私が十六夜咲夜であるために   作:pumpkin

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シリアスな場面は勢いでいっきに書けたりしますが、日常って難しいですね。

おまたせしました。日常エピソード2本目です。


EP8.メイド妖精育成計画

 霧の湖には、外界からは結界で隔離され、見た目にも普段は深い霧でその姿を

 見ることが出来ないが、湖の中央よりやや北に位置する場所に陸繋島(りくけいとう)となった小さな島があり、

 そこには立派な大きな洋館が立っている。

 敷地内の全てが赤を基調として統一され、豪勢な庭や噴水、大きな時計台もあり、洋館自体も、二階建てで外観にも五十部屋以上あるほどの大きさだ。

 

 それだけではなく、内部は屋敷に務めるメイド長が空間を操作して拡張している為、実際には外観の数倍の広さとなっている。

 歩いて見て周るならば、下手したら一日を費やすかもしれない。

 初めて訪れたものならば迷う事請け合いだ。

 

 そんな巨大な洋館の隅で、当の館内を広げた張本人が一人頭を抱えていた。

 

(掃除が終わらない…………!)

 

 どこからか管理も出来ないのに拡げるな、との声が聞こえそうだが、否である。

 

 屋敷の拡張自体は、メイド長の主の、「私には狭すぎるわ、咲夜もっと大きくして頂戴」という無理難題に合わせ、主の親友で同居人のパチュリー・ノーレッジが私室兼図書館として使う部屋に、大量の本を蔵書する必要がある為、希望と実益を兼ね合わせた需要を無理やり満たした結果なので無駄な物ではない。

 

 肝心の管理に関しては、メイド長である十六夜咲夜が『時間を操る程度の能力』というを力を使い、時間を止める事によって、日々の業務をこなしている為それ自体は十分に可能だ。

 

 ならなぜ終わらないのかと言えば、答えは別のところにあった。

 

 バタバタバタ・・・・・・

 

「わーい、お掃除だー!」

「むー、ワタシのほうがいっぱいお掃除するです!」

「こらー、そこはワタシがメイド長にまかされた場所なのです!」

「みんなまってー! あうっ!」

 

 ドタッ、ガラガラガシャーン!

 

 今のでいったいいくつ目の壺が割れたっけ、……しばらく前に数えるのを止めたんだった。

 状況は一向に作業が進むどころかどんどん悪化していっている。

 その原因はまさしく彼女の部下である、メイド妖精達のせいだった。

 

 元から大きな屋敷である為、幻想郷に着てから、

 質より量をモットーに大量の妖精メイドを雇い入れたらしかったのだが、

 如何せん妖精だ。余りにも手際が悪く、却って足を引っ張っている。

 彼女達自身は意外にも真面目に働いている為、叱るに叱れない状況だ。

 

 唯一の頼みの綱である、前任のメイド長である紅美鈴に折をみて聞いて見たのだが、

 彼女曰く、

 

「メイド妖精達が通った後に掃除をすれば1回で済みますよ」

 

 とのこと。

 全く解決していない。開き直れということか。

 

(いったいどうすれば…………)

 

 このままではいけない。何か解決策は無いんだろうか。

 ウンウンと唸っていると一人のメイド妖精に声を掛けられた。

 …………わりといつも唸ってる気がする。

 

「メイド長、さっきので割れた壺は107個です。

 バケツの水を撒いた回数が802回で、窓を割った回数が、えっと13回です。わぁ、少ないですね♪」

 

 嬉々として報告してくるが、もはや聞いても仕様の無い数だ。

 ちなみに、窓ガラスを割った回数が極端に少ないのはレミリア達吸血鬼が、

 日光が苦手なのでそもそも窓自体が少ない為である。

 

「報告、ご苦労様。貴方も自分の持ち場に戻りなさい」

 

 そうそう、メイド長として人を動かす立場にもなったので、敬語以外の言葉遣いもするようにしてみた。全然馴れずむず痒い。

 

「わかりましたっ!」

 

 そう言うとメイド妖精はうれしそうに返事して、持ち場へと駆けていった。

 

 ガシャーン!

 

 あ、壺一個追加。

 

 全く、そんな細かい数字をしっかり覚えられるのなら仕事も覚えられそうなものに、いったいどうすればいいのやら。

 

(ん? 細かい数字?)

