎だろうな」
それに異論は無いが……美保としては惜しい。代わりに姉妹艦の伊勢が来るとしても……だ。ああ、射撃の名手が……。
「ブルネイ側としては何か意見はあるか」
技術参謀が聞く。ブルネイ司令は答える。
「いえ、特にありません。むしろ、試作型なので逆に美保には申し訳ないくらいです」
いや、お前にそう思ってもらえるだけでも美保としてはホッとするな。そうか、それならちょっとは安心するが。もっとも、ブルネイは量産技術が確立されつつあるし。爆弾のように不安定な試作型の艦娘が少しでも減るなら、こいつの心労も減るだろう。私としても親友として、そういった艦娘を引受けられたほうが嬉しい。
ただ私はちょっと気になることを聞いてみた。
「しかし、試作型とはいえ、戦艦クラスの艦娘を、そんなにホイホイと動かせるものですか?」
技術参謀は、鼻で笑うようにして答える。
「実はな、現在まで、このブルネイに居るすべての試作型および、量産型の初期型艦娘については、軍の船籍が無いのだ」
「はあ?」
作戦参謀が続ける。
「試作型の伊勢については、そもそも帝国海軍には存在していないことになる。まあ、強いて言えばブルネイが初の登録地となる。とはいえ、そこから移動させるのは手間だからな。もし美保が受け入れるなら、最初から美保で建造されたことにしてしまえば良い」
このメスのイノシシ参謀め~、それはかなり、いい加減過ぎやしないか?しかし私の感想とは無関係に彼女は続ける。
「まあ、伊勢については、そういうことだ。当然、日向や秋雲は、移管手続きが必要になるが、この場で話が付けば、後は簡単だ」
「なるほど」
そうか、それでも上層部の数人が意見を一致させると、何でも話が早いんだな。やれやれ、美保の軍用車の一台でも地方総監部がガタガタうるさいのとは大違いだな。
しかし……私は改めて、その場に居る日向を見た。試作量産型とはいえ、姉に当たる伊勢を思う妹。さらに、面識も無い脱走した駆逐艦のために、自ら犠牲になろうという日向。最後まで、こいつも根っからの武人なんだな。
あれ?向こうの艦娘たちがざわついていると思ったら、武蔵様がこちらに歩いてくる。
<<重鎮登場:武蔵様>>
いきなり武蔵様の突然参加に全員が驚いた。こちらに来た武蔵様は軽く敬礼をすると話し始めた。
「済まぬな、祥高殿のステルス無線が入ったままになっていたので、全部聞かせてもらった」
あっという顔をした祥高さん。でも技術参謀がフォローする。
「祥高……まあステルス無線は、戦艦クラスの一部の艦娘しか持って居ないから、特に問題は無いだろう」
「す、すみません……」
涙を拭いながら、ちょっと紅くなって頭を下げる祥高さん……何となく可愛らしい。
「仕方ないよな、祥高姉さんも、感極まっていたんだし」
作戦参謀も笑って言う。
それを見て、少し微笑んでいた武蔵様は、再びまじめな顔に戻って話を続ける。
「私は横須賀所属だ。日向が来ることに異論は無いが、うちの駆逐艦が勝手な行動をして皆に迷惑をかけたことは深謝する」
深々と頭を下げる武蔵様。うーむ、ここにも武人が……しかし、恐らく横須賀でも艦娘の代表格ともいえる彼女がオッケーを出せば、すべて丸く収まるだろうな。ちょっと安堵した。
武蔵様は、めがねを軽く指で持ち上げながら続ける。
「祥高殿を慕って脱走したという秋雲については、これ以上、責めないで欲しい。それだけあの艦娘も情が深い娘なのだ。私としては、能力のある艦娘よりは、そういった人の気持ちが分かる艦娘の方が気になるし、大切にしたいと思うのだ」
武蔵様の言葉は重かった。だが、そういう武蔵様も深いな。軽薄な私よりも、よほど深いのではなかろうか?
