私が十六夜咲夜であるために   作:pumpkin

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※残酷、グロテスクな表現があります。

まさかの二夜連続投稿。

その分語彙が足りてない。そう、全てはそのせい。

※途中、長いですが、どうか辛抱して読んでくださいませ。

※16/03/16 技の説明や足りない語彙などたくさん加筆させて頂きました。
大筋の変更はありません。


EP20.運命が確定する時 Ⅱ

(これは…………夢?)

 

 わたし自身、とても信じられない。

 目の前にいる狂気に侵されたフラン様を相手に、わたしが圧倒しているなんて。

 

 

 

 お嬢様や霊夢は、先程から変わらず何か話し込みながらわたしの戦いを見守っている。きっと大切な事があるのだろう。それまでにわたしが出来るだけ時間を稼がねば。

 平静を取り戻してもらうべく、咲夜はフランドールに語り掛ける。

 

「フラン様、私の声が聞こえますか?

 貴方は何かを壊すのが嫌だったはずです!」

「…………コワス、コワス。サクヤヲ、コワシテヤル」

 

 先ほどからもう何度も問い掛けているが、フラン様はまるで反応を示さない。

 

(やっぱりだめなのかな)

 

 まともに戦うとなると、レミリアお嬢様と同じでフランドール様は満月の力で今は不死身の身体に近いからまず倒す事は不可能に近い。

 あらゆるものを破壊するあの力を使わせない為に、要所要所で”目”を掴み込む手を潰してきているけど、正直その効果はほんの一瞬で、潰した傍からすぐにまた再生するから、あまり効果は得られない。

 フラン様があの特徴的な一連の動作をしない限り力を使えないのは、とても失礼だが本当に有難かった。

 

 それなのに今、なんとかわたしがフラン様を圧倒出来てしまっている理由、それは全部、わたしが拳法を師事する美鈴と魔法を熟知したパチュリー様のおかげだった。

 

 

 

 ――――傷つけても傷つけても再生する存在に直接的な攻撃はほとんど意味を成さない。その中で咲夜が取った手段は発勁による衝撃を間接的に加え、内部から攻撃を与える事だった。

 

 発勁とは中国武術における勁を相手に作用させる技術のこと。

 少し違うが簡単に言ってしまえば、身体の内で効率的に練り上げた力を相手にぶつける技。そしてそのダメージは身体の奥底にまで及ぶ。

 

 もちろん、内臓を傷つけられたからといって、それはすぐに再生する。だが、発勁による衝撃の与え方は何もそれだけでは無いのだ。

 発勁には相手の経穴を麻痺させるという技がある。

 

 経穴(所謂ツボ)に衝撃を与える事で、筋肉に緊張が走り一時的に麻痺させ体の自由を奪う。

 しかしそれも少しの間だけですぐ回復してしまうが、咲夜には通常の何倍も効果を与える二つの力と備えがあった。

 

『ザ・ワールド』

 

 時を止めた瞬間から全ては咲夜の世界。

 その中では咲夜ただ一人が自由に動き回る事が出来て、文字通り全く同時に何度もバケモノ相手に発勁を加える事を繰り返す。

 

 止まった世界では干渉出来ないはずの相手にもあらかじめ左腕を間に入れることで、緩衝材の役割を果たし、そこから間接的に衝撃を与えるわけだ。

 

 そしてその無茶を押し通す事が出来る、魔法の手袋。

 いくら緩衝材代わりとはいえ、連続して受ける強烈な衝撃に腕が耐えられるはずが無い。

 それをカバーするのがパチュリーから咲夜がメイド長になった記念にもらった黒い指貫となった手袋というわけだ。

 

 一瞬で五重にも及ぶ寸勁を打ち放ち、再び時が動き出す。

 

「ア……、ガ、ガガ、ア……!?」

 

 バケモノが腕を軽く振るうだけで簡単に咲夜の命を刈り取る事が出来るのに、身体が麻痺して思うように動かず、それが出来ない。

 

 とても頑丈で、力任せに来る相手には非常に有効な戦い方だった。

 

 しかし、この技は相手に触れることが出来なければ使うことすらままならない。

 例えば、少し前の霊夢と戦った時には結界が張られ、当然この技を使うことは出来なかった。

 

 そんな時に結界ごと霊夢を突き飛ばしたのが、武術と加速の融合技。

 結界の中にいる霊夢のそのまた向こうを目掛けて放つ。

 純粋な突貫力に比重を置いて、攻撃を加速させて爆発的な力に変え、崩拳(ポンケン)と呼ばれる突きこむ動作で凄まじい貫通力を持つ。イメージは目にも留まらぬ早さで貫く槍だ。

 

 魔理沙の『マスタースパーク』や霊夢の『夢想封印』みたいに見た目的に派手な技ではないけれど、この武術と時間を止める力を合わせれば大抵の事には負けない自信があった。

 

 

