「本当は貴方と一緒に歩きたかった……」
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「艦これ」的「ブルネイの旭日」(みほ5ん)
:第40話(改)<艦娘の想いと過ちと>
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<<本館GR:記憶のどこかに>>
「そろそろ戻ります」
大井は立ち上がった。夕日を浴びた室内は赤く染まり彼女と娘もほんのりと赤く染まっていた。
私は聞いてみた。
「今は誰の部屋に居るんだい?」
「秘書艦の祥高さんの部屋です」
娘の手を引きながら彼女は言った。
「そうか。それなら安心だな」
「はい……司令の仰った事情の分かる艦娘の一人ですね」
彼女は微笑みながら言った。
私は応える。
「ああ」
祥高さんが自分の体験をすべて大井に話したのかどうか知らないが彼女なら大井の事情もすべて汲み取るだろう。だがGR(ゲストルーム)の出口で大井がふと立ち止まった。見送りで直ぐ後ろを歩いていた私も立ち止まる。
「どうかしたか?」
「司令……」
そう言いながら振り返った大井はスッと私に抱きついてきた。それは一瞬だった。私は、あっ!……と思ったが直ぐあの海戦の大井を思い出し、そのままソッと彼女を抱きしめた。
大井は何かを確認したようにまたフッと離れて、かみ締めるように言った。
「やっぱり貴方が……私のどこかに残っている司令官です」
彼女は何かを思い出して確認するようだった。私も応える。
「ああ、私もそう思う。どこかで君と……何度か出会っていたな」
娘は不思議そうな顔をして大井を見上げていた。彼女はその子の頭を軽く撫でながら言った。
「北上さんも言ってたわね。過去は振り返らずに前進しようって。だから私もこの子と一緒に前を向いて歩くの」
「ああ、それが良い」
そのとき誰かがドアをノックした。何となく祥高さんだなと思った。
「はあい」
私が返事をすると、大井親子がドアに近寄ってノブを開けようとした。
そのとき彼女はふっと呟くように言った。
「本当は貴方と一緒に歩きたかったのに」
「え?」
私が確認する間もなく大井はドアを開ける。外に居たのは報告書らしき紙を持って立つ祥高さんだった。大井親子が出てくるのを見ても彼女は特に驚かなかった。ここにいることを予想していたのだろうか?
「失礼しました」
軽くお辞儀をして退出する大井親子。
「ああ」
私は彼女たちを部屋の入口で送り出した。
「お疲れ様です」
入れ替わるようにして祥高さんが入ってきた。
<<本館GR:秘書艦>>
祥高さんは親子を見送りつつ言った。
「やはり来たのですね」
「あ、ああ」
なんだ?やっぱり秘書艦が勧めたのか?
扉を閉めて部屋に入った彼女は私の疑問に応えるように説明した。
「事後報告で済みません司令。昨日から大井さんがずっと塞ぎ込んでいた様なので司令にご相談するよう私が勧めました」
私は聞いてみた。
「大井の話は君も、ある程度は聞いたんだろう?」
「はい。でも鎮守府の中心者である司令にも彼女の事情は知って頂いた方が良いかと思いましたから。それに司令と彼女は舞鶴でいろいろあったと伺っていましたので」
「ああ、まあそうだね」
私は直ぐに情報源は青葉かな?と思った。
「報告かい?中で聞こうか」
「はい」
夕日に染まったGR内。そういえば現在この部屋には秘書艦と私だけだ。しかし不思議と彼女の場合には男女二人だけの密室状態になってもまったく危ない感じがしない。やはり彼女の積み重ねたキャリアなのか精神性の高さが醸し出すオーラなのだろう。
「お休み中かと存じましたが大井さんが私の部屋に書き置きをして不在でしたので、こちらだろうということは何となく存じ上げておりました」
「ああ、そうなんだ」
「お茶を入れますのでお掛けになって下さい……明日の人選の素案と、美保鎮守府の留守を守っている大淀さんからFAXが着ていましたので、お目通しをお願いします」
「ああ」
書類を置いて彼女は簡易キッチンへと向かう。そういえば私はもう、お茶は飲んだっけ。そう思って慌てて彼女に注文を付けた。
「祥高さん済まないが、お茶はもう飲んだから珈琲を淹れてくれるか?」
「分かりました」
奥から彼女は答えた。
私はソファに腰をかけると、机の上に置かれた書類に目を通し始めた。
最初の書類は明日の本土帰還作戦の各機体への人員配置一覧表。もう一つは美保鎮守府の留守を守る大淀さんからの近況報告書だった。まずは大淀さんからの報告書だ。ちょっと長いな。
<<本館GR:報告書>>
定例報告を致します、大淀です。
先日ニュースで見て驚いたのですがブルネイでは国籍不明のミサイル攻撃を受けて、それを私たちの部隊が防衛したようですね。霞も珍しく興奮していました。皆さんご無事だったのでしょうか?
