私が十六夜咲夜であるために   作:pumpkin

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妹様を外に出すのはまだ早いし、漠然と明るい話を書くという中身の無い宣言も相俟ってかつて無いプレッシャーを感じた(メタ話)。


EP24.私は早く大人になりたい

 あたしはフランドール・スカーレット。

 ううん、”私”はフランドール・スカーレット。

 

 私は早く大人になりたい。

 初めてこの暗いお部屋から外に出て、怖い事や許せない事が色々あって。

 ぜんぶ、ぜんぶ終わってから、パチュリーから私が咲夜やお姉さまに助けられたって知った。

 

 こんどは私が二人やみんなを助けられるように、私は早く大人になりたい。

 

 

 あたしの中から”悪い奴”がいなくなって二ヶ月が経った。

 

 暗いお部屋の中で、いっぱい想像したお外は、みんなには普通の事みたいだったけどあたしには全然違ってた。

 咲夜のお話で聞いた、『不思議の国』や『鏡の国』なんかよりもあたしにとってはずっと物語の世界の様に感じた。

 

 だって、どこまで行っても同じ所をぐるぐるしてる迷路みたいなお屋敷に、図書館。

 妖怪なのに妖怪みたいじゃない美鈴に、暗くてちょっと不気味な図書館でいつも難しいご本を読む魔法使いのパチュリー。それに本当の”悪魔”の小悪魔。

 咲夜は人間なのに突然目の前に真っ赤なイチゴの乗ったショートケーキを出したり、読んで欲しいと思ったときには物語のご本をどこからか取り出してみせてくれる。まるでマジシャンって人みたいだ。

 それから、お姉さまやあたしは吸血鬼。ほら、物語なんかよりもあたし達の方がとっても不思議。

 

「あはっ」

 

 そう考えると、なんだか自分もすごくなったみたいで思わず笑いを抑えきれなくなった。

 

 

(……咲夜達に会いたいな、いますぐいっちゃおうかな)

 

 でもフラン、ここは我慢だよ。

 咲夜は毎日お仕事をしてるから、お邪魔しちゃいけないし、みんなだって忙しい。

 今は前よりも忙しそうでちょっと心配になるけど、残念っていうのが本音。

 会いに行きたいのを我慢してあたしは大人しくしていようと思ったけど。それを破ってくれる様にお部屋の外に誰か来た。

 

「フラン様ぁ、フラン様はいらっしゃいますか~?」

 

 こんこんこん、と小気味良く三回ドアを鳴らしてあたしを呼ぶ声。

 少し寂しかった気持ちがいっきにどこかへと行ってしまう。

 咲夜が忙しいから、最近はこののんびりした声のヒトが代わりによくお話ししに来てくれる。

 

「小悪魔っ!

 いらっしゃい。開いてるよっ!」

「失礼します~、フラン様ぁ」

 

 頭についた小さな羽をぱたぱたとはためかせ、赤く綺麗な長い髪をなびかせながらフランの元へとやって来た小悪魔。

 小悪魔はパチュリーの使い魔っていう存在で、黒と白の制服っていうお洋服を着ている。

 

 私はお行儀良く改めて小悪魔を歓迎してみせる。

 それを受けて、いつもののんびりした感じのはずの小悪魔が口許に拳を当て珍しく真面目な感じで話始めた。

 

「いらっしゃい、小悪魔。今日はどんなお話する?」

「んーおほん。それがですねぇ、フラン様。

 今日はパチュリー様のいらっしゃる図書館に来てもらいたいんです」

「え、でも……」

「大丈夫ですよ、フラン様ぁ。

 それとも(わたくし)めとは一緒に行くのはお嫌ですか~?」

「そんなことないよ。だけど…………」

 

 よよよ、と泣いた風に見せながらあたしの答えを待つ小悪魔。

 あたしは思わず躊躇ってしまった。そう、実はあれからあたしはあんまりお部屋の外へ出てない。

 でも閉じ込められてるってわけじゃないよ、自分で出ないようにしてるの。

 

(…………だって、またこわしちゃうのが怖いから)

 

 あたしが思い出して怖がってる時に、小悪魔がぱしっと勢い良くあたしの両手を掴んで力強く引っ張った。

 

「ふっふっふ、なら大丈夫です、フラン様!

