私が十六夜咲夜であるために   作:pumpkin

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前回の半分の量です。

異変、2戦目。


EP12.霧の湖に住む氷精

 魔理沙がルーミアと戦っていた頃、霊夢は一人森を抜けて眼下に見える湖へ向かっていた。

 

 湖へ向かう理由、それはただの”勘”である。

 普通はそれを聞いた十人が十人なんの根拠も無いではないかと言うだろう。

 だがしかし、霊夢の”勘”の良さを知るものは皆納得のいくところである。

 

 上空からは湖がぼやけて、かすかに湖だとわかる程度でとても詳しく確認できる状態ではない。

 高度を下げるにつれてどんどんと霧が濃くなり、視界が悪くなっていく。

 湖の水面上まで降りてきた時には、もうほとんど前が見えなくなってしまった。

 

「この湖こんなに広かったかしら? 霧で見通しが悪くて困ったわ」

 

 どこを見ても霧でよく見えない。

 とりあえず、来た方向を思い出し、前方へと進むことにした。

 

 

 

 この湖はただの湖ではなく、常に霧が晴れないことから『霧の湖』と呼ばれている。

 霧が発生する原因はわからないが、昔からここには悪戯好きの妖精達が住み着いていた。

 

「あ、あのっ…………!」

 

 何か聞こえた気がするが、霊夢は構わず湖の奥へと踏み入ろうとする。

 

「あの、とまってください!」

「…………なによ?」

 

 再度の呼びかけに漸く止まり、霊夢を呼び止めたモノを半眼で睨む。

 

「こ、このあたりは妖精達の住処です。それ以上入らないでください」

 

 緑髪のショートへアーに黄色のリボン。

 白いトリムとスリーブが着いた青色のワンピースを着た妖精。

 もちろん背中には金色の羽が生えている。

 見た感じ気弱な妖精である。

 

「私は博麗の巫女として異変解決に来ているの。

 誰がここに住もうが関係ないわ。

 異変を起こした犯人を知らない? それともあんたなわけ?」

「ひっ、し、しりません!」

 

 霊夢が軽く問い詰めただけで、目の前の妖精は涙目になりひどく怯えている。

 もともと、彼女達妖精には霊夢は期待していない為、とてもめんどくさげだ。

 

 妖精という種族は、自然から生まれた精であり、例外なく元となった自然の力を有している。

 もっとも、性格がやっかいで悪戯好きや単純、何よりも自分本位である為、ほとんど会話が成立しない場合が多い。

 そんなこともあり、霊夢はなおさらやる気を無くし、無視して先を進もうとした。

 

 妖精はそんな霊夢を見て、よけいにあたふたと慌てふためく。

 だが、意を決して妖精は両手を前に突き出して叫んだ。

 

「…………い、いっちゃだめー!」

 

 妖精が叫ぶと同時にその両手から魔法弾が発射され、霊夢目掛けて飛んでいく。

 図らずも背後からの奇襲する形となった。

 

 しかし、霊夢は初めからそれがわかっていたかのように、余裕を持ってこれをひらりとかわす。

 

「思ったより力があるのね。

 ……邪魔だから一回死んで行きなさい」

「い、行かせません!」

 

 妖精と関わると碌な事が無いとわかっていたがやはり正しかったわね。

 霊夢は一つ溜息をついて、改めて妖精を眺める。

 

 妖精の中ではかなり強い。先ほどの魔法弾もちょっとしたもの。

 

(だけど、所詮妖精は妖精ね。たいしたことないわ)

 

 お札を取り出して、次々に飛んでくる魔法弾をかわしながら隙を伺う。

 攻撃の息継ぎを狙って投擲すべく、霊夢はすばやく構えた。

 

 

 

 だが、霊夢はお札を投ること無く、後ろに飛び退った。

 

「こらああああああっ!!」

 

 数瞬前に霊夢がいた場所に氷の礫が降り注ぐ。

 突然の乱入者が霊夢と妖精の間に割って入り、彼女をかばうようにして私の前に立つ。

 

「大ちゃんをイジめる悪い人間はあんたか! 私がせーばいしてやる!!」

 

 肩までの青い髪にジャンパースカート。

 首元には赤いリボンタイを着けている。

 こちらも背中には菱形の羽が付いていた。

 

(こいつも妖精、先ほどの攻撃や雰囲気から氷精といったところね)

 

 新たな妖精の出現になおさらめんどくさくなったが、霊夢はそこでとある名案を思いついた。

 

「あらそう? じゃあ私が勝ったら案内して?

