私が十六夜咲夜であるために   作:pumpkin

16 / 36
大変お待たせしました。

いつか、言おうと思っていましたがここで宣言します。

作品上、パロディやオマージュネタは原作のみとしていますが、作者自身はものすごく影響を受けています。

ですのでこの先もあからさまな表現は一般的なもの以外使わず、
少しぼかして使っていくかと思います。

作品では明示しませんので、タグもつけません。


エピソード14。
16話目にして、プロローグにたどり着きました。


EP14.完全で瀟洒な従者 前編

 ――――妖怪の山、天狗の里、会合の間にて。

 

 博麗霊夢や霧雨魔理沙が紅魔館に辿り着いた頃、八雲紫は天魔との会合を行っていた。

 

「では、改めてそちらの意思を確認させて頂きますわ」

「あぁ、此度の異変、これ以上我々天狗とそれに連なる妖怪の山の者は、決して関わらんことを誓う」

 

 席には、幻想郷の大賢者 八雲紫(やくもゆかり)

 そして向かいに、天狗の大将である天魔(てんま)とその後ろには幹部衆が控えている。

 

「大幹部であったヤツは、即日中にワシがこの手で落とし前(・・・・)を着けた。

 ヤツに唆されていた者共も、残らず幽閉か外界への追放となった。

 

 さらに。

 今回の借りはいずれきちんとお返し致すとしよう」

「随分と気前がいいですわね。天狗という妖怪は企み事が好きだと聞きますわ」

「貴殿に言われたくはないぞ、紫よ」

 

 ここしばらく、彼女の言葉が真であるか、ずっと裏づけを取っていた。

 

 天狗のプライドの為か、レミリア嬢は身柄を要求せずあっさりと引き上げた為、主犯である大天狗は、極一部を除き秘密裏に処刑された。

 そして、密かにその一部始終を伺っていた私だけには、あえて妨害することなくすんなりと見せたのだった。

 天狗という妖怪は身分や格を重んじる縦社会を形成し、排他的な性質を持つがこれは異常なことである。

 大天狗の取り巻き達も、藍に残さず確認させたが、そちらも一つとして例外は無かった。

 彼らの性格から幽閉された者達はもう日の目を見ることが無いし、そして外界に追放とは、すなわち死を意味する。

 

 外界とはすなわち幻想郷の結界の向こう側。

 

 現代の外界は文明の行き過ぎた成長により、妖怪という正体不明の化け物を恐れる物はもはやいないに等しい。

 妖怪は人々の恐れやその肉体を糧としている為、正体が明らかとなったものは、もはやその存在を保てない。

 

 一部例外もあるが、追放されたものたちの中にそんなものはいなかった。

 

 八雲紫の中では既に答えは出ていたが、あえて、天魔として彼女の口から望みが聞けるのを待つ。

 

 

「――――貴殿もわかっているだろう。ワシらは随分と弱くなってしまった。

 幻想郷に住むことで、外界で滅んでしまったやつよりかは長生きしておる。

 だが、このままではいずれワシらも滅ぶ時が近い。

 

 力が全て、の我らなら、それでいいだろう。弱いものはいずれ滅びる。

 

 だが、ワシは、我らは若い者達が生きていける様に導いてやらねばならん。

 老いた者達が道を閉ざしてはならんのじゃ」

 

 わが意を得たり。

 以前の交渉では異変についての了承は取り付けたが、本心まで聞くことはできなかった。

 しかし一連の騒動により、ついに彼女の本心を聞くことが出来た。

 思わず胸を撫で下ろす。

 

「確かに。貴方の考え、しかと受け止めました。

 これからの行く末、共に見届けてくださいな」

「あぁ。そのうち、うちの若い者も参加させるぞ。

 

 嫌などというなよ?」

 

 天魔も嬉しそうに微笑む。

 他の皆も緊張が途切れ、どこか笑みが漏れた。

 

 ちょうどそんな時を見計らってか、襖の向こうから八雲の式の声が聞こえた。

 

「――――紫様」

 

 どうやらあちらも始まったようだ。

 紫は、天魔に、では、と告げてスキマを開く。

 

 ――――

 

 迷い家(マヨヒガ)へと境界をつなぎ合わせ、戻ってきた時には既にそちらで藍が控えていた。

 私がうながすまでもなく、藍は進んで報告を始める。会合中の間、異変解決の監視を命じていた。

 

「報告します。博麗の巫女が先ほど紅魔館の門番と会敵したのちに戦闘中となりました」

「そう。…………白黒の人間は?」

「そちらは裏から侵入し、図書館に入ったのを確認。

 パチュリー・ノーレッジと遭遇後、戦闘となると思われます。

 おそらく生きてはいないでしょう」

「…………それはどうかしらね」

 

