私が十六夜咲夜であるために   作:pumpkin

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遅くなりました。

やっと、彼女達が動きだします。


EP11.それぞれが動き出すとき

 季節は真夏の真っ只中。

 

 この時期は例年、焼け付くような真夏の陽射しが差し、ミンミンと蝉の鳴き声が絶え間なく響く。

 蒸し暑い昼下がりの中、頬を撫でる風もどこか生ぬるく、不快感をよりいっそう増幅させる。

 

 だが、今年の夏は決定的な違いがあった。

 

 それはまだ昼下がりだというのに、辺りは薄暗く、空が”紅い”のだ。

 比喩や表現ではなく、文字通り禍々しく紅い紅い空には、あれほど鬱陶しかった太陽などどこにも姿が見当たらない。

 

(だれがどうみても絶対におかしいぜ)

 

 紅い空はただあるだけなら、人々は不気味がるだけで何も無いのだが、それは人々や動物達に有害らしく体調を崩した物が何人も出たようだ。

 考え付く方法で色々と調べてみた結果、どうやらわずかに瘴気を含んでいるらしい。

 体調を崩すものがでたのはそのせいだろう。

 

 瘴気は人間にとっては有害でしかないものだ。

 幻想郷に生まれてこんなものなど一度たりとも見たことがない。

 自然のものでは無いのであれば、その原因は、と魔理沙は思案する。

 

 この様な芸当が出来るのは十中八九妖怪の仕業だろう。

 ならば妖怪に聞けばいいと容易に思い至るのだが、なんせその知り合いが皆無に等しかった為、あても無く空を飛んでいるのだった。

 

 正確には、いないこともない。

 だが、一人は半妖で魔理沙とは旧知の仲なのだが、彼はそもそも世俗には疎くむしろ幻想郷以外のモノに興味を示す変わり者である為、聞くだけ無駄である。

 

 そしてもう一人。

 こちらも半妖であるが、彼とは違って彼女は人里の守護者という立場上、何か知っていそうなのだが、肝心の魔理沙には彼女を避ける理由がある為これも不可能である。

 

 理由は今は置いておいて、とにかく調べ様にも全く見当がついていない為、今に至る。

 

(このまま飛んでても仕方ないぜ)

 

 とりあえず家を飛び出してみたはいいものの、当然というべきか、やはりというべきか、紅い空の正体がどうやら霧である事がわかった以外は何も出くわす事はなかった。

 

 こういう時には発想の転換が必要である。

 紅い霧を調べてもわからないなら、それを起こしたヤツを調べればいい。

 それを起こしたヤツがわからないなら、その逆を調べればいい。

 

 魔理沙はハッとした表情で気づき、方向を変えてある場所を目指した。

 その場所は人里からぽつんと離れた小高い丘に立つ神社。

『博麗大結界』を維持し、代々妖怪退治を生業とする巫女、『博麗の巫女』に会う為、速度を上げた。

 

 

「よっ、と」

 

 神社の境内に降り立って、魔理沙は辺りを見渡すが、目的の人物は見当たらない。

 神社内は人の手が入っているのがわかるくらいには、手入れされているが、参拝客はおろか人っ子一人いなかった。

 

 人里から離れている上、道中は妖怪がでる危険がある為、参拝客が無いに等しいのはある意味納得できるのだが、ここは神社なのに神主もいない。

 いるのは巫女だけだ。何が言いたいのかというと、要するにいつもここにいるのは一人の巫女だけだ。

 

 遠慮という言葉を棚にあげて、ずかずかと離れの方へ向かう。

 そこにも姿が見当たらず、一瞬遅かったかと焦ったが、すぐに声がかかり安心した。

 見ると丁度お茶を淹れてきた為、奥に引っ込んでいたらしい。

 

「ちょっと、魔理沙。また来たの? あんた暇なわけ?」

「ところがどっこい、魔理沙さんは忙しいんだぜ」

「じゃあこんなとこで油売ってないで、さっさと行けば?」

「こんなところって……。今日は霊夢に聞きたい事があって来たんだ」

 

 この愛想の無い少女は『博麗の巫女』、博麗霊夢(はくれいれいむ)だ。

 魔理沙が彼女とで出会ってまだ日が浅いが、それ以来何かあれば頻繁に会いにやってきている。

 最近では幻想郷で少しづつ広まってるらしい、『弾幕ごっこ』を暇があれば誘っていた。

 毎回嫌そうにするが、それでも最後には付き合ってくれる。

 私を嫌っているわけじゃなく単にめんどくさいだけなんだろう。

 

