私が十六夜咲夜であるために   作:pumpkin

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16/03/12 22:51 大変申し訳ありません、ひどいミスが残ったまま投稿してしまいました。現在は修正しております。




EP19.運命が確定する時 Ⅰ

「――――はっ!」

 

 刃で受ける豪爪をなんとかいなして、一旦その場から距離を取る。

 

 事態は既に危機的状況にあり、無我夢中で火柱の中に突っ込み見えた爪撃を防いでみせたが、目の前の少女にわたしは言葉を失ってしまった。

 

 

 

「サク、ヤ? ………………ヨカッタ、アエタ」

「フラン様!」

 

 フラン様は途切れる声を上げながら、私に縋ろうと手を伸ばす。

 それに思わず、わたしもこの子の名前を叫んでその手を掴む為駆け寄ろうとした。

 

「やめろ、咲夜っ!

 ……騙されるな、今のそいつはフランの言葉を使う全く別のバケモノだ。

 おまえと話したフランじゃない…………」

「っ……!」

 

 お嬢様に諭されて、わたしは、はっと我に返る。

 危なかった。危うくそのまま手を掴んでしまう所だった。

 

 冷静になってフラン様を見つめてみると、毎日お話させて頂いた時のフラン様とはまるで様子が違っていた。

 

「ヨカッタ、マダ、コワレテ、ナカッタ。

 

 ワタシ、ノテデ、チャント、コワシテアゲル」

 

 喋り方、その言葉。

 それどころかよく見るとフラン様の目は、まん丸で大きかった赤い瞳が、獣の様に細く鋭いものになり、白目は黒く変色してしまっている。

 幼く可愛らしい振る舞いは欠片も無く、幽鬼の様にゆっくりと私に近づくその姿はどこか魂の抜けた様相だ。

 

 これが狂気に魅入られてしまったという事だろうか。

 

 原作では『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』という凄まじい力を持ち、しかしその一方で、フラン様はたびたび狂気に魅入られ、自己を忘れて破壊衝動に取り憑かれてしまうという内容だった。

 

 だが、紅霧異変、正確にはその後日の騒動以降は、紅魔館の外に少しづつ出ている。つまり何かの切っ掛けさえあれば、抑えられるということ。

 

(早く、フラン様に元に戻って頂かないと)

 

 そして、レミリアお嬢様ならきっと。

 

「お嬢様、フラン様に元に戻って頂く方法はありませんか!?」

「そうよ、面子は揃ったんでしょ。それで、どうすればいいわけ?」

 

 わたしは縋る思いでレミリアお嬢様に問いかけた。

 それに追随する形で、霊夢もお嬢様にその方法を催促する。

 

 両者の視線を受けたお嬢様は、静かに口を開いた。

 気のせいか、わたしを見つめている気がする。

 

「……今は未だ無い」

「はぁっ!? ふざけてんの?」

 

 期待した言葉の欠片も無い返答に、霊夢が素っ頓狂な声を上げる。

 そんな、ではいったいどうすれば。

 決定的な打開策が無いまま今のフラン様と向き合うには危険すぎる。

 

 

 

 ――――しかし、咲夜達が機を伺ってる隙にもヤツはしっかり行動していた。

 

 気づいた時には、その手の中には既に咲夜の”目”が握り込まれている。

 

「ツカマエタ。キュットシテ――――」

 

 

 

 心臓を鷲づかみにされる感覚に心が悲鳴をあげる。

 

 ヤバい。

 

 頭を過るのは、死。

 

 一瞬の躊躇も許されない。

 無意識に、咲夜は指を弾いて無音の世界へと侵入した。

 

 彼女を傷つけるのに戸惑いが無いと言えば嘘になる。

 だが同時に、何かを壊してしまう事を恐れていたフランドール様に、彼女の手で他人を傷つけさせる事は何があっても許す訳にはいかなかった。

 

 無音の世界を駆け、フランドール様へと肉薄する。

 

 再び音を取り戻した世界で、咲夜は愛しいフランドールの手を迷い無く()()()

 

「――――ド、グァッ!!」

 

 腕を切り落とされた痛みに、フラン様が顔歪めて腕を押える。

 怯んだ隙は決して逃さず、加速する拳で鳩尾を叩き、くの字に曲がった体の、首目掛けて意識を刈り取る手刀を振り下ろした。

 