 紫は扇子を口元に当て、思考する。

 当初は、早々に脱落すると思われた人間の少女は、なんと紅魔館へと無事辿りついて見せた。

 あの少女については、霊夢と接触した時に少し調査させたことがあるが、魔法使いという肩書き以外はごく普通の人間でしかなかったことを覚えている。

 魔法への適正があり、少々頭が回る以外に非凡なものはなかったが、今となっては他に思う所があった。

 

「まさかあの人間が、勝利するというのですか?」

 

 調べたのは、藍だ。その上で何も思い至らず、信じられないといったところだろう。

 確かに。それなりに光るものはあるが、それでも紅魔館の連中の前では取るに足らない。

 だが別の視点からみた場合とても興味深いことが見えてくる。

 

「藍、考えてみなさい。

 そもそもなぜ彼女は未だ生きているの?

 なぜ、彼女は一人で魔法の森に入って生きてこれたの?」

 

「………………、っ!」

 

 気づいたようね。

 そもそも普通の人間でしかない少女が魔法の森に入って生きて帰ってくるなどありえない。

 妖怪の住む森で、ルーミアにあと一歩で殺されかけたのに、現に彼女は未だ生きている。

 会合の前に報告で聞いた時、彼女の持つ不思議な運に私は気づいた。

 

 一度や二度なら、偶然はある。だが、三度続けばそれは必然となるだろう。

 

 紅魔館の連中が活かすか殺すかは良くて半々といったところ。

 

 今回の異変が結末を迎えた時。

 

 そこにあの白黒の人間が立っていたなら本物ということだろう。

 万に一つでもそんなことがあれば異変解決者として認めても良い。

 

 ここに来て、八雲紫は白黒の魔法使いに対して評価を上げていた。

 

 あの人間に関しては、ひとまずここまで。

 思考がいっきに切り替わる。

 

「紫様、それと報告したい事があります」

「…………なにかしら?」

「紅魔館の地下深くから、禍々しい妖気を確認しました。

 おそらく、ヤツらが閉じ込めている何か、かと」

「………………」

 

 なるほど。少し見えた気がしますわ。

 レミリア嬢の一歩引いてみれば行き過ぎたとわかる行動は、ある意味賭けだったのだろう。

 先の騒動は、天魔が折れねば全面戦争となってもなんらおかしくなかった。

 

 レミリア嬢の行動、異変開始の不可解な点、そして地下深くから現れた、禍々しい妖気。

 

 鬼気迫る表情のレミリアが何よりも物語っていた。

 

(約束は守るといった以上、万に一つも霊夢を手にかけたりしないでしょうね。

 いいでしょう。この際じっくりと見届けさせてもらいますわ。)

 

 異変開始前にケチがついた為、それを上回る何かが必要なのも確かだ。

 

「藍。後は私がいくわ。貴方は、他を見張っていなさい」

「御意」

 

 今回の異変の結末を。

 そしてこれ以上のイレギュラーを出さぬ為、八雲紫はスキマを開いた。

 

 

 頭の中で、天使の輪っかを頭に付けたちっちゃなレミリアお嬢様が囁く。

 

 ――いいのよ、咲夜。あんなバケモノなんて私に任せて部屋でじっとしていなさい。

 

 反対側にいる悪魔――――そのものだが――――の格好したちっちゃなレミリアお嬢様が囁く。

 

 ――咲夜、おまえは私が誇る従者だろう。私の従者ならそれに相応しい働きを見せてみろ。

 

(……なんだろう。悪魔の方が正しい気がする)

 

 エントランスに続く扉に向かいながらゆっくりと歩いていく。扉の向こう側には人の気配がした。

 

 頭の隅から完全においだしていた為か、今の今まですっかりと忘れることが出来ていた。

 

 

 

 彼女(博麗霊夢)がこの先にいる。

 

 

 再び頭の中で、天使のちっちゃなお嬢様が囁いた。

 

 ――だめよ咲夜。あんなバケモノと戦ったらまともに生きてなんていられないわ。今すぐ逃げなさい!

 

 それに対して悪魔のちっちゃなお嬢様が反論した。

 

 ――臆病者め! ほしいものは必ず自らの力で手に入れるのだ。ほしいならヤツを倒してみせろ!

 

 答えはわかっている。私の望みはお嬢様の従者。

 私が信じるのは、悪魔にして吸血鬼のレミリアお嬢様ただ一人。

 

 

 

(『完全で瀟洒な従者』の名に相応しい働きをお見せしましょう、お嬢様!)

