私が十六夜咲夜であるために   作:pumpkin

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※残酷、グロテスクな表現があります。

また気づいたらいっぱい数字が増えておりました。
20,000UA及び通算100,000文字突破、そしてたくさんのお気に入り、ご感想と新たなご評価ありがとうございます。その全てが次話を書く励みになっております。



EP21.運命が確定する時 Ⅲ

 紅い霧が幻想郷を覆う異変が始まって遂に十三日目に入る。

 

 既に夜が更けたとはいえ、季節は夏の真っ只中だ。

 太陽の光を遮断してくれた紅霧は、少しずつ温められた大地の熱まで遮る事は無く、深夜でも夏特有の熱気を放つ。

 

 幻想郷中の妖怪達は満月の光と、紅霧の異変を肴に騒ぎ、語らい、人里の人間達は、その光と不気味な霧に怯え、眠れぬ夜を過ごしていた。

 それぞれが違った思いではあったが、ある意味異変、ひいては幻想郷の行く末を慮っての結果の現れと言えるだろう。

 

 

 そんな異変の最期の舞台となったのは、霧の湖にぽつんと浮かぶ紅魔館、その屋敷の二階に位置する一際大きな広間。

 

 そこは元は謁見の間であるはずだった。

 

 もはや豪奢の言葉はどこにも見当たらず、壺や絵画などの調度品は割れたり破れたりして、修復不可能なほど深刻な破損を受け、壁面の繊細な紋様は刃物や激しい炎に裂かれ、撫でられて一面に切り傷や焦げ痕を残し見る影も無い。

 

 レミリアが鎮座し、霊夢を出迎えた玉座は乱暴に転がされ、ただ物悲しさだけが残っていた。

 

 

 奇しくも、それは現在の状況の酷さと重なる。

 

 敵の謀略に嵌り瀕死の重症を負った十六夜咲夜は、微かに息をしているが今もバケモノの足元で無残に倒れたままで、腹部から血溜まりが出来始め、すぐに応急手当をしないと死に繋がる。

 

 本来であれば、情に流されず正しく物事を見極められるはずの博麗霊夢も、連戦による備えの心許なさと瀕死の咲夜の存在を気にして二の足を踏んでいる。

 

 そしてレミリアは”四体”のバケモノを相手に為す術も無く、無様に地に這い蹲らされていた。

 

「ムダダ、ハヤクソノメ”ヲ”ワタシニサシダセ…………!」

 

(くそっ…………)

 

 このままでは咲夜の命が危ない。

 一刻も早く彼女を救出して、応急処置を施さねば出血により死に至る。

 

 不幸中の幸いというべきは、バケモノ共がそれ以上咲夜を狙う素振りは見せていないということだ。

 

 先ほどの一幕(ひとまく)の直後にヤツの妖気が数倍にも増した。

 おそらく、咲夜を手にかけた事で完全にフランを乗っ取ったのだろう。

 霊夢ほど勘は鋭く無いが、これまで視てきた運命から妙な確信めいたものがレミリアにはあった。

 

(とにかく、今すぐにでも咲夜を救い出さねば)

 

 愚策にも闇雲に突っ込んでみたが四体どころか、たった二体のバケモノに死角を取られて簡単に行く手を阻まれる。忌々しくもヤツらは本体同様、強度も力も遜色無い。

 

 だが、迷っている暇はない。

 

 ほんの数秒だけレミリアは、霊夢に視線を送り、何かしらの意図を感じ取った霊夢は準備を始める。

 

 それを確認してレミリアは敢えて再び渦中へと飛び込んだ。

 

(最初から、全力だ。

 温存など咲夜を失ってはなんの意味も無い。

 見ていろ、私が朽ち果てる前に貴様らを跡形も無く消し炭にしてくれるわ!)

 

 咲夜を失ってはフランを完全に助けることが出来ない。

 バケモノを倒すことが出来てもフランがまた奴に苦しめられるだけだ。

 

 レミリアは『紅色の冥界』から出せるだけ(しもべ)達を召喚する。ヤツらと比べくも無いが多少の足止めにはなるはずだ。

 

 そのまま左手で紅色の魔法弾を放ち牽制しながら、利き手で最強の槍を喚び出し掴み取る。

 

『スピア・ザ・グングニル』

 

 (しもべ)達を殺戮しているヤツラ目掛けて深紅の神槍を振りかぶる。それに気づいて避けようとするが、それに何の意味も無い。

 

「無駄だ!