(浅い)

 

 当たるには当たったが、手ごたえが少ない。

 事ここに至って、わたしの身体は一瞬の躊躇も無く、思うように行動してくれる。しかし彼女をこの手にかける度に心が激しく軋むのを抑える事は出来なかった。

 

 ……それでも、今は有効な打開策が無いのであれば、わたしがレミリアお嬢様の盾となり、時間を稼ぐ為に前へと出る。そして、心を取り戻してくれることを信じて、ただひたすらにフラン様へと呼び掛けたのだ。

 

「…………フラン様、貴方は人を傷つける事が嫌だったはずです。

 なのに、今貴方がやっている事はなんですか?」

「サクヤ、イタイ、ゾ。

 ソンナコト、ハ、ドウデモイイ、カラ、

 …………ハヤクコワサセロォオオオオオ!」

 

 ――――

 

 驚く事に、咲夜はバケモノ相手に圧倒していた。

 それを見守っていた霊夢は好機を逃すまいとレミリアへと詰め寄る。

 

「ちょっと、今がチャンスじゃない。

 さんざん勿体ぶっておいてなん、で…………」

 

 続く言葉が出ない。

 目に映ったレミリアは唇を噛み締め、口元から血を流してただじっと咲夜とあのバケモノの戦いを見守っている。

 その様相に霊夢の勘がいくつかの真実を告げたのだ。

 

 レミリアは敢えてこの状況を作り出したこと。

 あのメイドがいくら説得しても今のバケモノにはまるで意味が無いこと。

 そして、これは異変を解決する為に決して通らぬ事は出来ないこと。

 

「…………いい加減、ちゃんと教えなさい。

 あんたが知ってる事と、やろうとしてる事、洗いざらいね」

 

 

 一方その頃。

 

 魔理沙の前を行く先輩魔法使いは息を切らせ、わき目も振らずに必死に飛んでいた。

 

「こほっこほ。はぁはぁ…………」

 

 私と戦う前から既に消耗していたというのに、この上何を急ぐのか。聞けば普段は図書館にいて滅多に外出しないと言うではないか。その話を聞いたからか、今すぐにでも倒れてそのまま逝き兼ねないと思った。

 

 そんな彼女がこんなにも急ぐとは、一体どんな大事が待っているのか。

 

(考えてみれば、おかしな事だらけだぜ)

 

 初めに戦った森で会った妖怪は、私を喰おうと思えば喰えたのに喰わなかった。

 目の前にいるパチュリーは私と戦う前からひどく消耗していた。

 そして先程の屋敷が揺れるほどの衝撃。

 

 衝撃自体は、もしかしたら霊夢の奴が何かやったのかもしれない。

 もしくは、それと同等の相手。

 

 だが、もしそうだとしたらなぜパチュリーはこんなにも急ぐのだ。

 異変を起こした側にしては、なんだか変だぜ。

 

「なぁ、せめて状況くらい教えてくれてもいいんじゃないか?

 私だって魔法使いだ、何か手伝える事はあると思うぜ」

「けほっけほ、だめよ貴方にはまだ早すぎるわ。

 今からでも遅くない、図書館で大人しく待っていなさい。

 そもそも、半人前の弟子(魔理沙)に出来る事は無いわね」

「なんだと、やってみなくちゃわからないだろっ?

 それに…………、んん? 今なんて言った?」

 

 パチュリーの口から聞き捨てならない言葉を聞いた気がする。

 半人前? ハンデがあったとはいえ私はお前に勝ったんだぜ。それに、弟子だって?

 弟子になった覚えなんて無いぜ。

 

 理不尽なパチュリーの物言いに、魔理沙は憤慨する。

 それを嗜めるように、パチュリーは至極正論で諭した。

 

「はぁはぁ。

 ……貴方が嬉々として手にとった本の全ての著者は私よ。

 その本から学ぶなら必然的に貴方は私の知識から、学ぶ事になる。つまり私の弟子ね」

「え? あれはパチュリーが書いたのか?」

 

 なるほど、通りで無駄が無く分かりやすい…………、ってそうじゃないぜ。そうだとしても私は認めて無いからな。これははっきりさせないと、今後に関わるぜ。

 

