”それに比べてオレは仕方ない奴だな”
------------------------------------------
「艦これ」的「ブルネイの旭日」(みほ5ん)
:第44話(改)<ケッコンと五月雨>
------------------------------------------
<<食堂:ブルネイ司令の心情吐露>>
私はちょっと驚いた。
「それは私が見た五月雨とそっくりだな」
「ああ」
彼は呟くように返事をした。”彼岸”とか”あの世”を彼も信じるのか?いやそれ以前に私自身が半信半疑なのだ。しかし私が見た五月雨はとてもリアルだった。あれはひょっとして幻想ではないのかも知れないな。
「人間だって死んだらどうなるか分からない。ましてや艦娘なんてどうなんだろうか?」
彼は問いかける。
「難しいな」
だが私も祥高さんにも答えられるはずの無い問題だ。
「人間の霊界って言うのはよく分かりませんが、艦娘にも似た世界があるような気はします」
祥高さんが答える。そういえば彼女は彼岸みたいなところから戻ってきたんだよな。
だが珈琲を飲んでからブルネイ司令は心情を吐露するように言う。
「秘書艦殿には申し訳ないがオレは量産化の試作実験を繰り返すうちに意図的に艦娘は”機械”であると思い込むようにしたんだ。だから五月雨もそんな一人の艦娘に過ぎなかった」
「はい。試作実験の御苦労は私も伺っていますから、そうなるのは仕方ないと思います」
祥高さんがフォローする。
「そう言って貰えると救われるね」
彼はホッとしたような表情を見せた。こんな彼を見るのは初めてだな。
私の考えを悟ったのか彼は言った。
「オレも独身ならドライで居られただろうよ。だけど結婚して娘が居るからな。お前が最初到着したときにも話したと思うが、どうしても艦娘と被るんだ……」
「ああ、そうだろうな」
確かにその話は聞いてた。だが正直その感覚は私にはよく分からない。でも頭では分かる気はする。
彼は続ける。
「軍隊では今まで男性中心だから大きくて力の強い者が勝つ世界だった。それが艦娘を見て何かが変わった。人類歴史はしょせん男性同士の闘争だ。だがそこで勝って何が残るんだ?空しいよな」
オイオイ大丈夫か?哲学者にでもなったのかよ。その考え方は軍人とは正反対だぞ。
彼はなおも告白する。
「オレは変わった。恥ずかしいがお前には本音を言おう。オレは艦娘に希望を見たんだ」
「はあ?」
気は確かか?殿ご乱心か?
「それは嬉しいですね」
あれあれ?私を尻目に祥高さんのほうが彼をまともに見ているようだった。参ったな。こういう状況だとこっちがおかしいのかと思わされてしまうんだ、まったく。
彼はもう一度珈琲を口にしてから思い出すように言った。
「五月雨が見せたあれは絶対的な愛だな。だから試作量産型の連中も同じように生きたのだろう」
やや落ち着いたらしく少し声のトーンが下がった。
「はあ……愛か」
まさかこいつからそんな台詞を聞くようになるとは意外だった。まあ、もともとキザなやつだったけどね。
<<食堂:司令の見た五月雨>>
だがブルネイ司令は言った。
「安心しろ。軍隊を否定するつもりもないしオレはまともなつもりだ」
ホッとした。それを受けて私も応える。
「ま、私とお前の仲だ。そこは信用するよ」
彼は少し周りを窺(うかが)うようにしてから、やや声を潜めて言った。
「だがオレは五月雨が撃たれてそのまま逝ってしまった時、正直もう軍を辞めようかと思ったんだ」
この発言には私も祥高さんも目を丸くした。思わず私まで周りに誰も居ないか見回してたくらいだ。
だが彼はニヤリとして言う。
「フフ意外だったか?その時だよな。俺の中で何かが変化したのは」
そうかこいつも人並みに悩むのか。彼は続ける。
「オレは退官願いも書いたんだぞ」
「おいおい……」
そこまで思い詰めたのか?
