私が十六夜咲夜であるために   作:pumpkin

15 / 36
とうとうUAが一万を超えてしまいました。。。

それなのに前回は、正直中途半端に上げてしまい、とても読みづらかったと思います。申し訳ありません。

ですが、今回も詰め込みすぎて、読みづらいです。



異変、三・四戦目


EP13.白黒魔法使いの潜入

 魔理沙はルーミアが去った後もしばらく放心状態にあった。

 

 あいつが意識を逸らしてくれなければ私はきっと食われていた。

 真夏の夜だが全身に流れる汗はとても冷たく、いっきに身体の体温を奪っていき寒気を覚える。

 自分の両肩を抱きながら、しばらく必死に振るえを押さえた。

 

 完全な敗北のはずが、運で勝ちを拾った魔理沙は肝を冷やした。

 箒を持ち直そうとするが思うように動かない。

 気づくと手が震え、膝もガクガクと振るえ出して立ったままではいられずに、その場に腰を落とした。

 

 

 だが、それでも魔理沙は笑った。

 痙攣しかけている頬を無理矢理指で引き上げ、口角を吊り上げる。

 

(これからもきっと何時死んでもおかしくないんだ。

 ならやっぱり全力で楽しむんだぜ)

 

 魔理沙は一度、大きく息を吸い込んで気合を入れ直す。

 

 パチンッ!

 

「いってー。

 よし、いくか」

 

 こんな(異変)時に、私をそっちのけで行くなんて、絶対に何かある。

 いつの間にか震えは止まり、箒に跨って妖怪の後を追った。

 

◆

 

 咲夜は屋敷の数少ない窓から紅魔館の門を眺める。

 腋の開いた特徴的な巫女服を着た少女が美鈴と何か話しているのが見える。

 

 どうやら一応原作通り、霊夢はこのあと美鈴と戦うことになりそうだ。

 わたしの出番も近い。

 

(でも…………)

 

 もはや原作とは決定的に違う事がある。

『スペルカードルール』での決闘は存在しないのだ。

 となると、二人の戦いの結末も違ったものになるかもしれない。

 

 スペルカードでの戦いなら美鈴は不得手となり、霊夢が有利であるが、今から始まるのは真剣勝負。

 そうなると、わたしの出番はまだしばらく後かもしれないし、美鈴が勝つということも十分に考えられる。

 

(それなら…………)

 

「ふふっ、ふふふ。…………ふぅ」

 

 誰もいない廊下に笑い声と溜息が響く。

 少し気取ってみたが、単なる強がりだった。

 気分は養豚所で、屠殺(とさつ)する順番を待つ家畜の気分だ。

 

 

 

 あんな迸(ほとばし)って見えるほどの闘気を出す師父(美鈴)もみたことないし、霊夢は霊夢で、全然見劣りしないほどの霊力を帯びている。

 

 なんかふたりから、オーラみたいものが煙になって出てるし…………。

 もちろん目を擦ってみたが、現実は甘くなかった。

 

 正直に言おう。わたしは怖気づいている。

 

 

 ほら、毅然(きぜん)と振舞っているけど、良く見たらわたしの足微妙に震えているし、

 さっきからせわしくなく姿勢を変えているよ。

 

 わたしがお嬢様に十六夜咲夜という名を頂いて以来、覚悟というより、必死に見ないフリをし続けてきたけど、もうすぐあの怪物と闘うんだ。

 

 ていうか本当に人間なんだろうか。大妖怪並みの霊力を纏うとか、あきらかに人間やめてるよね。

 

 

 

 ほらっ、今美鈴の開門肘(かいもんちゅう)を軽々と防御したし。

 肉眼でも見えないほどの早さなのにおかしいんじゃないの…………。

 返しに霊夢が大幣(おおぬさ)を叩きつけ、美鈴が防御するのを見計らって、反対の指で、容赦なく目潰しを狙う。

 それを美鈴は首を横に振り、ぎりぎりでかわしながら肘底看捶(ちゅうていかんすい)で腕を取り、そのまま二起脚(にききゃく)を繰り出すが、

 霊夢はわざと美鈴に身体を押し付け、反動を利用し、投げに転じようとする。

 が、それも読んでいたとばかりに美鈴が足を払うが、霊夢は自分から身体を捻りながら前転して転倒を免れた。

 

 両者一歩も譲らない駆け引きの応酬に、咲夜はしばらく食い入るように見つめる。

 

 

 

 が、がんばってください、美鈴! …………あ、あ、あっ、あぶない!?