 

 そういえば、メイド妖精達は皆金髪金色の目で7・8才くらいの見た目とおおよそ似たような外見ではあるが、注意深く観察すると、細かな外見の違いがある。

 

 来ているメイド服の色は私が適当に用意したものだが、羽の形状がそれぞれ微妙に違っていて、特にわかりやすいのは髪形だろうか。

 ロング、ショートカット、三つ編み、ポニーテール、ツインテールなど様々である。

 

 内面に至っては、顕著だ。

 性格はやんちゃ、クール、おくびょう、いじっぱりなど全然違うし、好きな事もやんちゃな子は走ったり飛び回るのが好きだし、クールな落ち着きのある子は細かな作業が得意。

 先ほどのメイド妖精などは、好奇心旺盛でおしゃべりが好きなようだ。

 

 ――――その時、私の中で何かが閃いた。

 

 メイド妖精達にも得意・不得意があるんじゃないだろうか。

 

 掃除に限らず、料理や洗濯など目的が違えば方法が変わってくる。

 壺を磨くのには、清潔な布で磨く必要があるし、床を掃除するなら箒や塵取りで払い、濡れた雑巾で磨くなど何回かの手順も踏む。料理などは特に複雑だ。

 

 知能の高い人間や妖怪とは一旦別に考えて、一つ一つの作業単位に分けて想定してみる。

 彼女達が出来そうものに作業を細かく区分し、担当する人材を脳内で、そこに割り当てる。

 

(よし、なんだかうまくいく気がしてきた!)

 

 さっそく、メイド達全員が集まれるよう広いフロアに集合させる。

 

「よく集まってくれたわね。

 これから貴方達にしてもらいたい事があるの」

 

 その言葉に周囲は一斉に色めき立つ。

 

「してもらいたいことってなんですかー?」

「ひっ、もしかしてここからでていけってことじゃ…………?」

「そ、そんなことないし! メイド長にはワタシ好かれてるもん!」

「紅茶を飲みすぎたから怒ってるのかな?」

「か、隠れて遊んでた事がばれたんじゃ、ごめんなさい」

 

 ガヤガヤ騒いでいるので、落ち着くまで、しばらく待つ。

 気のせいか、怒られると思っている子が多い気がする。怒ったことなんて無いのに…………。

 

「安心して。悪い事じゃないの。

 私が今から貴方達を組に分けるから、その皆と一緒に新しい仕事をしてもらいます」

 

 その言葉にまた騒ぎだすが、時間が勿体ないので説明を省き組み分けに移る。

 妖精メイド達をまとめるのは苦労したが、なんとか組に分ける事ができた。

 それから便宜上、それぞれの組に簡易の名前をつけて、さっそく仕事を始めさせた。

 

 

「『風組』、しゅっぱーつ!」

 

 掛け声と共にやんちゃなメイド妖精達が、勢いよく廊下を飛び回る。

 通った後には、強い風が舞い、塵や埃が一箇所に固められていく。

 彼女らを追う様に最後尾の組が固められたゴミを外へ飛ばす。

 

「『水組』、続きます」

 

 後に続いて、風組が通った廊下をクールな水組が水魔法で一気に洗い流す。

 水圧が強すぎ無い様、調節させるのに苦労した。

 

「もっかい『風組』、しゅっぱーつ!」

 

 再度風組が濡れた廊下を駆け回り、今度は乾かす様に何度も往復していった。

 

 完璧だ。

 思った以上の成果にわたしは内心で親指をグッと立てた。

 少々大雑把な気もするが、一定の清潔さを保っているし、何よりあっという間に廊下が綺麗になっていく様は見ていてとても清々しい気分だ。

 

 他にもいじっぱりな『火組』で暖炉の手入れや料理の下準備をしたり、

 おくびょうな『土組』で壁面の補修や敷地内の道を整備したり、

『風組』と『水組』で洗濯をし、雨の日は『火組』も加わったりした。

 

 

「メイド長、お掃除おわりましたです!」

「ご苦労様、皆に休んでと伝えてくれるかしら」

 

