私が十六夜咲夜であるために   作:pumpkin

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≪注意≫
2話連続投稿、こちらが本編です。
もう一つは番外編で、特に見る必要はありません。

※16/03/04 少しだけ加筆と校正


EP17.終幕と開幕

 フランドールとルーミアが予期せぬ邂逅を果たそうとしていた頃。

 

 レミリアもまた、博麗の巫女と邂逅を果たす所であった。

 

 夜闇に紛れて、人間の少女の様子を伺う。

 

 屋敷にある部屋の中でも一際大きな部屋。

 以前はここで妖怪貴族達による数々の(まつりごと)が行われたであろう謁見の間。

 ドアから赤い絨毯が伸び、途中から数段上がった奥の玉座へと続く。

 

 博麗の巫女は、部屋に踏み入ってから一言も口を開かず、一点をじっと見つめ続ける。

 不自然に開かれたバルコニーへの扉や西洋の豪奢な装飾が施された壁面、一目で高価だとわかる絵画などの芸術の品々には一切目を向けない。

 ちょうどそこだけ月の光が差さずに陰となって良く見えない玉座だけをじっと見つめ続けていた。

 

「………………」

 

 あの娘が八雲の ”秘蔵っ子” 、名は確か博麗霊夢といったか。

 

(あれは、気づいているな。いや、確信している。大したものだ)

 

 わざわざ妖気を抑えて姿も魔法で消していたが、霊夢のその目は正確に私を捉えていた。

 状況から言って、この部屋に居る事が可能性として高いという事は誰でもわかる事だが、その正確な位置まで見抜けるものは私を知らない限り余りいない。

 

 それが、彼女が普通のものとは違うということなのだろう。

 

「そろそろ姿、見せてもいいんじゃない?

 

 …………お嬢さん?」

 

 私は所在がバレている事を棚に上げ、感心していた所に霊夢から挑発的な物言いを受けた。

 

(呼ばれたなら仕方ない、姿を現してやるとしようか)

 

 気配を立つ事を止めて、姿を現す。

 肘掛に持たれ、拳の上に顎を乗せる。

 

 さながら、闇を(とばり)として玉座から謁見に応じる王といったところか。

 

 まずは様子見だ。

 運命の時が来るまでは、まだしばし時がある。

 

 少しだけ、この人間と会話を楽しんだ所で問題は無いだろう。

 何よりもこの人間を知ることで少しでも想定外の事象を排除するという思惑もあった。

 

 溢れんばかりの妖気を無差別に放ってわざと少女を威嚇した後に、ゆっくりと労いの言葉を述べる。

 

「ようこそ、博麗の巫女よ。良く気づいたな?」

「勘よ。それより暗くて赤い目ん玉しか見えないんだけど。

 あんたあいつの同類か何かなわけ?」

「おい、撤回しろ。あんな胡散臭いやつと一緒にしないでもらおうか」

 

 せっかく、決めたポーズが台無しになったが、今は一秒でも早くそのふざけた暴論を撤回させる為、玉座から立ち上がり月夜の光の下に姿を現す。

 気のせいか、誰も居ないどこかの隙間で、ピキッと音がしたような気がした。

 

 姿を現したレミリアの格好はいつかの咲夜のアドバイスに従って、

 黒のドレスを着て、首元に小さなルビーをあしらったネックレスを付けている。

 そして極めつけには背中には羽織った深紅のマント。

 

 なるほど、このド派手な館の主は誰か、一目瞭然である。

 

「…………あんたね、この悪趣味なお屋敷の主は」

 

 そう、霊夢はレミリアの格好を見ながら言う。

 具体的には屋敷の色とマントの色を結びつけて言ったのだろう。

 

「…………メイドがメイドなら、その親玉は別の意味で変なヤツね」

「この血の滴る様な紅はお気に召さないか?」

 

 残念。私の高尚すぎるセンスは霊夢には早すぎたようだ。

 

「では何ならお気に召す? 好きなものはなんだ?」

「こんな目に悪い所じゃなくて、縁側に座ってゆっくりお茶を飲むことよ。あんたが盛大に邪魔してくれたけどね」

 

(ほう、テラスでティータイムとはなかなかわかっているじゃないか)

 

 レミリアは満足そうに頷くが、霊夢は疲れたように溜息を吐きながら、なぜか諭す様に申し付けた。

 

「はぁ、調子が狂うわ。いい加減、そのふざけた喋り方を止めなさい」

 