 …………でも正直、美鈴の教えてくれる武術については奥が深すぎてわたしには半分も理解出来ている気がしない。

 かろうじて形にはなっているけど能力で強引に誤魔化しているから、もし今彼女が見ていたら、わたしはきっと破門だ…………。

 

 とにかく、わたしはこれらと後いくつかの技で、今まで難しい場面を何度も凌いできた。そしてそんな事実も今は重要じゃない。

 

 今一番わたしにとって大切な事はフラン様に語り掛け続けること。

 

 フラン様が自分の中にあるたった一部分なんかに負けてしまわない為に。

 

「フラン様、貴方が大好きなのはそんな事じゃないはずです。

 物語を。御伽噺に出てくるようなそんな物語を貴方は目を輝かせて聞いていたではありませんか!?」

「ダ、マレ…………サ……クヤ、ウゴク…………ウゥ」

 

(ん? 今…………)

 

 少しだけど、確かに反応した。

 

(フラン様、勇気を出してください!)

 

 咲夜の切なる叫びが、フランドールを強く揺さぶる。

 

「フラン様っ、フランドール様!

 どうか私の言葉を聞いてくださいっ!」

「ダマレ…………ウッ、アアゥ…………ッ!」

「何っ!?」

 

 フラン様が頭を抱え、痛みを抑える様に蹲る。

 直後にわたしの背でお嬢様の驚愕の声が聞こえる。

 

 それもそのはず。

 今までフランドール様がずっと地下室にいなければならなかったのは、フラン様がこの狂気に打ち勝つ事が出来なかったからだろう。

 

 短い間だけどたくさんお話してわかった。

 フラン様は本当はとても優しく、本当はとても強い子なんだ。

 

「フラン様っ…………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ア…………アア…………、さ……さくや?」

「………………、へぇ」

 

 霊夢が珍しく感嘆の声を上げる。

 果たしてフランドールは確実に変化を見せていた。

 

 

 ――あたしがものごころついた時、もう全部おわってた。

 

 まわりに落ちてるいっぱいの赤いもの。

 あとから聞いたら、あたしのおとーさまやおかーさまだってみんなが言う。

 

 おとーさま? おかーさまってなぁに?

 聞いてみたけど、そのヒトはなにも答えてくれない。なんでだろう。

 

 

 

 とってもイヤな夢をみた。

 あたしに、ゴハンをたべさせてくれたヒトやあたしにお洋服を着せてくれたヒト、ほかにもみんなが壊れてぜんぜん動かなくなった夢。

 

 起きたら、暗いなにもない部屋につれていかれた。どうしてあたしはここにいなきゃやいけないの?

 

 

 

 だけど、あたしはさびしくなんてなかった。

 ものごころつく前からずっと、いっしょにいてくれた友達がいたんだ。

 あの子はいつもあたしのおはなしをきいてくれる。

 

 あたしだったらおもしろくないのに、ちゃんとあたしのおはなしを聞いてくれるんだっ。

 

 

 

 あのヒトなんて大嫌い!

 あたしの友達にひどいことを言った!

 

 友達とちがっていつも一緒にいてくれないのに、ひどいこといわないでっ!

 

 

 

 友達がみんなはとっても悪いヒトたちだっていう。

 どうして?

 あのヒト以外はいつもあたしにやさしくしてくれるよ…………?

 

 

 

 ごめんなさい、ごめんなさいっ!

 あたしがわるいこだった。あの子も友達なんかじゃない。

 もうはなしかけないで!

 

 

 

 あのヒトは、あたしのおねーさまだった。

 むらさきの怖いヒトがそうだって教えてくれた。

 でもおねーさまって…………、なんだろう。

 

 

 

 また夢をみた。夢を…………、夢なんかじゃ…………。

 やめてっ! はなしかけないでっていったよ!

 あたしの前から消えてよっ!

 

 

 

 こわい…………。ひとりでいるのは怖いよ。

 でもだれかといるのはもっと怖い。またこわれちゃう。

 またこわしちゃう…………!

 あの…………、おねーさまももう来ないで。壊したくないよ……。

 

 

 

 だれも来なくなった。ずっとひとりでいる。

 もう友達でもないのに、アイツはずっとあたしにはなしかけてくる。うるさい。

 

 

 

 さくやに会った!

 ううん、初めてのときはまだ声しか聞いてなかったけど、でもねでもね!

 さくやはとってもやさしいんだっ。つくってくれるゴハンはとってもおいしい、おはなしもいつもとってもわくわくする!

 

 それよりもね、さくやはあたしとおはなしできないと悲しいっていってくれたんだ!

 

 あたしと一緒に苦しんでくれる。

 見えないけど…………、それでも本当にあたしの傍にいてくれるんだってわかったんだよ!

 

 

 

 今日はさくやはまだかな? いつもの時間になってもさくやはまだ来ない。

 お腹もすいたよ。さくやはまだかな?

 

 …………あれ?

 ドアがあいてる…………。

 

 

 

 あれはなんだろう? これもなに?

 とうめいな壁のむこうに見えるのはいったいなんだろうっ!?

