「君は……人間以上なんだな」
------------------------------------------
「艦これ」的「ブルネイの旭日」(みほ5ん)
:第4話(改)<艦娘の決意と情報戦>
------------------------------------------
<<広場:専守防衛>>
私は直ぐに祥高さんに言って、美保鎮守府側の班長である金剛と日向を呼ばせた。日向は相変わらずのポーカーフェイスだ。しかし私のただならぬ気配を感じたのか、いつもは賑やかな金剛も意外と神妙な顔つきでやってきた。
私は直ぐに二人に言った。
「私の一存で、お前たちを動かすのは忍びないが、どうしても午後の演習が平穏無事に終わるとは思えない。最悪、戦端が開かれることを覚悟して欲しい」
「深海棲艦が来るデスか?」
凛々しい顔をして金剛が言う。ウム、こういうマジメな金剛も良いじゃないか……って、いかん、いかん!妄想禁止だぞ!
私は内心自戒しつつ続けた。
「かなりの確率で来るだろう……ただ気になるのは、交戦する相手が深海棲艦だけでは無い恐れがあるということだ」
日向が言う。
「どういう意味でしょうか?」
私は続ける。
「このブルネイはシナ……仮想敵国であるが、あの国が設定する”防衛線”上にある。彼らは”第一列島線”と呼んでいるらしいが、その同じライン上に、わが国も位置している。つまり彼らから見ればブルネイとわが国は同じ位置関係にある。しかしわが国には、お前たちも含めた海軍と空軍、陸軍という強力な軍事力があり、あの国も簡単には手を出せない。しかし、このブルネイは、まだほとんど軍備が無い」
かいつまんで伝えたが、さすがこの二人は軍人であり班長だ。私の言わんとすることは直ぐに悟ってくれたようだ。金剛はちょっと考えるように、唇に手を当てながら、やがて口を開いた。
「それは……深海棲艦でなくても、攻撃してもイイということデスか?」
重いひと言だな。私は額に手を当てて答える。
「それは状況による。まず向こうから攻撃してこない人間に対する発砲許可は、私も出せない。しかし、わが国が今は専守防衛だとしても、それはあくまでも相手が攻撃してこない場合だけだ」
「つまり……そういうことですか」
日向がそう言いながら悟ったように淡々と答える。前髪がサラサラと風になびいている。お前はいつもどおりだな。
彼女の落ち着いた瞳を見て、うなづいた後に私は続けた。
「命令だ。お前たちを中心に待機可能な艦娘全員で、直ぐに出撃埠頭へ向かう。そこで臨戦態勢にて備えて欲しい」
『ハッ』
二人は敬礼をした。私は返礼した。
だが、私は思わず呟くように言った。
「何だか、この状況は美保鎮守府そのものだな……こちらが直接攻撃を受けない限り手を出せない状況だ。だからこそ金剛、お前の現場の判断力に期待する。今日は、これからどうなるか正直、分からない」
そこで改めて、金剛の目を見ながら言った。
「金剛、ここブルネイでの美保鎮守府、全艦隊の旗艦を引受けてくれるか?」
それまで神妙な顔つきだった金剛が、急に笑顔になった。そして決意を固めたような良い目をした。頭の被り物が太陽を反射してキラキラと輝く。
「任せるデ~ス!」
それを見て日向も微笑んでいた。よし、行けるな。
<<広場:作戦司令部>>
正装の五月雨がやってきて敬礼をした。私も返すと彼女は続けた。
「ブルネイ司令からのご伝言です。午後の演習以外の警戒行動にあったっては、すべての艦隊指揮権を美保司令に一任いたします。そして有事の際は全権を自動的に美保司令に移管いたします。これは防衛次官、長官、そして内閣総理大臣も承認の上です。なおこれは重要機密事項となります」
「承知した」
急に肩が重くなった気分だ。
「ブルネイ司令は、鎮守府から作戦司令部として作戦指揮車を準備して、こちらへ向かっています。ブルネイ司令はこのまま演習指揮を担当し、美保司令には作戦指揮車内での警戒部隊の指揮を、お願いいたします。警戒本部は、この広場を撤収して設置します」
「了解」
なんだ、さすがブルネイは大きいな。野戦用の指揮車まであるのか。美保にも、いつかそんな車両が欲しいな。いや、その前に軍用車の2台目、次官に直訴したら予算つけてくれるかな……いかん、この緊迫時に余計な妄想を膨らませてしまった。
「へい、司令サン、トラックでお迎えに来たヨ」
あの男性……ブルネイ司令の義兄が来た。手回しが良いな。金剛と日向は直ぐに、美保のメンバーを招集している。五月雨は、ブルネイ側の艦娘たちを集めている。