「何? また今日もなわけ?」

「いいや、残念ながら別件だぜ。ていうかわかってるだろ?」

「さぁ? 何のことかさっぱりわからないわ」

「さぁ……ってまさか本気か? どうみてもおかしいだろ!?」

 

 そう言いながら空を指さしてみせる。

 

「何よ? …………あぁ、なんか空が赤いわね」

「今気づいたのかよっ!?」

 

 思わず素っ頓狂な声を上げてしまったが、これが博麗霊夢という少女である。

 何もにも囚われず、どこか他とは違う。

 一見無愛想に見えるが、ひとたび接してみるととても接しやすく、ヒトを惹き付ける不思議な雰囲気を持つ少女。

 そんな彼女の己を押し通せる在り方に、魔理沙は本人も気づかず惹かれていた。

 

「最近、お洗濯が乾かないと思ったら。迷惑な霧ね」

「そんな問題か? 人里では何人も倒れたって話だぜ。

 幻想郷の巫女が出なくて大丈夫なのか?」

 

 本来であればいの一番に駆けつけるべきはずの霊夢は、あろうことか今の今まで気づいていなかったようだ。

 参拝客がめったに来ないせいなのも、少しは影響しているのだろうが、それにしても無頓着すぎる。

 

「気づかなかったわ。さっさと止めてもらえないかしらね」

「何を悠長な事を……、霊夢が行かないなら私が――――」

「――――いいえ。霊夢、貴女には行って貰わないといけませんわ」

 

 突然の第三者の声に魔理沙は驚くが、霊夢はどこか当たり前といった様子で、声の主に毒づく。

 

「どうしてよ? まさかあんたの仕業じゃないでしょうね?」

「うふふ、そう見えて?」

「見えるわ」

「…………おい、私を無視するんじゃないぜ」

 

 二人のやり取りに、完全に置いてけぼりをくらった魔理沙は、半眼で睨んだ。

 どうやらかなり気心が知れているらしいが、まだ霊夢と付き合いの浅い魔理沙でも、霊夢が本気で疑っているらしいことがわかるし、対するどうみてもただものじゃ無さそうなヤツも、まるで宙が割れたみたいに隙間ができて、気味の悪い目が無数にある穴から出てきたのだ。

 いい知れない不気味さを感じ、思わず身震いしそうになる。

 

(まじで、こいつの仕業なんじゃないのか?)

 

 ある意味で正解なのだが、今の魔理沙は警戒心から来る単なる考えであり、それ以上の思考は出来ずにいた。

 

「こいつはね――――」

 

 霊夢が至極嫌そうにしながらもぽつぽつと説明してくれた。

 

 八雲紫。

 なんでも大賢者、スキマ妖怪、幻想郷の管理者、果てはココ(幻想郷)で起こることは全部こいつが黒幕だの、最後にはとんでもないことを言い出すが、肌で感じた雰囲気だけでは無い、実際とてつもない実力者のようだ。

 

「まぁそんなわけで、胡散臭いことこの上無いけど、一応私を拾って来て巫女にしたのはこいつよ」

「まじかよ…………」

 

 いっきに重大すぎる情報が押し寄せてきて頭がパンクしそうだ。

 ひとまず、魔理沙は一番気になった事を聞いてみた。

 

「つまり紫は霊夢の義母親(ははおや)ってわけか」

「あら霊夢、聞いたかしら?」

「魔理沙、ぶちころすわよ」

「ひっ!?」

 

 紫の方はどこかうれしげに霊夢を見つめているが、肝心の霊夢が怖すぎる。

 今まで見たこと無い顔だぜ。この話題はタブーってやつだな。

 

「い、いまのはナシだぜ。とにかく付き合いが長いんだな」

「まぁ、そうよ」

 

 あぶなかった。霊夢はさっきのが嘘みたいにもう機嫌は戻っているようだが、一瞬死を覚悟したぜ…………。

 

 すっかり話が逸れてしまったが、紫が現れた目的は、さっきも言った通り、霊夢が博麗の巫女として異変を解決させること。

 