 喰らえ、グングニル。

 避けようなどと思うなっ!!」

 

 北欧神話に登場する、主神オーデイン。

 ()の神が持つ神槍を模した紅い槍は、一度主の手から放たれれば、必ず敵を貫く必中の槍となって敵を穿つ。そして敵を葬れば再び主の元へと帰るのだ。

 

 深紅の神槍が通る道に入った分身共を軒並みごぼう抜きにして本体へと肉薄する。

 霊夢はそれを待ち構えていた様にレミリアの大技で出来た隙に乗じて素早く敵陣に突入し、咲夜を抱えて即座に離脱を図った。

 

 

 

 

 結果として、レミリアと霊夢の咄嗟の連携は半分成功して半分失敗に終わる。

 

 咲夜を救出する事には成功したが、必中の槍が再びレミリアの元へ帰って来ることは無かった。

 

 バケモノの本体を貫いたと思われた伝説の槍は、同じく伝説の剣によって防がれてしまう。

 

 ――――『レーヴァテイン』

 

 レミリアのグングニルと故を同じくして、北欧神話に登場する炎の剣とも杖とも言われた伝説の武器。それを模した炎の剣の様な物で防がれ、結果、対消滅してしまった。

 

 技の格も、力の量も、全くの同一となる事で発生した必然ではあるが、それ即ち、レミリアの全力でも結果を分ける事しか出来ない事を物語っている。

 

 それならまだ勝つことは出来なくとも負ける事も無い。だが、恐ろしい事に、ヤツラは炎の剣を”四つ”も取り出した。

 

「はは…………。我が妹ながら末恐ろしいな……」

「惚けてる場合じゃないでしょ。メイドを助けた所でやられたらおしまいよ!」

 

 乾いた笑いを浮かべ、レミリアはあまりの理不尽っぷりに思わず感嘆の声を上げた。

 敵を視界に捉えたまま離さず霊夢が叱責する。

 

 今すぐにでも咲夜の治療に入りたいが目を離した隙に奴らに八つ裂きにされそうだ。

 遅れて我に返ったレミリアが時間稼ぎを提案するが、既にバケモノの魔の手はレミリアと霊夢へと迫っていた。

 

「とにかく、私が食い止めているうちに――――」

「――――キュットシテ、ドカーン」

 

 レミリアが油断してこちらを向いた一瞬の隙にレミリアの身体が木っ端微塵に弾けと飛ぶ。

 一度も目を離していないはずの霊夢は、残る三体のバケモノ共にいつの間にか取り囲まれてしまっていた。

 

 三体の炎の剣を持ったバケモノ達が、咲夜を抱えた霊夢に迫る。

 レミリアは再生が始まっているがとても間に合う状態じゃない。

 

 逃げ道は無い。ましてや咲夜を抱えたままでは。

 霊夢は正しく優先順位を決め、咲夜に攻撃が当たらない様に残る力の全てを持って結界を張る。

 だがそこまでで、もう霊夢を守る結界を張る力は残っていない。

 

『ハハハ、コワレロ!!』

 

 バケモノ共が嬉々として炎剣を振るうがその瞬間まで霊夢は少しも揺るがない。

 

 果たして霊夢の身体を呆気なく三つの炎剣が通り過ぎた。

 

『夢想天生』

 

 元はレミリアに使うはずだった正真正銘最後の一回を今ここで出し惜しみ無く使う。

 八つの陰陽玉が奴らを蹂躙し、残った一体ですらも霊夢の”目”掴む事は出来ない。

 何者からも”浮いた”霊夢は、たとえ『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』であっても、例外は無かった。

 

 しかし、状況は単に一時停滞させたに過ぎない。

 レミリアも既に復帰しているが、奥の手を使ったところで状況が好転するわけではなかった。そしてその間にも少しずつだが咲夜が死に近づく。

 