 名残惜しいが楽しい一時はここまでか。

 

「ふう、…………わかったわ」

 

 こう言ったおしゃべりは得意じゃ無いらしい。

 八雲の秘蔵っ子とはいえ、性格は全く似ても似つかない。

 

 しかし私としては、むしろ嬉しい誤算だ。

 胡散臭いアイツに似てなくて本当に良かった。

 気を取り直して、当初の話に戻す。

 

「咲夜はどうしたのかしら。会ったでしょう?」

「メイドの事? それならぶっ飛ばしてやったわ。確認して無いけどもしかしたら死んでるかもしれないわね」

「あなた、殺人犯ね」

「一人までなら大量殺人犯じゃないから大丈夫よ」

 

 平時なら、それのいったい何が大丈夫なのか甚だ疑問だが、事、異変時においてはそういった見方もあるという風な考えに思い至る。

 

 異変解決は遊びじゃない。人と妖怪が争えば多少の犠牲が出てもおかしくないのだ。つまり、終わってみれば第三者の理解を持って諦めきれてしまう所までは、大丈夫と言いたいのだろう。

 

 霊夢は独り言の様に「やっぱり人間だったのね」などと、恐ろしい事を平然と言ってのける辺り、どこかズレているようだ。

 

 彼女のなかなか高尚な趣味とその常人離れした性質は良くわかった。

 

(そろそろ本題に入るとしようか)

 

「で? 何の用かしら」

 

 漸く脱線した話が本題に戻る。

 異変解決にやって来た当の本人も、今まさに思い出した様な顔で切り出す。

 

「そうそう、迷惑なの」

「短絡ね。しかも理由が分からない」

「とにかく、ここから出ていってくれる?」

「おかしなことを言うわね。ここは、私の城よ?

 出ていくのはあなただわ」

「この世から出てってほしいのよ」

 

 肝心の主語が抜けているが、どうやら二人の間で会話は成立しているようだ。

 言葉の端々から一切容赦の感じられないその物言いに、レミリアは本当に人間か疑問に持ち始めた所だったが、霊夢から放たれる霊気が如実にそれを示していた。

 

「ふう、まったく妖怪みたいなヤツね。

 あなたが人間かどうか疑わしい所だけど、その力がある限り本当なんでしょうね」

 

 先ほど八雲紫とは似てないと言ったが、どんな相手にもまるで臆することのない態度と、その化け物染みた力はまさにそっくりだと言えよう。

 

「あなたはつよいの?」

「さあね。あんまり外に出して貰えないの、私が日光に弱いから」

 

 霊夢はしばらく私を値踏みする様な目で見つめた後、答えを出す。

 

「…………、なかなか出来るわね」

 

 どうやら認められたらしい。光栄なことじゃないか。

 

 ――さあ、始めよう。

 ――満月の下で、今宵のラストダンスを。

 

 深紅のマントを翻し、自慢の翼を広げて勢い良く開かれたバルコニーへと飛び出す。

 振り返り様に見せた彼女の表情は吸血鬼の象徴とも言うべき鋭い牙を覗かせ、獰猛な笑みを浮かべる。

 背に受ける紅い月が無限の力を与えてくれるようだ。

 

「こんなに月も紅いから本気で殺すわよ」

 

 それに応えるかの様に霊夢もまた浮き上がり、薄くだが確かに笑みを浮かべながら返す。

 

「こんなに月も紅いのに――――」

 

 

 

 

 

「楽しい夜になりそうね」

「永い夜になりそうね」

 

 両者それぞれの言葉が、紅霧異変最後の戦いの合図となった。

 

 ――――

 

 初めに整理して置くが、この戦いは既に勝敗が決まっていると言っていい。美鈴が本気を出せば流石の霊夢も無傷では通れないだろうと、あらかじめ手を抜くように言って置いた。

 

 そして全く忘れたわけではないが、この戦いは言ってしまえば出来レース。

 博麗の巫女の力と、また同等に活躍した私達を幻想郷の世に見せつけることで、新たな秩序をもたらすことだ。

 

 運命が変わる前も、変わった後もそれは変わらない。

 

 咲夜を倒して、私の所に辿り着いた時点で、霊夢の勝利と言えるだろう。

 

 ならばここでやることは、決まっている。

 

 いかに魅せるか。

 幻想郷に。そして我が親愛なる妹に。

 

「まずは小手調べといこうか」

 

 手を霊夢に差し出す様に向けて魔方陣を構築し、そこから次々と紅い弾丸が発射される。レミリアが最も好んで使用する魔法 『スカーレットシュート』。

 

「『博麗結界』」

 

 一発、一発を受ける度に、結界がミシミシと音を立てるが、霊夢はなんとか防ぎ切る。

 返しの刃として、これまで何度も防御の為に使ってきた封魔の陣を始めて攻撃へと使用した。

 

「『封魔陣』!