「異変を解決するのは博麗の巫女の仕事よ。霊夢、貴女に任せるわ」

「妖怪のクセに人使いが荒いわね。わかったわよ」

 

 渋々ながら、霊夢は紫の言葉を受け入れ、準備を始めた。

 

「それと霊夢、異変解決に『スペルカード』は使えないわ。心してかかりなさい」

「ふーん、あんだけ無理矢理修行させられたのに、失敗でもしたわけ?」

「なんのことかしら?」

 

 紫はシラを切るが、一瞬で数度温度が下ったような感覚に陥る。

 今度こそ魔理沙は冷汗を掻いて身震いした。

 

(心臓に悪い奴らだな)

 

「まぁ、いいわ。それじゃとっとと終わらせてきますか」

 

 言うが早いか、準備を終えた霊夢は『空を飛ぶ程度の能力』で空を飛び、異変解決へと出発する。

 再び置いてけぼりをくらいそうになった魔理沙は、慌てて持ってた箒に跨りそれに続こうとする。

 だが、そんな魔理沙を止める声がかかり、それは叶わなかった。

 

「――待ちなさい」

「…………なんだぜ」

「魔理沙といったかしら? 貴女では霊夢の足手纏いになるわ。

 貴女に異変解決に参加する資格はありません」

「変だな? だれが起こしたかわからない異変にお前の許可がいるのか? それに無理矢理乱入するんだから資格なんていらないぜ」

 

 少しの間、視線が交差する。

 本来であれば魔理沙の言動は命がいくつあっても足りない行為であり、本人も推し量ることも出来ない実力さを感じてはいたがこれだけは譲れない。

 ある出来事から、彼女はやる前から、無駄だと否定する行為を見過ごせずにはいられないでいた。

 

「そう。一応善意で言ったつもりです。

 貴女が霊夢と行動を共にしないと誓うのであれば私に止める権利はありませんわ。

 どうぞその辺で犬死して来てくださいな」

「いわれるまでもなく、初めから霊夢のやつと一緒に解決するつもりなんてないぜ。

 私が先に解決するんだ。後で文句は言いっこなしだぜ」

 

 それを聞いて紫は何も言わずスキマとやらに消えていったので、私は箒に跨り勢いよく飛び出した。

 箒に乗っての飛行は少しムカついた為か、乱暴である。

 

 

 紅霧異変が始まってちょうど十二日目。

 これまでの忙しい日々が走馬灯の様に脳裏をよぎる。いや、死ぬ兆候なんてないけどね。

 信じられないかもしれないがこれまであまりにもたくさんのことがあり、あっという間の出来事だった。

 

 あの後メイド妖精達に名前を付けてあげたら、音組で一番優秀だった子が次の日には成人した美しい女性に変貌を遂げ、あまりの優秀さに私のメイド長の地位が脅かされたり、一日中居眠りしていた美鈴がとうとう無断で勤務中にいなくなったり、断腸の思いで、それをレミリアお嬢様に報告すると、なぜかお嬢様は手放しでお褒めになり、美鈴がいない間は門番も私が兼任するというよくわからないことになり、

 あまりの多忙さに、現実を忘れる為に、ナイフを無心に投げまくっていたら、十中八九当たるようになって思わず歓喜に振るえ小躍りしていたら、まさかのお嬢様にその場を見られ、二回目の家族会議(紅魔館の住人会議)が開かれたが、

 必死でなんでもないとアピールする為にさらにがんばっていたら限界に達してしまいとうとう倒れ、もれなく三回目の家族会議が開かれてしまった。

 

(家族会議の時のあの無言の重圧が、責められている様で、とてもとても怖いんだ…………)

 

 実際のところ咲夜の色眼鏡なしに見た家族会議なるものは、

 レミリアがどう切り出せばいいか迷い、「最近何か変わったことはないか?」などとあたりさわりない切り出し方のせいで咲夜には逆に悪い意味で誤解され、周りの住人達はどうかと言えば、パチュリーは無言で読書をし、美鈴はずっとニコニコとしていて口を出さないので実質レミリアと咲夜の一対一の様なものになっていた。

 

 レミリア達に、責める気など毛頭無いが、端から見ればものすごいプレッシャーがあり、尋問しているように見えてもおかしくなかった。

 

「メイド長、お体が優れない様ですが、大丈夫でしょうか?」

 

 思わず思い出してしまい青い顔をしていた私に、金髪の美しい妖精から心配の声がかかる。

 

