「まあここは美保鎮守府の”勝ち”と言うことだな」
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オトナ「艦これ」「ブルネイの旭日」(みほ5ん)
:第47話(改)<修羅場と台風の目>
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<<廊下:朝の風景>>
作戦参謀が出口へ向かった直後、そちらから何か不穏な空気が漂ってきた。同時に廊下の方からガタガタと騒がしい音がする。その雰囲気を察したのか部屋の艦娘たち……秘書艦や寛代、大井の娘まで全員がハッとしたように反応する。私はただならぬ気配に廊下へ向かった。
「!」
何となく予想は出来たんだけど廊下には腕を押さえている防衛次官と寝巻きを少し肌けながら構えの姿勢を取る作戦参謀が居た。
やれやれ……私はわざと少し呆れたように聞いた。
「お早うございます防衛次官。お早いお着きで」
「あ、お早う」
彼は腕を擦りながら苦笑いする。
作戦参謀も構えの姿勢を戻して、あらわになっていた肩を再び寝巻きで隠しながら呆れたように言った。
「早朝からご苦労だな、次官」
彼は困惑した表情を浮かべる。
「ええ~?そりゃないよ~参謀。俺だってもう若くないんだからさ~いくらなんでも扉を開けて不意討ちっていうのはサ正直キツイよな~」
なるほど彼の腕に作戦参謀のケリが命中しかけたが間一髪、避けたようだ。謙遜しているとはいえ彼の反射神経はさすがだ。
だが作戦参謀は怯まずに突っ込みを入れた。
「何を言うか。軍人たる者常に臨戦態勢であるべきだ」
ところがそれを聞いた彼は急にニヤける。
「へえ~。ココは美保司令の部屋のはずなのに?な・ん・で貴方が寝巻き姿で出てくるのかなぁ?もしかして夜間訓練とか?そっちの方が大いに気になるのですが?」
すると今まで強気だった参謀は急に真っ赤な顔をした。
「そ、それはだな……」
まあ次官も本気ではないと思うけど、さすがに寝巻き姿じゃなあ~彼女の分が悪い。
「作戦参謀は別に問題ないネ~」
作戦参謀と同じく寝巻き姿の金剛が頭をボリボリ掻きながらノコノコと……っておい!そんなラフな格好で出て来るなって~!。もしここに青葉が来たら美保鎮守府どころか海軍全体を揺るがす大スクープだぞ!
<<廊下:観艦式?>>
だが次官は目を丸くして喜んでいる。
「おお~ワンダフォ~!臨戦態勢でない貴女もまた、最高ですな!」
手を叩くなバカまだ早朝だぞ……もっとも彼の意見には同意する。頭の電探を外した寝巻き姿の金剛は、もはや普通の可愛い少女にしか見えない。しかも彼女って素面でも小顔で声は高くてスタイルも良い……ハッ!いかんいかん自重せねば……。
その時いきなり”ピカ!”と電光が走った。雷(かみなり)か?い、いや……予想は出来るが私は恐る恐る光が発した方向を見た。アア~!やっぱり青葉だったか!万事休すだぁ~。彼女は次官に負けるとも劣らないドヤ顔でニタニタ笑っている。
「これは特ダネですね~。まさに歴史的な大スクープです!」
「違う!これはだな……」
私は慌てて弁明するが青葉は何度もうなづく。
「ウフフ……説明されなくても状況は一目瞭然。この写真を見たら普通の人はどういう事態か分かりますよね~」
「出すな!発禁だ!」
ところが青葉は意外に緩い表情だ。
「だからダイジョウブですって司令。このカメラには参謀閣下や次官殿もしっかりと写ってますから」
私よりも彼らを見た青葉。あれ?これってもしかして?……そう、この言葉に慌てたのは私よりはむしろ名指しされた二人だった。
『おい!』
言うが早いか次官は青葉のカメラを奪おうと飛び掛ったようだが……青葉も意外と回避能力が高い。サッと避けた。それでも次官は青葉を追いかけるが……その先の廊下でハッとした彼は足を止めた。
「お早うございます」
そこにはニコニコしながら落ち着き払った赤城さんが立って居た。既にいつもの紅い戦闘服に身を包んでいる。もともと長身で黒髪ロングの彼女に笑顔で立ち塞がれると誰だって躊躇するよな~。その横にはポーカーフェイスの加賀さんが並んでやはり青い戦闘服に身を包んで立っていた。一航戦の二人に並ばれると威圧感があるな。
『お……姉さま』
あ~その後ろからは真打の登場だ。美保とブルネイのダブル比叡が来た。やれやれ……正規空母に戦艦か。早朝から廊下で観艦式か?ちょっと頭が痛くなってきた。
<<廊下:修羅場イベント>>
それでも作戦参謀は怯まなかった。
「おい青葉、命令だ。フィルムを寄こせ!」
