私が十六夜咲夜であるために   作:pumpkin

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※流血表現あり

ここまでが異変の中盤、残りも同じ量かはわかりませんが、クライマックスへ入っていきます。



原作の流れ、自分で書いたプロローグという既に決まってしまった展開。
書いていて、窮屈でつまらないと思いました。




EP15.完全で瀟洒な従者 後編

「――――『封魔陣』!!」

 

 慌てて袖に手を突っ込み、人指し指と中指の間にお札を挟んで引っ張り出し、胸の前に掲げて宣言する。

 込めた霊力に反応してお札に刻んだ紋様と同じ陣が一気に展開された。

 

 間一髪、間に合った。

 地面に封魔の紋様が現れ、中央にいる霊夢と凶刃の群れを照らし上げる。

 

(勘に頼りすぎるのも考えものね)

 

 距離にして、あと数歩という所まで迫ったナイフの矢雨が、封魔陣の霊圧に飲み込まれ、途端に勢いを失った。

 完全に勢いを殺された刃達は、数瞬した後に再び弾け飛び、辺りに金属音や刃の刺さる音を響かせながら、飛び散った。

 

「………………」

 

 念のために、私はしばらくそれらを警戒して注意深く見つめていたが、流石に三度目は無いみたいだ。

 

(まったく、とんだチグハグなヤツね)

 

 霊夢は、恨みがましくナイフの持ち主を睨みつけてやったが、当の本人は相変わらず済ました表情で、感情が伺えない。

 なぜだかわからないが、初めて顔を合わせた時からあの済ました態度が鼻に付く。

 裏に何かを隠している感じ。例えるなら、紫かしら。

 

 いや、あいつの場合は不気味さが増すことを知って、わざとやってるから別でしょ。

 やっぱり最初のアレ(・・)っぽいわね。今関係無さそうだからどうでもいいけど。

 

 霊夢は恐るべき勘の鋭さで、見事に咲夜の抱える秘密や偽りの態度を看破して見せたが、至極どうでも良いと思っていた為、あっさり捨て置いた。

 だが、冴えすぎる勘もいざ働かなかった時には考え物だ。その代償が今の一部始終となる。

 

 

 

 ――――二度目に勘が働いたのは、戦い始めてすぐのことだ。

 

 初撃こそ、霊夢の眉間を狙った正確な一投であったが、その後すぐに霊夢は勘付いた。

 メイドは、一見攻撃の間を作らず、隙を見せないようにする為、休むことなくナイフを投げ続けていたつもりだろうが、霊夢はその裏の真意をすぐに見抜いた。

 隙を見せない為にしては、ナイフの数が多すぎる。終わってみれば一目瞭然だった。

 

 うまく隠している様だけど、初め以降は必ず投げるナイフは一度に複数以上と決まっていた。

 脚や腕、頭など的が小さくなればそれが顕著になっていく。

 

 まるで何かの見世物師みたいに、張り付いた表情や変幻自在の攻撃パターンに目を奪われがちで気づきにくいが、霊夢の勘はいともたやすく見破ってみせた。

 

 能力については目を見張る物はあるが、ナイフの扱いはそれほどでもない。

 そんなチグハグで中途半端な実力とそれ以上働くことの無い勘に、どこかで決め付けていたのだろう。

 

(まさか、アイツの手から離れたナイフが再び襲い掛かってくるなんてね)

 

 ナイフが突然向きを変えたり、一瞬で移動してきたりしたことから、位置関係の能力か、とも思ったが、まるで操られたかの様にナイフが動きだした。

 念のため、『封魔陣』で防いだナイフやメイドの手元などを注意深く観察して見たが、糸の様な仕掛けは無い。

 

(訂正するわ。 ”とんでもなくチグハグ” なヤツね)

 

 素人に毛が生えた程度のナイフ捌きに対して、熟練した玄人の様な能力の扱い。

 霊夢は自分の中で十六夜咲夜に対する認識を改めた。

 

 

 

 そんなことは露知らず。

 メイドはまるで見せ付けるかの様に、左側のスカートの裾を手で少したくし上げ、艶かしい太腿に撒かれた革のベルトに刺さったナイフの一本を手に取る。

 