すぐに、広場には日の丸をつけた作戦指揮車が乗り入れて来た。各国の武官たちも、ただならぬ様子に目を丸くしている。
良いなあ~この車、格好良いぞ。実物を見ると、やっぱり美保にも一台欲しい……(笑)
<<広場:第一列島線>>
日の丸をつけた作戦指揮車からブルネイ司令が降りてきた。
「おう、待たせたな」
しかし正装で作戦指揮車から降りてくるというのも、妙な光景といえば妙だな。
「何だよ、その目は!おかしいか?だいたいな、言いだしっぺは、お前なんだぞ~」
私の気持ちを察したのか、彼は苦笑いしながら言った。
「す、すまん」
思わず謝罪してしまった。
だが彼は、急に真面目な顔になって続けた。
「でもな、俺もこのままで終わるとは思えん。多分、現場の人間は皆が、そう感じていたことだろう。俺も正直、誰かが言い出さないかな~って思っていた。それにアレを見ろ」
彼が指差した川面には、多くのボートやヨットが浮かんでいる。岸壁にもたくさんの見物客が見える。
「まずいな」
「だろう。敵が来るのは仕方ないとしても、民間人を巻き込むのは防ぎたい。問題は深海棲艦ではなく、仮想敵国がどう動くかだ」
「やはり、お前もそう思うか?」
彼は腕を組んだ。
「ああ、このブルネイだけではない。あのフィリピンだって、シナが主張する第一列島線上にあるんだ。今回、彼らが特使を派遣したのも緊張感の現われだと思うぞ」
「そうか」
私は安来の画家を思い出していたが、それは口実に過ぎなかったのかも知れない。やはり国防担当者としては、国家の安全保障を真っ先に考えるのは当然だ。
「深海棲艦だけなら、話は早いんだがな。まったく~厄介な連中だ」
やはり美保の田舎とは違った、ブルネイならではの緊張感を肌で感じた。
私は彼に聞いた。
「だがフィリピンには米国が駐留していただろう」
しかし、彼は肩をすくめた。
「あれは撤退するらしいぞ。だからあの特使も、気が気でないのだろう」
「そうなのか」
なんだ、日本には伝わっていない情報だな。
「本土に居るからって油断するなよ。シナの連中は甘く無いぞ。世界中に人民のネットワークがあるからな。このブルネイだって……いや、日本の、お前のいる美保だって例外じゃないんだぞ」
「そうか。考えが甘かったな」
「本省が、お前たちを演習に出したのは、そういう世界の現状を知ることもあったかも知れんな」
「そうだな。内地に居るばかりじゃ分からない。現地でこそ感じる肌感覚ってのもあるな」
「そうだ。ただ、それが悪い方向に行かないことを願うばかりだ」
彼は五月雨を見て、持っていたカバンを渡しながら続けた。
「指揮車のオペレーターとして中に技師が居る。有事にでもならなければ基本的に、お前は通信を聞いているだけで良い。まあ事が起きたら、私もこの車に戻るよ……そうならないことを祈るばかりだがな」
そう言って彼は五月雨と共に広場横の建物に入って行った。
<<ドイツ兵:海図>>
各国の武官たちも、その建物に戻る者、郊外の公園に向かう者など分かれている。さっきから羽黒さんが、案内で走り回っている。郊外までは、シャトルバスが出るらしいな。それに相手は武官だ。機密情報もある。案内役を適当な者に頼めないのは、ちょっとつらいところだな。
つかつかとドイツの武官が寄ってきた。傍らには艦娘を連れている。
『何か起こりそうな気配ですね』
『分かりますか?』
さすが諜報部だな、感覚が鋭い。
だが彼は笑って言った。
『いや最初に異変に気付いたのはこの艦娘ですよ。私たちは午後は郊外の川べりの公園で見学することにしますよ』
『なるほど』
彼の表情を見れば、見学だけで終わるわけが無いのは何となく分かる。
私は”かま”をかけた。
『その艦娘は、初めての水域でも大丈夫なんですか?』
彼は、ニヤっと笑った。
『この一帯の海底は昨日から、この艦娘が自主的に調査済みですよ。午前中に休んでいたのは、その疲れもありますが、ずっとこの艦娘が海図データをまとめていたからです』
なるほど。抜かりが無いな。もうちょっと早く、彼らに出会っていれば、水上集落への襲撃は防げたかも知れないと思うと複雑な気持ちだ。
『郊外の会場までは軍の送迎バスが出るそうですから、私たちはそちらへ向かいます』
そう言いつつ彼は敬礼をした。私も返した。
彼らが立ち去ろうとしたとき、そのドイツの艦娘が私の袖を引っ張る。
『ん?』
その艦娘が耳を貸せという素振りをするので、私はしゃがんだ。するとその艦娘は言った。
『海図データ、秘書艦に渡した』
それだけ言うと彼女はドイツ兵の元へ走り去った。ドイツ兵は、それを見て軽く手を上げた。なるほど恩に着るよドイツ。さすがだ。