彼女は二人の正規空母の向こう側に逃げた青葉に凄む。しかし寝巻き姿の彼女が言ってもなあ。イマイチ説得力もないし迫力に欠けるよな。その横で次官はフィルムは欲しいけど……作戦参謀や金剛の極めてレアな寝巻き姿という絶景を横目で見ながら喜ぶべきか焦るべきか?何とも言えない複雑な表情をしている。
そうだよ。男子だったらたとえ軍人といえども、この修羅場かつ素敵な状況にはついニタニタするだろう。私もさっきから頬が弛みっぱなしでヤバいんだ。そこを立場上、何とか誤魔化している。
そして青葉はやっぱり筋金入りの記者だった。こんな状況下でも慌てず二人の正規空母の後ろ側から本省連中の慌てふためいた様子を盛んに連写している。
「だから止めろ!おい司令、止めさせろ!」
必死に叫ぶ作戦参謀……ついに矛先がこっちに向かってきた。
「あ、はい!青葉ぁ……」
だが言いかけた私の声は直ぐに『お姉さま、イヤイヤ~』という声にかき消された。ダブル比叡が叫んでいる。そのイヤイヤを言われた当の金剛は、まったく意に介せず腰に手を当てて参謀と次官の狼狽振りを眺めて喜んでいる。
あんなに嬉しそうな彼女は久しぶりに見たな。最近の金剛は時おり暗い影を見せるのが、ちょっと気になっていたのだ。だから私は喜ぶ彼女の笑顔を見てホッとしていた。お前はそういう笑顔が一番だよな。
ふと見るといつの間にかGRから寛代が出てきたが相変わらずの無表情だった。その隣の大井の娘はキャッキャと手を叩いて喜んでいる。へえ、そんな感性があるんだな。大井は苦笑しているが……しかしこの駆逐艦と娘は雰囲気からして対照的だよな。翻って一航戦の二人も微笑んでいるし、男子二人はニタニタ……この場に居る者は喜んでいる方が多い。そう思えばこの”修羅場イベント”も○(マル)になるのかな?
ようやくGRから祥高さんが出てきた。さて重鎮が何を言うかな?私が見ていると彼女は軽く腕を組んで作戦参謀に問いかけた。
「こうなることは当然予想しないとダメよね……で、貴女はどうするの?」
「え~祥高姉さん助けてよ、何とかしてよ~」
姉の前では素直に困惑の表情を見せる彼女だった。こんな修羅場でも姉妹だと正直なんだな。そんな参謀の素直なところは意外でもあり可愛らしく思えた。
案の定いつもの参謀の高飛車な口調とはうって変わった人間臭い台詞を聞いた防衛次官。もはやスクープ写真よりも祥高姉妹の萌える会話に悶絶していた。こいつも実は色男兼オタクではないのか?とはいえ私も彼の気持ちは分かるぞ。いつもは大人しかったりツンツンしている艦娘ほどその実(じつ)真逆の対応を見せることが多いんだ。そのギャップ感に萌えるよな~。ああ、私ももはや自重するのが疲れるくらい妄想の嵐だ。
そこにゆっくりとした足取りで技術参謀がやって来た。彼女はこの場面を見てすぐに状況を悟ったようだ。
技術参謀は落ち着き払って廊下に良く通る声で言った。
「まあこの場は美保鎮守府の”勝ち”と言うことで決着だな」
「ええ~」
これは作戦参謀。
そして技術参謀は青葉を振り返る。
「今回は我々の負けだ。それ相応の取引には応じよう。だからその写真の扱いは……」
そこまで聞いて青葉は言った。
「ダイジョウブです。機密保持には自信があります」
彼女は軽く敬礼をした。技術参謀も祥高さんもうなづいている。私も青葉なら下手なことはしないだろうという確信はあった。うまくやったな青葉。
<<廊下:台風の目とレア体験>>
「ところで次官は何の御用事で?」
私は改めて聞いた。
「あ……ああ」
興奮で頬を高潮させ表情も弛みっぱなしだった次官は改めて本来の目的を思い出したような顔をした。こいつやっぱりアホだな。人のことは言えないが。
「オホン……実は司令と出発の最終打ち合わせをやりたいのだが。どこが良いだろうか?」
いきなり私のGRで……と、提案しなかったのは偉いぞ。何しろ中ではレディたちの寝床が展開中だ。ココはまずい。
でも祥高さんは気を利かせた。
「大丈夫ですよ次官……この部屋でやります。司令、よろしいですね?」
いきなり振られた。
「え!あ……ああ。でも和室が……」
驚いた私が言うと彼女は平然と答えた。
「作戦参謀も宿泊した人たちも直ぐに片付けて退室しますから」
彼女が「では皆さんお願いします」言うと金剛以下、お泊り組はすぐに『は~い』とうなづいて部屋に戻ると急いで整理し始めた。ダブル金剛は喜んだ雰囲気で失礼しますといいながらGRへと突入している。
「数分待っていただければ準備が整います」
祥高さんが言うと次官は嬉しそうに答えた。