 

 

 

「~~~っ!?」

 

 思わず目を瞑ってしまい、恐る恐る開いたがどうやら美鈴はうまく往なして難を逃れたようだ。

 両者離れ、再び仕切りなおしとなり、しばらく両者は睨みあう。

 

 

 

 

 …………だめだ。

 あんなものをずっと見ていると自信を無くすどころか、闘う前から降参してしまいそうだ。

 

 回れ右をして、現実から目を背ける為に、その場を離れる。

 必死に逃げた言い訳を考えるが、お嬢様はきっと許してはくれないだろう。

 

 だが、幸運にも天は咲夜を見捨てなかった。

 

(そうだっ!

 霊夢がいるなら魔理沙も今頃屋敷に来ているんじゃないかな?

 うん、きっとそう!)

 

 後ろの化け物達の事は頭から全て追い出し、時間を止めてまで図書館へと急いだ。

 

◆

 

 パチュリー様の図書館は、蔵書数一千万冊にも及ぼうかという程の超巨大な図書館である。

 入り口から向こう側の壁までずらりと並ぶ本棚と年中薄暗い館内のせいで、どんなに歩いても景色が変わらず、迷路に迷い込んだ様な錯覚を覚える。

 あまりにも大きすぎる為、本棚から取り出した時の本同士が擦れる音やページをめくる音も一切聞こえない。

 静か過ぎると逆に気になって集中できない人もいるだろうが、わたしはこの静寂が好きだ。

 

 パチュリー様のいるテーブルへと向かうと運良く魔理沙がちょうど着いたところだった。

 パチュリー様を見ると、わたしに気づいて目配せをしてくる。

 魔理沙の方はたくさんの本に興味津々で、私はおろかパチュリー様にも未だ気づいてないみたいだ。

 

 手を出すなということだろう。

 異変を起こしたからにはただ勝てというわけではない、ルールに則った上で勝つ必要があるのだ。

 

◆

 

「わぁ、本がいっぱいだぁ」

 

 いかにもというような古風な魔法使いの格好で、黒系の服に白いエプロンを来て、手には箒を持っている。

 リボンのついた黒い三角帽をかぶり綺麗な長い金髪で、片側だけおさげにして前に垂らしているのが特徴的な少女、霧雨魔理沙だ。

 

 思っていたよりもずっと御淑やかで、その口調はいかにも驚いた風だが、演技に見えなくも無い。

 

「後で、さっくり貰っていこ」

 

 やっぱり、正真正銘魔理沙だった。

 

「ふぅ…………。持ってかないでー」

 

 パチュリー様は溜息交じりにわざわざ彼女に合わせて忠告する。

 普段ではあまり見せない一面で、わたしは少々驚いた。

 

「持ってくぜ」

 

 おぉ…………。危機感が少し足りないと思ったけど、パチュリー様にちゃんと気づいていた。先ほどのは演技だったのか。

 それにしても清清しいほどの泥棒宣言だ。

 

 パチュリー様はもう一度大きく溜息をついて、次のセリフを言う。

 先ほどから溜息が多い。パチュリー様は呆れているというか、どこか疲れているように見える。

 

「はぁ、久しぶりに大仕事をして、私疲れてるのよ。

 えぇーと、目の前の黒いのを消極的にやっつけるには…………。

 うーん、まずいわ、目まで霞んできたじゃない」

「部屋が暗いんじゃないのか?」

「鉄分が足りないのかしら」

「どっちかっつーとビタミンAだな」

「あなたは?」

 

 そこからは、知識にあるとおりの掛け合いの再現が披露されていく。

 予想通り、この図書館でパチュリー様と魔理沙がこれから戦うのだろう。

 パチュリー様のお体が心配だが、止められた以上は手出し無用だ。

 私は思わず祈る様に見守る。

 

◆

 

 魔理沙との戦いは、始まったばかりだというのにパチュリーの息は既に荒い。

 

「くっ、木は目覚めの象徴、――――『シルフィホルン』」

「へぇ、属性魔法か。なら私はこれだっ。『イリュージョンレーザー』!」

 

 パチュリーは魔道書を片手に持ち、反対の手を差し出して、その上に魔方陣が浮かび上がる。

 緑色の木の葉を模した魔法が舞い踊った。

 しかし突然、魔理沙の直線上を通った葉々が散り、遅れてレーザー光線のような魔法が魔理沙の手から放たれているのがわかった。

 初手は魔理沙の優勢。パチュリーの魔法が破られた形となった。

 

「なんだ、大した事無いんじゃないか?