 さぁいきましょう、皆待ってますよ~!」

 

 そう言って、そのまま勢い良く引っ張られながら、あたしはまたお部屋の外へと連れていってもらう。

 

「まって、小悪魔っ!

 ……あれ? みんなっていった?」

「そう、皆です!

 もう皆さん首を長くしてフラン様をお待ちですよ~」

 

 みんなが待ってる。

 みんながあたしを待ってるってなんだろう。

 ちょっと怖いけど、あたしの胸はドキドキ鳴って早く行きたいって言い出した。

 

 

 小悪魔に手を握られたままあたしは階段を飛んで上る。

 一階に出て、お姉さまに会いに行くのとは反対の方向へ進み、しばらく飛んだ後、とっても大きなドアの前で止まる。

 一度しか来た事無いけどやっぱり図書館のドアはおっきいね。

 

「さぁ図書館はここです。中へどうぞ、フラン様ぁ」

 

 ドアを見上げてるあたしを小悪魔が「さぁ、さぁ!」と急かすから、恐る恐る大きなドアのノブを掴み、慎重に、ゆっくりと回した。

 力を込め過ぎるとまだうまく出来ないあたしではこわしちゃう。

 でも今回はなんとかうまく出来た。

 

「っ、開いたよ小悪魔! ねぇ、中に何があるの…………。

 ――――え、あれ?」

 

 図書館の入り口にいたはずなのに、振り返るといつの間にかドアがなくなっちゃってる。

 そしてもう一回振り返った目の前には()()()があたしを待っていた。

 

『誕生日おめでとう、フランドール(フラン様)!!』

 

「わっ」

 

 みんなが一斉にあたしの名前を呼んだのと同時に、パンパンパンッと弾ける音がして、綺麗なたくさんのお星さまが飛び回り、あたしの周りをくるくると煌びやかに飛び交う。

 

「わぁ、きれいっ!」

 

 お星さまだけじゃなくて、みんなが座るテーブルの上には見たことも無いほどおっきな三段重ねのケーキも乗ってた。イチゴはいくつあるのかな。

 周りには、魔理沙、美鈴、パチュリー、咲夜、そしてお姉さま。気付けば後ろにも小悪魔がやって来てた。

 

 あたしはしばらくの間、みんなの笑顔やそのきれいなお星さま達とテーブルのおっきなケーキに夢中になった。

 お星さまは赤や黄色、緑に青といろんな色があるし、ケーキの上には大きいろうそくが四本、中くらいのが九本、小さいのが五本。

 きっとあたしの年の分だけ乗せてくれたんだろう。

 

 それにしても

 

「お誕生日ってどういうこと?」

 

 予想もしてなかったサプライズにとっても驚いたけど、あたしは誕生日を知らない。もしかして今日がそうだったりするのかな?

 

 あたしが落ち着いたのを見て、テーブルの奥にいたお姉さまが、後ろに手を回しままゆっくりとしゃべりだした。

 顔には黒い皮で作った物を、右目を覆う様に付けてる。

 

「ふふふ、気に入ったかしら、フラン。

 もちろん誕生日は別に日にちゃんとあるわよ。

 ……でも、これまで貴女の誕生日を祝ってあげる事が出来なかったわ。

 だからこれまでの分も含めて、今、ちゃんと祝ってあげようと皆集まってくれたのよ」

 

「ほんとっ!?」

 

(ほんとうにみんなが!?)

 

 いろんな事がありすぎて、頭がパンクしそうっ。

 魔理沙まで会いに来てくれたのとか、このお星さま達はどうやってるのとか、おっきなケーキは咲夜が作ってくれたのとか、どうして図書館でやるの、とか。

 そんな、いろんな事を考えすぎて、嬉しすぎて何をしていいかわからない。

 

「フラン様、さぁこちらへどうぞ」

「咲夜!」

 

 あたしの手を引いて咲夜がテーブルの前へと連れていってくれる。

 目の前には大きなケーキがあって、その上にはたくさんのロウソクがキラキラ光る様に輝いてた。

 

「フラン様」

「うんっ」

 

 元気よく返事をして、大きく吸い込んだ息でいっきにそれらの火を消していく。

 終わった途端にぱちぱちと大きな拍手がその場で巻き起こった。

 

「よくやったわ、フラン!