 もはや詰んでしまっている。

 

 考えたくもないその言葉が二人の頭を(よぎ)るが、天は、いや仲間達は彼女達を見捨ててはいなかった。

 

『お嬢様(霊夢)!?』

 

「美鈴、パチェ! 来てくれたかっ!」

「魔理沙!? あんた何しにきたの!」

 

 二人の駆けつけに喜色の声を上げるレミリア。対して霊夢はまさかの魔理沙の登場に困惑するが、その表情はいくらか和らいでいた。

 

 

 霊夢と入れ違いに美鈴が、レミリアに加勢する。

 流石咲夜の師父というべきか。霊夢はその事実を知らないが、現に美鈴は時間を止める力も無しに軽々と咲夜のやった芸当と同様のことやってのける。

 レミリアと二人で互いの背を守り合う事によって、防戦とはいえしっかりと相手を封じていた。

 

(やっぱりあいつも大物だったのね)

 

 美鈴との戦いで手を抜かれたとはいえ、きちんとその力の片鱗を感じ取っていた霊夢は、思考の片隅で消化し、目の前の治療に専念する。

 

「待って。貴方、どうやって咲夜を治療する気なの?」

「あんただれ?

 霊力でこいつの力を補って、傷口から悪いヤツを追い出すのよ」

「そう。私はパチュリー・ノーレッジ。

 それなら私は傷自体を塞ぐわ」

 

 霊夢の非常にざっくりとした説明でも、パチュリーは正確に理解し、治療を分担する。

 霊夢のやろうとしている事は要するに、咲夜の治癒力を一時的に上げて、自己回復力を促し、同時に殺菌の様な処置で傷のさらなる悪化を防ぐことだ。

 対して、パチュリーの行う治療は文字通り、魔法で肉体の代替を作り、見かけ上動けるように、傷を塞ぐ治療。

 

 二人の素早い治療に、魔理沙は目を白黒させながら、慌てて自身に出来る事が何か考えて敵に目を向けた。

 

「なんだか知らないが、咲夜の治療は足りてるみたいだな。

 なら私はあっちに加勢してくるぜ」

「魔理沙、邪魔だから止めて」

「そうよ、半人前の貴方がいっても死ぬだけよ」

「………………」

 

 

 大変息のあった二人のツッコミにキレそうになる魔理沙。

 だが二人の歯に着せない物言いは百も承知で、十分理解している魔理沙は必死に思い留まって論理的に二人を攻めた。

 

「まぁ待て、ただ戦うだけが能じゃないぜ。

 あいつらの邪魔をしないように遠くから、援護射撃や支援魔法を使うんだ。それなら役に立つだろう?」

 

 どうだ、と言わんばかりに得意げな顔をして霊夢とパチュリーを見つめる。勘を働かすまでも無く、今までの付き合いから引く気が無い事を悟った霊夢は代わりの案を口にした。

 

「はぁ、わかったわ。

 でも魔理沙、そんなことよりあんたにはお願いしたい事があるの。

 手伝ってくれない?」

「え? 霊夢が私にか?

 いいぞ、魔理沙さんを存分に頼るんだぜ」

 

 流石の魔理沙も違いすぎる力量差を理解してか、霊夢の案に乗ってくる。

 ――本当は、霊夢に頼られた嬉しさで二つ返事をしただけだが。

 

「…………で、どんな案だぜ?」

 

 咲夜の治療がひと段落した所を見計らって魔理沙がずいと顔を近づけてきた。パチュリーも話の先を伺っている。

 

「あの状態のバケモノはこのメイド(咲夜)がなんとかするらしいわ。

 なら私がすることは一つよ」

「咲夜がか…………? で、霊夢はどんな?」

「とびっきりの結界を作るのよ。あいにく私は()りすぎてもう殆ど力が残ってないの。それであんたの(魔力)を貸してほしいってわけ」

「よし、いいぞ。詳しい事は分からないが、私の力を使ってくれ!」

 

 具体的な中身も聞かずに、魔理沙は改めて快諾してくれた。

 抜けているようで、本当はちゃんと考えている魔理沙だが、今は全幅の信頼を置いて面倒な事を聞かずに居てくれる事を霊夢はそっと心の内で感謝した。

 