 

 

 

 戦闘モードに気持ちを切り替える。

 少し前の慌てふためいていた私は形を潜めた。

 

 先ほどの戦い、魔理沙は驕る事無く、あの時出せる全てを出し切ってパチュリー様に勝利してみせた。

 

 家族としてパチュリー様が負けてしまった事には、万全ならば、と思う所もあるが、それでも勝ったのは魔理沙だ。

 先ほどのやり取りから察するに、魔理沙はパチュリー様との力量差をある程度わかっていたのだろう。

 それでも、絶好の好機を見逃さず見事勝ちを零さず拾って見せた。

 

 そんな彼女の戦う様にわたしは感銘を受けた。

 

 

 

 次は私の番だ。

 

 

 

 霊夢はあの美鈴と戦ったのだ。無事なはずがない。

 わたしも余計なモノは一切捨て、勝つことだけを考えよう。

 

 2階のエントランスへと続く大きな扉をゆっくりと開け、堂々と彼女の前に姿を現す。

 

 

 だが、そこには変わらず霊気の煙を放ち、無傷の博麗霊夢が立っていた。

 

 

 袖の無い肩と腋の露出した赤い巫女服。袖の部分は服とは別に着けているらしい。

 髪は肩口までの長さで、後頭部に結ばれた模様と縫い目入りの大きな赤いリボンがトレードマーク。

 先ほど戦っていた為か身体に纏う霊気が淀み無く漂い、とても気が充実しているようだ。

 

「あんた、何者?」

 

 しばらく辺りを見回していたようだが、私に振り向き彼女が、問いかけてくる。

 当然来る前から気づいていたのだろう。

 

(弱るどころか、さらに研ぎ澄まされている気さえする…………)

 

 私の中の声が、ヤバイと告げている。

 だけどまだ大丈夫。ちっちゃな悪魔のお嬢様や魔理沙のおかげで今の私は毅然と振舞えている。

 お嬢様の従者に相応しい振る舞いをみせる為、挨拶をする。

 

「お初にお目にかかります。私、紅魔館のメイド長を勤めております 十六夜咲夜(いざよいさくや) と申します。

 博麗の巫女、博麗霊夢(はくれいれいむ) 様ですね?

 当館へようこそ。お待ちしておりました」

 自己紹介をし、完璧な佇まいで丁寧な一礼をして、わたしは答えた。

 

 やり切った! 完璧だ、我ながらとてもふつくしい。

 流石の霊夢も少しはおどろいてくれるだろう。

 

「ふーん。で、あんた ナニモノ(・・・・)?」

 

 一瞬で、身体は石化したみたいに硬直した。動かない、いや動けない。

 蛇に睨まれた蛙のように逃げることもできない。

 全てを見透かされた様な目と言葉に何もできなくなる。

 

 ナニモノって…………? 嘘だ、わかるわけがない。

 霊夢はそんなことまでわかるのか。

 

 ――落ち着け。

 

 落ち着け落ち着け、落ち着け。

 

 確かに霊夢は”勘”で私の秘密に気づいただろう。

 でも具体的に何かまではわからないはずだ。

 勘が鋭いといっても、所詮は何かを感じ取っただけだ。

 

 長年の努力のおかげか、幸い表には一切露呈していなかったようだ。

 とにかくシラを切り通そう、私は紅魔館のメイド、十六夜咲夜なのだ。

 

「何者とは? 私は紅魔館のメイド。それ以上でもそれ以下でもございません」

「フン、まぁいいわ。

 で、あんたのご主人様はどこ?

 いますぐこのふざけた異変を止めないとぶち殺すわよ」

 

 霊夢は憮然とした表情をしているが、どうやら深く突っ込む気はなさそうだ。

 心臓が止まるかと思ったが、ひとまず軌道修正できた。全くの予想外な理由で心臓が今もバクバクいっている。

 気持ちを切り替えなきゃ。話題を反らす為に、先ほどの戦いについて触れる。

 

「当館の門番が居たと思いますが、お会いになりませんでしたか?」

「ちゃんと()ってきたわ。一発入れたら通って良いと言われたのよ」

「左様でございますか」

 

 

 だけどやっぱり本番ではうまくいかない。

 予想外のことが起こりすぎて、霊夢との原作会話は何一つ出来なかった。

 せめて、これから始まる霊夢との勝負にだけは集中しよう。

 

 

 

 レミリア・スカーレットが誇る『完全で瀟洒な従者』として。

 

「お嬢様は上の階でお待ちになっております。

 ですが、その前に私と一つ手合わせ頂けないでしょうか?」

 