彼は慌てた私を制するように手を上げるとテーブルにひじをついて掌を合わせた。その格好はまるで祈っているようだった。
「その晩だよ。五月雨の夢を見たのは」
「夢の中の彼女はどんな様子だったんだ?」
私は彼に聞いた。
この質問は私だけでなく祥高さんも興味ありそうな様子だった。彼は答える。
「ああ……夢の中でオレは上官に退官願いを提出していた。するとその相手を良く見ると他でもない五月雨だったんだ」
「そりゃまた……夢とはいえ凄いキャストだな」
思わず言った。
「だろ?もっとも彼女も高級将校っぽい服装だったからな。夢の中でオレは”ああこいつも出世したんだな。それに比べてオレは仕方ない奴だな”なんて思ったぜ」
祥高さんと私は思わず顔を見合わせてしまった。
<<食堂:叱咤>>
ブルネイ司令は続けた。
「あの日はミサイル攻撃とかいろいろあったからな。もうオレも疲れ果てていた。その上に五月雨が盾になっただろう?だから思わず退官願いも書いてしまったんだ。その晩だよ……まああれはオレに取っちゃ一種の悪夢ともいえるな」
「おいおい、五月雨が悪夢かよ?」
私が突っ込むと彼は苦笑した。
「ああ、だって考えても見ろ。今まで部下としか思っていない相手がいきなり上官だぞ」
そんなにリアルな夢だったのかな?
そこで祥高さんがカットインしてきた。
「それで五月雨はどうだったのですか?夢の中で」
「ああ……」
彼は記憶を手繰るような表情をして答えた。少し笑った。
「いきなり拒否されたよ。『受け取れません!』ってね。それから夢なのにアイツ、オレのことを叱るんだぜ。『ふざけないで下さい』って……可笑しいだろう」
それは私も祥高さんも意外だった。私の夢の五月雨とは真逆のパターンだな。でもホントにこれらの五月雨って単なる夢なのだろうか?
彼は真顔になって言った。
「ハッとしたよ。確かにあいつの言うとおり、ここでオレが降りたら、このブルネイはどうなるんだって」
彼の答えに私はちょっと安堵した。
「それで元の鞘に収まったのか?」
「ああ……取りあえずは。実に恥ずかしい話だろ?」
結論まで話して彼はようやく胸のつかえが取れたようだった。思わず私たちもホッとした。
付け加えるようにして彼はボソッと言った。
「こんな話、誰にも言えないよな」
だが私も祥高さんも弱音を吐く彼を見ても決して評価を下げるようなことは無かった。
まず祥高さんが言った。
「いえ、とても立派だと思います」
私も続けた。
「そうだ。良く踏みとどまったと思うよ」
私たちの反応を見て彼はホッとしたような表情を見せた。そして直ぐに手を上げると電ちゃんを呼んだ。振り返った彼女は直ぐに”珈琲だ”と悟ったようで、遠くから会釈をすると厨房へと向かっていた。
<<食堂:ケッコン>>
「祥高さんだったかな?」
彼は秘書艦の名前を呼んだ。
「はい?」
いきなり振られて彼女もちょっと驚いたようだ。
「こいつを支えてやってくれ。正直言って司令官としては頼りないし宇宙人みたいに得体の知れない部分も多いが基本的に悪い奴じゃない。まあ敢えて難を言えば軍隊の司令官には不向きだってことくらいかな」
「それは褒めてんのか?けなしてるのか?」
私は反論した。
「両方だ」
がっくり来るなあ~。だが親しいからこそ言えることだな。それは有り難いことか。
「お待たせしました~」
そこに電ちゃんが珈琲のお代わりを3人分持ってきた。
「ありがとう」
これは私。
電ちゃんがテキパキと珈琲を代える中でブルネイ司令がいきなり私の顔の前に指を立てて言った。
「おい、可能なら誰でもいい。お前は艦娘とケッコンしろ!」
『え!』
……といった感じで、そのテーブル全体が凍りついた。いや、電ちゃんもビクッとして一瞬静止しているじゃないか?