 改めて見るが、整った容姿に銀髪の髪。歳は十五歳前後か。

 私の方が年下らしく、こいつは背が高くて細身だが、出るとこはしっかりと出ている。

 メイドとやらの衣装を着て、黒の指貫きになっている手袋を両手に嵌めているが、それだけがどこか不揃いだ。

 里にでも行けば、さぞや男共が鼻の下を伸ばして彼女をもてはやすんでしょうね。

 自分でも気づいてないが、目つきが少し険しくなった。

 

 

 ――――咲夜自身は従者に相応しい振る舞いや、己の自信の無さを隠す為にやっていた事だったが、見るものが見ればわざとらしいその態度は、相手の神経を逆撫でする行為だとまだ知らない。

 

 

(ともかく、こいつも力じゃなくて技でなんとかするタイプか。

 さっきの門番と一緒で早めに決めたほうがよさそうね)

 

 袖から針を何本か取り出して、宙に浮く。

 こいつとは違って、私のは一投必殺。

 的確に急所を突く針を投げながら、一気に畳み掛ける。

 

 攻守交替。

 

 私はこいつと違って、いくらでも針を用意してるわけじゃない。

 そんな無駄遣いが出来るのは持つ者の発想よね。

 

 持ってるナイフでなんとか針を防いでいる様だけど、それで精一杯な様子。

 私は下に回りこんで続けて二発投げた。

 

 一発目をわざと防がせて、ニ発目で握っている柄に当て、手放さざるを得なくする。

 メイドはなんとか受け位置をずらそうとするが、間に合わず、敢え無く手放したナイフが空しく宙を舞った。

 

(よし)

 

 ここでいっきに出し惜しみ無く手数を増やす。

 案の定、メイドはナイフで防ぐのを止め、迎撃に変えてきた。

 

(でもあんたじゃ無理でしょうね。

 それで済むならはじめから、やってるはずよ)

 

 手数はあるが精度に欠けたメイドの攻撃と手数は劣るが正確無比な私の針。

 差は歴然、今投げた針がアイツの頬を掠めた。私は難なくかわしきる。

 

 メイドの頬から血が滴るが、表情は変わらない。

 

(ムカつくわね。その顔歪ませたくなったわ!)

 

 思わず、針を握る手に力が篭る。

 霊夢の攻撃はさらに激しさを増していった。

 

 

 必死にナイフで迎撃してくるけど、残念当たらない。

 初めに比べて随分精度が落ちてきたわね。

 表情からはわからなくても、行動が全て指し示してくれる。

 メイドのすぐ後ろには壁が迫ってる。

 

(ほら嫌でしょ、すぐ脱出しないと。

 でも残念、それは読んでたわ)

 

 壁を沿おう事を嫌って脱出するタイミングを見計らい、逃げ場へと針を投げる。惜しい、また掠っただけだった。

 明らかに余裕が無くなっているのがわかる。

 たまらずメイドは無数のナイフを投擲して、時間を止めてあらゆる角度、場所から攻撃する。

 

(それはもうみたわ。

 一度かわしたやつが通用するわけないでしょ)

 

 考えなしの攻撃が当たるわけない。

 じわじわと獲物を追い詰める様に窮地へと追いやっていく。

 

 すると、なぜだか知ったこっちゃないが、突然アイツの動きが鈍った。まだしっかりと刺してないのに。

 私と戦ってる最中に上の空とは、上等。

 

「っ、そこっ!」

「………………、ぐっ!!」

 

 メイドの太腿に針が突き刺さる。あれは痛いわ。

 ここに来て初めて、激痛に顔を歪ませたが、表情はまたすぐ戻った。

 

 表情は隠せても事実は隠せない。

 一層動きが鈍ったので、大幣を逆手に構えて踏み込もうとする。

 

「っ!?」

 

 だが、突然メイドの身体から力の奔流が見えた様な錯覚を覚えた。

 

(なに…………?)