「美保の司令殿」
いきなり指名だ。
「はい?」
ちょっとドッキリした。未来の武蔵様と同じだよな……やっぱり。
「そなたも、かなり武人らしくなったな……まぁ鈍感だと分からんだろうが、普段から大人しく黙っている艦娘の方がな、よっぽど敏感なのだぞ。もっと艦娘たちに気配りをしろ」
「ハッ!」
思わず赤面しそうだった。まったく武蔵様は、計り知れない大きさがあるな。
彼女は腕を組んで続ける。
「日向、私はお前のその優しい気持ちを嬉しく思う。横須賀としても大歓迎だ。その優しい気持ちを横須賀の若い駆逐艦たちにも、教えてやって欲しい」
「ハッ」
日向は、うなづいた。
「そうだ」
武蔵様は少し微笑んで言った。
「もちろん、航空機の運用や、戦術も抜かりなく頼みたい」
「ハッ喜んで!こちらこそ、よろしくお願い致します」
日向は、敬礼をした。武蔵様も軽く返礼をした。
「まあ、これで一件落着だな」
次官は言った。誰も異論は無いだろう。
「ナゼですか~~~!」
ああ~、やっぱり!金剛来たりて、ぶち壊す~~~!。
<<バトル?:金剛VS武蔵>>
すごい勢いで乱入してきた金剛が一気にまくし立てる。
「ナゼに、日向が犠牲になるネ?納得できまセーン!」
お、おい~。いったい、どうしたんだ?金剛!いつもの、お前らしくない。
さすがの祥高さんも、日向も驚いている。ここは私がひとつビシッと言わないとだめか?私は美保鎮守府の司令として、金剛に立ち向かった。
「無理を言うな金剛、日向は自発的に美保のために……」
「シャラップ!それがオカシイね!その脱走した駆逐艦は、勝手に潜り込んで私たちを引っ掻き回しているだけネ!送り返せば済むでショ!」
ああ、反論できずにたじたじとなった私。そりゃ、建前はそうだけど……っていうか、お前の方が、よっぽど引っ掻き回しているんだけど。
金剛の背後で、ダブル比叡が苦笑して止めようとしているが、さすがに言い出せないようだ。榛名さんは、眼をまん丸にして呆然としているし。他に、この金剛を止められそうな者はいるか?(いない!)
あ~あ、せっかくまとまりかけたのに、元に戻したら、横須賀の駆逐艦不足の問題も全然解決しないじゃないか?
ホラ、案の定、次官は苦笑……というか、何となく顔面蒼白になっているし。さすがに暴走する金剛は、次官はおろか作戦参謀も技術参謀にも、とても止められないようだ。祥高さんも、タジタジになっているし……さぁ、どうする?
「まあ、待て金剛」
あ、やはり武蔵様が動いた。
「お前の言うことも良く分かるぞ……そうだな、確かに日向が動くことは、美保が一方的に犠牲になるよな」
腕を組んだまま、メガネのレンズ越しに金剛を見据える武蔵様。獲物を狙う鷹のようにも見えるが、決して威圧感は無い。
「……」
金剛は、ダブル比叡に押さえられつつ、鼻息も荒く武蔵様を睨んでいる。お前も負けないねえ~。
武蔵様は、ゆっくりとかみ締めるように語り始める。
「お前は被害担当艦という言葉を知っているか?」
「何ネ?」
……金剛は知らないか。
武蔵様は、少しうつむいてめがねを抑えた。
「戦いとはな、前に出るだけではない。タイミングを見て引き付ける事も必要だ」
「そんなのジョーシキね!」
金剛は、なおも食って掛かる。本当に知っているのかなあ~……しかし、こいつには怖いものが無いのか?
「そうだな……」
一方の武蔵様も、まったく動じていない。いやはや、リアルの戦艦同士の殴り合いよりも手に汗握ってしまう。
どうなってしまうんだ?
やや遠巻きに、マスコミや人だかりが出来てしまって……お騒がせしてすみません。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ5ん」とは
「美保鎮守府:第五部」の略称です。