「こら、何を言い出すんだ?」
私は思わず言い返す。
それでも彼は相変わらず真顔で言う。
「オレはもちろん自分の結婚にはちっとも後悔なんかしていないぞ。だがな、もし仮に人生をやり直せるなら艦娘とケッコンすべきだと思ったんだぞ」
「マジか?」
「本気だ」
私は珈琲を手前に寄せながら半ば呆れたように言った。
「やれやれ~、お前も防衛次官みたいなことを言い出すんだな」
「何だ?彼もそんなことを言ってたのか?」
彼も珈琲カップを持ったまま身を乗り出すようにして言う。
「ああ」
「なるほど、さすがだな」
そういって姿勢を戻して珈琲をすする彼。
私は呆れた。
「どこが?」
そのとき私は電ちゃんがまだ立ち尽くしていることに気がついた。どうかしたのか?
<<食堂:電チャンとケッコン>>
私は立ったまま静止している電ちゃんに聞いた。
「どうかしたのか?」
「あ……」
ハッとした様に反応する電ちゃん。
口をもごもごさせていたが、祥高さんのほうを向いて話し始めた。
「ケッコンって……私たちと普通の人でも出来るんですか?」
ああ、そのことか。
だが私が答えるより先に祥高さんが答える。
「貴方はまだ知らないでしょうけど艦娘のケッコンは可能です。ただ男性とのマッチングの機会も少ないでしょうから、現実的にはほとんどの場合、相手は海軍関係が多いわね」
「そ、そうなのですか?」
この電チャンは何も知らないだろうな。果たしてどこまで理解できるだろうか?
ブルネイ司令も口を挟んだ。
「お前も試作量産型として建造直後だから世の中のことは何も分からないだろう。ま、簡単に言えば人間と仲良くなってずっと一緒に暮らせるようになるってところかな?」
たまらず私も口を挟んだ。
「本土から来た技術参謀が居るだろう?知ってたかもしれないが、あの怖いお姉さんも結婚した艦娘なんだよ」
彼女の亡くなった旦那(提督)のことは伏せておいた。この電チャンにはまだ刺激が強いだろう。
「そうなのですか」
呟くように応える電チャン。果たして分かるかなあ~?私たちは思わず息を呑んで彼女を見詰めた。だが電チャンはちょっと考えてから、やがてニッコリした。
「それは素敵ですね。私もそんな艦娘に成れるように努力します!」
そう言うと彼女は一礼をして戻って行った。そんな彼女の反応に私たちは安堵すると同時に一気に緊張が解けたような印象を受けた。
<<食堂:温度差>>
「何かあの子に希望を与えてしまったな……まあ、悪いことじゃないか」
私が言うとブルネイ司令も言った。
「そうだな。結婚というのは人間にとっても一種の憧れみたいなものだからな」
そう言いながら彼は祥高さんを見て言った。
「やっぱり艦娘にとっても、ケッコンというのは特別なものになるのだろうか?秘書艦殿」
その問いかけに彼女は軽くうなづいた。
「そうですね。私たちも誰に教えられたわけではありませんが、ほとんどの艦娘が自然にケッコンに対する願望を抱いています。もちろん個別に”温度差”はありますし、頭から拒否する子も居ますけど」
「なるほどね。本当に普通の女子みたいだな」
私が思わず口走ると祥高さんがこっちを見た。
「あれ?司令は今頃気づいたんですか?」
彼女はちょっと悪戯っぽく笑っていた。
「あ、いやぁ~」
思わず後頭部に手をやってしまった。私はコメディアンか?……でも、このやり取りでテーブルの雰囲気は和やかになった。
ブルネイ司令は時計を見ながら改めて確認するように私に言った。
「明日は天候にもよるが、出発は9時前後を予定している。天候によって最終的に決定する」
「ああ、最後まで世話になるな」
「何を言うか、俺たちは同じ帝国海軍だ。オマケにお前はオレの親友だからな」
「ありがとう」
私たちは立ち上がると握手をした。周りの艦娘たちも私たちを注目した。こういうときは司令の位置を実感するな。
彼は言った。
「もう今夜はフリーだろう?ゆっくり休んでおけ。明日からは帰還とはいえ戦闘と考えたほうが良いからな」
「ああ」
「では失礼する」
彼は敬礼をして立ち去っていった。食堂の艦娘たちも一斉に敬礼をした。
--------------------------------------
※これは「艦これ」の二次創作です。
---------------------------------------
サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
---------------------------------------
PS:「みほ5ん」とは
「美保鎮守府:第五部」の略称です。