 最後にそれらとは別に好奇心の強い『音組』という各組とわたしの間を行き来し、指示を伝えたり、報告させる組を作って、指示系統を一本化する。

 

 もちろん細かな作業については出来ない為、わたしが残りの全てを担当しているし、他にも課題はまだまだたくさんあるが、手間を増やすばかりだった妖精達が、ちゃんと仕事をこなせるようになった為、劇的な変化と言えよう。

 

 途中、メイド妖精達が敷地内を駈けずり回っている様子を、お嬢様に合う為珍しく図書館を出たパチュリー様が目撃し、しばし唖然した表情をしていたが、これまた珍しくあまり表情を崩さない彼女がフッと笑い、「考えたわね」とだけ言い残し去っていった。

 

 わたしのアイデアを気に入ってくれたようだ。

 妖精メイド達も役に立つのがうれしいのか、とても喜んでいる。

 

(よし! 妖精メイド達をどんどん鍛えよう!)

 

 意気込んで、明日はどんな風にすればより彼女達が活躍するか考えながら床についた。

 

 

(…………あの子、誰?)

 

 見覚えの無い妖精がメイドの格好をして屋敷内をうろついている。

 わたしに気づいた妖精が近づいてくる。

 

「おはようございます、メイド長! 今日もお掃除ですか!?」

 

 どうやら、メイド妖精のようだ。

 おかしいな。皆金髪だと思っていたけど、『風組』と思われる少女の髪と目が緑色に見える。

 思わず何度か目を擦ったが、金色に戻ったりしなかった。

『火組』、『水組』、『土組』もそれぞれ赤・青・茶色と変わっているようだ。

 

 唯一変わらないのが『音組』で金髪のままだった。

 

「そ、そう。じゃあお願いしようかしら」

 

 とりあえず、始めてもらったのだが、昨日とは大違いだ。

 明らかに魔法の精度が上がっているようで仕事の精度もより増している。

 察するに、組分けして特化されることで各々の能力が向上したのだろう。

 

(これは、紅魔館のメイド事情に革命が起きる!)

 

 驚愕と戦慄に慄きながら、抑えきれない期待に胸を躍らせた。

 

 ――――そしてさらに翌日。

 

 幼かったメイド妖精が少し大人びた。

 具体的にいうと、七・八才だった妖精達の容姿が十二・三才くらいになった。

 昨日同様に『音組』の妖精メイドに声を掛けられた。

 

「メイド長、おはようございます。

 既に各組に命令を出しておきました。補足はありますでしょうか?」

 

 恐ろしい。知性を少し感じる程度だった妖精が、いつのまにか知性溢れる優等生になっていた。

 わたしが指示する前に既に動いている。実に優秀だ。

 

 試しに、美鈴に朝食を持っていくようお願いしてみた。

 

「了解しました!」

 

 たまに、以前の名残か、妖精の本能か、感情の起伏が目に見えてわかるが

 問題なく指示を出し門にいる美鈴に朝食を運んでいる。

 

「美鈴さん、朝食を持ってきました!」

「おぉ、ありがとうございます。

 ちゃんと持ってこれるとは偉いですね」

「はい! 紅茶のおかわりもいりますか?」

「あ、はい頂きます。て、あれ?

 貴方本当にメイド妖精? 髪の色が…………。

 さ、咲夜さん大変です! メイド妖精がグレました!!

 咲夜さーーん!!」

 

 美鈴が混乱の余りわたしの名前をしきりに叫んでいるが、大変気持ちがわかる。

 わたしも何度も驚かされたのだ。

 今までメイド妖精と蜜に接していた美鈴なら尚のことだろう。

 

 ひとまず、十二分に役目をこなせているようだ。

 これはもう以前のメイド妖精とは別人だと考えよう。

 給与となる報酬に福利厚生、有給休暇。おっとわすれていた賞与も。

 

 それよりもまず彼女達に今度名前をつけてあげようかな。

 

 

 

 

 ちなみに、レミリアお嬢様の反応は、というと。

 

 家族会議(紅魔館の住人会議)が行われた。




組分けからその結果の流れなどもっとうまく表現出来れば面白くなるのですが、なかなか難しいですね。


※16/02/02 各組の仕事内容が偏っていた為、手直ししました。

※16/04/04 全話改訂しました。
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