「……少しだけ待って。博麗の巫女、霊夢といったかしら?」

「何よ、さっきから。パチュリーだっけ? なんか文句あんの?」

 

 せっかく魔理沙が面倒事を省いてくれたのに、待ったの声が掛かり、少しだけ口調が不機嫌になる。

 

「文句では無いわ。その結界、私にも詳しく教えて頂戴。

 貴方はこちら(現実主義者)側の人間と見たわ。なら私も協力を惜しまない。

 より強固なモノにする為には私の知識と魔法も役に立つはずよ」

「ふーん。まぁ手を貸してくれるのに拒む理由は無いわ。

 いい? もしアレをどうにか出来たら――――」

 

 霊夢、魔理沙、パチュリーにより具体的な話が進められていく。

 この場で彼女達にしか出来ない事が。

 

 

 

 その一方で、バケモノと戦うレミリアと美鈴達も思いのほか善戦していた。

 美鈴があらゆるものを破壊する”手”を確実に潰し、レミリアが神槍で敵を屠る。美鈴がまともに受けられない炎剣はレミリアが神槍で受け、代わりに美鈴が勁を打ち込み風穴を空ける。

 

 倒しても倒しても(キリ)が無いが、そんなことは同じ吸血鬼であるレミリアには百も承知だ。

 

「レミリアお嬢様、咲夜さんは本当に妹様を取り戻せるのですね」

「あぁ、信じろ。私が言えばそれは必然だ」

 

 美鈴の問いかけに、改めて自身に聞かせる様にしっかりと言い放つ。

 ふと、レミリア達にはフランドールの奪還や異変解決といった確かな目的があるが、このバケモノにはいったい何があるのか疑問に浮かぶ。

 時間を稼ぐ意味も込めてレミリアは奴に問いかけてみた。

 

「壊す壊すと五月蝿い奴め。貴様の望みはなんだ?」

 

 もっとも咲夜と違ってフランドールに話掛けているわけでも、返答を期待しているわけでも無い。少しでも反応すれば儲けものといった程度。

 

 しかし、レミリアの予想に反して答えがバケモノの口から返ってきた。

 

「…………ノゾミハ、ハカイダケダ。コノヨノ、アラユルスベテヲ、コワシツクス」

「なんだと?」

 

 予想外の返答にレミリアしばし困惑する。

 誘う為に言葉を紡いだつもりが、かえってレミリアが誘われる。

 

「ダガ…………」

「だがなんだ?」

 

 気になる続きはなかなか返ってくる事は無い。

 様子がおかしい。その真意にいち早く気づいたのは美鈴だった。

 

「っ、お嬢様、罠です!」

 

 誘いに乗ったと見せかけて、奴らはその裏で密かに”四つの目”を掴む仕草を取る。

「なっ、貴様ぁああっ!」

 

(嵌められた)

 

 今戦っているのは美鈴とレミリアの二人だけだ。”四つ”は多すぎる。

 迷っている暇は無い。数秒程の猶予しかないそれに二人は必死に喰らいつく。

 

 

 

 

 

 だが、それもまた罠だった。

 

 

 

 

 

「…………ナンドモジャマヲスル、キサマラハ、サキニコワス」

 

 自ら罠に飛び込んだレミリアに二つの炎剣が。美鈴にも残りの二つが。

 一つはなんとか防ぐ。だがもう一つは防ぎきれずまともに喰らった。

 

「レミィ、美鈴っ!?」

 

 レミリアが業火の斬撃に包まれるその後方でパチュリーが悲鳴を上げる。

 しかし、まだそれで終わりじゃない。

 

 

 

 あろうことか、ヤツらは”両手”で”八つ”の目を掴んだ。

 

 

 

 

 

『キュッシテ、ドカーン』

 

 

 

 

 

 パチュリーや咲夜達を含めた全員に変化は無い。

 その代わりにみしみしと屋敷全体が悲鳴を上げたかと思えば、突然地面が無くなり天井が迫りだした。

 

(この野郎…………)

 

 屋敷ごと私達を下敷きにするつもりか。

 