 陣と言っても、弾幕用に作った攻撃技の方だけどね」

 

「なんの、『スターオブダビデ』!」

 

 霊夢を中心に封魔の紋様を模った霊気の弾幕がレミリアに襲いかかる。

 それをレミリアもまた、六芒星を描いた魔法のレーザーを前面に放ち相殺させる。

 

 予想通り、人間とは思えない程の力。

 私の『スターオブダビデ』を突破する事も無いが、また撃ち負ける事も無く互角に渡り合ってみせた。

 

「やるわね。物量戦がお望みなら次はこれでいこうか。

 

『紅色の冥界』」

 

 次にレミリアが唱えた呪文は、冥界より数多の眷属となる僕を召喚する魔法。

 魔方陣の中から黒狼・吸血蝙蝠・グール・レッサーデーモンといった眷属が次々と飛び出していく。

 

「くっ」

 

 霊夢は歯噛みしながらもお札を袖から掴めるだけ掴み取り、その全てに霊気を込めていく。

 障がいとなる者だけにお札を殴りつけるように叩き付け、レミリアへと最短距離で突撃した。

 

 見事だ。

 月の力で普段よりも数倍に力を増した我が眷属は、一筋縄ではいかない筈だが、霊夢はそれをものともしない。

 

 

 

 

 

 でも

 

 

 

 

 

(いらっしゃい、そこは処刑台の上よ)

 

 

 

「『串刺し公、ブラド・ツェペシュの呪い』」

 

 霊夢がレミリアの所まで、もう一歩と迫った時に突如として眼前に紅く巨大な杭を模した魔法の塊が出現する。

 

 慌ててブレーキを掛けて避けようとするが、周りは幼き悪魔公の僕達に取り囲まれ、後ろに交替する他無い。

 

「ちっ、………………!?」

 

 せっかくの努力が無駄に終わり、一旦退こうとするがそれは叶わなかった。

 

 なぜなら凄まじい謎の引力で、ゆっくりと、ゆっくりと巨大な杭へと身体が吸い寄せられているからだ。

 

 そのままそれに身を任せれば、かの有名なドラキュラ公が好んで行った処刑法と、同じ末路を辿るだろう。

 じわじわと、ゆっくりと突き刺さる杭に途方も無い苦痛を味わいながら死に至る。

 

 逃れられない事を悟った霊夢は、さらに巨大な力で逆に穿つ事を選択した。

 

「博麗奥義『夢想封印』!」

 

 色取り取りの陰陽玉が巨大な杭に衝突する。

 力に押され砕け散ったのは、果たして巨大な杭の方であった。

 

 なおも陰陽玉は勢いが衰えることを知らずに、レミリアへと強襲する。

 微動だにしないレミリアはまともに全てを受け、至る所に風穴を空けるがその穴の淵から炎の様なものが燃え出し、やがて元の傷一つ無い姿に戻る。

 

「ちょっとあんた、倒される気あんの?」

「ふふふ。これはこれでちゃんと痛いのよ」

 

 レミリアの反則染みた再生力に霊夢が抗議するが、レミリアは言葉とは裏腹に心底楽しそうだ。

 

 先ほどの十六夜咲夜との戦いが技と技の攻め合いであれば、今はまさに力。

 純粋な力と力のぶつかり合いである。

 

 衝突する二つの霊力と魔力がぶつかる度に、派手な光を放ち、大気を震わせ、消魂(けたたま)しい音を発する。

 

(力は十分に見せたわ。

 さあこれで仕舞いとしよう。あの子も十分に見て感じたはず)

 

 レミリアはフィナーレとなる最後の一手を霊夢に促した。

 

「まさかそれで終わりというわけではあるまい?

