※16/02/28 表現を少し加筆と校正しました。
夜闇に下、晩酌を楽しむ一人の吸血鬼がいる。
グラスを片手に私は一人、バルコニーに設置された椅子に座り物憂げに空を眺める。
グラスの中身はこの空と同じで紅いワインだ。
階下から聞こえていた喧騒が止む、どうやら決着が着いたようだ。
(……やはり、咲夜を超えてくるか。
面白い。私が直々に相手をしてやろう)
グラスに一口つけて喉を潤す。
幻想郷の人間は退屈するどころか、興味が尽きない。
咲夜ほど愛しいものはいないが、もし、これから来る巫女と先に出会っていたなら私は少女を欲していただろう。
(あの物ぐさなパチェが、弟子を見つけたほどだしね)
――――当然だが、魔理沙本人はそう思っていない。
ワインをまた一口、口に含む。
「………………」
先ほどまでの心底楽しい感情は奥に隠れ、暗い感情が表に顔を出す。
青白いと表現できそうなほど白い額からは一筋の汗が伝う。
――わかっている。
――問題を先送りにして、目を背けるのはもう止めたんだ。
――今のあの子が幸せだとでもいうのか。そんなわけ無い。
グラスを持つ手が心なしか震えてみえる。
――今までずっと気づかないフリをしていた。
――だが、あの子はその間もずっと苦しんでいたんだ。
――あの子からはもう二度と目を背けない、ちゃんと向き合いこの目で見ると誓おう。
――私の全てをかけて。
地下室に行っても、碌に声も掛けてやれなかったあの子を。
レミリアはグラスの残りを一気に
「さあ、始めようか」
レミリアはもう直来るであろう博麗の巫女を待ち構える。
これより、類稀無き才能を持った人間と夜の王たる妖怪の戦いが始まるだろう。
だが、同時に彼女の知らない所でそれは始まろうとしていた。
即興をやるからには、何が起こってもおかしくなどない。
◆
(さくや、どこ?)
紅い絨毯の道が延々と続いているのかと思われる程の長い廊下を恐る恐るフランドールは歩く。
途中、目に入った部屋を開けてみたが特に何か変わったことは無い。
そこは
そのあともいくつか部屋を開けてみたが、どれも同じで誰にも会う事は無い。
ここまで恐る恐るなんとか進んできたが、それだけかというと嘘になる。
生まれて初めて自分から外に出たのだ。見るもの全てが新鮮で、恐怖とは裏腹にワクワクしているという気持ちがフランドールにはあった。
当然奥へと続く廊下に終わりはあるわけだが、フランドールにはまるで咲夜のお話で聞いた『不思議の国』の様な所へ迷い込んでしまったのかと思わせるには十分だった。
怖いとは思いながらも、今まで自分がいた退屈な世界とはまるで別世界に来た様な感覚に、フランドールは何か面白い事が起きるのではないかとどこかで期待していた。
奇しくも、それは叶うこととなる。
「――――ねぇ。アナタなにしてるの?」
「わっ」
突然掛けられた声にフランドールは小さく悲鳴を上げる。
思わず声を上げてしまったがよく見ると、前からゆっくりと近づいてくるのは一人の少女だった。
見た目は自分と同じくらいか少し上くらいだろうか。
短いブロンドの髪に赤い目。浮かべる微笑がどこか人懐っこさを感じさせる。
白いブラウスの上から黒のベストを身に着け、スカートは黒のロングスカート。
そして、左即頭部には可愛らしい小さな赤いリボンをしていた。
どこかの白黒の普通の魔法使いなら最大限に警戒した事だろう。
アレに飲まれるな、食べられてしまうぞ、と。
だが、フランドールは不思議と少女に自分と似た何かを感じて親近感が湧いていた。
何よりも、咲夜と一緒で、私を怖がったりしていない。
――おはなししてみたい。
気づけばフランドールは警戒することを忘れて声をかけていた。
「あなた、だぁれ?」
「私? 私はルーミア。妖怪なの」
やっぱり。思わずフランドールから笑みが零れる。
「ようかい? あなたも妖怪なの?
私も妖怪なのっ、吸血鬼っていう妖怪なんだ!」
「へぇ、そう」
はじめて咲夜以外のヒトと自分からちゃんと話せた。
うれしさのあまりフランドールは舞い上がってしまう。
(ききたい、ききたい!
もっとこの子のことをしりたい!
フランのこともしってほしい!)
「ね、ねぇねぇ!
ルーミアはどうしてここにいるの? ここに住んでるの?
フランもね、ここに住んでるの。
あ、名前はね、フランドールていうんだよっ!