 この分だとここにある本は役に立たないものばっかりだな」

「はぁはぁ、馬鹿も休み休みに言いなさい。

 貴方が今使った魔法と同種の魔本なら、ここには数百冊貯蔵されてるわ。

 ちゃんと返すなら貸して上げてもいいわよ。……けほけほ」

 

 随分久しぶりに同族に会った為か、少し無理をしてでも会話に興が乗る。

 同族といっても、まだまだ未熟な魔法使いだが。

 

「お、ほんとか。じゃあ死ぬまで借りていくぜ」

「次はこっちの番だっ、『マジックミサイル』!」

「けほっ。はぁ、なんでそうなるのよ。

 土は基礎と不動の象徴、――――『レイジィトリリトン』」

 

 今度は魔理沙が、魔力で作った誘導弾を次々と放ち、障害物となる本棚を掻い潜りながら、パチュリーへ向かって飛んでいく。

 対するパチュリーは周囲に土壁を出現させ、これを全て防御してみせた。

 二手目は、パチュリーが優勢。お互いに拮抗していると言える。

 

 

 

 だがパチュリーは魔法を放つ度に、目に見えて疲労の色が見えてくる。

 持病の喘息が荒い呼吸に輪をかけて、激しく咳き込む。

 既に肩で息をして、飛んでいるのもやっとのようだ。

 

 ――――

 

 パチュリーが調子を崩しているのは、喘息のせいではない。

 原因は単純に魔力が枯渇しかけていることだ。

 魔法使いとして既に百年近く生きている彼女が、まだ年季の浅い魔理沙よりも先に魔力を枯渇させているのはなぜだろうか。

 

 大きな理由は二つ。

 

 それは『紅い妖霧』と『地下室の封印』の為だ。

 

 幻想郷を覆っている『紅い妖霧』を発生させているのはパチュリー・ノーレッジだ。

『紅い妖霧』は、微量ながら瘴気含んでいるとはいえ、それ自体は僅かな魔力で実現可能である。

 しかし、塵も積もれば山となる。それでも、幻想郷を全土を覆う妖霧の生成にはかなりの魔力を使うだろう。

 だが肝心なのはそこではない、つまりは『紅い妖霧』の”維持”だ。

 霧をただ発生させるだけなら、なにも難しい事はない。魔力は生成時のみに使えばいいだろう。

 だが、天候や気候を無視して、昼夜問わず幻想郷を覆うには?

 

 それは”常に妖霧を出し続ける”か、”生成した妖霧が霧散しないように維持する”かだ。

 パチュリーは後者を選び、そしてその維持には莫大な魔力が必要となる。

 

 そしてもうひとつ。

 地下室の封印を解いたことにより、パチュリーの魔力は残りわずかとなってしまった。

 

 自分が構築した封印魔法を解く為に、わざわざ莫大な魔力を使う馬鹿なんていない。

 掛ける時ならまだしも解く時には、必ずバックドアとなるカギを用意するものだ。当然だろう。

 しかし当時、あの封印魔法には”カギ”を用意するわけにはいかなかった。

 

 当初はレミィを落とし入れようとした醜い吸血鬼達、そして今は八雲やあらゆる邪な考えを持つ物たちに最も強固な堅牢となる封印を施さなければならない。

 そして、地下室にいるあの”化け物”が壊せるような『目』を用意などすれば、今頃自分達は生きていないだろう。

 

 アレ(・・)は狂気に魅入られ、ただ殺戮を楽しむ人形だ。

 生半可な気持ちで、可哀想なあの子を助けようなどとすれば自らあの子を殺そうとするハメになる。

 

 

 

 だが、それも終わりだ。

 

 十日間休まず封印を解く作業に没頭し、いまではあの子の一押しですぐに開くほどになっていた。

 

 ――――

 

 

 ケホッ、ケホッ……ハァ……ハァ……

 

 そんなことは咲夜ならまだしも、魔理沙は露ほどにも知らない。

 それでも何か感じるものがあったが、魔理沙が同情したり、手を抜いたりすることは決してなかった。

 

「なんだか知らないが、私は私の為に全力で勝たせてもらうぜ。

『スターダストレヴァリエ』!」

 

「…………当然よ。敵に情けを掛けるなんて非論理的な者は魔法使い失格よ。

 木は火を助け、木は火を燃え盛らせる、――――『フォレストブレイズ』」

 

 煌く星々が、巨大な火柱を打ち消し、燦然と輝く。

 魔理沙は間を空けずに八卦炉を構えて最大出力の魔法を発動した。

 

「これで終わりだ!