「心配しないで、エティ。なんでもないわ」

 

 エティは愛称で、正しくはエティアイネン。私が知っている話から思いつきで名づけたメイド妖精だったが、今では私を補佐してくれる者として全幅の信頼を置いているのが彼女だ。

 

「そうですか? メイド長、あまり無理はなさらないでくださいね」

 

 倒れた当時を知っている為か、彼女はなおも心配そうに声をかけてくれる。

 彼女をはじめ、メイド妖精達が私を助けてくれるようになってもう5年以上の月日が流れていた。

 

「本当に何でもないわ。

 それより私に用があったのでしょう? なにかしら?」

「はい、主様がお呼びでございます」

「わかったわ」

 

 

 お嬢様がお呼びとは、ついにこの時が来たということだろうか。

 エティと別れ、道中思考に耽ける。

 

 ――――『紅霧異変』

 

『紅い妖霧』が幻想郷中を覆い、博麗の巫女が『スペルカードルール』を用いてこれを打ち負かして解決したとされる最初の異変。

 

 十二日前の夜、知識にあるとおり、『紅い妖霧』が紅魔館から立ち昇るのを見た直後に、美鈴から至急だとお嬢様に呼ばれたのだった。

 内容は、フラン様のこと。流石はお嬢様というべきか。

 今まで知識からフラン様の事は知ってはいても、実際には何も教えられず、皆から近寄るな、とだけ言われ止められていた。

 私からは明かしたことは無かったのに、お嬢様は見事看破され、私に食事を運ぶ様、お命じになられた。

 おそらくお嬢様の能力でお知りになられたのだろうと思うが、つまりはいつも見守られているということだ。

 

 常に見張られている様な気がして身震いを覚えるが、その反面どんな時でも私のことを見ていてくれていると感じ、その期待により一層のやる気がみなぎってくる。

 

 そして話は戻るが命じられた内容、つまりはフラン様のことだ。

 私が思っていたよりもずっと幼く、生きてきた年月よりも見た目通りのご様子だった。

 食事を持っていく様になりお話することは出来ているが、ヒトと関わることをひどく怯えているようだ。

 ひょっとしたらドア越しにお話したこともほとんど無いのかもしれない。

 その現実に、ひどく悲しくなり、あのお嬢様やパチュリー様達がそうすることしか出来ないという事実に、改めて彼女の能力の恐ろしさを思い知った。

 

(それでも、フラン様が幸せそうに笑っている姿が見たいな)

 

 

 コンコン――

 

 

「入れ、咲夜」

「失礼します、お嬢様。

 ……お呼びでしょうか?」

「あぁ」

 

 中に入ってお嬢様の次の言葉を待つ。

 きっとそろそろ来るであろう少女達のことだろう。今夜は満月になりそうだ。

 

「咲夜、もうすぐ博麗の巫女が我が館に攻めてくる。

 館に侵入されたらおまえが向かえ撃て。殺すつもりでやっていいぞ?」

 

(ん?)

 

 最後の言葉は気構えか何かだろうか。弾幕勝負である『スペルカードルール』なら、殺し合いは無いはずだが。

 

「かしこまりました。お嬢様に頂いた名に恥じる事無き働きをお見せしますわ」

 

 何時もの様に畏まり、意気込む。

 ようやく板に着く様になってきた堂々とした振る舞いもどこか様になっている。

 

「言うな。まかせたぞ咲夜。

 

 ――――それと、『スペルカード』はなしだ。本気でやれ」

 

「はい、では失礼致します」

 

 主に一礼をして、退室するべくドアへと向かう――――。

 

 

 

(え…………、えぇっ!?)

 

 

 ――――躓いた。台無しである。

 

 

 開始早々、いきなりケチがついてしまったが魔理沙は構わず飛んでいく。

 先ほどのやり取りが忠告されたのだということも気づいていたし、危険すぎるということも十二分に承知している。

 それでも、やってみないとわからないのだと、魔理沙はあえて楽しむことにした。

 

 ひとまず念の為、人里を遠巻きにぐるりと眺めてみたが、紅い霧に覆われているだけで特に変化は無さそうだったので、なんとなく森の方へと向かう。

 だが目に見えた進展は無く、さすがに手がかりが『誰かが起こした妖霧』だけというのはまずいようだ。

 