 ここに住んでるんでしょ?」

 

 先ほどまでの気だるげな態度が一転、獲物を見つけたかのように嬉々として問いかけだす霊夢。

 逆にチルノは奇襲したはずなのに、まったく動揺を見せない人間に地団駄を踏んだ。

 

「あんた、ちったぁ驚きなさいよ。目の前に強敵がいるのよ?」

「標的の間違いじゃない?」

 

 おどけてみせる霊夢にチルノはさらに爆発した。

 

「ふざけやがって~。あんたなんて、

 英吉利牛(イギリスぎゅう)と一緒に冷凍保存してやるわ!!」

 

 霊夢とチルノの戦いの幕が切って落とされた。

 

 

「チルノちゃん、がんばってーっ!」

「まかせて、大ちゃん!」

 

 妖精こと大妖精は、邪魔にならない様二人から離れた位置でチルノを応援していた。

 大妖精の声援にチルノは自信満々で答え、手を腰に当て仁王立ちする。

 

 対する霊夢は先ほどとは違い、少しだけ真剣にチルノを見る。

 チルノの態度は他のものからすれば滑稽で、取るに足らない存在でしかないはずだが、霊夢の”勘”がそれが間違いであると告げている。

 

「こないなら、私からいかせてもらうわ!

 

 ――――『アイシクルフォール』!」

 

 チルノが叫びと共に”彼女の頭ほどもある”氷弾をいくつも生み出し霊夢に向けて飛ばしてくる。

 霊夢は横方向へ大きく飛んで避けるが、霧で極端に視界が悪い為、あやうく当たりそうになったものは体裁きで最小限にかわす。

 予想通りではあったが、妖精の範疇からは考えられない威力にしばし防戦を強いられた。

 

「すごい、すごい! チルノちゃんっ!!」

 

 大妖精は改めて思った。

 妖精という種族は、幻想郷の中でも非力な部類に入る。同等な存在を例えるならせいぜい小妖怪で、その中でも弱小の部類だ。

 そのかわり自然の力から生まれてくる為、それにちなんだ特別な力を持っていることと、妖精が消滅してもまた自然から生まれることが出来るので、何度でも生き返る事ができる。

 大妖精自身の力は妖精の中でも強い方で、小妖怪に例えるならその中ごろというほどの力がある。

 

 だが、チルノはさらにその上をいく。

 小妖怪の中でも強者と渡り合えるほどに強く、ある意味で既に妖精という規格から逸脱しつつあった。

 

 チルノは過去に無理矢理戦わせる形ではあったが、とある人間の少女との戦いに敗れ、その日から強くなる為の特訓を始めた。

 当時の全力だった氷弾を、ナイフでことごとく打ち落とされてしまい、結局一発もあてられないまま敗北してしまったのだ。

 チルノは当初潔く負けを認めたものの、その後ものすごく落ち込んでしまった。

 チルノをなんとか元気付けられないかと思った大妖精は苦し紛れに「もっと大きな氷だったら防げなかったよ」と言い、その言葉を真に受けたチルノは、ひたすら大きな氷塊を作り、たくさん放てるように特訓した結果、生身の人間では防げないほどの威力になってしまったのだ。

 

「あんたほんとに妖精?」

「ふふん、やっと驚いたわね人間!

 まけをみとめたらどうっ!?」

 

 霊夢は妖精にあるまじき破壊力となった氷塊の雨を、なおもかわし続ける。

 右に左に、水面から上空へと飛びあがってかわすが、開けた場所である為やり過ごせるような障害物は存在し無い。

 チルノを甘くみていたわけではないが、隙が出来るのを待つだけでは勝機は遠そうだ。

 それでも霊夢の表情は言葉とは裏腹に涼しい顔そのものだ。

 懐から御札を取り出して、霊力を込める。

 

「『博麗結界』」

 

 霊夢を囲むように霊力で作った立方体の結界が生まれる。

 大きな氷塊が結界に衝突するが、砕けたのは逆に氷塊の方だった。

 

「なっ、ズルいぞ!」

「ズルいわけないでしょ。ちゃんと正面から防いでるじゃない」

 

 チルノの『アイシクルフォール』は先ほどから、休むことなく霊夢目掛けて降り注ぐが、霊夢はもはや一歩も動いてはいない。

 結界に衝突した氷塊が次々と砕け散り、完全に無効化された形となってしまった。

 

 ――――さきほど大妖精がいかにチルノが特異な存在かと思考したが、それはチルノだけではない。

 

 霊夢もまたその一人である。その中でも”極め付き”だ。

 博麗の巫女は、代々人間の優秀な者達が選ばれてきたが、霊夢は妖怪の大賢者曰く、不世出の逸材と言わしめるほどだ。

 

 チルノの放った氷塊は、霊夢と同じように結界さえ張れば誰でも防げるというわけではない。

 結界の強度はすなわち本人の力量に比例する。

 対象を封印したり、一定の法則や属性などに特化した結界を組む場合は技術が要求されるが、この場合は単純な霊力の量。

 つまり

 結界に込める霊力が少ないと、氷塊の威力に負けて砕け散ったり、力が拮抗する場合は衝撃で吹き飛ばされないまでも後退してしまうものだが、霊夢の結界はびくともしない。

 霊夢の単純な霊力で比較するなら、大妖怪の妖力に匹敵するほどの力を持っていた。

 