 下敷きになった所で不死性の高い吸血鬼が死ぬ可能性は限りなく低い。

 レミリアは首だけで咲夜達の方へと振り向くが、最後に見えたのはかろうじてパチュリーが身を挺して全員を庇う所だけだった。

 

 

 ――――『バケモノ』と呼ばれた怪物は、元は人間の魂であった。

 

 かつては、広大な土地に国を築く権力者であると同時に、国が出来るほどの人々を虐殺し続けた殺戮者。

 そのまま行けば、だれかの手によって闇に葬られるか、戦の中で命を散らすかして地獄行き予定だった。もしかしたらその前に妖怪となったかもしれない。

 

 だが果たしてそうはならず、とある神によって死ぬ前にその魂を掬い取られてしまったのだ。

 

 不完全な魂だけの存在となった人間は、その影響でそれまでの記憶や自我といったものが壊れ、変わりに満たす事の無い狂気を植え付けられた。

 

 かすかに残る記憶の中では、”三”という数字が妙に頭に残る女神らしき人物と、道化の格好をした妖精をぼんやりと思い出せるだけだった。

 

 

 

 だがしかし、もはやそんなことはどうでも良い。

 

 どこの誰とも分からない胎児に無理矢理意識を植え付けられ、宿主を差し置いて何か出来るわけでもない。

 そして、そんな境遇も大した事では無かった。

 

 抑える事の出来ない破壊衝動。

 壊しても壊しても満たされる事の無い狂気という名の飢えに他の事など瑣末に過ぎない。

 

 それでもただ一つだけバケモノと呼ばれた怪物は生前の名残を残していたと言えるものがある。

 

 それは果てしないほどの強靭な忍耐強さ。

 

 根気良く宿主に語りかけ、時折限界を向かえ、宿主も狂うほどの発作というべき破壊を繰り返す事もあったが、それでも自己の存在を脅かさずにじっと機を耐え忍んで待つ。生前はその妖怪染みた忍耐力で大陸一の権力者となったといっても過言では無い。

 

 その宿主が、数百年振りに隙を見せた。

 チャンスだ、あの玩具を壊せばようやく身体が手に入る。

 宿主を唆して外へと連れ出し、とうとう狂気に狂い出す。

 

 だが思ったよりも玩具は丈夫で中々壊せない。

 宿主に会いたがっていた為、わざと宿主の振りをして漸く壊す事が出来た。

 

 しかしそんなことも再び肉体を手にした今は、もはやどうでも良い。

 

 狂ったバケモノはどうすれば壊せるかだけを考え、終わりの無い破壊を繰り返すだけの存在でしか無かった。

 

 

「くそっ!」

 

(咲夜達は無事か? 美鈴は? パチェはどうなった?)

 

 レミリアは瓦礫の中から這い出して周囲を伺うが目に見える範囲で咲夜達は見つけられない。

 紅い月に照らし出されるも今はその廃墟がただ空しさを際立たされるのみ。

 

 ――なんて様だ。

 ――運命を紡ぎ合わせる為、私はどれだけ犠牲を出した?

 

「アトハ、キサマダケダ」

 

 よりによって今一番会いたく無い奴が向こうから私に会いに来る。

 

 足りない。全然足りない。

 いくらあのバケモノを串刺しにしようと、主導権は常にヤツが握っている。

 

 ――どこで間違えた。

 ――私の決断は、本当に正しかったのか…………?

 

 グングニルを逆手に持ち、その忌々しい目玉を串刺しにしてやらんと突っ込む。

 途中で私の身体が何重にも弾け、至る所に風穴が空く。それでも槍を手にして諦めずに突っ込む。

 槍を奴の目玉に突き立てて、また弾き飛ばされる。

 

 ――何が従わせられた事など一度も無いだ。

 ――現に今、奴に為す術も無く、無様にあしらわれているだけじゃないか。

 

 左手の鉤爪で奴を切り裂いて腹を蹴り飛ばす。奴は残った右手を閉じて、開くと私の脚が木っ端微塵に吹き飛ぶ。

 構わず奴の開いた手を掴んで千切り取ると、魔法の火炎で焼き尽くす、いつのまにか増えた奴の分身が右手を閉じてまた開く。私の右目が吹き飛んだ。

 それに続いて残った分身共が一斉に私の”目”を壊す。

 