 ほら、おまえにプレゼントよ」

 

 ロウソクの火をちゃんと消せたあたしに、後ろに回していた手を前に戻してお姉さまがプレゼントを手渡してくれる。

 

「なになにっ?」

「ふふふ、開けてみなさい」

 

 赤いリボンがついた細長い箱を開けると、中から出てきたのは黒い小さな手袋。指の部分だけ布が無くて、裾は短く折り返した内側の白がワンポイントになっている。

 

「これっ、もしかして!」

「そうよ、咲夜とお揃いで私がデザインして、パチュリーが作ったの。

 いや、それとも私とペアでこの深淵よりも深い黒の眼帯の方が良かったかしら?」

「ううん、咲夜とお揃いがいい! ありがとうお姉さまっ!!」

「そ、そう。喜んでもらえてよかったわ」

 

 ――うぅ、フラン。私よりも咲夜を選ぶのね。

 ――レミィ、馬鹿なこと言わないで。妹様に眼帯なんて必要ないでしょう。

 

 プレゼントに夢中で。あんまりわかってなかったけど、あたしは”お姉さま”の考えた”咲夜”とお揃いの物がほしかった。もちろんパチュリーもね。だからこれがとってもうれしい。

 

「フラン様、私からもこちらをどうぞ」

「咲夜もくれるの!?

 ありがとうっ! …………あっ、うぅ」

 

 咲夜がくれたのは茶色いクマのぬいぐるみ。

 かわいくて思わず抱きしめてしまいそうになるけど、あたしは思わず戸惑ってしまった。

 強く握っちゃうとまたこわれちゃう…………。

 ほしかったけど、クマさんがこわれちゃうからもらえないよ。

 

「咲夜、あの…………」

「大丈夫ですよ、フラン様。その子はとっても丈夫なんです。フラン様が強く握っても大丈夫なんです。

 ですがどうか大事にしてあげてくださいね」

「ほ、本当…………?」

「本当ですよ」

 

 恐る恐る人形を握ってみると、最初はちょっと硬いけど、しっかり掴むと柔らかい。大丈夫だと思って、あたしは今度こそ胸いっぱいに抱きしめた。

 

「っ、……ぐすっ……」

 

 あたしはどうにかなっちゃったのかな、うれしすぎて涙が止まらないよ…………。

 

 フランドールの目を溢れんばかりの涙の粒が流れ落ちていく。

 周囲はしばし暖かな空気に包まれた。

 

 

「フラン様、実はケーキを作ったのは私なんですよ、美味しかったですか?」

「え? めーりんだったの? とっても美味しかったよ、ありがとっ!」

「私はレミィが言ったとおりその手袋ね。どんな効果かは使ってみてからの楽しみにするといいわ」

「なんだろう、パチュリーもありがとう!」

「私は急遽参加したからな、突然だったから初めのアレしか用意できなったぜ」

 

 そういって(魔理沙)が掌の上に星達を煌かせながら、くるくると回転させる。

 

「ううん、とってもきれいだったよ。ありがとう、魔理沙」

「へへ、どういたしましてだぜ」

 

 照れ隠しで鼻の頭を掻きながら、フランのやつに応えた。

 こんなに喜んでくれてるし、やっぱりもっと何か用意できれば良かったな。ちょうど何か無いかなと考えた時にあることを思いだした。

 

「やっぱこれだけじゃ、物足りないな。

 フラン、咲夜からおまえが力の制御に困ってるって聞いたが、本当か?