 

 いっけぇえええええ、『マスタースパーク』!!」

 

「くっ、土は金を助け、土は金属を内包する、――――『エメラルドメガリス』!!」

 

 二つの極大魔法が衝突しあう。

 緑柱石を含んだ巨大な岩石群と、八卦炉から放たれた極大魔法『マスタースパーク』がその力を鬩ぎあう。

 全くの互角と思われた魔力の押し合いは、最後の最後で巨石が勢いを失い、極大の魔砲が打ち勝った。

 

 敗れたのは『西洋の東洋魔術師』こと、パチュリー・ノーレッジ。

『東洋の西洋魔術師』である霧雨魔理沙の大金星となった。

 

「…………私の負けよ。もう魔力が尽きたわ」

 

 鼻の頭を擦り、魔理沙は誇らしげに八卦炉を掲げ、魔理沙が勝利宣言をした。

 

「今度こそ、勝利のカギはパワーだぜ!」

 

◆

 

 敗北したパチュリー様は限界とばかりに、椅子に持たれかかる。

 それを見た魔理沙もパチュリー様のところに降りてきて、笑顔で話しかけていた。

 

 先ほどの激戦とは一転して、しばし和やかな雰囲気が流れた。

 

 

 

 

 

 ふっふっふ。ついにこの時がきてしまいましたね!

 

 実は密かに練習していたのだ。

 

 何をかって?

 

 そう、私こと十六夜咲夜の初登場シーン、そのセリフを、ですよ!

 それはもう超秘密裏に行っていた。ナイフの秘密特訓よりもさらにトップシークレット。

 空間を弄って、わたしのところに着くためには何十時間もかかるようにした擬似隠れ家的空間を作り出し、日が昇って、皆が寝静まった頃を見計らい日々特訓していたのだ!

 

 こちらを向いた魔理沙に見せ付けるように両手を大きく後ろにまわし、彼女からは見えない様に隠す。

 時間を止めて、即座にハタキを取り出して、同じポーズに戻り、あたかもハタキが突然現れたかのように取り出した。

 

 文字通り、種も仕掛けもない、マジックとは違う正真正銘の超能力。

 そして、おもむろに近くにあった本棚に目をやり、ハタキで埃を払いながらとどめのセリフを言い放ってやった。

 

「あー、お掃除が進まない! お嬢様に怒られるじゃない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや…………、おまえ掃除してなかっただろ…………。私がパチュリーと闘いはじめたときからずっと見てたじゃんか」

 

 

 

 

 

 な

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんですとっ!?

 

 

 

 

 

 まままままま、まさか魔理沙にまで気づかれて、いいいいい、いぃ、たとはっ!?

 

 

 

 おっ、落ち着くんのだよ、咲夜っ。

 まだ慌てる時間じゃない、そう、きっと魔理沙は片時も目を離さず見ていたわけじゃない。

 パチュリー様と戦っていたのに、絶対そんなこと出来るわけないではないか。

 

 諦めたら、そこで終わりよ咲夜!

 

 

 

 

「…………ふっ、貴方は知らないでしょうけど、私は『時間を操る程度の能力』を使って

 時間を止めてお掃除をしていたのよ。あなたにはそう見えたのも不思議じゃないわ」

「へぇー、『時間を操る程度の能力』か。

 時間を止めるなんてすごいな。

 わざわざ敵の私に教えてくれて、どーもだぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おわった。

 

 足の力が抜ける、支える力を失ったわたしの身体はがくりと膝から崩れ落ち、両の手を地面に付いた。

 

 

 

 

「…………なぁ、おまえんとこのメイドは皆、あぁ、なのか?」

「げほっ、げほっ、誤解しないで。あの子だけよ」

 

 わたしをかわいそうな子の様な目で見つめながら魔理沙とパチュリー様が何か言ってるが、聞こえない。

 

「わー、咲夜さんこんな時までお掃除されてたんですか? すごいですね!」

 

 追い討ちを掛ける様に、今までいったいどこにいたのか、小悪魔が現れ、抉られた胸をさらにねじり込んで掛かってくる。

 

 

 

 

 

 もうだめだ、このまま消えてしまいたい。

 

 

 

 

 

「咲夜」

 

 パチュリーが呼びかけるが咲夜は聞こえていないのか反応がない。

 

 

 

「咲夜、咲夜っ! げほっ、けほっ」

「――――はっ!?