 指貫の付いた手袋の裾を引っ張りはめ直す。

 霊夢へと突きつけたその手にはナイフが握られていた。

 

 突きつけられた霊夢は、それを見てもなんら動じず、ゆったりと自然体に構えている。

 

 

 

 ――ならばわたしから行かせてもらおう。

 

 挨拶代わりに、眉間目掛けて投擲する。

 どうにかうまくいった。

 きちんと彼女の顔目掛けてナイフが軌跡を描く。

 

 喜んでいる場合ではない。

 霊夢は当然のように首を軽く振るだけでかわしたので、私は一瞬で彼女の側面に移動し、間髪いれずに取り出した二本目を横なぎに振るう。

 

「っ!?」

 

『時間を操る程度の能力』で文字通り一瞬で現れた為に、霊夢は少々驚き対応に遅れたが、屈み込んでそれも避けた。

 お返しとばかりに時間差で、大幣の柄がわたしの額目掛けて伸びてきたが、ある程度避けられることを予想していたわたしは落ち着いてかわし、元の位置に飛び退った。

 

 

「今なにやったの?」

「さて、なんのことでしょうか?」

 

 ――――『ミスディレクション』

 

 私の『スペルカード』でならその名で呼ばれ、また一般的に知られているものなら、推理小説や手品にある同名の手法。

 本命からわざと相手の注意を逸らす技。

 わかりやすい目標を見せて相手を釣り、隠れた本命をとなる手を打つ。

 

 ここまでは完璧だ。

 流石の霊夢でも、なんでもかんでも全部わかるわけじゃない。

 霊夢の『勘』は、確か能力とは言われていないはずで、それが都合良く知りたいものが知れるなら能力とはなんだ、となってしまう。

 そんなことが出来るなら、今ごろお嬢様は幻想郷どころか、世界の支配者だ。

 

 わたしは休みなくナイフを取り出し、攻撃の手を休めない。

 

 

 

 ――――長年の特訓から能力についていくつかわかったことがある。

 

 

 

「『ルナクロック』!」

 

 一つ目は、能力の有効範囲は状況によって変わる、ということ。

 

 例えば、今わたしが使った『ルナクロック』という技。

 十二本のナイフを次々と霊夢を囲むように投げていき、ちょうど霊夢が回避行動を取るタイミングで、時間を止めて飛ばしたナイフのおよそ半分をわざと違う方向に向きを変える。

 こうすることで、時間が再び動き出したとき、一点を目指して飛んでいたナイフが半分の数だけとなり、残りが突然方向を変えて別の終着点を目指して飛んでいく。

 

 受ける側からすれば避けようとした矢先に、突然いくつかのナイフが向きを変え追いかけてきたように錯覚するという技だ。

 当然逃げた先で脚を止めてしまえば、餌食となるだろう。

 

 この技の肝となる部分は”わたしの手から既に離れたナイフに触れる”ことで、方向を変えるということだ。

 時間を止めた時にはもう私の手には無いのに、それに干渉出来てしまっているのだ。

 

 知識の中の咲夜さんも可能としていたことだが、理由は簡単だ。

 ナイフはわたしの所有物であり、わたしの支配領域下にあるからだ。

 

 突き詰めれば、能力の有効範囲はどれだけ支配出来たかによって伸びもするし、縮みもするということだ。

 その証拠に、今投げたナイフのうちの一本を霊夢は避けずに掴んで見せた。

 そうなってしまうと、時間を止めても私は霊夢の手の中にある限り、あのナイフに干渉することは出来ない。

 

 

 そして二つ目は能力の可能性について。

 

 わたしの能力は時間の加速や減速、そして時を止めるといった物が主な能力だが、発想と使い方次第ではそれ以上になることがある。

 例えば私が紅魔館のフロアを、”空間を拡げた”かの様に広くしているが、これはフロアの端から端までに移動する時にかかる”時間を延ばす”ことで実現している。

 色々と問題を省略しているのは事実だが、能力でそれが出来てしまっていることも事実だ。

 

 知識、そして目の前にいる霊夢が、『空を飛ぶ程度の能力』という、ただ飛ぶだけの能力が博麗の技を掛け合わせることで、何物からも”浮く”ことが出来るのが最たる例だろう。

 

 要するに、思いつくことが能力の範疇で補えるなら、大抵の事は出来るかもしれないということだ。

 当然、メインとなる力に比べれば独自の制限だったり、そもそも使い物にならなかったりする事もあるが。

 

 長くなったが、今ここで重要なのは最初の方。

 

 霊夢が掴んだナイフが私の眉間目掛けて投げ返される。

 当たり前とばかりに、真っ直ぐわたしの眉間目掛けて軌跡を描く。

 ……それを可能にする為にわたしがどれだけ練習したことか。

 