「…………うん」

「よし、ならいい方法があるぜ!」

 

 そう言って、私は『スターダストレヴァリエ』が絵が描かれたスペルカードを一枚取り出してフランに見せる。

 

「それなあに?」

「これはな、『スペルカード』ていうものなんだ。

 これを使った遊びを『弾幕ごっこ』っていうんだぜ」

「弾幕ごっこ?」

 

(よしよし、食いついたな)

 

 傍で見ていたレミリアやパチュリーが「あぁ、今のフランにはちょうどいいわね」、「半人前にしてはうまく考えたわね」、と納得がいったとばかりに勝手に納得してるが、我知らず。

 口角を上げてにっと笑いながら、私はフランドールに『スペルカード』で行う『弾幕ごっこ』がどういうものか丁寧に説明してやった。

 

 ――――それは優雅に戦い、意味の無い行動は粗野となる。

 力ばかりで圧すのではなく、技で華麗に圧倒する。

 どんなに優位でも決められたルールを破ったらその時点で敗北と見做す。

 

 

 

「…………出来たっ」

「よし、いい感じじゃないか。

 いいか、弾幕勝負じゃパワーはある程度制限されるんだ。

 だから、正しい力の加減が出来ないとスペルカードは発動してくれないぞ」

 

 私の話を聞きながら、フランはたった今完成したばかりのオリジナルのスペルカードの束を両手で掲げて、きらきらと目を輝かせながら眺めている。カードの裏面には自身の影絵が入っていて、ちょっとしたものだ。

 

 フランのやつに「もちろん通常弾も同じだぜ」、と一言添えて、自分も一指し指の先で器用にカードをくるくると回す。ひとしきり堪能したのを見計らって、箒を片手に準備を始めた。

 

「じゃあ、さっそくやってみようぜ。カードは一枚。先に当たるか無くなった方の負けでいいな?」

「うん、いいよ!」

 

 

 

 フランドールは元気良く応えて、魔理沙と共に図書館の宙に飛び上がってお互いに距離を取る。

 

「館内の障壁を強化しておいたから気にせずやりなさい」

「フラン様、頑張ってください」

「わかった、ありがとう。パチュリー、咲夜」

「おいおい、咲夜。私には応援なしかよ」

 

 それぞれの言葉にフランドールが頷き、魔理沙が咲夜に対してぼやく。

 ひとまず記念すべきフランドールの一戦目。

 

「いくよ、禁忌『クランベリートラップ』!」

 

 元気良くカードの中の一枚を取り出して、自信満々に掲げる。

 しかし、残念ながらカードはうんともすんともいってくれなかった。

 

「どうした? ぼやぼやしてると私から先に攻撃しちゃうぞ。

 ほらっ、『マジックミサイル』!」

「わわっ」

 

 先を越されて、慌てて回避にでるフランドール。

 初めてだから比較的避けやすく放った魔理沙の魔法のミサイルを、フランは危ないながらもなんとかかわしていく。次第に余裕が出来てきたのか、フランドールももう一度スペルカードを発動しようと試みた。

 

「えっと、ほんの少しだけ力を込めて…………。

『クランベリートラップ』! やった、出来たよ魔理沙っ、…………て、あうっ」

 

 うまく力を調節して、発動出来たところまでは良かったが、警戒を疎かにして、発動と同時に魔理沙の『マジックミサイル』に被弾してしまった。

 

「おいおい、大丈夫か?」

「大丈夫全然痛く無いよ! それより、うー、くやしいっ!」

 

 ――ふふ、悔しがる姿も私に似てかわいいわ、フラン。

 ――馬鹿は馬鹿でも、親馬鹿ならぬ姉妹馬鹿ね。レミィ。

 

 下ではグラスを片手にレミリアが惚け、分厚いハードカバーの本を読みながらパチュリーが貶める。

 二人の戦いを肴に皆思い思いの行動を取りながら、楽しんでいた。

 

「ねぇ、魔理沙! もっかい、もっかいやろう!?」

「いいぜ、フラン。じゃあ今度はいっきに増やして三枚だ。

 すぐに被弾して終わりはナシだぞ?」

「大丈夫、今度こそ勝ってみせるよ!」

 

 再び図書館の中空で対峙した二人が手に持つスペルカードは三枚。

 今度こそ、フランドールの先行となって弾幕勝負が始まった。

 

「いくよ、禁忌『クランベリートラップ』!