 

「こういう気持ち、なんというか…………」

 

「ロマンティックね」

 

 誰かに思ってもいないことを代弁された。

 見ると、黒い球体がふよふよと浮いているが、次第に中から少女の姿が現れる。

 

「私は夜は嫌いだけどな。…………変な奴しかいないし」

「変な奴って誰のこと?」

「誰もあんたのことって言ってないぜ」

「そうなのかー」

 

 軽口を叩きつつも一気に警戒心を上げる。

 こんな夜の物騒な森にいるやつなんて妖怪以外にありえない。

 軽口を続けながらなるべく観察する猶予を引き出す。

 

「で、何でそんな手広げてるのさ」

「んー? 十字架? 忘れてしまったのだー」

「十字架って、なんだかいやだぜ」

 

 少女は小首を傾げているが、単にフリ(・・)をしているだけかもしれない。

 

(とりあえずあの球体は触れるとまずそうだぜ)

 

「それで、何かようか? それともおまえがこの異変の犯人か?」

「いへん? 食べられる物なのかー?」

「喰えるワケないぜ。もし喰えたらしばらく腹を下しそうだ」

「ざんねん。なんだかものすごくおなかが減ってるのだ。

 

 …………じゃあ、おねーさんは食べれる人間?」

 

 瞬間魔理沙は距離を取って、ポケットから『八卦炉』を取り出す。

 対妖怪用に用意した物だ。

 

 ルーミアが距離を取った魔理沙を追いかける様に、ゆっくりと近づいてくる。

 本気ではないようだが、速度は私の方が勝っているらしい。

 

 チャンスとばかりに、色とりどりの魔法を放つ。

 スペルカードはおじゃんになってしまったが、霊夢との日々の弾幕ごっこが、そのまま訓練として成り立っていた。

 

 ルーミアは避けようとするが少し遅く、放った魔法のうちの一つが命中する。

 

「いたいのだー」

「…………」

 

 痛そうにしているし、本人も痛いといっているが、なんだかダメージがちゃんと通ってるいるかわかりにくい。

 とはいえ、少なくとも怯んだのでこのまま、早さで圧倒することに決めた。

 

 何回かの攻撃でさらに数発命中したが、大きなダメージを負っている様には見えない。

 ルーミアは進むに進めなくなり、たまらずいくつもの球体を出した。

 

「…………やっかいだな」

 

 大小いくつもの球体が出現し、ふよふよと魔理沙に向かって飛んでくる。

 これも遅く、避ける事自体は難しくないが、魔理沙の放った魔法が球体にぶつかるとまるで吸い込まれたかのように消滅し、ルーミア自体も黒い球体の中に隠れどこにいるかわかりにくい。

 

 意図せず持久戦にもちこまれた形になってしまった。

 

 ジリ貧になるのを嫌い、魔理沙は数少ない手の内の一つを明す。

 それらは、スペルカードとしても昇華していた魔法。

 

「『スターダストレヴァリエ』!」

 

 人の数倍にもなる巨大な星々がいくつも煌めき、ルーミアの出した球体にぶつかる。

 一見ど派手で攻撃に見えない魔法だが、その威力は強大だと自負している。

 まともに食らえば妖怪もただでは済まないはずだ。

 

 今度はぶつかった黒い球体が、逆に消滅することとなり、そのうちの一つの球体がはじけ、中のルーミアも一緒にはじけ飛ぶ。

 

「うぅ。なんで食べさせてくれないのだー」

「進んで自分を食わせるやつなんていないぜ」

 

 これで、無傷なら流石に手も足もでないかと思ったが、ようやく目に見えてダメージを負ったようだ。

 妖怪は、少し血を流している。

 

「そんなことないのだ。食べてもいいって約束してくれたおねーさんもいたのだー」

「ほんとかよ。そいつはきっとどっかおかしいぜ」

 

 妖怪の言う言葉に少し興味を引かれかけたが、慌てて冷静さを取り戻す。

 球体と見かけ以上のタフさはやっかいだが、要はそれ以上の力で、押せば勝てる。

 

「勝利のカギは、パワーだぜ!!」

 

 それまでの手数重視だった魔法から、一発一発の威力を重視した魔法に切り替える。

 