 パチュリーの後を追いながらどうしたらこの魔法使いを納得させられるか思案するが、それは第三者の声によって、半ば強引に話を切りあげられた。

 

「パチュリー様!」

 

 パチュリーは、呼び掛けに応じて立ち止まり何やら話だす。

 

 ――美鈴、貴女も来たのね。

 ――えぇ、さきほどのは明らかに例のバケモノが…………

 

 二人だけで話込み、魔理沙だけが完全に置いていかれる。声をかけても返事が無い。

 かろうじてわかったのは二人の話す内容からちらほらと聞こえてくるバケモノという単語だけだ。

 

 やっぱり紅魔館の連中でも予想してなかった何かが起こったと言うわけか。それも途轍もなくヤバい奴が。

 

 とにかく、いい加減置いてけぼりは勘弁だぜ。

 魔理沙は話が途切れたタイミングを見計らって強引に会話に割り込んだ。

 

「おい、私は何が何でもついていくと今決めたぜ。

 話す気が無いなら、ムリヤリ関わってやるからな」

 

 それを聞いて観念したのか、パチュリーは深い溜息を吐いたあとようやく向き直った。美鈴って呼ばれてた奴も初めて私をしっかりと見た。

 

「はぁ、仕方ないわね。

 

 美鈴、勝手に動かれるより目の届く所に置いておく方が安全よ。

 それと魔理沙、ちょっとこちらを向いてじっとしていなさい」

「わかりました。

 

 …………貴女がもう一人の人間ね。よろしく、私は紅美鈴と言います」

 

 漸く満足のいく結果が得られた私は、パチュリーの言葉に素直に応じた。

 おでこにパチュリーの指が軽く触れただけだが、そのあと「精神干渉から守る魔法よ」と言った事で納得した。

 その例のバケモノとやらには、必要なんだそうだ。

 

 美鈴の方にも「よろしくだぜ」と挨拶をしておく。

 今まで見たことも無い服装をしているが、いったい何の妖怪なのだろうか。

 本人は気さくげな笑みを浮かべてて、良い奴っぽいのは良いけど妖怪特有の妖気や魔力みたいな物を全く感じない。

 美鈴がどのくらい強いのかも気になる所だぜ。

 

「そういえば、美鈴。

 別の侵入者がいたと思うけどそちらはどうだったかしら?」

「…………はい、それなんですが私が博麗の巫女と闘っている隙に侵入した様です。ですが…………」

「…………どういうこと?」

 

 それまで、淀みなく喋っていた美鈴の顔に陰りが見え、歯切れ悪く言葉を切る。

 幸運かは分からないが、私はちょうどそいつに心当たりがあったのでそのまま口にしてみた。

 

「そいつはもしかして黒い闇みたいな力を使う妖怪じゃなかったか?」

「っ!?」

 

 一瞬、ほんの一瞬だけだが、美鈴から妖気の奔流が溢れ出す。

 柔和な笑みを浮かべていた美鈴の眼差しがキツく細められ、警戒や敵意といった類いの視線を向けられる。

 幸い、パチュリーに魔法を掛けてもらっていたお陰で、特にこれといって脅威を感じたわけでは無い。

 眼差しもその一瞬だけで、また元の笑みへと戻っているが、私の頭は冷静に彼女との実力差を分析してしまっていた。

 

(おいおい、私にしてみたら紅魔館はバケモノだらけだぜ。

 この上まだその親玉に、こいつらですらバケモノというレベルのヤツがいるのかよ…………)

 

「何か知っているのなら教えなさい、魔理沙」

 

 パチュリーからも睨まれるが、そんな事で警戒されるのは私の本望じゃない。これから、何度もパチュリーから死ぬまで本を借りなきゃいけないしな。特に隠す理由も無かったので正直に私は話した。

 

「人里からここに来る途中にあった森でそいつと()ったんだ。

 もう少しで勝てるとこまでいったんだが、そいつが突然この館がある方を見て何か呟きながら逃げてった。勝ったのは私だぜ」

 

 否、結果は確かにそうだが、過程は絶対絶命の危機であってそのまま続けていたら、負けたのは魔理沙だったはずだ。しかし、最初のうちはもう少しで勝てるという所までいったのは本当のこと。嘘だとは言い切れない。

 

(言葉の綾というヤツだぜ)