 あはっ、出来た!」

「いいカンジだな! さっきと同じで『マジックミサイル』で応戦するぜ!」

 

 経験者の余裕か、魔理沙はわざとスペルの中心へと飛び込み、回避しながら『マジックミサイル』で応戦する。

 フランドールの『クランベリートラップ』は、四つの魔方陣からそれぞれの順序に従って、魔理沙の逃げるポイントを落としていく。規則正しく余す事なく回収するそれは、まさにたくさんのベリーを収穫するクランベリーの罠。しかし弾幕勝負で無類の強さを自負している魔理沙には、容易く回避ポイントを探り当て、余裕で時間いっぱいまで避けて見せた。また今度はフランドールにも被弾は無い。

 一枚目を破り、現時点では魔理沙の優勢。

 

「むー、うまいね魔理沙。

 じゃあ今度はこれだよ! えっと、禁忌『レーヴァテイン』!!」

「まじかっ!?」

 

 少々間誤付(まごつ)いてはいるが、続けてフランドールがスペルの顕現に成功した。だが魔理沙にはつい先日の業火の剣が思い出された為、思わず冷や汗を流す。

 しかし蓋を開けてみれば魔理沙の危惧は取り越し苦労に終わり、実際にはきちんと調節された炎で模した剣がフランドールの手の中に納まる。それを一振りするだけで、剣線に習ってフランドールから魔理沙を悠々に越すほど長い刃が通りすぎる。そしてその通った剣線の後には無数の弾幕が敷かれた二段構え。

 

 それでも魔理沙はニッと余裕の笑みを見せて軽々と回避してみせる。

 

「へへ、威力はデカいがちょっと大味すぎるんじゃないか?

 じゃあ私もお返しだ。魔符『スターダストレヴァリエ』ッ!」

 

 下の方から、おまえがいうな等の声が聞こえてきたが、魔理沙は都合良くそれを聞き逃した。

 

 弾幕ごっこという場をステージに見立てて、色とりどりの星が綺麗な模様を浮かべ、時には空から星達が降り注ぐ様に飛んでいく。外から見ているものにはさぞや美しい光景だろう。

 

 だが、実際にくらう者からすればたまったものではない。見た目重視のそれは攻撃なんてものを無視して飛んでくる為、それにあわせた動きをしないと回避が難しいのだ。

 

「わっ、と、やぁ!」

 

 星の動きに合わせるのに少々時間がかかったが、フランドールはきちんとかわしきり、お互いにスペルの効果終了時間を迎えた。

 

 二回目の激突は両者引き分け。だが

 

「ほらほら、もう一枚しか残ってないぞ?」

「うー、わかってるけど。でもこれならっ。

 禁忌『フォーオブアカインド』」

 

 またもや、それを連想させるが、今度は加減されていることをしっかりと頭にいれた魔理沙に戸惑いは無い。しかし、弾幕ごっこになってみても、その隙の無さに思わず魔理沙は舌を巻いた。

 

「ちくしょう、わかってたけどやっぱりズルいぜ、それ!」

「ふふふ、こうでもしないと魔理沙に勝てそうに無いからね。いっけーっ!」

 

 魔理沙を取り囲むように弾幕を張っていた分身たちが、一塊となって弾幕をばら撒きながら魔理沙に一斉に襲いかかる。

 万事休す、となった魔理沙は使い慣れたマジックアイテム(八卦炉)を取り出した。

 

「こうなったら()()を使おうか」

 

 八卦炉を正面に掲げて左手で固定する。

 誰もがこの後の展開を予想した事だろう。あのミニ八卦炉から巨大な魔砲が放たれて、力勝負となることを。その結果は引き分けか、あるいは。

 

「――――と、見せかけてっと!」

 

 期待した予想を裏切り、魔理沙はわざと後ろに振り返り、ミニ八卦炉から勢い重視の魔砲を放つ。

 爆発的な推進力を得ると同時に魔理沙は二枚目のカードを切った。迫る三人のフランドールと弾幕を天の川に見立てて、らせん状に星達を舞い散らせながらするするとかわしていく。

 

 一瞬のうちに本体であるフランドールまで到達した魔理沙がトドメとばかりにフランドールを取り囲む様に星の弾幕を舞い降らせて、勝負は決した。

 

「魔符『ミルキーウェイ』、懐がお留守だぜってな」

「あう~、負けちゃったー」

 

 残念そうに悔しがるフランドールだったが、すぐに満面の笑みを取り戻す。それに魔理沙も納得して、どうだとばかりに皆に振り返った。

 

『………………』

 

「ん? どうした皆?