 

 そのまま突っ込みそうになり、思わずたたらを踏む。

 

 幸いそこを突かれる事は無かったけど、アイツの空気が明らかに変わった。

 視線はこちらから離さないまま床に着地し、より一層集中するためか大きく深呼吸をしている。

 

 

 そのままさせるのはまずいけど、突っ込むのはもっとまずいと勘が告げている。

 仕方なく、霊夢は思っていたことを口にした。

 

「あんた、能力はすごいみたいだけど見掛け倒しね。

 ナイフも数が多いだけでたいしたこと無いわ」

 

 当たっていると勘が告げている。

 なのにアイツは余裕そうに笑みを浮かべてきやがった。

 

「ふふ、少々手加減が過ぎました。

 では、これならどうでしょうか?」

 

 その時、私の中で何かがプツンと切れた。

 

(…………いいわよ。ぶっころしてやるわっ! きなさい!!)

 

 

 

 メイドが太腿に刺さった針を乱暴に抜き捨て、手を高らかに掲げて、指で音をかき鳴らす。

 

「『ザ・ワールド』」

 

 パチーン――――……

 

 エントランスのフロア一面に高らかに音が鳴り響いた。

 

「時よ、止まれ」

 

 指を弾き鳴らしただけで、一見、特に変化は無い様に見える。

 またナイフか、と思ったが、何も来ない。

 

 頭に疑問符が浮かび思わず問いかけている最中に、私の中で最大級の警鐘が鳴った。

 

 

 

「…………? なんのつ――――」

「そして、時は動き出す」

 

 

 

 瞬間、アイツが私の背後に現れ、するどい手刀を放つ。

 

 

(まずいっ!)

 

 

 が、私は脊椎反射に近い反応で、気づいたら大麻(おおぬさ)を持つ手が動いていた。

 

 間一髪。

 ほとんど偶然に近い結果だが、防いだのは確かである。

 

 余裕を見せるなら、ここ。

 敵が優位に立った時こそ余裕を見せるべき。

 あえてなんでも無かったかのように私は分析してみせた。

 

「なるほど、本命は徒手格闘ってワケね。

 それにやっぱりあんた自身も突然現れたし、大方、時を止めてるってところかしら?」

 

「っ!?」

 

(今、ちょっと表情が崩れかけたわね)

 

 いつのまにか目的を変えつつあるが、確実に霊夢はノッて来ていた。

 

 

 それを慌てて隠すかのように、メイドは四方、時に真上からとあらゆる方向から出現し攻撃を繰り出しくる。

 

 だが、甘い。

 拳打はあの門番と似た様なものだが、威力は格段に落ちる。

 大方あの門番に教えてもらったってところ。

 霊夢はわずか二回目にして、なんとか対応して見せた。

 

 少女が天賦の才と言われる所以。

 十六夜咲夜が何年も掛けて手にした技を一度見ただけで、対応出来るほどの才能。

 

 咲夜の攻撃に徐々に対応速度が追いついてくる。

 

(右、上、左、正面っ、見切った!)

 

 

 

 

 

「ぐぅあ、げほっ!?」

 

 

 

 

 

 完全に受け止めた。

 右手に持つ大幣に衝撃が走る。

 

 

 

 だが、”同時に”鳩尾にも衝撃が走った。

 

 

 

 どうして。

 

 

 

 たしかに受けたのに。

 

 

 

 お腹を押えてよろめきながら、なんとかアイツを見たときにソレが目に入った。

 

 

 

 右手と同時に突き出した、”左手”を。

 

 

 

 右手が当たる瞬間まで、完全に引いていた左手が、あろうことか突き出されている。

 

(なによそれ、反則みたいじゃないっ!!)

 

 全く同時の攻撃、言うならば後だしジャンケンだ。

 瞬時に生身で防ぐ事が不可能と理解した霊夢は再びお札を取り出して、宣言する。

 

「『博麗結界』っ!」

 

 

 遅れてメイドが背後から現れるが、なんとか間に合った。

 後ろから迫るのがわかるが、もう遅い。

 今度こそ完全に防いだ。

 

 

 

 

 

 

「がぁあっ!?」

 

 

 

 

 

 あり得ない。

 

 

 今度は背中に肘鉄が入った。

 先ほどのダメージから結界を破るほどの威力は無いはずなのに。

 

 

 必死に身体を捻ってメイドを見るが、その原理はわからない。

 続けて前蹴りが刺さりそうになるが、自分から後方に飛ぶことでなんとか威力をいなす。

 

 息を()いている暇は無い。

 飛ばされながらも側面からの足刀が追いついてくる。

 必死に振り返り、握っていたお札に霊力を込めて即席の盾代わりにしようと構えるが、それは叶わなかった。

 

 ドガッ!