「ええ了解ですよ~もう何分でも待ちますから」
ニタニタするなって……さすがに同類だと思いたくないな。
やがて彼は廊下で待ちながらダブル比叡たちがチョコマカと金剛の布団を運び出す様子をニタニタしながら見ている。幸せなやつ。そう思いつつ私も楽しいんだけど……そうか!私は彼が言うところの艦娘のレアな場面に日々遭遇しているわけかな?役得というか何と言うか。
そう考えていると案の定、次官は直ぐに私の側に、にじり寄ってきた。
「司令、美保鎮守府はもう連日サイコーでしょう?」
「え?」
そんなわけあるんだが……私は知らない振りをして腕を組みながら答えた。
「え~っと……距離を置けばハーレムに見えるでしょうけど。でも現実は甘くないですよ。こんな風にいつも台風のような修羅場が展開するんですよ」
私の言葉に彼は驚くかと思いきや。意外にも軽く腕を組んでうなづいている。
「イイなあ~そういうの。ワクワクするよな」
「ええ?」
バレたか?
その次官はアゴに手を当てて言った。
「司令官は艦娘である彼女たちが、どこの鎮守府でもあんな感じで生き生き過ごしていると思いますか?」
「は?それはどういう意味ですか?」
私は彼の本意が分からなかった。
次官は続ける。
「海軍には他にも艦娘を運用する鎮守府や泊地はいくつもある。そして艦娘がまだ誤解されることが多いのはご存知でしょう」
「はあ」
彼は急に厳しい顔になった。
「いわゆる”ブラック鎮守府”って奴も知ってますね?」
「はい」
私はちょっと構えた。
だが彼は少し表情を緩めた。
「そこと比べたら美保は上手く回っている方だな。むしろさっきの青葉の、あの行動は……」
そこまで聞いて私はハッとした。次官はうなづいて意味ありげに笑う。
「分かったでしょ?一応軍人である艦娘が普通はあんな行動は取らないよ。だから今、美保は良い雰囲気なんだ。艦娘運用の見本とも言うべき素晴らしい位置に立ちつつある。さっき君は台風と言ったな?だがオレから見ると美保は艦娘による素晴らしい台風……まさに艦娘台風の中心的存在なんだよ。他の鎮守府はどこも四苦八苦しているのに美保はどうだね?オレから見れば素晴らしい台風の”目”だ。そういう意味では祥高姉妹が君を登用した狙いは結果的に極めて正確だったわけだ」
それを聞いて私は何ともいえない不思議な気持ちになった。
「艦娘台風の目か……」
なるほど苦笑するしかないが的確な表現かも知れない。彼は何度もうなづいている。
<<打合わせ:札付き司令>>
数分後には祥高さんが顔を出した。
「お部屋の準備が整いました」
「ああ、ありがとう」
私たちは部屋の中に入る。和室の襖もきちんと閉められ簡易キッチンでは既に珈琲が準備されていた。秘書艦以外の艦娘たちは総ざらい退出していたから密かに何かを期待していたような次官はちょっぴり残念そうな顔をしていた。
私たちがソファに腰をかけると祥高さんが直ぐに珈琲を淹れてくれた。彼女は一礼をするといくつかの食材を持って退出した。ああ、あれはこの部屋に泊まった艦娘たちへの朝食なんだなと思った。
彼女のうしろ姿を目で追いながら次官は言った。
「美保鎮守府がこういう雰囲気になったことは司令である君の功績だと思う」
「功績だなんて大げさですよ」
「大げさなものか」
彼はさっそく珈琲を手に取った。
「さっきも言ったとおり艦娘の対応に手を焼いている鎮守府は多いんだ。だいたい武骨な軍隊と少女なんて最も対極の組み合わせだろう?それでいて艦娘たちは強力な火力を持つ。これは大いなる矛盾だ」
「はあ」
私も珈琲を手にした。
次官は続ける。
「祥高三姉妹が美保にお前を当てたのも、いうなれば軍部の札付き司令だから失敗してもOKって目算もあったかも知れないし」
何となく傷つくな、その言い方は。
「だが結果オーライだ。艦娘は総じて気の強い娘が多いだろう?そこにフニャフニャした君だ。結局それが功を奏したのかも知れん」
フニャ……って。やっぱり傷つく。だが彼は続ける。
「海軍としては艦娘の戦闘能力は喉から手が出るほど欲しかったんだ。それを射止めた上にこのブルネイでの実験成功とシナ撃破。タナボタ的だが軍隊なんて結果がすべてだ。自信を持ってイイと思うぞ」
「そうですか」
「そうだ」
ちょっとホッとした。
「逆に美保鎮守府に着任しなかったら司令官、君は本当に閑職送りだったろうよ?」
それを聞いて私はドキッとした。それってもしかして私は結局、表面的には艦娘たちに振り回されているようだけど、本当のところは彼女たちに助けられ護られていることになるのだろうか?