 魔理沙さんの華麗な弾幕に見惚れちゃったか?

 困ったな、照れるぜ」

 

 頬をぽりぽりと掻きながら恥ずかしそうに照れる魔理沙。

 代表してパチュリーがわざわざハードカバーの本をテーブルに手放して、ゆっくりと魔理沙の隣へと近づいていった。

 

「魔理沙、話があるわ」

「ん? なんだ今かよ? ここで話せないのか?」

「あぁ、魔理沙。私からも話があるわ。さぁ、ちょっとあちらの暗がりへいこうか」

「え、レミリアもか。て、離せよおまえら。ちょっと怖いぞ…………」

「? …………、パチュリーたちどうしたの?」

 

 ――なんでもありませんよ、フラン様。さ、私達とお話しましょうね。

 ――そうですそうです、魔理沙の事は放っておきましょう。

 

 要領の得ないフランドールは不思議がりながらも、咲夜や美鈴に優しく手を引かれて明るいテーブルの方へと連れていかれる。

 

 対して魔理沙の方は、パチュリーの後を追ってきたレミリアと二人で図書館の隅の暗がりへと肩を掴まれながら連れて行かれてしまった。その後、魔理沙がどうなったか知る者はいない。

 

 こうして、楽しいフランドールの誕生日会は何事も無く幕を閉じた。

 

 

 誕生日会も無事に終わり、フランドールは小悪魔に見守られながら夜の夕食を食べていた。

 

「ねぇ、小悪魔。誕生日すごく嬉しかった。ありがとう!」

「どういたしまして~、フラン様ぁ」

 

 今夜も咲夜は忙しく、かわりに小悪魔が夕食の付き添いをしてくれる。

 でも、もう寂しくは無い。昼間にあんなに良くしてもらったのだ。

 口許についたソースをナプキンで丁寧に拭ってくれた小悪魔を見て、改めて思う。

 

「ねぇ、小悪魔」

「なんですか~」

「あたしって、やっぱり子供なのかな?」

「………………」

 

 しばしの沈黙のあと、小悪魔はゆっくりと問いかける。

 

「フラン様は、守ってあげたいヒトがいらっしゃいますか?」

「うん、いるよ。お姉さまに咲夜に。このお屋敷のみんな。もちろん小悪魔もだよ!」

「わぁ、ありがとうございます~」

 

 フランドールが目をかけてくれることを満足げに確認してから、小悪魔は少しだけ声のトーンを落として、問いかけた。

 

「では、もしも悪いヒトが咲夜さんや私達を襲ってきたら。

 フラン様は助けてくださいますか? ――――()()()()()の様に」

「うん、助ける!

 …………え、あれ?

 あたしまだ助けた事なんて無いよ?」

 

 それもそのはず、495年もの間閉じ込められていたフランドールには助けた覚えなんて一つも無い。

 

「あれれっ!? 違ったんですか、フラン様っ!?

 

 

 

 

 ……紅い霧の晩に、混乱に乗じて()()()()()()()がいたらしいんですよ~。じゃあ誰がやっつけてくれたんでしょうね~」

 

「え…………、あっ…………うん」

 

 ――物騒ですねぇ。フラン様。

 

 小悪魔が言葉を続けるが、もはやフランドールの耳には入っていない。

 あの日の夜の、あの言葉を。

 フランドールは忘れたくても決して忘れる事が出来なかった。

 

 

 

 ――嫌だね。

 ――誰がオマエなんかと、友達になんてなってやるものか。

 

 

 

 今でもその事を思い出すだけで、足が竦み、震えが止まらない。

 こわしちゃうなんて、嘘。本当は怖くてヒトが寄り付かない場所に篭っていたいだけ。

 

 勇気を出して告げたお願いを憎しみを持って拒絶された様は、フランドールの心を簡単には手放してはくれなかった。

 心の奥底で葛藤するフランドールを小悪魔の心配する声が引き戻す。

 

「大丈夫ですか、フラン様!?」

「あ、う、うん。ごめんね小悪魔」

「あぁ良かったです~。心配しましたよ、フラン様ぁ」

 

 安心したとばかりに小悪魔がフランを気遣う声を上げる。

 

 本当は怖い。もう二度と会いたくなんて無い。

 

 でも、でも。

 

「…………でも、咲夜に悪い事されるのはもっと嫌なの!