そんな状況も含めて青葉さんからは、こまめに専用回線でFAXが流れてきます。国際電話よりは安いんでしょうけど文字がびっちり書かれていて、まるで新聞のようです。本当に感心してしまいます。
そちらでは艦娘量産化も成功したようですね。いずれは美保でも導入されるんでしょうか?
こちらからの情報も逐一報告していますが、やはり完璧な書類を目指してしまって、どうしても遅れがちになってしまいます。反省です。おかしな話ですが最近は提督がいつもイライラされながら報告書をまとめていたお姿が思い出されて微笑んでしまいます。意外と文字にまとめるのって大変なんですね。そう思うと青葉さんの筆記パワーには圧倒されます。あのバイタリティがあるから記者も務まるのでしょうね。
あ、ごめんなさい、報告致します。
1)今週は前半に敵の攻撃が散発的に発生しましたが何とか追い返しました。
2)最近は美保の備蓄も増加傾向にあります。在庫チェックも以前のような謎の欠品が全く発生しなくなって倉庫担当の艦娘たちも喜んでいます。そのお陰で最近は控えていた重巡クラスの艦娘たちの実弾演習も可能になり美保鎮守府の全体としての錬度や戦力が上がっています。
そういえば提督は少将にご昇進とのこと。おめでとうございます。利根さんが”留守の美保の管理が徹底しているから、それも評価されたのじゃ”って仰って下さいました。面映いですが、もしそうならとても誇らしいです。
3)提督がお留守の間にも数名の艦娘が着任しました。潜水母艦と金剛型の戦艦まで……提督がお戻りまでには少しでも彼女たちの連度を上げるべく一生懸命演習に勤(いそ)しんでいます。
4)祝賀パーティの様子も青葉さんからのレポートで読ませて頂きました。美保の演習メンバーが、またさらに一つにまとまっているようで、とても感動しました。実は一度青葉さんから手書きの速報が送られてきたのですが、その後でもう少し細かく記述された(改)というレポートをまた頂きました。最初のレポートには無かった艦娘たちの細かい動きまで加筆されていて、ぜひ提督も青葉さんから読ませてもらったら良いと思いますが……ひょっとして、まだご覧になっていらっしゃらないのでしょうか?
5)最近は携帯電話の発達が著しくて中央の鎮守府では軒並み採用され始めています。横須賀では、あのリンクシステムの実用化へ向けて実験が繰り返されています。美保でもそういう実験が始まるのでしょうか?
そういえば艦娘の無線でも今まで使ったことのないステルスモードの試験命令が軍令部から来て戸惑ったりしています。正直それは苦手なので霞ちゃんにまたお願いすることになりそうです。
6)脱走騒ぎを起こした秋雲さんについて。今日急に軍令部からの釈放命令が出てやっと外に出ることが出来ました。しかも彼女も、このまま美保に着任するとの追加の指令書も出て、ちょっと驚きました。理由は分かりませんが、何かあったのでしょうか?巻雲さんがとても喜んでいましたし、なぜか電ちゃんまで涙を流していました。意外ですが島風ちゃんも……。
結)こちらでは季節の移ろいを感じさせる虫の声も聞え始めています。そちらはいかがでしょうか?
ごめんなさい。今日は、いつも以上に長くなりました。ニュースを見て興奮してしまったのでつい……済みません。
補足)今日は日曜日で哨戒以外のメンバーはオフとなっていました。私も久しぶりに半日お休みを頂き、霞ちゃんがしっかり司令部を護ってくれました。彼女もかなり成長しましたよ。ちょっと物言いはキツイのですが意外と繊細で可愛らしい面もあります。ぜひ楽しみにして下さい。明日からはまた定例の演習や哨戒となります。そちらの演習メンバーの皆にも、よろしくお伝え下さい。
美保鎮守府秘書艦代理 大淀より
<<本館GR:気になること>>
……なんだこれは?まるで優等生からの手紙だな。彼女らしいといえばそれまでだけど。でも美保の様子が良く分かる。私がこちらに居る間にも美保にも新しい艦娘が着任したのか……金剛型って誰だろうか?