 失礼しましたパチュリー様。御用でしょうか?」

「ハァハァ、病人に無理をされるんじゃないわよ……。

 私の用は済んだから、続きはそこの白黒を連れて、外でやって頂戴。

 私は本を読みながらしばらく休む事にするわ」

「わかりました、パチュリー様。終わったらお体に良い御茶をお持ちしますね」

 

 横で魔理沙が何か抗議しているようだが、これ以上はパチュリー様のお体に良くない。

 幸いにも、魔理沙に一旦外へ出るようお願いしてみたら素直についてきてくれた。

 図書館の扉をしっかりと閉めてから、お互いに距離を取って改めて向き合う。

 

「よし、じゃあ次の相手はお前だな?」

 

 調子が悪かったとはいえ、先輩魔法使いであるパチュリー様から勝ち星を取ったのだ。

 とても機嫌がよさそうだ。

 

(………………、っ!)

 

 その時、誰かが好機(チャンス)だと呼びかける声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 今しかない。

 

 

 

 今度は見せ付ける様に、時間を止めて箒を取り出して見せる。

 きっと機嫌の良い今の彼女なら応えてくれるだろう。信じているよ、魔理沙。

 

 うおっほん!

 

 

 

 

 

「また、お掃除の邪魔する~」

「いや、もういいよ、それ」

 

 

 

 

 

「………………」

「………………」

 

 

 

 戦いの火蓋が切って落とされた。

 咲夜が手始めにナイフを両手に持ち一斉に投擲するが、全て明後日の方向へと飛んでいく。

 激しい動揺を隠しきれないらしい。

 魔理沙はそれを目で追った後、こちらを振り向き直す。

 

「なあ、…………もしかして本気だったのか?」

 

 わたしにはなにも聞こえない。

 遅れて攻撃しだした魔理沙の魔法弾をわたしは難なく回避する。

 

 魔理沙は何か変なものでも見たんだろう。かわいそうに。

 途端にわたしを同情の念が襲う。これまで道中辛いことがあったんじゃないかな。

 

 考えてみれば、ここ(紅魔館)に辿り着くまでに妖怪の住む森を抜け、悪戯妖精のいる湖を渡ってきたのだ。

 表には出さないがきっとものすごく辛い目にあったのだろう。

 想像するだけで、涙がちょっと出そうになる。私も酷い目にあった。良い事もあったけど。

 

「なあ、…………今度は激しく馬鹿にされているような気がするんだぜ」

 

 やはり。

 

 強がっているのね。

 

 必死にここまで辿りついたんだ。私も答えなければ。

 

「見事パチュリー様を倒した実力。

 敬意を表して、私も出し惜しみなくいかせてもらうわ。

『クロックコープス』!」

 

 牽制用に、ナイフを無作為に飛ばす。だがこれは罠だ。

 時間を止めて本命となるナイフを配置した。

 時が動きだすと共に突然現れたナイフが村雨の如く降り注ぐ。

 

 瞬時に、魔理沙が薙ぎ払おうと八卦炉を構える。

 きっと、先ほどの極大魔法『マスタースパーク』を撃つのだろう。

 

 

 

 

 

 だが、勝負はあっさりと終わってしまった。

 

 

 

 肝心の『マスタースパーク』がマの字も出ずに不発となり、降り注ぐナイフに慌てた魔理沙が尻餅を着いて思わず目を瞑る。

 

 ヒュッ、トトトトトトトトトッ!

 

 運良くナイフは一本も当たらなかったようだ。

 

 

「……はは、実は私もさっきので魔力切れになっちまったぜ。

 私はここでリタイアだ。

 さっきした約束通り、後はパチュリーのやつの所で本を物色してくるぜ」

 

(魔理沙、だからそれは泥棒、いや強盗っていうんだよ…………)

 

 思わず心の中でつっこんでしまった。

 とはいえ、もう魔理沙が敵対しないのならひとまず安心して良いだろう。

 それを聞いて、私は指を弾き、ティーセットと三切れのケーキを魔理沙に渡す。

 

「そう? それじゃあ申し訳のないのだけれど、これを一緒に持っていってくれるかしら?

 お体が良くないパチュリー様にはこちらのハーブティーを。あとは好きに食べてくれてかまわないわ」

「おう、気前がいいな。遠慮なく頂くぜっ!」

「じゃ」

 

 ティーセットを持って、魔理沙は、図書館へと戻っていった。




※封印のくだりで八雲だけだと封印時期があやふやなので、足しました。

補足:
パチュリーの詠唱は、五行の理をそのまま呪文としただけです。


※16/04/04 全話改訂しました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。