 …………さぁ、私にその究極の力を見せてみなさい!」

「うっさいわね。そんなに喰らいたいなら思う存分に喰らわせてやるわ。見てなさい!」

 

 霊夢は再び全神経を研ぎ澄ませて集中する。

 咲夜を吹き飛ばした究極の奥義『夢想天生』を発現する為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、果たして霊夢の最後の一手を打つ事は叶わなかった。

 

 

 

『!?』

 

 

 今まで以上に強大で凄まじく禍々しい気が、一瞬空中にいるにも関らず、大地を震わした様な錯覚を起こさせる。

 

 

「なに…………?」

 

 流石の霊夢もこの事態に並々ならぬ危機感を感じ、警戒を色を露わにした。

 

 

 

 まさか、そんな。

 

 

 

 思わず呟かずにはいられない。

 

「あり得ない、そんな…………。

 咲夜と出会う事であの子は良くなっているはずなのに…………」

 

 なのに。

 

「どうして、()()()があの子を押し退けて出て来るんだ…………!」

「ちょっと。あんた何か知ってるんでしょ、早く教えなさいよ」

 

 鬼気迫る形相のレミリアを見た霊夢は、アレが何なのか問いただす為に問いかけるが、まるでレミリアの耳には入っていない。

 

 しばらく、屋敷の方を睨んでいたレミリアは、突然、霊夢の方に振り返り、吐き捨てる様に敗北を告げ、屋敷の中へと飛び去ろうとした。

 

「異変は終わりだ。私の負け、敗北でいい。

 どのみち、次で私の敗北は必然となっただろう。

 この紅い霧も直に薄れるさ。

 

 …………だから、もう帰れ」

 

 我ながらどんな言い草か。

 これでは華麗なる吸血鬼の名が無く。

 なんという体たらく。

 

 だが、それでも今はそんなこと些細な事に過ぎない。

 一刻も早くヤツを止めないと。

 あれが何かをしでかす前に。

 

「ちょっと、待ちなさいよ。

 あんなもの見て、(博麗の巫女)が放っておけるわけないでしょ」

「くっ、だめだ! これは私達の問題だ!

 心配しなくても私がしっかりと抑えてみせるさ」

「なんで私が敵のあんたを心配しなくちゃいけないのよ」

 

 やはり素直に聞いてはもらえないか、一旦立ち止まり霊夢を説得する必要がある。約束した以上は無事彼女を八雲の元に戻さなければ・・・。

 

 

 

「ア…………アア…………、オネーサマ?」

「!?」

 

 しまった。遅かったか。

 

 底冷えするほど禍々しい気を纏った、フランドールに見える何かが私を姉だと問う。

 

「何? これあんたの妹なの?

 

 …………退治するしかなさそうね」

 

 とても普通じゃない気配を感じ取ったのだろう。

 霊夢は平然と言ってのけるがその身体には全身冷汗が流れている。

 会わせてしまった以上は、もはやどうする事も出来ない。

 

 手段を選んでいる暇は無い。八雲の手を借り、一刻も早く霊夢をこのバケモノから遠ざけねば。

 

 しかしそれでも行動に移すのが遅すぎた。

 

 霊夢の歯に着せぬ態度が事ここに至っては、ヤツの神経を逆撫でさせるとわかっていたはずなのに、あまりの動揺に気づくのが遅すぎた。

 

 

 

 

「サ、クヤ、サクヤハ、ドコ?」

「おい、や――――」

「さくや? あのメイドの事ね。

 

 

 

 ――――それなら私がさっきぶっ飛ばしてやったわ。

 こいつにも言ったけど、もしかしたら死んでるかもしれないわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ア……アァアア…………、サ、クヤ。

 

 

 

 

 

 オ、マエガ

 

 

 

 

 

 オマエガ、ワタシノオモチャヲ

 

 

 

 

 

 コワシタナアァアアアアアァアアアアアアアア!!」

 

 怒り狂ったバケモノが霊夢へと襲いかかる。

 異変と言う名の幕が閉じ、惨劇という名の狂宴が幕を開けた。




馬鹿な事をしてたら、また記録を更新しかけました。



補足:
レミリアは初めから霊夢を傷つけるつもりは毛頭ありません。

しかし、本気で戦うとするなら、
力を蓄え、満月の中なら、喰らったはずの陰陽玉も衝突箇所が、蝙蝠となって素通りし、そもそもダメージを与える術がありません。

夢想天生ですら、ダメージを負うものの、決定打にはならず、この時点の霊夢では敗北となったでしょう。


※16/04/04 全話改訂しました。
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