 

 ちょっと怖いけど、ぜんぶしらないものばっかり!

 これがさくやのいっていたお話の世界なのかな?

 

 わっ、びっくりした。だれかしらない子が――――

 

 

 

 

 

 ――――気がつくと、あたしはまた真っ暗なお部屋に戻ってた。

 

 でもここにはおやすみのベッドも、茶色の布とふわふわした綿みたいなものも散らばってたりなんてし無い。

 

 どうしてだろう。涙が止まらないよ。

 あたしはお外に出てからどうしちゃったのかな?

 

 

 

「あぐぅっ!? い、嫌ぁああ」

 

 

 

 頭が痛い。

 思い出したくない。思い出したくない。思い出したくないっ!

 

 さくや、早く来て。

 フランの苦しいのを直して…………。

 

 

 

 

 

 ――フランを、悪いアイツから助けて出して。

 

 

 

 

 

 真っ暗な何も無い空間の中、

 フランドールは未だたった独り、閉じ込められたままだった。

 

 

 

 

 霊夢とレミリアは信じられないモノを見た。

 この状況下でフランドールが正気を取り戻す事はほぼ不可能に近い。

 それでも咲夜は根気強く諦めずにずっとフランドール自身に語りかけ続けていた。

 

 それが、今実ったのではないか。

 

 必要な事はこれだったのか、そう思いながら思わず霊夢はレミリアの顔を見た。

 

「そんな馬鹿なっ…………、有り得ない!

 だが、しかし…………」

「………………」

 

 だが期待した反応はそこには無い。レミリアはこの場の誰よりも驚愕していた。

 普段はあまり見せることの無い爪を噛む仕草が余裕の無さを如実に表している。

 

 

 

 ――――なぜなら、レミリアが見た運命は”この光景では無い”から。

 

 

 

 だがしかし、フランドールは確かに今本人が話している様に見えるのだ。

 

「咲夜、…………私、どうしたのかしら?」

「フラン様、良かった。…………何でもありませんよ。少し悪い、悪い夢を見ていただけです」

 

 そう言いながら、咲夜はフランドールの頭を撫でる為か、頭へと手を伸ばす。

 状況は非情にも勝手に進むが、言い様の無い不安が激しくレミリアの体中を駆け巡る。

 

「~~~~~っ」

 

 

 まずい。何かが違う。

 やはりこの状況はどんなに思考を巡らせても有り得ない。

 

 考えろ、考えるんだ。

 なぜこうなったか、なぜあのバケモノが主導権を手放す形となったのか。

 

 

 

 

「………………っ!」

 

 

 

 

 

 その時、すべてがレミリアの中で腑に落ちた。

 同時に、霊夢の勘がその間違いを導き出す。

 

 咲夜の、致命的な思い違いを。

 

「咲夜、罠だっ!」

「だめよ、そいつはまだ終わってないっ!」

 

 

 

 

「今すぐ離れろおぉおおおおおお!!」

 

 

「え――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――ザシュッ

 

 

 お腹の辺りが何か変だ。

 やっとフラン様を取り戻す事が出来たから、わたしどうかしちゃったのかな。

 頭を撫でてあげるとフラン様はいつも、くすぐったそうに、でも嬉しそうに喜んでくれるんだ。

 

 あれ、でもよく見るとフラン様の瞳がまだ元に戻ってないや。

 直るのにはしばらくかかるのかな。

 

 レミリアお嬢様や霊夢がさっきから何か叫んでる。

 二人とも喜んで…………、罠って?

 

 なんだろう、さっきからお腹の辺りがどうしようもなく痛い。

 気づかないうちに怪我しちゃったのか…………な…………。

 

「あ――――」

 

 周りには、僅か瞬く間の出来事だが、咲夜にはとても長く感じられた。

 咲夜の胴から、バケモノの手が貫いた道を再び戻る為に通りすぎていく音がする。

 

「がふっ」

 

 腹と口から大量の血液があふれ出す。

 果たして、咲夜の腹部にはぽっかりと大きな空洞が空いていた。

 

「まずいわね」

「咲夜っ!? おのれ貴様あぁあああああ!」

 

 

 

 どさりと咲夜の体が崩れ落ち、その先に見えたバケモノの笑顔は陥穽(わな)にかかった無知な人間を憫れみ笑うような微笑を唇に浮かべ、そしてその笑みは悪鬼の様に次第に歪んでいく。

 

 

「ハハ、ハハハハハッ!

 

 アハハハハハハハハハハハハハッッ!!

 

 

 

 

 

 ――――コレデコノカラダハスベテワタシノモノダッ!!」

 

 

 バケモノのハラワタを抉り出すみたいな笑い声に大気が震え、邪悪な力の奔流に大地が悲鳴を上げる。

 

 残されたレミリアと霊夢の二人の前には、”四体”のバケモノが立ちはだかったいた。




どうして何事も無く万事旨く良くと思った咲夜っ!

当然、無傷で勝利など有り得ません。


※16/04/04 全話改訂しました。
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