 

 いきなり”壁が近づき”、激突して体制を崩された為に、真正面から受けるハメになった。

 

「げほ、はぁ…………なんなのよ」

 

 なおも、攻撃の手は止まない。

 休むことの無い連打をなんとか防ぎ続けるが、時折理解の範疇を超えた威力の一撃に防御が弾かれ、徐々にもらい出す。

 

「くっ!」

 

 袋叩きにあい、もはや一刻の猶予も無い。

 使うつもりは無かったが、とにかくアイツの手から今は”浮く”必要があった。

 

 悩むなどという面倒なことはしない。

 今はコイツを思いっ切りぶちのめしてやるだけ。

 

「破ぁっ!」

 

 咲夜が渾身の一撃を放つ。

 

 

 

 だが当たらない。

 

 

 

 拳は風を切り裂く音だけを残し、霊夢を素通りした。

 

 思わず笑みが零れる。

 

「『夢想天生』。……まったく、とんだ伏兵ね。

 使うつもりなんてなかったのに、あんたのせいよ」

 

 空を飛ぶ程度の能力。その中でも究極の奥義。

 ありとあらゆるものから宙に”浮き”無敵となった霊夢の周囲には回転する八つの陰陽玉が浮かび上がり、メイドへと飛来する。

 

 必死に逃げようとするが、八つの陰陽玉が追尾弾となって追いかけていく。

 

(無駄よ。逃がさないわ)

 

 発動した以上訪れるのはあいつの敗北だけだ。ましてや反撃する事など言語道断だ。

 しかし、驚くべきことに勝負はすぐに決すると思っていたが、なおも避け続けられる。

 

(まさか。…………やりきるわけ?)

 

 冗談じゃない。

 私だけぼこすか殴っておいて、それも避けたら私が殴れないじゃない。

 焦りに思わず手に力が篭るが、ようやく追い詰められ、もはや逃げ場は無くなった。

 

「ぐっ!?」

 

 ついに、かわしきれなくなって陰陽玉の一つをくらい、壁面へと強か叩き付けられた。

 

「ふう、あぶなかったわ。ほんとに避けきるんじゃないかと思ったわ」

 

 勝負アリと見て、私は右肩を回しながら一発入れる為に近づいていく。

 まずはその苦渋に満ちた(ツラ)を拝んでやろう。

 

「…………さんざんやってくれたわね。

 さてどんな顔してるか、拝んでやろうかしら――――」

 

 さぞや悔しいでしょう。あの技はある意味反則と言って良い。

 努力が報われるなんて言葉を軽く踏みにじる様な技だ。

 

 だが

 

 期待した苦渋の表情はそこには無かった。

 最後まで十六夜咲夜は笑っていて、そのまま気を失ってしまった。

 それ以降動かない。

 

 

(ほんとムカつくわ)

 

 霊夢は顔を顰めるが、同時に自分の中で芽生えたよくわからない物にも戸惑う。

 

 殴るために準備していた腕を下ろし、それ以上は止めておいた。

 

 

 

 ――――次はちゃんと起きてる時にぶちのめす。

 

 

 




その結果、893というかヤンキーになった霊夢が誕生しました。

またやってしまいました。あまりにもな霊夢なので、批判がある様なら変更しようと思いますm(_ _)m

補足:
霊夢はいきなり切れ出したりするわけではありません。
理不尽にチルノに泣かれ、門番には舐めた真似をされ、そして癪にさわった咲夜にぶちきれただけです。
ですが、咲夜さんにはいい印象は持っていないでしょう。


※16/04/04 全話改訂しました。
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