 小悪魔、あたし、ううん、”私”は早く大人になりたい。

 早く大人になって、小悪魔や咲夜達を私が守るの!」

 

 以前とは違う。

 彼女を閉じ込める部屋も、縛りつけるバケモノも、もはや居無くなった。

 狂気に捕らわれたお姫様はもういない。

 

「それはすごいですね、フラン様ぁ。

 …………頑張って早く”私”達を守れる程強くなってくださいね」

「えぇ!」

 

 フランドールは守りたいモノを見つけ、大人の階段を駆け上がる。

 

 

 

 

 

 

 ――――

 

 フラン様の成長する背中をしっかりと確認して、図書館に戻った小悪魔は密かに声の無い笑い声を上げた。

 

 ルーミアの事を敵だと認識した妹様は、いったいどんな風に成長してくれるのか。そして宿敵と対峙した時にどの様な反応を見せるのか。そしてそれを目撃してしまった咲夜さんは。

 

「まったく、予想もできませんね。ケケケッ!」

 

 おっと、これはいけない。思わず愉し過ぎて素が出てしまった。

 

「妹様や咲夜さんの前ではきちんと隠しておかないと――――」

「――――何を、隠すというのかしら?」

「げっ、パチュリー様。痛っ!?」

 

 悪だくみしているところを、最も見つかってはいけない主に見つかってしまった。分厚いハードカバーの角を無慈悲に振り下ろされる。

 

「……それが主を目にしたときの物言いなの? だとしたら、使役条件を見直さないといけないわ」

「あ、あはは。

 そんな~ひどいですよう、パチュリー様ぁ」

「まったく、異変の最中姿が見えないと思ってたら。

 その憎たらしい仮面、一部始終を話してから美鈴の稽古相手にでもなってもらおうかしらね。そしたら少しはその仮面も剥がれて本当は醜い素顔が見られるんじゃないかしら?」

「や、やめてください! メイド長様、いえっ美鈴様の稽古相手なんてしたら、グシャグシャのグッチャグチャになって私そのものが無くなってしまいますよ!?」

 

 悲鳴に似た抗議をあげる小悪魔の姿に漸く溜飲が下りたのか、パチュリーは「わかったら、少しは自重しなさい」と告げて、小悪魔を小突くのをやめた。小悪魔は昔を想像し、未だにがちがちと震えている。

 

 ――――余談ではあるが、紅魔館でも一部の住人しか知らないまだ咲夜がいなかった頃に、召喚された小悪魔はパチュリーの命も聞かずレミリアを唆そうとして、当時メイド長であった紅美鈴に冥界よりもひどい地獄を見せられた。果たしてどんな地獄であったかはまた別の話である。

 

 

 

「…………でも、パチュリー様」

「なに?」

「私は間違った事も、妹様の為にならない事も言ってませんよ…………」

 

 フラン様の為になると思って、言わせてもらったのにこの仕打ちは理不尽だ。

 …………その結果私の身の回りから危険が減るくらい良いじゃないか。

 

「えぇ、そうね。貴方は何も間違った事は言って無い。

 だからこそ、貴方は性質が悪いのよ」

 

 性質が悪いとは何のことやら。

 ”小悪魔”である私なら当たり前の事ではないか。

 

 




なんだこれは…………、明るいどころか重い上に腹黒いぞ。
私は悪くありません。それもこれもフランを裏から操る小悪魔ってやつのせいなんだ!



補足:
・誕生日の場が図書館の理由は、パチュリーが「渡すものは用意したから後は貴方達でお願い」と、駄々をこねたから。
・レミリアの眼帯に特別な効果はありません。あくまでつける為のもの。
・美鈴の尋問は針を使います。


※16/04/04 終盤フランドールが決意出来た理由がわかりにくかったので、少しだけ加筆。

※16/04/04 全話改訂しました。
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