気が付くといつの間にか祥高さんが珈琲を持って来てくれていた。既にソファに腰かけて私が報告書を読み終わるのを待ってくれていた。彼女は言った。
「司令、珈琲が入りました」
「あ、ああ……」
私は大淀さんからの報告書を片手に、まだいろいろ気になる内容はあったけど開口一番秘書艦に聞いた。
「これはブルネイの司令部に受信されていたものかな?」
「はい。専用回線で受信されていました」
「君も目を通したか?」
「はい、事前に」
「優等生的な報告書だね」
「そうですね。私には、ここまでの文章は書けません」
彼女は微笑んだ。
「この中に4)の青葉がレポートを流しているって書いてあるけど、その内容を私は一度も見たことが無いぞ。君はあるか?」
「ええ、チラッとですが」
私は腕を組んで言った。
「別に責めている訳ではないが、私にも報告して欲しいな」
「す、済みません」
珍しく祥高さんが恐縮している。でも内部とはいえ組織として勝手な報告は好ましくない。ましてや相手はプロの青葉じゃないか?何だよ……ったく。
祥高さんが言う。
「青葉さんを呼び出しますか?」
「いや……いい。命令は出さないが大淀さんに流した文書を私が見たとだけ伝えてくれ。その後どうするかは本人に任せよう」
「畏まりました」
彼女は通信を始めた。夕日に照らされた室内は真っ赤に染まっていた。来るか来ないか分からないがそこは青葉に任せよう。私は珈琲を片手に立ち上がって窓辺に立った。
<<本館GR:神妙な青葉>>
祥高さんが通信を終わると同時に廊下を誰かが、もの凄い勢いで駆けて来る足音が響いてきた。来たか青葉?やっぱり重巡は何をしても目立つな。
祥高さんが言う。
「青葉さん来たようですね」
「ああ、意外に早かったな」
記者だからな。咄嗟の判断力の速さはピカイチだ。その速さに免じて許してやりたくなるが……ダメだ。規律は正さないと。
やがてGRのドアの前で立ち止まった足音は、しばらく静止している。多分、呼吸を整えているのだろう。分かりやすい奴だなあ……だから青葉は憎めないんだが。
直ぐにドアをノックする音が聞こえてきた。
「どうぞ」
私が応えると「失礼します」と言いながら青葉が入ってきた。私は気を利かせて近寄ってきた祥高さんに珈琲カップを預けた。そのまま窓枠に腰をつけて腕を組みドアの前に立ち尽くす青葉に言った。
「こちらへ来なさい青葉」
「……はい」
やはり私の気持ちを察したのだろう。いつに無く神妙な面持ちだ。
私はわざと高圧的に言う。
「座りなさい」
「はい……」
私は腕を組んだまま黙って青葉を見下ろした。彼女も大人しくこちらを見上げている。
その大きくて透き通った瞳が夕日を反射して印象的だな。
「私が呼んだわけは分かるな?」
「はい、何となく……」
何だかここまで神妙にされると、こちらが悪いような心地になってくる。いかんビシッといくぞ。
<<本館GR:青葉の涙>>
青葉も悪気は無いだろうが鎮守府の秩序を守るために釘は刺しておくべきだ。
「お前もわざとじゃないだろうが私が知らないうちに公式回線を使って情報のやり取りをすることをどう思うか?」
青葉は覗けるような瞳でこちらを見る。
「はい。反省しています」
「咎めているんじゃないぞ。ただひと言くらい事前に確認が欲しかったな」
うう、妙にゾクゾクするな。オレはサディストか?
「……」
大きな瞳でこちらをじっと見詰める青葉……このパターンは不味い予感がする。このままだと女子を泣かせる悪いオジサンになりそうだ。もっと……優しく言わなきゃ。
私は少し声のトーンを落として思いっきり情感たっぷりに言う。
「寂しいじゃないか?青葉……私たちは一つになるべきなのに、お互いに知らない情報が行き来するなんて。誤解を招く原因になるぞ」
「……」
青葉にしては珍しくハッとして目を見開いている。やめてくれ!その眼差しが心に突き刺さる。このままだとよけい彼女にショックを与えてしまいそうだ。
もっと優しく、優しく……私は一言一句、語りかけるように言う。
「違うんだよ青葉、怒っているんじゃない。ただお前たち艦娘同士で親しい会話とかやり取りをするなら、その目線で私もお前たちを見ていたい。ただそれだけで……あ」
やばい!ついに青葉がウルウルしてきた。彼女って意外なところで弱いからな……このままだと真っ直ぐに地雷を踏むぞ!私は思わず横を向いて助け舟を要請した。
「祥高さんは、どう思う?」
「はい、司令の仰るとおりだと思います」
平然と答える彼女……アア~!それじゃ全然フォローになっていない。青葉は既にうつむいて今にも崩れそうだ。
下を向いて肩を震わせて始めた青葉に向かって、私はただシドロ・モドロになっている。
「あああ、あのな~青葉……ん?」
その青葉の様子が変だ。何か肩の揺れ方が不自然で……おい、お前は本当に泣いているのか?
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※これは「艦これ」の二次創作です。
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ5ん」とは
「美保鎮守府:第五部」の略称です。