(落ち着け)

 

 まだ霊夢は攻勢に転じきれていない。圧倒的な攻撃の早さの違いを埋めきれていないのだ。

 

 今のうちにもっと手数を。

 

「『クロックコープス』。――――『ルナクロック』!」

 

 次々とわたしは技を繰り出していく。

 だが、霊夢は次第に目が馴れてきたようで、その全てを軽々と凌ぎ切った。

 かわされたナイフはフロア中のいたるところに飛び散り、地面にあたって空しく転がっていく。

 

「…………だいぶ慣れたわ。そろそろ死んでもらおうかしら」

 

 霊夢が再び霊気の層を纏いだす。

 恐るべきことにこれまで数々の攻撃をかわし、その全てで、一度も手のうちを晒してはいない。

 最小限でかわされ、わたしの手のうちだけが晒され続けていく。

 

 

 

「ふふ、それはどうでしょうか?」

 

 

 

 だが、これでいい。

 

 私は微笑を浮かべて、わざとらしく霊夢を挑発する。

 

 必要だったのは圧倒的な手数を揃える時間。

 再び両手にナイフを持つ。何度目かに行われた動作。

 だが、今度は簡単にはいくまい。

 

 

「『操り殺人ドール』」

「何のまね? …………、!?」

 

 両手に持つナイフを投げるだけの私を怪訝そうに見つめていた霊夢が、次の瞬間、驚愕した。

 地面に落ちていた数多のナイフがまるで時間が巻き戻るかの様に浮かび上がり再び霊夢目掛けて矢雨の如く降り注ぐ。

 

「ちっ、…………『封魔陣』!!』

 

 その時初めて、霊夢が己の手のうちを防御の為に晒した。

 

 

「…………さくや、まだかな?」

 

 だれもいない部屋にフランドールの声だけが小さく響いた。

 

 ベッドに腰掛け、脚をたらしてブラブラと揺らす。

 

(お部屋にとけいがないから、いまなんじかもわからないけど、いつもならもう、さくやが来てもおかしくないのに)

 

「さくやまだかな? おなかすいたよ……」

 

 キュルルとお腹がなって、フランドールはおもわずお腹を手で押えた。

 

 ――――初めて咲夜と会ってからの出来事を思い出す。

 

 毎日いっぱい、いっぱいおはなしをした。

 さくやがきかせてくれるものがたりはとってもおもしろいな。

 

 おおかみさんにたべられそうになるおんなのこのおはなし。

 うさぎさんとかめさんのかけっこのおはなし。

 

 いちばんステキだったのは、シンデレラのおはなし。

 

 わるいおかーさまやおねえさまたちに、おるすばんをさせられていたシンデレラが、

 まほうつかいのおばーさんにあって、ステキなドレスを着て、カボチャの馬車にのって夜の舞踏会につれていってもらうおはなし。

 

「まほうってなーに?」ってあたしが聞くと、さくやはしあわせにしてくれるものだっていってた。

 わたしも舞踏会にいっておどってみたい。ステキなドレスをきてみたいな。

 

 さくやに「どうして12時になるとまほうはとけちゃうの?」ってきくとこまったかおをしてわらってた。

 さくやに「わたしもいつか舞踏会にでれるかな?」ってきくとさくやはなきそうなかおになってた。

 

 

 

 

 

 なかないで。

 あたしもなきそうだよ。

 

 

 

 さくやが作ってくれたごはんはとってもたのしみ。

 はんばーぐとか、おむらいすとかまん丸でおもしろいの。

 おいしそうにわたしがたべてると、くちについたごはんをさくやがわらってとってくれた。

 

 

 

 

 

 

 さくやにあいたい。

 

 

 

 

 

 

 ――サガシニイケバイイ。

 

 

 

 

 

 はやくさくやにあいたい。

 

 

 

 

 

 ――オモチャ(・・・・)ガマッテル。

 

 

 

 

 

 でも、おそとはこわいよ。

 

 

 

 

 

 ――ダイジョウブ、ソトニハオマエノオモチャ(・・・・)ガイル

 

 

 

 

 

 でも、おそとはしまってて、あけられないよ。

 

 

 

 

 

 ――ダイジョウブ、モウジャマモノハイナイ

 

 

 

 

 

 フランドールが気づいた時には、外へと続く扉を既に開けた後だった。

 不思議な事にいつもは開かないのに、開いてしまっている。

 

 

 フランドールは壁に手を付きながら恐る恐る歩き出す。

 初めて外へと続く階段を昇った。




続きは後編へ。


※16/04/04 全話改訂しました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。