 

 最も、悲しい事に魔理沙の言葉巧みな誘導も二人には通じてはいないのだが。

 

「なるほど、魔理沙が勝てる程度ならあまり警戒する必要は無さそうね」

「おい、どういう意味だよそりゃあっ!?」

「えぇ、確かに()()はそれほど警戒する必要はありません。」

 

 パチュリーの言葉に再び憤慨する魔理沙。

 その時、美鈴が語った隠された真実に気づけたのは、残念ながらパチュリーだけだった。

 

「っ…………、そう。

 わかったわ、その事はまた後で話しましょう」

 

 そう言って場所を移す為に、一同は再び移動を再開する。

 納得していない魔理沙は道中もやいのやいのと騒ぎ立てるが、逆にパチュリーに「精神干渉から守る魔法が効いて無いのね、もう一度掛けてあげるわ」と皮肉を言われ、さらにヒートアップさせられる始末だった。

 

 

 

 

 ――――数分後。

 

「全く無駄な時間を使ったわ」

「そう仕向けたのは誰なんだぜ!?」

「いいから。今はヤツの方が大事よ。

 

 

 

 簡潔に言うわ。

 これから出会うバケモノとはフランドール・スカーレット。

 この館の主、レミリア・スカーレットの妹よ」

 

 当主の妹と言えば身内のはずなのに穏やかじゃない。

 

「おいおい、レミリアってヤツの妹をバケモノ呼ばわりとはまた随分だぜ」

「えぇ、それには理由がある。

 今暴れているフランドールは本当のフランじゃないわ。そう仕向けられたの。」

「仕向けられただって? 一体誰にだぜ」

「ある意味では私達にも、関わりがあるわ。

 

 魔術の女神として今でも、一部で崇拝されている冥府神――――」

 

 

「――――ヘカーティア?」

「あぁ、そいつの名前を知ったのは、偶々だ」

 

 フランドールをそう仕向けた者の名前を語るレミリア。

 眼前では、今も咲夜が死と隣合わせの奮戦を続けていた。

 

 知ったのは本当に偶々。

 親友となったパチュリーに初めて切り出した事でわかったその冥府神の名前。

 

「そいつが何なのよ?」

「今は気にしなくて良い、大事なのは()()()()()()()()()フランがバケモノに乗っ取られた事だ。

 繰り返して言うがその事は今は重要じゃない」

 

 そいつが、介入してくるなら話はまた違ってくる。

 だが、あれ以来結局495年間、ヤツがフランの前に姿を現した事は一度たりとも無かった。

 

 今、正に重要な事は、フランドールが他の誰かの手によって狂気に支配され、元は存在しなかったバケモノを植えつけられ、彼女の人格がほとんど乗っ取られてしまった事。

 

 すなわちそいつをなんとかしない限り、フランを取り戻す事は叶わない。

 

 これまでに幾度と無くフランを助ける為に手を尽くしてきた。

 あらゆる専門家に診せ、時には敵である退魔師にも頭を下げ、その全てが失敗に終わり、友人となったパチュリーにも協力してもらい世界中のありとあらゆる本を集めたが、有望な答えは未だ一つしか無い。

 

 

「…………私の能力については、話したな」

 

 ――――『運命を操る程度の能力』

 

 近い将来起こり得るであろう運命を未来視出来る能力。またそれに導く力。

 つまり、フランドールを救う為には咲夜がフランを救う以外はあり得ない。

 

 

 咲夜が救うフランドールを破滅から救う運命を手にする為にも、レミリアには今は見守る他無かった。




EP17に続いて不完全燃焼。

とはいえ。

パチュリーが紅魔館の頭脳なら、美鈴は耳と目。
敵となりうる者を、紅魔館の内外で調べあげ、必要なら対処します。

その、美鈴にルーミアの存在が明らかとなってしまいました。果たして彼女はどこから騒動の一部始終を見ていたのでしょうか。(例によって、決めて無い)

そして、フランについて真相が少しだけ明らかに。

ひとまず、ルーミアについてはここまで。



裏話①
最初は神は神でも漠然ととある邪神を想定していました。
つまり、ラノベからアニメになったうー、にゃーって掛け声を上げたくなる様な邪神では無くなりました。


※16/04/04 全話改訂しました。
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