私の表情をチラッと見て彼は続けた。
「ま、あの青葉に何を要求されるかチョイと恐ろしいが……でもこれだけ功績があるんだ。本部からも恩賞は十分に引き出せると思うよ」
恩賞ねえ……あまり実感はなかった。
<<打合わせ:待遇の差と羨望>>
「それはそうと、本題だ」
彼は身を乗り出した。
「出発は予定通り鎮守府出発が09:00だ。作戦参謀は念のために現地に留まり次の便で本土へ戻る。本省関係は今回私と技術参謀が飛ぶことになる」
「はい」
なるほど、やっぱりそうなるんだ。
「今決まったのはそんな所だな。なおブルネイ空軍も領海内は護衛に付いてくれるが、そこでの攻撃はまずないだろうし気休めだな」
「そうですね」
彼は残りの珈琲を飲み干すと、立ち上がった。
「朝食は食堂ではなく簡単な機内食が配布される……まあYS-11は旅客機だからな。こっちの待遇は大艇とは天地の差だが……それでもイイか?」
これは私が大艇に乗ることを指しているのだろう。
「はい。別にそれで構いません」
彼は少し微笑んだ。
「まあ君たちには本当に期待しているよ。仮に攻撃を受けたとしても、今となってはどっちに転んでもシナが不利になるだけなんだがな」
サラリと恐ろしい発言をしているな。
「それは敵……例えばシナが攻撃してきた場合でしょう?」
「まあそうだが……そうならないことを祈るばかりだ」
「当然です」
それを聞いて彼はうなづいた。
<<打合わせ:パラダイムシフト>>
「司令官、君が最初オレのことを軽蔑していたようにオレも当初は君を見くびっていたんだよ」
「え?」
突然本音か?驚いて反論しかけた私を彼は制して続けた。
「いや……決してね、君の事を悪く言うつもりはないんだよ。軍隊組織、特に中央官庁なんてそんな連中ばかりだからね。だけど艦娘や君を見ていると、とても羨ましいんだ。何っていうのかなぁ~?君たちの前ではこのオレが素直になるんだぜ。この不思議な感覚」
彼は遠くを見るような目つきをした。それを聞いて私はあのドイツ武官を連想した。彼も似たようなことを言っていたな。艦娘は何かを想起させるのだろうか?
「艦娘も不思議だが」
次官は視線をこちらへ向けた。
「君だって不思議なオーラを出している……それが美保鎮守府では艦娘と幸運なマッチングを見せたわけだ」
「はあ」
褒めているのだろうか?
「それが今後の海軍の運営方針にも少なからず影響を与えることになると思うよ」
「……」
半信半疑の私の表情を見て彼は続ける。
「まあ海軍は大げさとしてもね。少なくともオレや祥高三姉妹は君たちに大きな影響を受けているんだ。まあ価値観が大きく変革(パラダイムシフト)させられているわけだな。そういう特異な鎮守府に美保は成長しつつあることは自覚しておいた方がいいな」
「そうですか……」
良く分からない。彼はそんな私の肩を軽く叩くと退出して行った。
直ぐに祥高さんが次官に会釈をしながら「失礼します」と言って部屋に入ってきた。私たちに気を遣って外で待っていてくれたようだな。私は直ぐに彼女に伝える。
「出発時刻は09:00だ。各班長に伝えてくれ」
「畏(かしこ)まりました」
そのまま私は黙って彼女を見上げた。直ぐに祥高さんは「あの……何か?」と聞いてきた。
「何度も繰り返すがこの期間は本当に君たちには、いろいろ支えられた。ありがとう」
彼女は恥ずかしそうに応える。
「いえ……私は任務を遂行したまでです。もし本当にお礼を仰っていただけるのでしたら無事に本土に着いてから改めてお願いします」
その言葉に私はハッとさせられた。
「そうだな、まだ戦いは終わっていないんだ」
「はい」
彼女は微笑んだ。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ5ん」とは
「美保鎮守府:第五部」の略称です。