ねぇ、あなたのことおしえて!」
あまりの嬉しさに
それを見ていたルーミアはなんとも可笑しいそうに笑っていた。
我を忘れて喋ってしまったフランドールは、それに気づいて恥ずかしくなってしまい、照れ隠しに笑い返す。
(そうだよね。いきなりいっぱい言ってもなに言っていいかわからないよね)
精神的には幼いが、フランドールは頭が悪いわけではない。
むしろ冷静でさえあれば頭の回転はとても早い。
ルーミアはどこか大人っぽい雰囲気がある。あたしよりは少し年上かも知れない。
ひとまず、一番言いたい事。
今一番してほしい事を考えた。
口を開くが、なかなか声に出せない。
勇気を振り絞って、フランドールは声に出して叫んだ。
「っ…………。あ、あたしと。
――――あたしとおともだちになってっ!」
「嫌だね。
誰がオマエなんかと、友達になんてなってやるものか」
底冷えするほどの冷たい、冷たい声。
フランドールと類する点はあるが、それは決定的な違いがある。
闇に怯えながら住む者と、闇を好んで住む者。
フランドールとルーミアが相容れることは、決して無い。
「………………、え?」
フランドールには何を言われたのか、一瞬わからなかった。
言葉が理解出来ない。頭が言葉を理解したくない。拒絶する。
それでも、現実は許してくれない。
しばらく呆然と立ち尽くしていたフランドールの前にルーミアは立ち、無情にも”闇”をまとった右手を振った。
「い、痛いっ!?」
いつかの咲夜の様に、闇に飲み込まれたものがそっくりそのまま飲み込まれてしまったわけではない。
フランドールは吸血鬼だ。見た目には想像できないほどに頑丈な身体にはせいぜい、少し皮膚を飲み込んだ程度だった。
それでもフランドールには十分すぎる。
痛み、そして敵対という形で、拒絶した
「あの子は私のものよ?
私はちゃんとあの子と約束したの。その時が来るまでゆっくりと待つの」
ルーミアは喋りながらも、振るう手を休めない。
フランドールが吸血鬼である為、闇に飲み込んだ箇所から炎の様なモノが出てあっという間に治っていくが、歯牙にもかけない。
「なのに、なのにオマエはあの子を壊そうというのかしら?
私を差し置いて? 突然現れて私からあの子を奪うの?」
次第に語気が強くなっていく。振るう手もだんだんと力が篭っていく。
「…………許さない」
「許さんぞ、餓鬼がっ!!」
人懐っこい妖怪などいない。
今ここにいるのは、歪だがとても、とても大切な約束を横から壊そうとする者に怒った一人の妖怪がいるだけだ。
「あ、あぁあああっ、いやあああああああああああ!!」
ルーミアから受けた痛みだけでも十分すぎる。
何よりも彼女の言葉が今のフランドールには重すぎた。
なんとか、保ち、支え、つい先ほどまでは良好な兆しさえ見せていたフランドールの心は、いとも容易く崩される。
咲夜に出会い、短くも濃密で幸せな時を過ごした事で、持ち直し掛けていたフランドールは、思い出さされてしまったのだ。
自分が、狂ったどうしようも無い化け物である事を。
ルーミアの攻撃などもはや些細な事に過ぎないが、その存在は耐え難く、許容出来ない。
形振り構わず強引に振るった手にルーミアは敢え無く吹っ飛ぶ。
それも、そのはずだ。
かつては大妖怪だったルーミアも、封印された今は所詮は小妖怪に過ぎない。
「がふっ…………」
口から大量の血液が零れ出す。
たった一撃で、ボロボロになったルーミアは、それでも立ち上がり、構わずフランドールに向かっていく。
ルーミアにも決して許容出来ないものがある。力の差など関係無い。妖怪の矜持そのものを果たす為。
「どっかいってっ! どこかいけっ!!」
もはやフランドールは、ルーミアをまともに見れていない。
それどころか何も見えていない。
ルーミアの目にもわかる程、フランドールの身体からどす黒い
狂気という名のバケモノの顔が。
「やっと出たわね」
ルーミアには初めからそれが見えていた。
『闇を操る程度の能力』を持つ彼女には、フランドールの”心の闇”が手に取るようにわかる。
そいつがさっきからずっと叫んでいるのよ。
――――あの子を壊したいと。
「『ダークサイドオブザムーン』」
辺り一面を闇が支配する。
だが、今度はルーミア自身まで飲み込まれる事は無い。
闇に飲まれたバケモノを殺すべく襲い掛かる。
しかしその闇はバケモノが、フランドールを飲み込むには格好の場となってしまった。
見えてないはずの化け物の目にルーミアがしっかりと捉えられる。
「あ、あぁああアアアアアア、コワス、コワシテヤル、ゼンブコワレテシマエエエエエエエエ!!」
絶叫と共に右手を掲げてルーミアの『目』を握り込む。
「キュットシテ、ドカーン」
「あ…………」
バケモノが手を開くと同時に何かが
壁面にピチャピチャと赤い何かが飛び散る。
「ハァハァ…………、うぅっ」
闇が晴れ、漸くフランドールが落ち着きを取り戻す。
しかし何時またヤツが顔出してもおかしくない。
どこか魂が抜けた様に生気を感じられないフランドールは、おもむろに飛び上がりふらふらとどこかへと飛んでいく。
「…………ヤ、………………サ、クヤ」
もはや他の声は聞こえていない。
あるのは頭の中で響く。おぞましい声だけ。
――コワシタイ。コワシタイ。
――オモチャ、サクヤヲコワシタイ。
ブツブツとフランドールは呟きながら、フラフラと幽鬼の様に飛び去って行く。
運命に、また一つ想像もしなかった事が巻き起こる。
――――
フランドールがどこかへと行ってしまい、その場にはヒトが居る様には見えない。
あるのはルーミアだった
しかし、何かが不自然だ。
赤く染まった繊維の様なものには、しっかりと小さなリボンが巻きついたままである。
何かの間違いだろうか。
そのリボンに施された封印が少しではあるが確かに弱まっていた。
補足:
ルーミアの『ダークサイドオブザムーン』は東方文花帖からの技ですが、
とある理由で、原作よりも早く使えるようになっています。
スペルカードでは無いので本作用にアレンジしてます。
そして、ルーミアは狂気の闇に飲まれるフランドールとはとても相性が良いです。
※16/04/04 全話改訂しました。