ふと”先手必勝”という言葉が思い浮かんだ。
振り返ると祥高さんも微笑んで、ドイツの艦娘に手を振っている。落ち着いたら、絶対ドイツへも表敬訪問したいものだな。
<<広場:点呼完了>>
向こうを見ると、艦娘たちがトラックへ向かってゾロゾロと移動している。あの陽気なブルネイ男性(鎮守府の職員だったよな)もいるな。
すぐに、金剛が走ってきた。そういえばこいつには、何度も痴話喧嘩みたいなことで追い掛け回されたことはあるよな。でも純粋に任務のために走る姿を見るのは極めて珍しい。その姿は実に美しいと思う。
ちょっと息を切らせながら私の前まで来た彼女は、敬礼をして報告する。
「金剛班、日向班およびブルネイメンバーの集合、点呼完了致しました!これより、警戒出撃の準備に掛かります!」
「了解、よろしく頼む」
私が返すと、彼女はちょっと得意げな表情をした。そして南国の陽を浴びて全身から目映いばかりの凛々しいオーラを発散しながら回れ右をして、向こうのトラックへ向けて再び駆け出して行った。
その後姿を見ながら、なんだ金剛だってやれば出来るんじゃないか?そう思わずには居られなかった。
まったくあの娘はムラがあるよな。でも、基本的な実力はあるんだから、そのあたりの信頼感は強いものがある。
「彼女、変わりましたね」
私の隣に来た祥高さんが言った。
「そうだな。責任感が人を成長させる……あ、彼女は艦娘か。でも艦娘も人も本質は変わらないな」
私が言うと、彼女は応える。
「もう司令は分かって居られるでしょうけど、艦娘は誰もが一途です。それが良い方向に進めば素晴らしい成果を上げますし、逆に行けば破滅的な結末を迎えることがあります。私も轟沈しかけて、それは痛感しました。だから方向性だけは間違わないように。それは私自身いつも肝に銘じています」
風で彼女の前髪も揺れている。それを見ながら私は言った。
「君は……人間以上なんだな」
「そ、そんなことは……」
ああ、またやってしまった。彼女は真っ赤になってしまった。
でもこういう一途さ、迷いの無い純粋さこそが艦娘の素晴らしい特性だ。それがまた兵士としての艦娘の最高の性稟(せいひん)だと思うのだ。
目的もなく迷い、彷徨ったあげくに国家間で無意味な争いを続ける人間。それよりも、純粋な彼女たちのほうがよほど、幸せなのかもしれない。
<<広場:指揮車>>
広場ではバーベキューやバイキング設備の撤収も終わり、各国の武官たちもそれぞれ、移動して閑散とし始めている。ドイツは既に郊外へ向かっただろうし、あのイタリアも姿が見えないから、どこかへ行ったのだろう。
「金剛たちは鎮守府へ到着。準備に掛かるそうです」
祥高さんが受電して、私に報告する。
「了解。私たちも入ろうか」
彼女に声をかけながら、指揮車を見上げる。そういえば、作戦指揮専用の車なんて初めてだな。だいたい海軍では艦艇で指揮をするから、こういう野戦用の車両は本来不要なんだが。将来、艦娘が増えることを見越して導入したのだろうか?
だがドアを開けようとしていきなり焦る。
「あれ?」
ドアが開かない。ロックされているようだ。私が入り口で右往左往していると、インターフォンか何かから声がする。
「ああ、スンません。今開けますから」
あの技師だな。そうか、セキュリティも万全なわけだ。最新型じゃないか?これ。ガコンというような音がしてロックが外れてたらしい。私はドアを開けて、祥高さんと一緒に中に入る。中には無線機だのモニター何だの、ややこしそうな機械類で満載だった。何となくレントゲン車を連想する自分が微笑ましかった。
「いやぁ~失礼しました。こちらでも、ほとんど運用していなかったので、ちょっと不慣れでして」
うん、ちょっとばかり先が思いやられるよ。
「適当に座ってください。しばらくは、無線を聞くだけだと思いますから」
技師は、いくつかあるオペレーター席を指差した。しかしメカオンチには頭の痛くなりそうな車両だな。無線機も最新型っぽいし、モニターもいくつもある。これからの軍隊は、こういう電算化と言うか、いやはや凄く面倒な時代になるんだろうな。
--------------------------------------
※これは「艦これ」の二次創作です。
---------------------------------------
サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
---------------------------------------
PS:「みほ5ん」とは
「美保鎮守府:第五部」の略称です。