 魔理沙という少女は、ヒトから見ると一見明るくお調子物の様に見えたりするが、実はそうではない。

 頭の中では常に考えを巡らせ、自分の中のペースを保つ事を意識している。

 今の力押しのような行動も、考えなしに見えるかもしれないが、それは考えに考えを重ねた結果、シンプルな答えをはじきだしているに他ならない。

 

 内に秘めた冷静さと外に見せる明るさを合わせ持つ。

 魔理沙とはそんな少女だった。

 

「よし、もう一発でおわりにしてやるぜ」

 

 確実に魔理沙が押している。

 さらに弱った妖怪にとどめをさすべく、意識を集中して、再び『スターダストレヴァリエ』を放とうとする。

 

 だが、そこで不測の事態が起こった。

 

「――、――――――!?」

 

 一瞬わけもわからず、叫ぼうとするが、おかしなことに声がでない。

 

 思わず頭をよぎったのは”闇”という文字。

 視界がいっきに真っ黒になり何も見えない。

 

 自分の身体の感覚すら無くなり、一切何も感じない。何も感じられないのだ。

 

(マズイ、落ち着け!

 感覚が無い? 奴の球体に取り込まれたのか!?)

 

 パニックに陥るのを全力で落ち着かせ、必死に思考を巡らせる。

 冷静には程遠く、うまい打開策が思うように浮かばない。

 

「最初からこうすればよかったのだ。

 んーでもどうやって食べればいいのだ?

 とりあえず食べまくるのだ」

 

 妖怪の声だけが、聞こえてくる。

 なにやら片っ端から喰い始めているらしい。

 感覚も無いが、全身嫌な汗が流れた気がした。

 

(まずいぞ、どうにか脱出しないと喰われる!

 どうやって、…………ん、どうやって?

 もしかして奴もわからないのか?

 いや、自分の能力で迷子になる馬鹿なんていないぜ。でもなにかつかめそうだ。

 もしかして、もしかするのか…………?)

 

 今自分がわかっていること、先ほどの妖怪の言動。

 少ない情報をいくつも掛け合わせて、小さな巧妙を見出す。

 

 だがしかし、肝心の打開策にはわずかに届かない。

 闇を打ち破る手段がはっきりしないのだ。

 先ほどの状況からすれば強大な力で捻じ伏せれば、この闇を無理矢理払うことが可能であるはずだが、如何せん自分の身体が思うように動いてくれる保障は無い。

 

 魔理沙は迷いを力任せに断ち切り、魔法を放とうと意識を集中する。全力の奥の手を。

 

 

 だがしかし、魔理沙の意識とは別のところで、本能がタイムアップであることを告げた。

 

 最初に考えた通りシンプルにパワーで押せばいい。きっと正解だろう。

 だが、答えにたどり着くのにあまりにも”時間を使いすぎた”。

 

 万事急須。

 

 まだ始まったばかりだというのに終わってしまうことが諦めきれず、唇をかみ締め正面を必死に睨んだ。

 

 

 

 

 

 だが、”それ”は訪れなかった。

 

 いつまで待っても来ない。それよりも先ほどから奴の声も聞こえなくなっている。

 

 

「――――いかなきゃいけないのだ」

「?」

 

 意味のわからない物言いに魔理沙は頭に疑問符を浮かべる。

 

 気がづいたら視界は戻り、辺りの景色がしっかりと伺える。

 身体中の感覚も戻り、唇の痛みも今はうれしいものだ。

 

「オマエにはやらない。

 あの子は私のものよ」

「お、おいっ!?」

 

 さっきとまるで雰囲気が違う。しゃべり方もそれが本来のものだろうか。

 とにかく、本性を現したらしい妖怪は今では魔理沙とは正反対の方向をずっと睨んだ後、何か呟いてそちらの方へと飛んで行ってしまった。

 

 

 

 魔理沙の初戦は、ただただ悔しさと疑問だけが残る判定勝ち。

 あるいはルーミアの反則による勝利、となった。




ストーリーの展開上、最初の方は咲夜さんの出番が少ないです。

咲夜さんをメインに進めるのもありですが、
序盤はやはり彼女達の戦いを見たいし、書きたいと思いました。


まったくの余談ですが、
魔理沙の戦闘イメージを掴むため、東方紅魔郷を起動しました。
私は下手すぎてレミリアお嬢様に勝てません。ハードだとたどり着けもしないんじゃないかな。。。


※16/04/04 全話改訂しました。
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