 機関銃の様に爆発が起こり、レミリアの身体は壊れた人形の様にかくかくと左右に弾ける。

 

「くそ、くそくそくそっ!!」

 

 (キリ)が無い、あのバケモノを殺してやるには手がいくつあっても足りない。

 ここまで、私の力が恨めしく思った事はなかった。

 

 ――何が運命を操るだ。

 ――見たいもの一つ見えないクセに。

 

 私の望んで救おうとした最愛の妹だった者は、狂ったバケモノと化し最も遠い存在となってしまった。

 

 私の引き寄せる運命は、つながりが深いものの場合が多い。

 近いほど、より詳細に見れると言っても良いだろう。

 知っている者と知らない者では見える回数も濃さも段違いだ。

 

 関わりの濃さによって頻繁に、突発的に、散発的に視える。それを操るなどとはおこがましいにも程がある。

 

 

 

 力が足りない。

 私に咲夜の力があれば、とどんなに願った事か。

 その力があれば咲夜にあれほど辛い目に合わせることも、そもそもフランを救うことも出来た。

 今にして思えば私は少し咲夜に嫉妬していたかもしれない。それでかわいい咲夜に、辛く当たっていた事もあったろう。

 

 

 

 だが、それでも。私は私だ。

 

 

 

 私は咲夜の主。

 

 私は夜の王。

 

 私は永遠に紅い月。

 

 

 その光に照らされた者達を、決して(かげ)らせる事は無い。

 

 

 

「制御出来ない力など要らん!

 私は私が望むものだけこの手に掴めればいい。

 

 

 

 もっと。

 

 

 

 もっとだ。

 

 

 

 

 

 私の望む運命を掴む力を寄越せ!!」

 

 

 

 その直後、レミリアの左眼が激しい激痛に襲われる。

 

「ぐがぁあああ゛あ゛ああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

 

 

 

 左眼が痛い。

 

 必死に両手で覆うが、治まることは無い。

 

 自分の物じゃない”異物”が混じった感覚。いますぐこの目玉を掴んで投げ捨ててしまいそうだ。

 

 激しくのた打ち回ったが、やがてある時、変化が訪れる。

 

 眼は未だ激痛が走る。だが、漸く感覚が伴ったようだ。

 

 

 

 ゆっくりと眼を見開く。

 

 

 

 未だ耐え難い激痛が襲い、少し開くのがやっとだ。

 だが、決定的な違いがある。

 

 

 

 

 

 全てをこの手に収めた様な全能感。

 

 

 

 

 

「…………待っていろフラン。今そのバケモノを消し炭にしてやるぞ」

 

 

 視界に奴らを捕らえると二体が丁度握った手を開く所。

 再びレミリアの身体を吹き飛ばしたと奴らは思ったことだろう。

 

 だが、爆発は()()()()から起こった。

 

 一つは、本体の右手にいるバケモノ(分身)

 一つは、本体の左手にいるバケモノ(分身)

 

 レミリアの身体に、新たな衝撃は無い。

 そして、見上げた彼女の左眼は、眩い程に()()()()()

 

 

 

 選ばれし者だけが持つ光、黄金色に輝く金色の瞳が、狂ったバケモノを釘付けにしていた。

 

「ナンダソレハ…………!?」

 




待っていた方がいるかはわかりませんが、おまたせしました。
レミリアの中途半端っぷりに、失望していた事でしょう。

今までコツコツと種を撒いて来ましたが、半分も碌にうまく収穫出来た気がしていません。とても難しいですね。

それはさておき、今まで積み重ねてきたのは、全てはこの話の後半から最後の為といっても過言では無いです。

そしてpumpkinはとうとう『東方紅魔郷』でフランドールの撃破どころか会うことすら、間に合いませんでした。
ですから、ほとんど今回は原作を参考に出来ていません。

ノーコンNormalクリアなんて無理だ…………orz


裏話その2

バケモノもとい怪物の生前の人物には一応モデルがいます。
いるだけで、特に意味はありません。


※16/04/04 全話改訂しました。
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