「前言撤回ね。あんたは十分強敵よ」

「うぬぬ、じゃあなんできかないんだよー!?」

 

 相変わらずのセリフと態度が全く一致してない霊夢に、チルノは憤慨し、冷静ではいられない。

『アイシクルフォール』を完全に防がれ、混乱状態に陥りながらもなんとか攻撃するがもはや何の効果もなく、逆に霊夢が距離を詰めてくる。

 

「~~~っ!」

 

 また、負ける。そんなのは嫌だ。

 

 やけくそ気味になってしまったが、直感で新しい必殺技の名前を叫ぶ。

 

「『ダイアモンドブリザード』!!」

 

 辺りの気温が一気に下がる。

 太陽の光でキラキラと輝く、無数の氷の結晶が大気中に集まり、風の渦を作って吹き荒れる。

 風は衰えるどころか、勢いをどんどんと増していき、やがて巨大な雹を含んだ猛吹雪なった。

 見える範囲のみ局地的に銀世界へと変えたその技に、巻き込まれればひとたまりもないだろう。

 

 偶然ではあるがチルノの選択は正しかった。

 以前咲夜と戦ったときに使った『パーフェクトフリーズ』では、せいぜい氷塊の多段攻撃にしかならない。

 一度放った氷弾を再度凍らせて、また飛ばすという技は、いわゆる相手の逃げ場を無くし、確実に当てる為の技で、威力に特化した技ではない。

 その点、『ダイアモンドブリザード』は氷弾のサイズこそ少し小さいものの、吹き荒れる風の力を得て先ほどとは比べ物にならない威力となっていた。

 

 吹き荒れる吹雪に霊夢は思わず顔しかめる。

 その隙を狙うかのように暴風で荒れ狂った雹弾の嵐が降りそそいだ。

 

 

 

 

 

 だが、

 

 

 

 

 

 

 だが、それでも

 

 

 

 

 

 それでも霊夢には届かなかった。

 

 

「『封魔陣』」

 

 一瞬にして、霊夢の周囲に奇妙な配列をとった霊力の壁が出現する。

 誰かがその様子を俯瞰して見たならば、なるほど、と思うだろう。渦中の人間には一見なんの法則性も無い様に見えるが、俯瞰してみると、見事な幾何学模様となっている。

 チルノの『ダイアモンドブリザード』は、封魔陣の陣内に侵入する度に、無残にもその場から消滅していく。

 ゆっくりと近づく霊夢の技に、全て飲み込まれてしまい、やがて跡形もなく消え去ってしまった。

 

 チルノの目の前まで来た霊夢は無言で手を振り上げる。

 

 

 

 

 

 だが、それを振り下ろすことはしなかった。

 

 

 

 

 

「うっ、うっ、な、なんでっ」

 

 

 

 

 

 俯いて手をグッ、と握り締めるチルノの両頬には冷たい雫が伝う。

 

 

 

 

 

「なんで、勝てないのっ…………」

 

 

 

 霊夢は振り上げた手をゆっくりと元の位置まで下ろす。既に勝負は決していた。

 

 

 泣き止まぬチルノを、霊夢はしばらく無言で見つめていたが、息を吸って口を開く。

 

「あんたがよ――――」

「まって! もう勝負は終わりました!!

 

 …………真っ赤な霧が出てから、湖の北にある島に真っ赤なお屋敷が突然現れました。

 たぶん…………、きっと、そこがあやしいと思います」

 

「…………そう」

 

 横から大妖精が、半ば必死に答えた。

 それ以上、大好きなチルノに聞かせない為に。

 

 霊夢はいつもと変わらない無表情で北と思わしき方角へと進みだす。

 

「あ、あのっ…………」

「…………、北はあっちなんでしょ?

 面倒だから案内はもういいわ」

「そ、そうですか…………」

 

 そう言って霊夢は、何の未練も無い様に、霧の中へと行ってしまった。

 

 

 

 

 

 霧の湖には小さな氷精のすすり無く鳴き声がしばし響いていた。

 

 

 

 




霊夢の回と思いきや、チルノの回です。

私は敗北や絶望を乗り越えて強くなるチルノが大好きです。
未熟なチルノがいつか、限界を乗り越えるシーンを書きたいです。

それと、今さらながら霊夢と魔理沙の姿形を描写するのを忘れていました。。。
そのうちします。


少し補足。

・『紅霧異変』開始から、原作のセリフをオマージュして使ってます。「英吉利牛(イギリスぎゅう)」はそもそも原作でも幻想郷が出来る前にはまだ流通してなかったのではと、いわれてますがせっかくなのでセリフにしました。

・本作の霊夢は、原作よりもずっと冷めています。

・本作のスペルカードだった技は、弾幕用から近接ありの真剣勝負用に技名と効果をアレンジしています。


※霧という視界の悪さに対して、戦闘中あまりにも効果が無さすぎたので、少し修正しました。

※16/04/04 全話改訂しました。
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